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ステージ1-10 世界の変化

「そら!」

『グギッ?』


 一つの掛け声と共に、装備した木の枝を振るって毛玉モンスターの頭を叩く。

 どちらが上でどちらが下か分からない身体をしているが、取り敢えず上を叩いたし頭って事で良いだろう。ダメージは受けたらしく、低く唸って怯んだのがうかがえた。

 となると、やはりレベルは低いらしい。高いレベルならばちょっとやそっとの攻撃で怯む筈が無いからだ。


「そこだ!」

『ギャッ!』


 次いで目を突く。視覚はあるのかどうか分からないが、取り敢えずゲームのモンスターでも目は弱点だろうと思ったからだ。

 俺はこれでも“AOSO”の管理者プログラムマスター。大抵のモンスターの弱点は熟知している。知らないとすれば最近追加されたばかりのモンスターか、本当に素性も分からないあの白いドラゴンとアルビノの少女くらいだ。

 それらに比べれば、この毛玉のモンスターなど初期のモンスター。簡単に言えばレベル1のプレイヤー一人でも倒せる程である。大した事の無い奴という事は、現実世界になっても変わらないらしい。


(そういや、俺って現実世界(この世界)でも剣士なんだな。今の武器は木の枝だけど、得物えものを持って振るうって感覚が妙にしっくり来る。アバターの職業が反映されているのか?)


 木の枝を回し、もう一度握り直す。今の俺は剣などを持っている訳では無いが、木の枝でも十分に戦えていた。それはおそらく、俺自身が“AOSO”で剣士だからこそなのかもしれない。

 そうなると、現実世界(この世界)にある物は何が職業に合った武器なのか気になるな。一先ず木の枝は“剣”扱いっぽいけど、短ければ盗賊とかが使う“ナイフ”のような“短剣”になるのだろうか。

 気になる事だが、気にしている暇は無い。さっさとこの毛玉を倒した方が良さそうだな。


「そうだ。必殺スキル……“伝家の宝刀”を使えるかも試してみよう」


 もしもこの世界がゲームならば、当然必殺スキルもある筈。つまり、敵に大ダメージを与えるにはそれが一番良いと思った次第だ。さっさと倒すならそれが手っ取り早い。それに、トドメなら必殺技の方がカッコいいからな。


 前にも言ったが、一応俺はそれなりの熟練者。なので多数の技を使える“星の光の剣スター・ライト・セイバー”を覚えてからはそれと“光速連鎖”くらいしか使っていないが、それは“スキル”に合わせた“特殊能力(スペシャル・スキル)”である。簡単に言えば“星の光の剣スター・ライト・セイバー”によって強化された通常スキルという事。強化された普通のスキルの名前を変えただけだな。使える“スキル”の中で“星の光の剣スター・ライト・セイバー”と合う技がそれしかないからだ。

 なので特訓し、レベルを上げて他の技も使えるようになろうと決断してから一日。特に何もしていなかったので、今その特訓をするか。


「まあ、特訓って言うより試し斬りみたいなもんだけどな……」


 木の枝を構え、毛玉のモンスターに向き直る。装備は初期の中の初期というものだが、元はレベル四桁の熟練者。使える“伝家の宝刀”はどれ程か分からないが、やるだけやってみよう。


「──伝家の宝刀・“星の光の剣スター・ライト・セイバー”……!」


 次の瞬間、俺の身体が光輝いた。それに続いて木の枝も発光し、目映い光が自宅の庭を覆い尽くす。そしてそのまま俺の身体の力が数百倍以上に膨れ上がる。


 っと、何とか“星の光の剣スター・ライト・セイバー”は使えるみたいだ。

 特訓するって言っても、今回は“星の光の剣スター・ライト・セイバー”の状態で新たな必殺技を身に付ける特訓。通常のままで必殺技を使えるかを確かめるのも良いが、“星の光の剣スター・ライト・セイバー”が使えるならその心配も無いだろう。


「さて、一先ず試しに一撃……!」

『ギャッ……!?』


 俺は一歩進み、光の速度で木の枝を叩き付ける。

 いきなり他の“伝家の宝刀”は使わない。先ずは感覚を確かめてみるという事だ。何事も小手調べは大事だからな。

 多分俺のレベルもリセットされている。なので流石に一撃じゃ倒れないだろうし、この小手調べが終わったら次の一撃を──


【ライトはモンスターを倒した】


 ──頭の中にモンスターを倒した時に流れる声が聞こえた。


「……は? 終わった……のか?」


 思わず素っ頓狂な声が漏れる。当然だ。まさかあの一撃だけで倒してしまうとは思わなかったのだから。


 ま、まあ……倒したならそれで良いか。確かに数百倍の筋力から放たれる一撃は低レベルなモンスターにとっては脅威の他ならない。

 元々、一撃一撃が必殺技並みの破壊力を誇る俺の“星の光の剣スター・ライト・セイバー”。言うなれば、低レベルモンスターからしたら即死の一撃に匹敵する破壊力は出ている筈だからな。

 そしてモンスターを倒した俺は、家の庭から再び外に出る。観客が居なかったのが残念だな。折角苦労して打ち倒したと言うのに。

 まあ、下手に持てはやされない方がヒーローっぽいし、これはこれで良しとするか。


「すみませーん。大丈夫ですか?」

「……!? ヒ、ヒィ……!! ば、化け物は!?」

「えーと、どっか行きましたよ」

「そ、そうか……」


 俺の言葉を聞き、ホッとした様子の被害者。俺が倒したと言っても良かったが、色々と聞かれそうという事が面倒なので言わない。

 何でこんな世界になったのかは分からないので説明する事も出来ないのだ。俺も何も知らないていを装ってこの場は流す。まあ、本当に知らない事だからな。

 俺が知っている事をいて上げるのなら毛玉の怪物や俺の使える“伝家の宝刀”くらいだ。


「さて、どうするかな」


 話を終え、俺はその場に立ち竦む。さっきの被害者は疑問を残したまま帰ったが、まあ気にしなくても良いか。

 仮にこの世界が本当にゲームの世界と融合したのならば、いずれ分かるであろう事だからだ。

 それと、本当にどうすればいいのか分からないという事もある。


「取り敢えず、“AOSO”の管理所にでも行ってみるか」


 誰に言う訳でも無く呟き、俺は行き先を決める。

 何だろうと、あの首謀者が言っていた言葉からするにおそらく現実と混ざった世界は“アナザーワン・スペース・オンライン”の世界。なので、その管理所に行ってみるのが一番良いだろう。

 一先ず俺は、“AOSO”の管理所へと進むのだった。



*****



「はあ……。やっと着いた……いつもの道が倍くらいの長さに感じたな……」


 肩で息をし、俺は“AOSO”管理所日本支部の建物前に到着した。

 疲れた理由は一つ。ここに来るまで多数のモンスターと戦闘をおこなったからだ。レベルが低いと前は簡単に倒せた雑魚モンスターでもかなり厄介なものとなる。なので一匹一匹を相手にしていたら時間が掛かり疲労が蓄積したのである。

 伝家の宝刀を使えば良いかもしれないが、どいう訳かレベルがリセットされているので消費“SP”の多い技は迂闊うかつに使えないのだ。


「やっぱ、武器が木の枝だけじゃなぁ……」


 腰。ベルト通しに差し込んで携えた木の枝を見、俺は呟く。

 初期の初期の武器である木の枝。当然攻撃力も低く、一匹とは言え倒すのにはそこそこの数の攻撃を与えなくてはならない。だから時間が掛かり、今の状態という訳だ。


 まあ、それのお陰でレベルも1から3に上がって、日常的な物がこの世界ではどういう風に変化しているのかも分かった。

 例えば自動販売機の飲み物──



*****



「つ、疲れた……。体力はまだ半分以上あるが……身が持たない……」


 モンスターを倒し続けながら進んだ俺は、レベルが1から2へと上がっていた。てか、やっぱレベルはリセットされてるのかよ。大体予想は付いていたけど、これじゃかなりキツいぞ……。

 しかもレベルアップの代償に、モンスターとの戦闘でかなりの疲労が溜まっている。どうやら疲労機能はそのまま受け継いだらしい。


「もう……駄目……」


 弱音を吐きながらまだまだ先が長く感じる道中を進む俺。結構近場なので大した距離では無いのだが、やはり疲労のある状態で進むと問題が生じるらしい。普段の道が倍くらいに感じる他、もう既に十回はもう駄目と言っている。まあ、戦闘以外で疲労が募らないのは現実より良いかもしれない。


「……ん?」


 すると前方に、この道を通る時よく目にする自動販売機があった。


「そうだな。このまま文句を言い続けても意味が無い。一先ずこの自販機で飲み物を購入して、先に進むか」


 疲労によって独り言が多くなる。しかし気にせず、取り敢えずは自動販売機に寄る。その途中でもモンスターが現れたが、軽くあしらって更に疲労を溜めながら到着した。


「……。…………。………………」


 自動販売機の飲み物を購入する為、俺は懐を探る。そして、とんでもない事柄に気付いてしまった。


(さ、財布忘れたァー!?)


 そう。寝起きに朝食を摂って家の外に出て、毛玉を倒した後でそのまま目的の場所に向かっていた俺は財布を忘れてしまったのだ。


「チクショー!」


 人の目は気にせず、俺は膝を着く。というか、普段はそれなりに賑わっているこの道に今は人などいない。この世界だからなのか、家に籠っているのだろうか? などと、現実逃避をしつつ推察してみる。しかし、そんな事をしていても意味などある訳も無く、金銭の投入口を見てみた。


『お金はここへ入れてください。


銅貨ブロンズ3枚まで。なお、銀貨シルバー金貨ゴールドを使う場合は二つとも1枚。自然に両替されます。』


「……え?」


 そこに書かれていた文字は、“銅貨ブロンズ”・“銀貨シルバー”・“金貨ゴールド”という、“AOSO”内で使われている金銭の名称。

 安直だが、英語が一番分かりやすいのでそれを使っているのだ。

 因みに略称では、

 ・銅貨ブロンズ→B。

 ・銀貨シルバー→S。

 ・金貨ゴールド→G。

 と、それぞれがそうされている。

 BとSは簡単に集まり、Gはそこそこ集まりにくいというのが特徴。それは他のゲームでもよく設定される事だ。数十年くらいは受け継いでいるゲーム業界の伝統のようなものである。

 取り敢えず金銭については、一回の戦闘でさっきみたいな毛玉の雑魚モンスターでも3Bは落としてくれる。なのでもう結構貯まっていた。


「良かった。これなら買えるな。えーと……これだな、“ステータスオープン”」


 ゲームの世界なので当然ステータスも見える。その画面を選択する事で入手した金銭が空に表示され、その数を確認される。

 その結果、銅貨ブロンズが30枚。銀貨シルバーが10枚。金貨ゴールドが0枚となった。

 成る程な。BとSを全て使えば、20本は買える。Sならばお釣も来るみたいだから、25本以上は行けるかもしれない。

 なので試しにBを3枚投入。朝なので、少しでも落ち着かせる為にお茶を購入した。

 そしてそのまま蓋を開け、俺は一口お茶を含んだ。朝の涼しさと共に開けられた蓋から流れるお茶が疲弊した喉を潤す。それが身体を満たし、五臓六腑に染み渡った。

 ような気がした。


【アイテム。“お茶”使用。ライトは体力が回復した。プラス効果発生。精神安定。混乱や錯乱、催眠のように、精神的な状態異常に陥りにくくなります】


「成る程……。お茶もアイテムって訳か」


 それと共に聞こえる声。今朝の牛乳の件もあるので、大凡おおよその予想は出来ていた。どうやら本当にアイテムだったみたいだ。

 そしてお茶には“精神安定”の作用があるらしい。となると気になるのは、他の飲み物の効果。試しに俺は6枚のBを使ってコーヒーとコーラを購入。飲みかけのお茶に蓋をしてアイテム欄に仕舞い、その二つを順に口にする。


【アイテム。“コーヒー”使用。ライトは体力が回復した。プラス効果発生。睡眠不要。一時的に眠らせる攻撃などを無効化します。なお、自身で眠る事も不可能になります】

【アイテム。“コーラ”使用。ライトは体力が回復した。しかし既に体力は全快している。プラス効果発生。攻撃力上昇。一時的に攻撃力が高まります】


 成る程。一つの飲み物につき、回復と一つの効果が発生する。それは基本的に戦闘に置いて関する事で、自動販売機で手軽に買える物なのか。

 面白そうだな。他にも色々と買ってみるか。回復アイテムは保存しておくのが低レベル時の定石だからな。



*****



 ──という風に、それは前に使っていたお金では無く、敵を倒す事でたまに生じる金銭を使って飲み物を購入出来るという事。それを飲めば体力を回復出来るみたいだった。

 一つの値段が3Bで飲み物にも様々な効果が付属されていた。朝飲んだ野菜ジュースと牛乳にその様な効果が無い事は気になるが、時と場合によるのだろうか。

 効果があった物を改めて復習するなら、コーヒーには“睡眠無効”や炭酸には“攻撃力アップ”。お茶なら“精神安定”など、自動販売機の飲み物の値段が前よりも安くなってこの世界でのステータスに影響を及ぼせるのでお得である。

 そして脳に直接話される与えられた影響の説明だが、それはこれらのアイテムを初使用した事で設けられたものらしい。なので今後同じアイテムを使う事があっても、余計な説明をカットする事も可能みたいだ。


 因みに影響の効果は数分で消える。面白いからモンスターを倒した事で生じるBやSを使って買いまくってしまったので、まだまだ予備の飲み物があり、それは目には見えない容量無限の別空間に仕舞ってある。

 これも言い忘れていたが、アイテムは無限に保存出来る。なので何が起こるか分からないこの世界では色々と取って置いた方が良さそうだ。“自動販売機の飲み物”みたいに他の物もゲーム仕様に変わっているかもしれないからな。……容量無限の入れ物って便利だな。


 それと、一口含んだ飲み物は一口目でプラス効果の発生は消えるらしい。回復力も落ち、一口が最も重要みたいだった。

 けどまあ、回復アイテムはあり過ぎても不要じゃない。ボス戦前とかで、ほんのちょっとの微量な体力が気になる性格なので俺的には丁度良い。ほんのちょっとのダメージなんだけど、大回復するアイテムは勿体無いなという感覚だ。


 何はともあれ、“AOSO”の日本支部管理所に着いたので後は内部に入るだけだ。ここは人も多い。全員考えるのは同じようだ。

 人混みに紛れ、木の枝を携える俺もその場所に向かって行く。

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