ステージ7-4 海の魔物
──翌日、朝食を摂り終えた俺達はリビングに集まっていた。
今日やる事は決まっているが、それについての再確認の為である。
「ところで、ライトとユメちゃん昨日はどうだった?」
「いきなりなんだよ……。何もない。何かある訳がない。当たり前だろ?」
「そ、そうですよ。何もありませんよ……」
「あちゃー……互いに奥手。こりゃまだまだ先は長いねぇ」
「まあ、僕達は見守って行くのが良いさ」
話し合いの為に集まったのだが、関係ない事を口走るソラヒメは肩を落とした。
なんだよ。昨日何も出来なかった俺への当て付けか? いや、何もする必要は無いんだ。きっと。
と言うか、セイヤもちゃっかり乗っているが、こういう所はやっぱり姉弟なんだなと思う。
「取り敢えず、だ。今日から本格的な攻略に移る。まあ、今までも本格的に、真面目に攻略活動はしていたけど、今度は世界進出だからな。気を引き締めよう」
「はい。そもそも乗り物無しで海外に行くのも色々と不安ですからね。言葉は“AOSO”としての自動翻訳でなんとかなりそうですけど、知り合いは居ませんし」
「人種が違うからねぇ。まあ、“NPC”は基本的に西洋チックな顔付きだけど、本物の人と人型の“NPC”は違うもんねぇ」
「そうだね。一番の大きな問題、言語の壁が何とかなったとしてもそれ以外で色々な不安はある。……まあ、それは向こうからしても同じだけどね。とにかく油断大敵って事かな」
色々と不安な面はあるが、それは未知の領域に踏み込む事によって生じる緊張感からなるものが殆どだろう。
「じゃ、行くか。世界に!」
「はい……!」
「オーケー!」
「ああ」
目的地は決まっている。なので俺達は今一度“転移”を使い、旧北海道の端へと移動した。
「「“地形生成”!」」
「「“地形生成”!」」
到達と同時に地形を生成。そのまま長い橋を造り、今までと同様駆け抜ける。
速度は全速力の時速700㎞以上。そろそろ時速800㎞に到達するかもな。
目的地との距離は変わらず2000~3000㎞程。まあ、国に入るだけならもっと近いが、都市があるかもしれない場所に向かうと仮定したらそれくらいは掛かりそうだ。
「……。そう言や、勝手に国に入って不法入国にならないか気になるな。逮捕されたりするのかな」
「さあ、どうだろうね。本来の国は全く機能していないけど、ゲームの世界としての国は存在しているだろうからね。“レコード”の街や“トラベル”の街、“氷雪街”にはそう言ったモノは無かったけど、この世界での“国”の定義が曖昧だから難しいところだ。日本国内にも国はあったし、旧時代のようなものかな」
「本当の昔は蝦夷に陸奥や武蔵に越後、信濃、琉球。……他にも色んな場所が一つの国だったからねぇ。その制度が今の世界に対応しているなら196ヶ国の中に何十の国が存在する事になるなら……かなり多いね」
「他国にも日本で言うところの都道府県みたいに都市がありますけど、それが全て国になってしまっているって考えるのが妥当ですかね」
「ハハ……気が滅入るな……。国という名目ならその国だけの制度もあるだろうし、色々なルールに縛られる事になりそうだ。……まあ、ゲームの世界の国は国としてあまり大きく機能しているものはないけどな」
本来の国の中に複数の国があるとすればその分厄介事が増えるかもしれない。だが、この世界がゲームならその辺りの心配は無さそうでもある。結局はどうか分からないけどな。
まあ、フィクションの世界は基本的に王制だし、何らかの事を済ませる為に王と会わなくちゃならないのは少し面倒かもな。
『『『ギャア!』』』
「へえ。時速700㎞以上に追い付けるモンスターの群れか」
「Lv100の鳥型モンスターも追い付けましたし、別に不思議ではありませんね」
「そうだねぇ。耐久面はそんなに高くないみたいだしね」
「そうだね。僕でも簡単に倒せるくらいだ」
『『『……!?』』』
【モンスターを倒した】
群れモンスターが現れ、【モンスターが現れた】の表記が出るよりも前に倒した。
多分レベルは100近くになっている。だが、それは俺達よりも低い存在。通常攻撃の一撃が初期武器の必殺スキル並みはある光剣影狩や夢望杖。空裂爪に音弓の前には成す術なくやられる。まだこの時点では楽勝だな。
「モンスターは大した事無いけど、同じ景色を見続けて進むのも何かあれだな。飽きそうだ」
「そうですね。まだ走り出したばかりですけど、後数時間はこの景色を見なくてはなりませんからね。海も綺麗は綺麗ですし、大陸に上陸するだけならそんなに掛かりませんけど」
「たまに島とかも見えるけど、どこまでも水平線が広がっているからねぇ。造り出す地形に変化を付けて気を紛らわせるしかないよ。こればかりはね」
「乗り物が無いこの世界に置いて今の速度で進めるだけマシな方かもね。快適さも速度も、流石に一般的な旅客機には劣るけど、馬車とかが移動手段なこの世界でならかなりのものだよ」
走って移動。我ながら効率が悪い移動の仕方だな。
速度的な意味なら十分だが、乗り物という便利な物に慣れ切った俺は思うところもある。まあ、何度も言うように走るだけなら体力も消費しないが、何となくな。
もっとも、足は進む為にある。この世界の最適な移動手段は自分自身だろうし、それに従うのが一番だろう。
「こうも移動が多くなると、もう少し素早さにステータスポイントを割り振りたくなるな。何れは“転移”だけで移動出来るようになるけど、ギルドメンバー専用アビリティを使えない一般プレイヤーは素早さに割り振っている人も多いかもな」
「あ、確かにそうですね。攻撃や防御が疎かになりますけど、攻略を目指すなら素早さはかなり重要なポイントです。逆に堅実派は攻略速度を気にせず地道に割り振る人も居ると思いますけど」
「時速も何百キロ以上か出せれば海も渡れるらしいからねぇ。それを実践した人は居ないからあくまで計算の上でのモノで、少しでもズレると沈むらしいけど、海を渡るのにも素早さは必要かな。……当然船とかを造れる技術があればそれに越した事は無いけどね」
「僕達のアビリティは例外として、魔法使いや魔術師の氷。錬金術師や生成師。他にも何かを造れる存在は海渡りをするパーティに必須だね。正統派な攻略をするなら多分海沿いの街に配置されているであろう職人の力を借りなくちゃ無さそうだ」
「ハハ、もしも俺達がギルドメンバーじゃなければユメに頼りっ切りだった訳だ。お陰で世界の攻略も少しは早く行えている」
移動による素早さの重要性。そして海を渡るのに必要な存在。その様な雑談が自然と多くなる。ただ走っているだけで暇だしな。
一層の事世界に繋がる橋を掛けてしまおうか? いや、この世界にも侵略者が居ないとは限らない。そう言った存在が海を渡れず俺達の国に来れないなら放置しておいた方が良いだろう。橋を掛けるのは止めておこう。ま、侵略者の存在もあくまで妄想。こんな世界でその様な事を企てても何も起きないしな。
『……!』
「……! ……っと」
「おや? なんだろうね」
「「……!」」
──その瞬間、前方に赤い柱が立ち上った。
それによって俺達の道が遮られ、大きな水飛沫が上がる。
【モンスターが現れた】
「モンスター……あ、あれ柱じゃなくて足か。無数の吸盤が見える」
「という事はタコ型モンスターですね。海を舞台にしたRPGでは常連です」
「有名なタコやイカの魔物、クラーケンが居るからねぇ。大きくて迫力もあるし実在の存在を巨大化させたモンスターだから扱いやすいのかも。背景が海の青や緑なら体色の赤も映えて作画的にも目立つし、口の形も特徴的だから墨以外にも色々放出させられるからねぇ。あの触手も色んな界隈で需要が」
「漁船や客船を引き摺り込む存在から島一つを飲み込む存在まで様々。海外じゃタコは忌み嫌われているらしいし、デビルフィッシュって異名もある。海にはピッタリなモンスターだ」
ソラヒメが何かを言おうとしていたが、それをセイヤが遮る。ナイスだ、セイヤ。
それはさておき、赤い柱。もとい、タコの脚。
そうなるとコイツはクラーケンか。久々に“AOSO”内に居たモンスターを見たな。コイツの情報なら俺も知っている。
「名前はもう分かっているし、レベルは……と……」
レベルだけなら自動表記される。結果、Lv105という事が分かった。
Lv105のクラーケン。俺達のレベルなら問題無く倒せるが、足場が悪いな。幅は“地形生成”によって生み出された数メートルだけだ。
『……!』
「仕掛けてきたか」
「捕まったら大変ですね」
「だねぇ。私やユメちゃんなんか捕まっちゃたらあんな事やこんな事。身体の隅々まで……」
「捕まらないように気を付けようか」
瞬間、無数の脚を用いて俺達を捕らえようと動き出し、脚が一気に放たれて先程までの俺達の足場は握り潰され崩壊した。
今のは通常攻撃。
“AOSO”内のクラーケンは墨を吐いたり水を吐いたり炎を吐いたりと、炎に至っては水生生物感の無い攻撃を仕掛けてきた。このクラーケンも同じ感じだろうな。捕まったらそのまま肉体を握り潰される。タコは賢いらしいし、厄介な存在ではある。
俺達は今一度“地形生成”で足場を造り出し、少し高い位置からクラーケンを見下ろした。
「さて、懐に潜り込んで一撃でも与えられたら簡単に倒せるんだろうけど、あの脚には死角が少ないな」
「ですね。この世界のクラーケンも“AOSO”内とあまり変わらないのでしょうけど、自由自在に動く脚。厄介です」
『……!』
「吐いてきたよ!」
「分かってるさ!」
瞬間、クラーケンが火球を放出。俺達の足場がまた崩され、落下と同時に俺達は新たな足場を生み出して着地した。
『……!』
「次も来るね。僕達への狙いは正確だ」
「みたいだな……!」
着地地点に向けて赤い脚が槍のように放たれる。それを跳躍して避け、俺達四人はクラーケンの脚の上を駆け出した。
『……!』
「暴れてますね」
「振り払おうと必死みたいだな」
その脚は激しく揺れる。まあ当然だ。俺達人間も身体に引っ付いた虫は振り払う。
クラーケンは自身の脚に向けて他の脚を寄越し、そのまま俺達が駆け抜ける脚ごと攻撃を仕掛ける。それらは全て躱すが、自分の脚に痛みはないのだろうか。まあ、小腹が空いたりしたらタコは自分の脚を食べて飢えを凌ぐ事もあるらしいし、再生するから問題無さそうだな。
「まるで意思を持っているみたいな脚です……」
「まあ、脚にも小さな脳があるらしいからな。心臓三つに脳九つ。慣れ親しんだ食べ物だけど、海外じゃ恐れられているのも分かる」
縦横無尽に飛び交う触手。見切る事は出来るが、それも少し大変だな。
俺は見切り、そのまま脚の一本を切断。見たところ体力は減っていないな。一応肉体にダメージは与えたんだけど。そして俺の脳裏に可能性が浮かぶ。
「……。タコの特性が特性だし、いつぞやの三頭竜みたいに何回か倒さなくちゃならないのか?」
「可能性はありますね……関節にも微量の意思がある虫系モンスターは倒れた後ですぐに光の粒子になって消えたので動くという事はありませんでしたが、再生能力を宿すタコ系モンスターにならそう言ったルールもありそうです」
タコは脚にも意思がある。本当に小さなものだが、それもあって一撃与えただけでは倒れないかもしれない。
まあ、本体……と言うべきかどうかは分からないが脚以外を攻撃出来れば倒れるかもな。あくまで脚一本を切断しての推測だ。
「どちらにせよ、仕掛けなくちゃ始まらないか」
「はい!」
俺とユメは更に加速し、タコの頭に向かう。
因みにソラヒメとセイヤは別の脚の上を駆けている途中。なので今回は俺とユメだけの会話だ。
眼前に迫った俺は跳躍。無数の触手を掻い潜り、その脳天に光剣影狩を振り下ろした。
『……!』
「……っ。墨か……! 反応早いな……!」
【スキル“墨鉄砲”】
その瞬間、クラーケンは俺に向けて高圧で墨を吐き出し、俺自身の威力が殺された。
そしてそれはどうやらスキルだったみたいだ。墨の鉄砲か。確かにこの世界じゃなければ身体が砕けそうな威力だな。
『……!!』
「……っ」
「ライトさん!」
そこに向けて触手が打ち出され、俺の身体が殴り飛ばされるように海をバウンドし、そのまま海の中へと落下した。その勢いで水飛沫が舞い上がる。
ダメージ自体は少ないが、それでも痛みはある。鈍痛ではあるけど何度も食らったら響きそうだな。
『……!』
「あ、クラーケンが!」
「海に潜ったか……!」
同時にクラーケンは自身の身体を海へと沈める。俺も海の中で即座に起き上がって地形を生み出し、元の位置に戻ってきたがクラーケンはその姿を眩ませてしまった。
逃亡した可能性もあるが、海の中に見える大きな影からそれは無いと断言出来た。
「海の中なら……! “サンダー”!」
『……!?』
だが、海の水は“それ”を良く通す。
ユメが雷魔法を放って海を感電。遅れて雷音が響き、一瞬だけ海が割れて水飛沫が舞い上がった。
堪らずクラーケンは海面へとその姿を現し、そこには既にセイヤが狙いを定めている。
「はっ!」
『……!』
刹那に射られた矢。それがクラーケンの身体を貫き、そのままブクブクと泡を出して沈む。
それと同時に光の粒子が散り、俺達の脳内に声が響いた。
【モンスターを倒した】
「終わったか。結局俺とソラヒメはほとんど何もせずに終わっちゃったな」
「そうだねぇ。けどまあ、倒せたなら良いんじゃないかな。レベルも少し上がって見た目的にインパクトはあったけど、最低でも二撃で倒せるみたいだし」
「そうだな。Lv130超えのユメの使う夢望杖からなる魔法と同じく、Lv130超えのセイヤが使う音弓からなる一撃。割と体力はあるみたいだけど問題は無いな」
初期装備の必殺スキル並みの一撃が出せる装備。しかも俺達は新たに新調した装備で、攻撃力も上がっている。まあ、元々“AOSO”にあった装備だがともかく、それを二撃も耐えられたんだ。通常モンスターとしての体力は十分にある存在だった。
『……!』
「……!」
──その瞬間、今度は白い脚が海から生えてくる。
またもや海が荒れ、大波のような飛沫が上がって澄んだ青空に虹が掛かる。
「今度は何だよ……!」
「モンスターみたいだね」
「海には生物が多いですからね」
「別におかしい事じゃないね」
「まあそうだけど……」
【モンスターが現れた】
予想通り、また新たなモンスターの出現。白い脚の水生生物。イカかクラゲ。もしくは別の何かだな。
『……!』
「イカか」
現れた姿は特徴的な頭に無数の脚。無機質なギョロっとした目。完全にイカ型モンスター。そしてこの大きさから推察するに、
「大王イカだな。多分」
──大王イカ。
数十年前に発見されてそれまで居ないとされた、鯨を食すとされるダイオウイカではなく、モンスターとしての大王イカだ。
名に“王”と付いているが、別にボスモンスターではない。レベルは105。クラーケンと変わらない。まあ、何とかなりそうだな。
「さて、二回戦と行くか」
「そうですね」
「了解ー!」
「オーケー」
クラーケンを倒した後に現れた大王イカ。俺達四人は改めて構え直すのだった。




