ステージ8-6 首謀者の分身
「──奥の手・“竜神拳”!」
「──究極魔法・“神の息吹き”!」
「──リーサルウェポン・“神撃流星”!」
瞬間的に放たれた必殺スキル、それらはレベルが200を越えた事で新たに身に付いたもの。
それぞれに“神”の名が付いており、上級スキルとも言える代物だ。
竜神のようなオーラを纏った拳が軌跡を描きながら進み、神の息吹きのような神聖な風。そして神の一撃とも言える流星の矢。
名前だけなら俺達の使う“星の光の剣”や“星の軌跡の弓矢”よりも強そうだが、神話の宇宙はあくまで一つの星の事を示す。つまり星である俺達の専用スキルも神に等しき存在という事だ。要するに感覚の問題である。
「各々スキルも鍛えているね。基本スキルも自動的に埋まるだけじゃなく、プレイスタイルや出会った人々の存在で変わるからね。強力なスキルを扱えているという事から、出会った仲間達もそれなりの実力を秘めていたようだ」
当然のようにそれらのスキルも全て避ける事無く受け、首謀者の分身の周りに大きな粉塵が舞い上がった。
この威力だと富士山がまた削れちゃっただろうな。世界の形って戻せるのかな。
「さて、次はどうやって仕掛ける?」
「相変わらずの無傷……みたいなもの。必殺スキルを受けても減った体力は一割未満……アンタがコンティニューしてから考えて、ようやく一割は削れたか」
首謀者の分身は、俺達の攻撃を殆ど避けていない。通常攻撃や通常スキルはともかく、必殺スキルに至っては一度も避けていないだろう。
それで削れたのが一割。折角一割も削れたんだし、ここで“SP”が回復しても今は今のままで倒したいところだな。
「次は正面突破だ!」
「実に単純かつ合理的な判断だね」
踏み込み、白神剣と光剣影狩を構えて迫り行く。
今の首謀者の攻撃は、避けられない事も無い。それは紙一重でも同じ事。それなら一気に仕掛けた方が効率的だろう。
それで避け切れずにやられてしまっても、その時はその時。“星の光の剣”を使えると考えればそれもまた一興である。今までの行動と言葉を撤回するようなやり方だけどな。
「そらっ!」
「戦っているように見せる為、通常攻撃くらいは躱そうかな」
「そりゃ大層なエンターテイナーだこと」
白神剣を拳の装備で受け、火花を散らしてガードする。
通常攻撃を避けたり防いでいたりしていたのは戦っているように見せる為。本当に余裕があるのが分かる。心底プレイヤー想いの開発者だ。
「ヒール役としてやられてくれるのかね」
「さあ。それは君達の実力と残機次第だ」
次は白神剣と光剣影狩を用いて仕掛け、それらを分身は両手を巧みに使って守護。全ての動きが軽く見切られてしまっている。
瞬間的な速度は移動速度を越えられるんだけど、首謀者の分身にとってはそれもまだまだ遅いんだろうな。
「はっ!」
「狙いは正確だね。交戦中、味方が離れた瞬間に私を狙えている」
俺と分身が鬩ぎ合う最中、瞬間的な隙を突いたソフィアが矢を打ち込んだ。
その狙いは正確で的確だったが、それすら防がれてしまった。
今のソフィアのレベルからなる矢の速度は音速を遥かに超越している。第一宇宙速度から第二宇宙速度は出ているかもしれない。しかしそれすらもLv1000の分身からすれば遅い。この世界でのレベル四桁は想像の遥か上を行く強さだ。
「“サンダー”!」
「“雷矢”!」
「フム……」
そこに向けて放たれたのは雷速の二撃。それはスキルなので直撃したが、相変わらずダメージは少ない。
そもそも雷速には反応出来ているのか気になるな。あくまでスキルの一つなので、俺達のレベルからしても亜雷速と言ったところ。完全な雷速じゃないにせよ、もしかしたらLv1000の反応ラインは雷速なのかもしれないな。
「やあ!」
「同じ“格闘家”だけど、まだまだ動きが固いね」
「動きの固さとか、この世界じゃあまり関係無くない?」
雷鳴迸る分身に向け、ソラヒメが連撃を叩き込む。その全ては防がれているが、時折放たれている反撃も避けているのでソラヒメは大丈夫そうだ。
……って、傍観している場合じゃないな。近接戦なら俺も加勢するか。
「オラァ!」
「ライト!」
「二人か。まあ、問題は無いね」
ソラヒメが連続攻撃を叩き込み、俺が加勢して二刀流で嗾ける。
それらは受けるのも難しいと思いたいところだが、全て見切られ躱されていた。
純粋な手数が増えたので速度が遅くても付け入る隙はありそうなものだが、どうやらそう上手くいかないみたいだな。まあ、相手が相手。それはそれで前提のうちだ。
「よっと!」
「やあ!」
「見切ったよ」
「俺達もな!」
なのでわざと大振りで仕掛け、隙を作って首謀者の分身にその隙を狙わせる。それを見切って躱した俺とソラヒメは左右から挟み込み、白神剣と光剣影狩で切り裂き、空裂爪にて打ち抜いて吹き飛ばした。
「成る程。陽動か」
「“ライディング”!」
「“暴風弓”!」
「はあ!」
吹き飛ばされた首謀者の分身は距離を置き、そこに向けてユメ、セイヤ、ソフィアの遠距離組が狙いを付けて放出。
ユメが落雷を頭上に落とし、セイヤが暴風を放出させた矢を射出。その風に乗り、ソフィアの通常攻撃である矢も威力が増して首謀者の分身を貫いた。
雷の閃光によって視界は白く染まっているが、大凡の位置は分かる。俺とソラヒメは踏み出してその位置に向かい、白神剣と光剣影狩で斬り伏せ、今一度殴り飛ばして近くの岩場に叩き付けた。
「ダメージは少ないけど、ノックバックはする。面倒な相手という事は変わらないにしても、このやり方ならいつかはアンタを倒せそうだ」
「そうだね。私もプレイヤーではある。ボスモンスターはノックバックしにくいけど、プレイヤーの強度自体は柔らかく、軽いからね。物理にしても魔法にしても、防御力とは別にノックバックはしやすいんだ」
ダメージは少ないが、攻撃のタイミング次第ではハメる事も出来る。
ゲームのように決まったパターンがある訳ではないので俗に言うハメ技とは違うが、レベル差があったとしても敵もプレイヤーなら何とかなるのだ。
そもそも、ボスモンスターは精々第三形態くらいしかない。残機の数だけ復活出来るプレイヤーがズルいだけだ。……まあ、俺に言えた事じゃないけどな。
「てな訳で、ここからはじり貧だ。長丁場になるからアンタの気が変わらないと良いな」
「安心したまえ。“作品”とは、常に同じ事と向き合う事で生まれるもの。この作品──“ANOTHER-ONE・SPACE・ONLINE”の完成品を作り上げるのには何十年も掛かったからね。ここから何十年の長丁場になったとしても、私はボスモンスターを全うするよ」
「そうかい。それはありがたいな!」
ボスモンスターを全うしている首謀者の分身は、最後までその意思を突き通すとの事。と言っても分身は分身。意思はあれどその意思も残留思念のようなものなので耐える事は苦にならないのだろう。
そもそも本人が言うようにこのゲームの開発に何十年も費やしていた気力は凄まじいものがありそうだ。
俺達五人と首謀者の分身の戦闘。それは長丁場に入った。
*****
「……っ。はあ……攻撃しながら避ける……単純な作業も楽じゃないな……」
「まだあれから一度もやられていないのは奇跡ですね……かなり疲れました……」
「そうだねぇ……まだ敵の体力も残っているけど……」
「はぁ……面倒だな……疲労が募るばかりだ……」
「せめて後何回のコンティニューが可能なのかくらい知れれば良いのだがな……」
そしてそれから一、二時間後、ようやく首謀者の分身の体力を二割程に減らせた俺達は肩で息をしながら首謀者の分身に向き合っていた。当の本人はまだまだ余裕がある様子。
ソフィアの言うように残りのコンティニュー数が分かればもう既に回復した“SP”による必殺スキルを使えるのだが、それが分からないので使わず何とか戦っていた。
今使えば最大で二回は倒せるが、折角減らした体力。今の状態を終わらせ、この一回を倒したら一気に使うか。
「大分疲労が溜まっているみたいだけど、私もそれなりに疲れているんだ。分身にもそう言う感覚があるなんてね。いや、ここまで粘った存在は君達が初めてだから貴重な経験を積めたと考えようか」
「まあ……いくらLv1000でも何時間も戦い続けたら疲れるか。数では圧倒的に俺達が有利だからな。それでも時間が恐ろしく掛かるのがレベル差だけど」
この世界は格ゲーなどと違い、自分の技術だけが物を言う訳ではない。攻撃を避けたり仕掛けたりなどの動きはあくまで自分の行動だが、レベルが高ければ避ける必要すら無くなる。目の前の首謀者の分身がまさにそれだ。
つまるところどんなに技術が優れていようと、何レベルか離れているだけで勝てない可能性もあるのだ。
その差が三倍以上。一撃でやられる可能性もあるし、駄目だと判断したらすぐにでも専用スキルを使うか。
「ここからが正念場だ。コイツの体力を削り切れば、あと二回は確実に倒せる……!」
「はい……! 分身である以上、本体よりはコンティニュー回数も少ないかもしれませんからね……!」
「なら、早いところ今の分身にはトドメを刺そうか……!」
「オーケー」
「ああ……!」
行動は既に決まっている。それならそれを実行するだけだ。
残り二割の体力。それを削り切る事で自ずと合計三回倒せる事になる。一撃でも受けたらやられるが、仕掛けなければ始まらないだろう。
「そらっ!」
「やあ!」
「もう何度君達が正面から仕掛けてきたんだろうね。君達の動きには慣れてきたけど、君達も私の動きに慣れてきている。結果的に最初と何も変わらなくなっているね」
何度も行った鬩ぎ合い。互いに互いの動きに慣れるので進展という進展はない。まあ、首謀者の分身は最初から手加減しているので本気を出されたら勝てる見込みが無くなるけど。
それはさておき、約束を守るかどうかは分からないが少なくとも今はまだ本気を出さないでいてくれそうだ。
「──究極魔法・“神の息吹き”!」
「──リーサルウェポン・“神撃流星”!」
「はあ!」
その瞬間にユメとセイヤが必殺スキルを放出。ソフィアもそれに続き、首謀者の分身は残り体力二割にも関わらず正面から全てを受けた。
今更だけど、別にボスモンスターはスキルを避けないという訳じゃない。俺達は首謀者の分身が敢えて受けているからこそ、まだ約束は守ると判断したのだ。
「──奥の手・“竜神拳”!」
「間髪入れず仕掛けてくるね」
爆風と粉塵の中から姿を現した分身に向けてソラヒメが必殺スキルを用いた一撃を打ち込む。
その攻撃も正面から受け、そのまま吹き飛び勢いよく富士山頂から落下した。
富士山を抉りながら落ち、下方の樹海へと沈む。
「標高3776mからの落下か。この世界じゃなければ死んでいたんだろうな」
「転がり落ちるのではなくて吹き飛ぶように落ちましたからね。その衝撃は凄まじいと思いますけど、Lv1000ならそれも耐えそうですね」
この世界には、落下のダメージもある。現実に基づいているので現実で傷を負うような事があればダメージを受ける事もあるのだ。
レベルが高ければステータスの上昇は割り振りによって肉体的な耐久力も上がるのでダメージも減るが、山頂から下方の樹海への落下。少しは効いたかもしれないな。
一先ず俺達は首謀者の分身が落下した方向に向けて踏み込み、その後を追うように進む。
「「“地形生成”!」」
「「“地形生成”!」」
俺達がそのまま落ちたら耐えられるかは分からない。なので当然新たな地形を造る。
取り敢えず造ったのは樹海までの道で、坂のように下方に連なっていた。
「ソフィアもこの地形を進んでくれ。そのまま降りると時間が掛かるし、飛び降りるのも危険だからな」
「ああ、分かった。ライト」
それに続き、ソフィアも誘って五人で地形を進む。ここからの距離は富士山の標高よりも少し高く約4000mつまり4㎞。まあ高さと距離はちょっと違うけどな。ともかく、音速なら十数秒で行ける距離だ。
音の何倍かの速度で飛んだ首謀者の分身も既にどこかに居る事だろう。
俺達五人はその後を追うのだった。




