ステージ8-7 世界の成り立ち
──“樹海”。
「さて、落下地点を考えるとこの辺りの筈だけど……」
「多分移動なんかしていないでしょうし、すぐに見つかるかもしれませんね」
ステージとなっている樹海の上を進み、俺達は木々に注意をしながら吹き飛ばされた首謀者の分身を探していた。
あれ程の勢いならば周囲の木々も巻き込まれて吹き飛んでいる筈。その事を考えれば居場所はすぐに特定出来るだろう。……本物の首謀者の居場所もすぐに分かれば良いんだけどな。
「あ、あそこ! あそこだけ木が倒れているよ!」
「どうやらあそこっぽいな。目を凝らせば……中心にローブを羽織った人も見える。確実に首謀者の分身だ」
ソラヒメが一つの場所を指差し、俺達はそこを視界に入れて確認。相変わらず、分身にも関わらずローブを纏った姿があり、その場で立ち竦んで俺達の事を見ていた。
まあ、地形生成は割と目立つ専用アビリティ。こちらの居場所がバレているのは別段おかしくない。
「ここからの距離は八百メートル程……ユメ、セイヤ、ソフィア。狙えるか?」
「はい、何とか……!」
「僕も問題ない」
「同じく」
「じゃあ任せた!」
バレているなら先手必勝。それなりに距離もあるが、狙えない事はない。
遠距離スキルを使えはするが“SP”を温存する必要がある俺や、中距離スキル並みの射程しかないソラヒメは仕掛けられないが、ユメ達なら仕掛けられる。時速は音速並み。なので俺とソラヒメは三人が仕掛けた瞬間に斬り込む準備をしていた。
「──究極魔法・“龍火”」
「──リーサルウェポン・“風神矢”!」
「はあ!」
瞬間、ユメとセイヤの二人は遠距離でも威力が衰えにくい必殺スキルを発動。龍のような炎が直進し、風を放つ矢が加速する。ソフィアは精一杯弓を引き、それらのスキルに乗せるよう射出した。
現実に則っているこの世界では距離が離れていれば威力も相応になる。近距離過ぎても勢いが付く前に事が終わってしまうが、離れていれば当然下がるのだ。
なので距離によってスキルの使い分けも必要なのである。
「……」
当然、それらのスキルも首謀者の分身は避けない。直撃し、龍火の炎が倒れる木々の間に入るよう、巨大な火災旋風を巻き上げた。
「行くぞ、ソラヒメ!」
「オーケー、ライト!」
それを見計らい、俺達は音速で加速。爆音が響いて暴風と共に敵の眼前へと迫った。
職業柄、身体能力的にユメ達よりも速く走れる俺達が全力で行けば八百メートル離れていようと二秒も掛からない。つまり瞬間的には音速も越えているのだ。
俺とソラヒメはソニックブームを纏いながら進み、そのまま俺は光剣影狩と白神剣を握り締め、ソラヒメが空裂爪に力を込めて左右から火災旋風の中へと飛び込んだ。
「オラァ!」
「──奥の手・“強化連撃”!」
「……!」
俺が先に二刀流で切り裂き、ソラヒメが初期スキルの“連撃”を強化させた必殺スキルを使用。
ソラヒメは初手に分身の顔面を殴り付け、同時に回し蹴りで側頭部を打ち抜く。刹那に膝蹴りを腹部に食らわせ、勢いそのまま踵落としを脳天に叩き込む。地面にバウンドして起き上がった瞬間を狙い、目にも止まらぬ速度で連撃を嗾ける。最後に渾身の力を込めた拳を打ち込み、火災旋風の中から外へと吹き飛ばして樹海の木々を薙ぎ払う勢いで遠方の崖に衝突。大きな粉塵を巻き上げた。
「……参った。やられたよ」
「まだだ……! ──伝家の宝刀・“星の光の剣”!」
それによって首謀者の分身の体力ゲージが0になる。ソラヒメの頭上には+1の数字。
瞬間的に分身を再生の光が覆い、それを見て確信した俺も仕掛ける。
「復活する暇も無いか」
「……」
一閃、吹き飛んだ距離を光の速度で追い付き、一瞬にして数百回切り裂く。
それによって首謀者の分身へ樹海に落ちてから二回目の死が訪れ、頭上からはソフィアが狙いを定めていた。それと同時に絶命した首謀者の分身が復活する。
「──リーサルウェポン・“星の軌跡の弓矢”!」
「さて、これで……残りのコンティニュー回数は何回になった?」
刹那に無数の矢が降り注ぎ、崖を貫通して粉砕。そのまま必殺スキルの矢が浮き上がるように天空へと消え去る。星の軌跡が目の前には映し出されており、俺達は息を飲んで次のコンティニューがあるかを窺った。
「感覚で分かるね……これが最後の1回……LAST CONTINUEみたいだ。今回ばかりは本当にその様だから指摘されるよりも前に教えておくよ。君達も、残りCONTINUE数が0回になると感覚で分かるから常に無茶をして本当に“GAME OVER”にならないように気を付けるんだ。ゲームの仕様としてCONTINUE数が分からないのは不適切だったけど、最後だけは分かるからね」
「……。そうかよ」
そして復活。しかし本人曰く、残りコンティニュー数は0。つまり、この個体を倒せば今回の戦闘は終わりという事になる。
けど成る程な。ラストコンティニューだけは分かるような仕様になっているのか。
本人も言うようにコンティニュー数が分からない時点で不適切極まりないが、自分の命が尽きる直前には気付けるって言うのは何とも言えない仕様だな。
「だから最後の一撃は──」
「……!」
その瞬間、首謀者の分身の拳が俺の顔面に叩き込まれる。……ッ。痛ぇ……! この痛みは……即死の痛み……!
【GAME OVER】
【CONTINUE】
【RESTART】
「……!」
そして俺は復活。首謀者の分身を探した時、既にソラヒメの眼前へと迫っていた。
「君達全員を──」
「……ッ!」
瞬間、俺の視線の先には、腹部に拳を打ち付けられ、内部からバラバラに破裂するように吹き飛んだソラヒメの姿が映り込んだ。
【GAME OVER】
【CONTINUE】
【RESTART】
「まさか……!」
ソラヒメは復活する。しかし首謀者の分身は既にソラヒメの近くにはいない。同時に俺の脳裏には、最後の嫌がらせをする姿が想像出来た。
そして今はもう、ソフィアの目の前に居る。
「一度だけ殺し──」
「カハッ……!」
そのソフィアにも拳が叩き込まれる。頭を狙った首謀者の分身の拳が打ち込まれ、一度ソフィアの頭が破裂。瞬間的に肉体も消し飛ぶ。
……拳じゃなくて、まるで爆弾だな。
【GAME OVER】
【CONTINUE】
【RESTART】
そして復活。だがこれでソフィアのコンティニュー数は残り一回。さっき首謀者の分身を倒していて良かった。まだソフィアは生きられる。
俺は次の目的地が分かっている。なので音速を越えて急ぐが、もう間に合わなかった。言ってしまえばソラヒメが狙われた瞬間から走っていたんだが、Lv1000の速度には追い付かない……!
「──私との戦闘結果を最低でプラマイゼロ。少しマイナス寄りにしておくよ」
「「……!」」
そして、その拳と足によってユメとセイヤも殺される。まだコンティニュー出来るが、首謀者の分身に一度もトドメを刺していない二人とソラヒメは本当にマイナス寄りの状態になってしまった。
【GAME OVER】
【CONTINUE】
【RESTART】
「さて、これで嫌がらせは終了。次にキミかキミ。どちらかが専用スキルを使えば分身は完全に消え去るよ」
「……っ」
俺達全員を今一度全滅させた首謀者の分身は両手を広げ、仰々しく佇んで口元に笑みを浮かべる。
終始顔は見えなかったが、言動だけでどんな表情なのかよく分かるのは憎たらしいが流石だよ。
「あー、そうそう。この世界にはまだまだ秘密がある。色々と教えておきたいところだけど、大体は前の演説で言った通りさ。レベルアップの法則やこの世界でのプレイヤーのあり方、その全ては君達が一度、本当に死んでいるから成り立っている。分身とは言え、私をここまで追い詰めたサービスだ。もう少しだけ世界の秘密を教えてあげよう」
「……」
敵意も戦闘意欲も無い様子の分身。もうトドメを刺しても問題ない。しかし、悔しいが俺達はその話を静聴せざるを得ない。
この世界について。色々知りたいのも事実。今、“俺達が死んでいる”という事について詳しく教えてくれるみたいだからな。
首謀者の分身は口を開いた。
「──前に発射した星を囲む人工衛星。それには様々な機能があってね。まずは君達を殺した方法と改造方法。それは簡単だ。人工衛星からのエネルギー波を放出する事で世界中の全生物を眠らせ、一晩で分解と再構築させた。ただそれだけさ。肉体が分解されたから結果的に一度死んだという訳だ」
「眠らせて一晩で……」
「そう。そのエネルギー波の放出は最近見つけ出したやり方でね。数十年前には想像すらされていなかっただろう。まあそれは良いんだ。それによって人や生き物は大きく変化した。その時の乗り物とかはこの世界とゲームの世界の融合による過程で消え去ってしまったけどね」
人工衛星から放たれた不思議なビーム。それは本当に不思議なビームだった。
それによって全世界の全てを眠らせ、肉体の分解。全生物死亡。そこから再構築され、生き返ってこの世界になった訳か。
「さて次だ。知っての通り、改造された事で生き物の仕組みも大きく変わった。まずは誰でもした事がある睡眠。それが必要無い理由は、脳の行う記憶の整理を含めた様々な事をエネルギー……つまり君達の身体にある光の粒子が自動的に行ってくれるからだ。食事は必要だけど、それはエネルギー摂取の為に必要という事だね。肉体強化にも光の粒子は使われているから、どうしても外部からの吸収が必要になってしまうんだ」
次に話したのは睡眠の有無。それは光の粒子が全てを全自動で行ってくれているから。その光の粒子が一番の謎だが、まだ教えてはくれないようだな。
「そして君達が気になっているであろう光の粒子。それは簡単に言えば宇宙エネルギーだ。あの人工衛星には宇宙からの全てのエネルギーをプラスにしてこの星へと送る事が出来る。凄い技術だろう? その方法は君達が知る必要も無いから割愛。そもそも、この世界の大半は宇宙のエネルギーで成り立っている。この世界が広くなったのは宇宙のエネルギーをこの星に融合させたから、自然と巨大化しただけさ。酸素濃度とか大気とか重力とか、この世界で生きるに当たって必要なモノは多いけど、その辺も問題無く活用出来ている。君達の肉体が強化されているからね。名付けるなら強化粒子。それを元々あった既存物の粒子の隙間に組み込む事で完成されたとでも言っておこうか」
光の粒子の正体。それは“宇宙のエネルギー”。大雑把だな。一体何のエネルギーだよ。多分宇宙に存在する全エネルギーって事なんだろうけど、俺にはさっぱり分からない。
宇宙には無限の可能性があると言われているが、その無限のうちの一つを実行したみたいだ。
超天才で超偉い物理学者様や科学者様が居ても混乱するんだろうな。コイツが独自で見つけ出して開発した物っぽいし。理論上でも不可能だった事をやり遂げたんじゃないか? この首謀者。
「そのお陰で、この世界が融合する時点で亡くなった人も生き返り、その時患っていた病や負っていた怪我があればそれも完治しているだろうね。肉体の大半を光の粒子が補ってくれているんだから。生まれつき目が見えなかったり耳が聞こえなかったり足が不自由だったり、身体に何かしらの障害を抱えている人もそれによって治っているよ。それに、君達の寿命自体も倍以上に延びている。純粋に考えて細胞分裂が出来る回数も増えたって事だからね」
そしてそれはデメリットばかりではなく、肉体に何かしらの不調を抱えていた人はそれが治ったらしい。
肉体は改造されているが、一種の万能薬だな。自称天才的な頭脳も今の方向じゃなく、そっち方面で活用させた方が良かったんじゃないか?
「レベルが上がる理由もその強化粒子によってだね。魔物や他のプレイヤーを倒すと強化粒子が肉体に吸い込まれる。よってステータスなどを上昇させたり、文字通り命を貰っているからCONTINUEも出来るようになるんだ。プレイヤーを倒したら確実にCONTINUEが出来るようになる理由もそれだね。純粋に、プレイヤーの方が強化粒子の数が多いからCONTINUEに繋がるんだ。……まあ、プレイヤーが減るのは困るしプレイヤーを倒してもそこまで大きなレベルアップはしないように此方で調整しているんだけど」
強化粒子。俺達の身体や世界の物に組み込まれている物質。魔物やプレイヤーを倒す事でそれを取り込み、能力が上がる……か。やっぱり俺達がコンティニュー出来る理由は本当に命を貰っていたからか。
「そしてそのレベルアップだけど、上限は無いって言ったよね? それも厳密に言えば違う。宇宙のエネルギーを拝借している訳だから、この宇宙が滅びる頃が上限だ。実際、今この宇宙はこの星にエネルギーを与える事で収束しているからね。まあ、完全に消え去るのが何百億年後になるかは分からないけど」
宇宙もそれらによって小さくなっているのか。まあ、本人が言うように、少なくとも俺達が生きているうちは大丈夫か。
「さて、この世界の秘密は大体教えたかな。これで君達が本体の私に出会った時、面倒な質問をされる事も無くなるだろう。まあ、私自身の事についてはあまり教えていない。“NPC”やモンスターについても殆ど教えていないけど、あくまでこの“世界の成り立ち”については……って感じかな?」
「そうかい。色々知れて良かったよ」
世界についての秘密は色々と分かった。これ以上待ってももう何も話さないだろう。……悪役みたいで嫌だけど、トドメを刺すか。
「じゃあ、分身のアンタとはここでお別れだ……! ──伝家の宝刀・“星の光の剣”!」
トドメは俺が刺す。分身とは言え、仲間には人殺しをさせたくないからな。……いや、今更か。もう既にこの分身を何回も倒している。コンティニュー数から考えてもソフィアがトドメを刺した方が良いんだろうけど、ここからは俺の偽善的な感情の問題だ。
「終わりだ……」
「ああ、さようなら。光の剣士」
一閃、通り過ぎ、首謀者の分身は光の粒子となって消え去る。そして俺の頭上には+1の表記。……まあ、この残機はソフィアや他の仲間が死にかけた時、俺を殺して貰って活用しようか。今回の戦いで皆の残機も一気に減ったからな。
俺、ユメ、ソラヒメ、セイヤ、ソフィアの五人が織り成した首謀者の分身との戦闘。それは分身から世界についての情報を得、俺がトドメを刺す事で終わりを迎えるのだった。




