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ステージ7-3 今日の終着点

「ふう……やっと着いたな。何とか今日一日で到着出来た」


「はい。けど、ここからの海渡りは大変そうですね。海を渡り終えた後にはここよりも遥かに広い大陸を進まなくてはありませんし」


 走り続けて数時間後。俺達は北海道だった場所の端と思しき所に来ていた。

 その道中にも村や街。ダンジョンなど色々あったがそれは割愛。レベルも上がらなかったし交流もまずまずで大した収穫は無かったからな。ともあれそこから北西に行けばロシア方面に到達出来る。

 端と言っても俺達の旅で考えればまだまだ序盤。ここから海を渡って海外に出て、その後に魔王軍や首謀者についての捜索を行う。今まで通りだが、まあ、かなり大変な作業になりそうだな。


「今日はもう日も暮れてきたし、一旦拠点に帰ろうか? 夜の海渡りは出来なくもないけど、今日の疲労もあるからね」


「そうだな。移動じゃなくてモンスターとの戦闘の疲労。アイテムを使うのも惜しいし、これからの行き先は国内じゃなくて海外。何があるか分からないから万全の態勢で臨むとするか」


「はい。ここから先は本当に未知の領域ですからね。まるで初めて海外に行く昔の人の気分です」


「言葉は自動翻訳で通じると思うけど、向こうのギルドと協力出来るかは分からないところだね。どちらにせよ何かはあるだろうし、一旦拠点に戻るのは賛成だ」


 ソラヒメの言葉に俺達は同意する。

 何が起こるか分からない。なので一時的に拠点へと戻って万全を喫した後で行動を起こすのはもっともな意見だ。

 なので俺達は一度拠点。一先ず軽く話し、俺の家へと“転移ワープ”で移動した。


「はぁ~やっと一息()けるねぇ。そう言えば、この世界になってからは私達の家よりライトの家に行く事の方が多くなってるかもね」


「ハハ、確かにな。まあ、管理者時代はソラヒメ達の家に行った事無いけどな。拠点としてはギルドが一番多いけど、俺の家は第四の拠点って感じか」


「第四……? あ、私達のギルドと北側ギルド。ギルド支部の事を踏まえてですか。確かにそれらを除いたらライトさんの自宅が多いかもしれませんね」


「そう言う事だな。まあ、もはや拠点じゃないけど、休憩所みたいなものだ」


「休憩所か。言い得て妙だね。拠点って程じゃなくても集まる場ではある……って事だ」


 俺の家が第四の拠点。それに加えてソラヒメとセイヤの家やユメの家も拠点になりうる。何気に拠点の数は多い方だな。それに加えて氷雪街ギルドやまだ行っていない南西ギルドもあるし、日本全国は拠点みたいなものだ。

 そこから世界に行動範囲を広げて首謀者の捜索。この世界になってからその目的だけは一貫して変わらないな。


「さて、と。今日はどうする? 夕食は摂るとして、睡眠を取るかどうか」


「睡眠は必要無いですけど、睡眠自体に効果はあるみたいですからね。体力が回復して次の日の体調が少し良くなります」


「眠る必要が無いだけで、眠れるなら何かしらの効果は及ぶって事だからねぇ。従来のRPGでもプレイヤーが起きている限りアバターは活動し続けるし、ログアウトしないと固定された状態で起きているけど、寝たら体力が全回復したりするもんね。この世界でもそれが作用しているみたい」


「まあ、起きて攻略だったりレベルを上げ続けたりしない限り寝た方が利点も多いみたいだね。僕も、今日は寝かせて貰うよ」


 睡眠を必要としないこの世界だが、眠ることによって得られるメリットもある。

 それが体力の回復などだが、夜中のうちに活動し続けないなら寝た方が良いかもしれないな。少なくともセイヤは今日眠りに就くらしい。……なんか死を連想とさせるような誤解を招く言い方だな。睡眠を取るようだ。


 その後俺達はリビングにて軽い夕食を摂り終え、体力の回復を実感しながら数十分間雑談などをしてくつろいだ。

 やっぱり拠点になる場所があるのは旅に置いて重要だな。


「……よし、今日はそろそろ俺も眠るか。いつもの感じで俺の家に集まっちゃったけど、ユメ達はどうするんだ?」


「私も眠ろうかなぁ。もちろん、ライトの家でね!」


「僕もお邪魔させて貰うよ。前は眠らなかったけど、ライトの家もいくつか部屋が余っているみたいだからね」


「わ、私もライトさんの家で眠ります……。みんな一緒の方が安全だから……」


「そ、そうか……。確かにその通りだけど、セイヤはともかくユメとソラヒメは性別的な意味で何か緊張しちゃうな。ハ、ハハ……」


 理には適っている。実際、パーティ同士で共に眠った方が良いだろう。

 だが、ユメとソラヒメは異性。ユメには俺が勝手に好意を抱いているし、何となく緊張する。別にやましい事がある訳じゃないが、何となくだ。


 けど、断る理由もない。これで断ってパーティで単独行動をしてしまったら何か悪い事が起こるかもしれないからな。

 単独行動は行動する側にとっても待機する側にとっても死亡フラグだし、良く言えば王道的。悪く言えばテンプレ。こんなフィクションみたいなこの世界じゃそれを回収してしまうかもしれない。泊まって行った方が明日からもすぐに行動出来るし、命を粗末にする可能性を考えたらその方が良いに決まっている。

 俺達は行動を開始し、取り敢えず前は使わなかった寝具の準備に取り掛かった。


「それじゃ、部屋は前にユメ達が泊まっていた部屋で良いか? ベッドの数も一応足りているし、一人一人用の部屋くらいはある。個室だから安心だ」


「そうですね。……そう言えば、ライトさんの家って一人暮らしの割にベッドとか余っているんですね。結構余分に買ってしまうのでしょうか?」


「ん? ああそれは両親ともう一人……ああいや、何でもない。取り敢えず使わない物が余っていて中々捨てられないんだ。……何となくな。だからユメ達が使ってくれるなら良いよ」


「……? そう……ですか。はい、分かりました。ありがたく使わせて頂きます!」


「そうだねぇ。お言葉に甘えちゃうよ!」

「……。ああ、それが良さそうだ」


 何かが引っ掛かった様子のユメだが、特に指摘はしない。ソラヒメとセイヤも同様。まあ、知る必要もない事だ。……今はもう余分に余ったベッドだからな。誰も使わなければ市販のベッドと変わらない。関係無いさ。


「じゃあ、僕も借りている部屋に行くよ。ソラ姉、ライト、ユメ。また明日」


「おやすみ~セイヤ。また明日ねぇ」

「おやすみなさい、セイヤさん」

「おう、セイヤ。また明日な」


 一足先にセイヤが寝室へと向かう。部屋を分けるのもある意味単独行動だが、推理サスペンスとかじゃないので何の心配も無いだろう。

 あるとすればモンスターが窓から侵入して来るくらい。それにも対処は出来るだろうし、そもそも俺の家はそんなに広くないので何かあればすぐに気付ける。


「じゃ、私も自室に戻るねぇ。おやすみ、ライト、ユメちゃん!」


「ああ、おやすみ。ソラヒメ」

「おやすみなさい。ソラヒメさん」


「後は二人で仲良くやるんだよぉ~」

「……!? な、何を言っているんだよソラヒメ!?」

「そ、そうですよ! 仲良くやるって一体何を……」


 最後に何かしらの置き土産を残して立ち去るソラヒメ。別にユメと二人っきりだからと言って何が起きる訳でもなく、このまま互いに挨拶を交わして自室に戻り、眠りに就くだけ。ただそれだけだ。


「「…………」」


 そしてソラヒメの気配も完全に無くなり、この場には俺達がたたずむ。しかしなんだ、この気まずい空気は……。

 前述したようにすぐに別れれば良いだけなんだが、ソラヒメの言葉もあって何となく行動出来なかった。……さっきから何となくの感覚が多いな。何なんだこの何とも言えない感覚は……。形容出来ない何か。語彙力とか、表現力とかじゃない。根本的な“何か”からなる“何となく”だ。


「ソ、ソラヒメにも参るな。俺達は元々仲良くしているしな……多分」


「そ、そうですよね! 私もライトさんと仲良くしています。はい」


 ユメも俺と仲良くしていると思ってくれているようだ。一方的に仲が良いと思っていたが、向こうもそう思ってくれている事が分かったのは嬉しい。

 しかし、まだなんかムズムズする。花粉症とかではなく、こそばゆい。


「それにやるって言ったって、残った俺達がやれる事は今後の話し合いくらいだ。それもソラヒメやセイヤが居た方が効率的だしな」


「全くです。ライトさんと居るのはそれはそれで楽しいですけど、話し合いなどならみんなと一緒の方が良いのに」


 何となく目を合わせられない。チラリと横目で見れば、どうやらユメもその様子。

 髪を指に巻いてほどくという作業を繰り返しており、時折髪を掻き分ける。……って、何観察しているんだ俺は。自分でも気付いた瞬間少し引いたぞ。

 こんなに気まずいなら互いに距離も離れそうだが、特にその様子は無し。離れるに離れられない状況って感じだな。どちらからか話を切り出した方が良いかもしれないな。


「ユ、ユメ!」

「は、はい!」


 なので俺が話を切り出し、ユメが戸惑いながらも笑顔を向けて返事をする。

 笑顔を向けるのは敵意が無い事を示したり誤魔化しの表れ。突然名前を呼んだので驚かせてしまったみたいだ。悪い事をしたな。

 けど、気まずい空気は早く取り払いたい。ここはズバッと言おう。


「じゃ、おやすみ!」

「……へ? ……あ、はい。おやすみなさい……ライトさん……」


 俺の言葉を聞き、ユメは拍子抜けしたかのように返す。

 フィクションの世界じゃテンパった挙げ句、心の内。真意を述べてしまう事もあるだろう。だが、俺はそこまで正直な存在じゃない。もしもそれで告白なんかしてしまえば、距離を置かれるのは間違いない。なのでこの場は本当に話を切り上げた。


「ライトさん……私は構いませんのに……」

「……? どうした? ユメ」

「……。いいえ、何でもありません。改めて、おやすみなさい。ライトさん」

「ああ、おやすみ」


 立ち去る俺の背後でユメが呟く。何て言ったのかは上手く聞き取れなかったが、普通に挨拶を返してくれたんだから多分問題無いよな? ……いや、もしかしたら今の俺は男としてかなり情けない選択をしてしまったかもしれない。俺はユメが好きだ。

 今の雰囲気なら玉砕覚悟で告白をするという手もあったが、そんな勇気はない。しかしこの状況ではフラれたとしても後を引かなかった可能性もある。ソラヒメの言葉で勢い良くって感じだからな。それなら今夜一緒に星を見ようとくらい言えば良かったかもしれない。


 ……いや、ソラヒメの言葉によって勢い良く……それじゃ駄目だな。世界が大変な時に惚れた腫れたやっている場合じゃないのもあるが、告白というのは他人にそそのかされてするものじゃない。自分の意思で言わなくちゃ。

 ……まあ、ここまで全部意気地無しな俺の苦し紛れな言い訳だが、それをする時が来たら、勇気を持ってするべきだ。それは今じゃない。


(余計な事を考えるのはすか……明日は海外に向かっての海渡りだし、モヤモヤを少しでも晴らす為に眠ろう)


 内心で色々と言い訳を述べ、俺は自宅の廊下を歩む。眠くはないが、多分寝ようと思えば眠れる。

 ユメには悪い事をしたかもしれないな。何となく、また何となくだけど気に掛かる。別れ際に何て言ったのか、もしかしたらかなりの好機を逃した可能性もある。……いや、今関係ない事を考えるのはさっきやめたんだ。だったらそれに従おう。

 俺は先程の事に対しての考えを止め、明日に備えて眠りに就くのだった。

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