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ステージ1-11 強化モンスター

 人混みという名の荒波を掻き分け、俺は管理所の入り口に到着した。

 押し寄せる人に対して警備員は必死に大声を張って押さえており、かなり大きな問題となっているようだ。


「オイ! 一体どうなっているんだ!?」

「こんな世界怖いよー!」

「何とかしてくれ!」


「皆さん! お静かに! 慌てないで下さい! 今! 管理者の方々がお見えになりますから!」


「我々もどうしてこうなったのかは分かりません! なので暫しお待ち下さい!」


「知るか! こんな危険な世界!」

「アンタら! 関係しているんだろ!?」

「だったら何とかしてくれよ!」

ーかお前達が元凶なんじゃないか!?」

「一つの組織が全ての元凶ってのはよくある展開だからな!」


 他人事だが、かなり大変そうだな。内部に入りたいが、ここで管理者の俺が名乗り出てもますます混乱の波長が大きくなるだけ。なので名乗るに名乗れなかった。俺も今来たばかりなので何がなんだか分からないからだ。

 とはいえ、ここで待機してても意味が無い。この調子だと管理者用の出入口もパニック状態だろう。


 はあ……。皆お茶でも飲んで落ち着けば良いのに。文字通り、“精神安定”でな。

 とまあ。下らない事を考えるのはき、だったら管理者でも知る者が少ない秘密の入り口に向かうか。流石にそこなら問題無いだろう。知られていたら秘密じゃないからな。

 そう考え、俺は人混みの場所から離れた別の場所へと向かって行く。


「で、到着……と」


 そのまま、人の目が無いところを探してそこへ入った。その入り口は閑散とした場所にある、古い銅像のすぐ隣だ。押し寄せる人は多いが、流石に結構離れたここまで波の余波が来るという事は無かったらしい。

 まあ、表口と裏口にほとんどの人が居るからな。こんな隅のすたれた場所、来る者はそうそう居ないだろう。特に今のこの状況じゃな。

 そのまま俺は人が居ないかの最終確認を終え、確実に居ない事を確かめた後で秘密の入り口から建物内に入った。



*****



 ──“地下通路”。


 その後、俺は暗い地下通路を進む。

 全体的に暗いそこは、暗さに加えて全体的に水気が多かった。水の滴る音が周囲に響き、地面の水と天井から落ちた水がぶつかり合ってピチャンと音がする。

 てか、──“地下通路”。って表記もされるんだな。場所移動で頭上にその地名が表れるのはよくあるが、この世界でもそれを引き継いでいるらしい。ますますゲームという感覚だ。


『ヂュウッ!』

【モンスターが現れた】

「うわ、今度はネズミか……!」


 そんな暗い水気を含む場所を進んでいた時、鋭い前歯を持つネズミ型の灰色モンスターが姿を現した。

 成る程、地下通路ならではのモンスターだな。下水道とかとは少し違うが、湿気があって暗くて狭い。環境は似ている。多分餌になりうるゴミもあるだろうし天敵となる動物達にも見つかりにくい場所だから、ネズミとかが好みそうな場所だ。ゲームの世界に生態系があるのかは分からないけど。


「さて、やるか……」

『ヂュウッ!』


 木の枝を構えた瞬間、ネズミのモンスターが飛び掛かる。俺はサッと身をひるがえしてかわし、狭い地下通路でネズミの死角に回り込む。そのまま更に一歩踏み出し、木の枝の先端をネズミに突き刺した。

 それによって怯むネズミ。そのまま木の枝を引き抜き、縦に振り下ろして頭を狙う。その一撃で気絶状態に入ったのかネズミモンスターは止まり、その隙を突いて木の枝を横に薙いだ。

 次の瞬間、その枝がネズミの脇腹を打ち抜き、勢いよく壁に吹き飛び激突して光の粒子となって消え去った。


【ライトはモンスターを倒した】


 そして何時もの定型文が現れ、俺に経験値(EXP)が入る。まだレベルは上がらないが、あの程度のモンスターには簡単に勝てるようになったな。

 ネズミ型モンスターを倒した俺は先を進むもうと一歩踏み込み、


『『『ヂュウッ!』』』

「……」


【群れモンスターが現れた】


 ──大量のネズミ型モンスターに囲まれていた。

 マジかよ。こんなところで“群れモンスター”が現れるとはな……。


 ──“群れモンスター”。

 それはそのままの意味で、“AOSO”内の同小型モンスターが大量に集まって群れで攻めて来る現象の事。

 基本的に本当に弱いモンスターしか群れを成さないので簡単に倒せるが、数が多いからかなり面倒な現象だ。

 だが、同じモンスターを倒して回りながらレベルを上げるより纏めて倒す方が合計経験値は貰える。

 というのも、特に難しい計算などもなく純粋に“EXP×モンスターの数”になるので貰える“EXP”が増えるという事だ。

 だが、前述したように数が多くて面倒臭い。たまに中ボスクラスのモンスターが群れを成す事もあるので、その場合は面倒臭さに拍車が掛かるというもの。


「ま、今回はネズミ型モンスターだけだから楽勝か……」


 取り敢えず倒すに越した事は無い。俺は誰に言う訳でも無く呟き、ネズミ型モンスターに構える。それが合図となり、俺の脳内に言葉が響いた。


 ──“戦闘開始バトルスタート”。



*****



「はあ、疲れた……」


 ──その後、ネズミ型モンスターを全て倒した俺はレベルが3から4に上がり、買い置きしていた飲み物を口に含んで休息していた。

 いやー、簡単に勝てるとはいえ、数が多いとやっぱ面倒だな。

 俺一人に対して群れが敵となると、やはりダメージを受けてしまう。致命傷では無く微量なダメージだが、何が起こるか分からないのと動き回った疲労を癒す為に飲み物を飲んでいるのだ。

 このゲームの機能である“疲労”。それが募ると戦闘や行動に支障が出る。だから回復している。


 しかし、まさか自動販売機の飲み物が体力回復とプラス効果以外に、“疲労回復”の効果があるとはな。便利なものだ。

 戦闘においては前のように四桁のレベルがあれば楽だが、今はレベルがリセットされている。こりゃ日本支部に帰ったらパーティを作った方が良さそうだ。ソロプレイを好んでいたけど、この世界で死んだらどうなるか分からないからな。安全第一で命大事にって事だな。


「さて、そろそろ行くか」


 休憩を終えた俺は立ち上がり、その先へ進む。基本的に直線の道だから楽だが、それでもモンスターが現れるとなると面倒だ。

 もし現実がゲームの世界なら。的な妄想はよくしていたけど、装備しなきゃおちおち外も歩けない世界とはな。気苦労の方が多くなりそうだ。

 とまあ、特に関係無い事を考えるのはめ、俺は目的地である日本支部の管理所へと向かって行く。

 その道中も、様々な敵に出くわした。虫型のモンスターや、粘着力のある水を彷彿とさせる青いゲル状のモンスター。その他にも諸々現れ、大変面倒な道中だった。


『……!』

【モンスターが現れた】

「またか」


 俺に向かって飛び掛かる、赤いゲル状のモンスター。

 俺はその場でかわし、そいつに向かって向き直る。コイツは見覚えがある。というか、全てのモンスターは記憶している。さっきも出てきたが、さっき見たモノは青いゲル状のモンスター。今現れたのは、赤いゲル状のモンスター。コイツは強化版だ。

 青いゲル状のモンスターは身体を変化させて戦うが、コイツは魔法を主に使ってくる。チュートリアルの魔法使いの敵みたいなものである。


『……!』

【モンスターは火を放った】

「って事だな」


 思考している時、赤いゲル状のモンスターが炎を放つ。

 赤いから炎魔法を使う。簡単に推測出来る事だ。まあ、一言に炎って言っても様々な色はあるけど、一般的に連想するのは赤だ。


 なのでその炎を読んでいた俺は跳躍してかわし、地下通路の壁を蹴って更に高く飛び上がった。身体が元の現実世界よりも軽くなっていて強くなっているから出来る避け方である。

 この様に、攻撃だけではなく避け方も人によって様々なのだ。ゲームでは攻撃力もだけど、それ以上に速さと防御力も必要だからな。まあ、俺はパワーとスピードに入手した経験値のほとんどを注ぎ込むタイプだが。


「次はこっちの番だ!」

『ブルジャア!』


 言葉の意味を理解しているのかどうか分からないけど、反応したから仕掛けてもOKって事だな。


「じゃ、お構い無く攻めさせて貰うか!」


 それだけ言い、俺は木の枝を片手に赤いゲル状のモンスターに駆け寄る。

 赤いゲル状のモンスターは近寄る俺に向けて炎や変化させた身体を槍のように放つが、俺はそれを見切って躱す。レベルが低いので速度はそれ程出ていないが、着弾点を見極めて先に動いているので当たらないのだ。これは長年の勘みたいなものだな。


「そら!」

『ゲギャ!』


 瞬く間に近寄り、赤いゲル状のモンスターの脳天に木の枝を叩き込む。頭かどうかは分からないが、取り敢えず上だから頭という事にしておこう。

 対し、赤いゲル状のモンスターは身体を変化させ、全身を針のように尖らせて近くの俺を突き刺そうと試みる。その動きも知っているので、即座に飛び退いてそれを避けた。

 赤いゲル状のモンスターは遠距離や中距離なら身体を槍のように伸ばして突き刺すか炎を放ってくる。そして近距離ならば剣山のように全身を変化させる戦闘法。なので攻略方法はヒット&アウェイが一番的確なのだ。


『……』

「今だ!」


 暫く全身剣山だった赤いゲル状のモンスターは一定の時間を経て元の柔らかそうな姿に戻る。そのタイミングを見計らい、俺は木の枝を横に薙いで赤いゲル状のモンスターを打ち抜いた。

 魔法使いや弓使い、狙撃手のような職業なら変化した状態の赤いゲル状のモンスターを遠距離から狙う事が出来、ダメージを与えられるが俺はソロの剣士。一応さっき拾った石ころを投げたりも出来るが、サポート役が居ないので必然的にこの様なやり方となってしまうのである。中々に面倒だ。

 うん。さっきも言ったが、やはり管理所の日本支部に戻ったら誰かパーティに誘うか。絶対そうした方が良い。


『ボジャア!』


 その瞬間、赤いゲル状のモンスターが再び飛び掛かる。身体には炎を纏っており、絡み付かれたら最後、締め付けと炎でジワジワと体力を削られてしまうだろう。


「ほらよ!」

『ゲバギャア!』


 なので俺は即座にかわし、躱した場所で踏み込んで木の枝をその柔らかな身体に突き刺した。それによって苦痛の声と共に藻掻もがく赤いゲル状のモンスターだが俺は離さない。

 そのまま地面に叩き付け、木の枝から引き抜いた。次いで斜めに振り下ろし、地面にたたずむ赤いゲル状のモンスターを打つ。そして流れるように地面と密着している下へ刺し込み、すくうように持ち上げた。そのまま力任せに投げつけ、赤いゲル状のモンスターを壁に叩き付ける。そこに向けて跳躍し、落下と共に木の枝を勢いよく振り下ろした。


「これでどうだ!」

『ブギャア!』


 苦痛のような声が響き渡り、赤いゲル状のモンスターが動かなくなる。まだ倒したという証明の文字が頭に聞こえていないので倒していないと分かるが、相手は初期モンスター。流石にそろそろ体力も無くなる事だろう。


『グルブジュルアァ!』


 最後の力を振り絞るというかどうか分からないが、次に仕掛けてきたのは燃え盛る肉体。

 槍のように変化させた身体を発火させて仕掛けてきたのだ。物理的な技と魔法の二つを合わせた技。これは食らったらそれなりのダメージを受けそうだ。

 だが、逆に考えれば切り札的な技を仕掛けてきたという事になる。それは決死の一撃。つまり、相手ももうそろそろ力が尽きるという事だ。


(なら話は早い。管理者経験で覚えた行動パターンを予測し、一気にケリを付けるだけだ!)


 炎を纏った槍状の身体をすり抜け、俺は赤いゲル状のモンスターの前に詰め寄る。

 上から、左右から来る槍状の身体。大凡おおよその位置を予測出来ても、全てをかわし切るのは中々に難しい。実際、幾つかは掠って俺の体力を削ってしまった。……っ。結構痛いな。


「トドメだ!」

『ゲギャア!』


 木の枝の先端を赤いゲル状のモンスターに突き刺し、吹き飛ばして地下通路の壁に叩き付ける。それによって粘着性のある物が潰れるような音が響き、それを受けた赤いゲル状のモンスターは断末魔を上げ、光の粒子となって消えた。


【ライトはレベルが上がった】


 赤いゲル状のモンスターが消え去ると同時に俺のレベルが4から5へと上昇する。やはり中々手強いモンスターだったからか、それなりの“EXP”が入ったみたいだ。

 そして再び俺の脳内に声が響く。


【新しいスキルを獲得。NEW SKILL・“連続斬り”】


「……え?」


 思わず声が漏れる。そりゃそうだろう。何故なら、元のゲーム内では獲得していた初期スキルを今覚えたのだから。

 いや、確かに合点は行く。俺のレベルはリセットされていたからだ。それならば相応の力しかないという事。

 しかしそうすると、新たな疑問も増える。何故、伝家の宝刀“星の光の剣スター・ライト・セイバー”が使えたのかだ。

 これは俺のみが使えるスキル。誰でも使えるような力とは異なり、使える者が限られている特定のプレイスタイルやステータスからなる“必殺スキル”。

 決められた順序で成長レベルが上がらなくては使えないものだ。つまり、これを覚えるにも相応の力が必要である。しかし見ての通り俺のレベルはまだ5。どんなに早熟でもそうそう特殊な“スキル”は覚えないだろう。


「……。まあ、良いか」


 誰も居ない地下通路にて呟く。

 昨日までは普通だったこの世界は、今日変化したもの。俺に分かる筈も無いので俺は一先ず置いておく事にした。

 実際、低レベルでロクな必殺技も使えない現状、“星の光の剣スター・ライト・セイバー”という強力な“スキル”を覚えているというのは俺にとって都合が良い。新しく“連続斬り”も覚えたので、幸先は良好だろう。

 なので地下通路を進み先へ向かう。それから数分後、俺は日本支部管理所の内部へと入る事が出来た。

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