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ステージ8-9 富士山の噴火

「な、何で富士山が噴火しちゃうの!?」

「考えるまでもなくさっきの戦闘の余波だろうさ……!」

「そ、そうだよね!」


 富士山の噴火によってソラヒメが声を上げる。ソラヒメの思考力なら少し考えればさっきの戦闘が原因と分かる筈だが、あまりに突然の噴火なので頭が回らなかったのだろう。困惑で目は回しているけど。


 ともかく、悠長に話している暇はない。本来なら日本全国に何らかの影響を及ぼす富士山の噴火だが、倍の大きさになっているこの世界なら全国ではなく街も無い近辺が被害に遭うだけだろう。だが、それでも何かしらの被害は及ぶ。俺達の所為せいで周りを巻き込むのは流石に問題だ。

 取り敢えずパニックにはならず、どう対処するかを冷静に考えるか。


「火山の被害は大部分が火と灰。そして岩や砂利に泥……つまりそれらを沈静化出来れば……!」


「幸い、この世界なら私達も生身で色々出来るし、氷や水で抑えられるかも!」


 既に余波は届いている。俺達は降り注ぐ噴石を砕きながら思案し、対策を練る。

 ソラヒメが言うようにこの世界なら俺達も生身で色々と出来る。火を消し、灰を消し、土を消せれば被害も最小限に抑えられるかもしれない。


「そうと決まれば……! 行くぞ!」

「うん!」

「僕達も手伝うよ!」

「ああ、当然だ!」


「ユメはその子を守護魔法で守っていてくれ! 俺達は何とかアレを止めてみる!」


「は、はい! お気をつけて!」

「……」


 やる事は決まった。なので俺達は富士山の噴火地点に向かって音速で進む。ユメには白髪の少女を任せた。

 既に火砕流なども放出されているが、火砕流は最大級のものでも時速100㎞程。本来ならかなりの速度だが、今の俺達の速度なら樹海や近辺に着弾するよりも前に止められるかもしれない!


「ボスモンスターでもないし、必殺スキルの温存は要らないな! ──伝家の宝刀・“風雪剣”!」

「そうだね! ──奥の手・“風雪拳”!」

「「──リーサルウェポン・“風雪矢”!」」


 まずは火砕流に向け、氷属性を付与した必殺スキルを使用。数百℃の黒煙が凍り付き、そのまま砕いて霧散させた。

 火山ガスや火山灰の集合体のようなもの。なので氷属性に風を付与すれば凍り付かせてそのまま吹き飛ばす事も出来た。


「あとは落石と黒煙。溶岩だな……!」

「落石はともかく、黒煙と溶岩は難しいかも……!」

「火山灰は風に乗って何千キロ先にも届くからね。それによって作物が駄目になる。早いところ空も何とかしたいところだ」

「これが火山の噴火……! ゲーム以外でも、現実でも起こりうる事柄……なんという破壊力だ……!」


 火砕流は消し飛ばしたが、火砕流はあくまで余波の余波。本番はここからだ。

 火山の噴火は時と場合によって何度か起こる事もあるからな。第一波を防いだところで、まだまだ油断は出来ない。今の場合は第一波どころかただ火砕流を消しただけだからな……次が来る。

 ──瞬間、真っ赤な溶岩が波のように溢れ出して俺達の眼前に迫った。


「全部が全部大問題だけど、まずは溶岩からだな……途中で固まる気配も無いし、このままだと樹海が火事になる」


「近場に街はないから噴石や火山灰についてはまだ大丈夫そうだからね。まあ、すぐに空を覆わなくちゃ!」


 一先ず黒煙や火山灰は空に“地形生成”で守護膜を貼れば大丈夫そうだが、流れ来ている数千℃の溶岩は何とかした方が良い。

 冷やして固めるか、一気に吹き飛ばすか。前者の方が比較的安全だな。


「噴火の抑制には氷属性をよく使いそうだな……マイ、リリィチームともう少し一緒に行動して氷属性スキルを覚えれば良かった」


「まあ、いつの間にか覚えているものだから、どう言った要因で覚えられるかはまだ分かっていないんだけどねぇ……!」


「光の粒子が世界の大半を担っているなら、漏れ出た粒子から本人の記憶を読み取って肉体がスキルを覚えるのかもしれないね。それなら他者をあやめる事でその者の得意なスキルを覚える理由にも繋がる」


「確かにそうかもな。肉体に光の粒子が宿るなら、その記憶と記録が伝達する……合点はいく」


 セイヤの言うように、その可能性は大いにあった。

 俺達の肉体を光の粒子が形成しているとして、食事などからそのエネルギーを吸収しなくてはならないのなら、少なからず常にエネルギーは消費しているという事になる。

 つまり何らかの形で光の粒子が外に漏れ出ているのだ。

 それならその光の粒子に感化され、俺達の肉体に何かしらの変化が起きてもおかしくない。それが通常では覚えられないスキルと考えたら辻褄が合うのである。


「ふむ……リリィか。その名前からして女性。ライトの話にも出てきた仲間か」


「ああ。……って、女性って事を改めて言う必要があったか? ……まあいいや。リリィは魔術師で、氷魔術が得意なんだ。それで、踊り子のマイという仲間と共に行動をしている。頼もしい仲間さ。俺達にとってもな」


「成る程……ライトからの評価が高いな。私も会ってみたいところだ」


「多分すぐ会えるさ。富士山の噴火を止めたら一旦ギルドに戻って首謀者についての話をするんだからな」


「そうか。それは楽しみだな!」


 マイとリリィについて詳しく知らないソフィアは何かを少し考えている様子だったが、どうやら会ってみたいという気持ちもあるらしく楽しみにしていた。

 まあ、その為にもこの噴火を何とかしなくちゃだな。


「「「“地形生成”」」」


 次の瞬間、俺、ソラヒメ、セイヤの三人は富士山の山頂に向けて地形生成を使用。それによって黒煙と火山灰が行き場を無くして俺達の方に降りてきた。

 本来なら吸うだけで致命的だが、この世界ならおそらく状態異常の“毒”として処理される筈。それならいくらかは浴びても回復の手段もあるので無問題だ。

 後は流れ来る溶岩を塞き止めれば第一波は回避出来た事になる。


「──伝家の宝刀・“氷雪剣”!」

「──奥の手・“氷雪拳”!」

「「──リーサルウェポン・“氷雪矢”!」」


 次いで溶岩に放ったのは先程のスキルとはまた別の氷属性スキル。

 先程は風を付与させる事で霧散させたが、今回はただ凍らせ、そのまま砕くのを目的としたモノ。それによって今の溶岩は消えたが、まだ後続の溶岩が流れ来る。まだまだ終わらせられそうにないな。


「“地形生成”!」


 対して俺は壁としての地形を生成させて防ぐ。

 既に上空に継続的な地形を生み出しているが、要するにこれ以上進行させなければ良いのでき止めたのだ。

 今さっきの溶岩は量が少なかったので消し飛ばしたが、今回はもはや溶岩の波。なので大きく塞き止め、そのままその場に溶岩をとどめた。

 当然一ヶ所だけではなく富士山全体を囲むように工夫しているが、中々力を使う。専用アビリティにも少し体力が消費されるよう設定……つまりアップデートされたみたいだ。

 俺達はさっきまで分身と戦っていたのに、本体は傍観しつつ色々と追加しているみたいだな。


「これでも壁が低いみたい……! “地形生成”!」


 疲労云々(うんぬん)以前に、地形を広げられる範囲も決まっている。流石に富士山の全方位を囲む壁は労力が大きいか。“範囲”はともかく、“高さ”が足りない。

 それを見越したソラヒメが俺の上へ新たな地形を生成するが、前述したように既に富士山の頭上にも地形を広げているので今の範囲は限界が近くそこまで高い壁にはなっていなかった。

 あくまで“この範囲”での地形生成なので直した旅館の修繕部分は問題無いが、ここでの地形限界範囲への到達は時間の問題だ。


「“地形生成”!」


 対し、見兼ねたセイヤも地形を生成。計三つの壁。既に溶岩は出し尽くしており、これなら塞き止められそうだ。


「いけるか……これなら……!」

「多分……!」

「溶岩が固まってくれればね……!」

「……っ。こんな時に何も出来ないのは思うところがあるな……私もこの世界になる前に管理所に入っていれば良かった……!」


 最後の溶岩も地形に阻まれる。高さはギリギリだが、もう溶岩が出尽くしたならこのままの調子で止められそうだった。



 ──第二波が起こらなければ。



「「「…………!」」」

「そんな……!」


 瞬間、富士山が轟音と共に再び大噴火を起こした。第二波の噴火だ。

 その衝撃によって空の地形が消え去り、俺達の眼前に貼っていた地形も消え去る。もう間に合わない。この世界の溶岩もダメージを負う筈。ここでゲームオーバーになってしまうと、その場コンティニューによって復活しても溶岩の中で復活する事になる。

 つまり、コンティニュー回数が0になるまで永続的に溶岩の中で死に続ける事になりそうだ。それまでに溶岩が固まってくれれば良いが、ソフィアは確実にゲームオーバーになり、そもそもこの量からして完全に固まるのは数時間後。……絶望的だ。


「……っ」


 そんな事を考えているうちに溶岩が眼前へと迫り来る。いや、元々数メートルも離れていない。数センチの距離に来ていた。死ぬ間際だからこそ思考が高速で行われていたみたいだ。

 少女を任せているユメは上手く逃げてくれるだろうか。走馬灯のように思い出が巡り、ゆっくりに見える溶岩が俺達四人へと迫り──


「──……」

「え……?」


「「……!?」」

「「……!?」」


 ──白い光が俺達四人の横を通り抜け、全ての溶岩を消し飛ばした。


 その光は空中の黒煙と雲。火山灰も消し飛ばし、宇宙の彼方へとそれらを巻き込んで消え去る。

 俺、ソラヒメ、セイヤ、ソフィアの四人は光の方向に居るユメと少女に視線を向けた。


「い、今のは……」

「た、助かったの……」

「……。走馬灯が過ぎ去っていったよ……」

「私もだ……」


 あの白い光には見覚えがある。それによってゲームオーバーになった記憶が残っているからな。

 だが、今回はその白い光に助けられた。

 あれはユメのスキル? いや違う。あの少女の仕業……お陰だ。


「ユメちゃん! 凄い! 何かしたの!?」

「え!? いや、その……私ではなくて……」

「…………」

「もしかして、この女の子!」

「は、はい……!」

「すごーい!」

「…………」


 それに対し、ソラヒメが音速で迫って興奮気味にユメに抱き付く。困惑するユメは近くの少女に視線を向け、その視線を読み取ったソラヒメは今一度興奮して今度は少女に抱き付いた。

 遠目からでよく見えないが、少女はソラヒメから視線を逸らして迷惑そうに黙り込んでいる。……なんというか、うん。大変だな。


「……。まあ、取り敢えず無事で良かった……って事にしておくか」


「ああ、それが良さそうだな。まだまだ謎は多いが、噴火から助かって良かった」


「だね。後は暴走気味のソラ姉を止めようか」


 一足早くユメ達の元に向かったソラヒメを見つつ、俺、ソフィア、セイヤの三人はその順で話しながら富士山を下る。

 ソフィアが言うようにまだまだ謎はある。あの少女もユメが相手なら平気みたいだし、何とか話が聞けないか試してみるか。

 戦闘の余波で巻き起こった、俺達が直面した富士山の噴火。それは謎の白髪少女によって止められる。俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤ、ソフィアの五人は改めて少女の元に近付くのだった。

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