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ステージ1-1 ゲームスタート



 ──LOG IN──



 多くの数字の列が流れ行くモニター。それは直接脳内へと伝わる。

 閉じる自分のまぶたの裏に自然の美しい風景映像が流れ、空を舞う鳥のような視点で脳内に次々と映像が映し出されていく。

 静かな湖畔。灼熱の大地。荒れた岩肌。白銀の世界。鬱蒼と生い茂る森。涼やかな風の吹き抜ける草原。

 それらの映像を横に少し進むと、一つの細道を進む何人かの人が居た。


「やあッ!」

『……!』


 そのうちの一人が発した一つの声が響き、青いゲル状のモンスターが溶けるように絶命する。そこには水溜まりのような物が作られ、その水溜まりは気化するように消え去った。

 それと同時にテンポの良い効果音が響き渡り、その者の上に“レベルアップ”の文字が記される。

 記された瞬間、その者の上へ“ステータス”の文字が現れ、そこに書かれたゲーム内での力を表す文字と横にある数字が数段階上のものへと変化した。



 ──そう、この世界は自分が入る事の出来る仮想空間、即ち“ゲームの世界”である。



*****



「ステージ1、異常無し。極端に強い“不正モンスター”の姿も無く、“チーター”の気配も無い」


「ステージ2、同じく異常無し。けど、道に迷った子供が一人泣いている。仲間……多分友達かな? ……とはぐれたようだ。あと数分間この状態なら然り気無く“チュートリアルモード”に切り換え、“ナビゲーター”を配置して仲間達の位置を示すヒントを与えよう」


「最近は子供がゲームしかしていなくて勉強をしないって苦情も来ているからな。サポートは優先的に行おう」


「ステージ3、異常無し」

「ステージ4、異常無し」

「ステージ5、異常無……あ、あった。“砂漠ステージ”だからか、熱景色に惑わされ熱中症のような症状を起こしている。脳が本物の砂漠と錯覚して“プレイヤー”の状態が悪くなってしまったようだ」


「なら、“救護班”を向かわせよう。“特殊鎮静剤”を“回復の薬”と言って飲ませれば問題無い筈だ。一定時間催眠化してしまうが、数分で治る。……かつてはそんな症状で入院者が出た程だからその点は警戒しよう」


「ステージ10異常無し」

「ステージ50異常無し」

「ステージ100異常無し」

「ステージ1000異常無し」

「ステージ10000異常無し」

「ステージ……」


 万を優に超えるモニターに、様々なエリアが映されている。

 モニター前では多くの人々がおり、忙しなく動いてあらゆる指示を出す。そこのモニターからは、このゲームをプレイしている“プレイヤー”の動きが細かく監視出来ていた。


 時は20××年。科学が大きく発展し、便利となった世の中には“世界と繋がるもう一つの世界”という意味のVRMMO──“ANOTHER(アナザー)-ONE(ワン)()SPACE(スペース)()ONLINE(オンライン)”。通称“AOSO”が数十年に渡って世界的に大流行していた。

 そのタイトルにある“スペース”という言葉。“世界”というものは英訳すると通常、“WORLD(ワールド)”になる筈なのだが、開発者は何を思ったか“空間”という意味を持つ“SPACE(スペース)”という言葉をもちいたらしい。

 その理由は定かでは無いが、“仮想空間”という意味でスペースという言葉を使用したと言われている。


 それはさておき“AOSO”のその人気は“AOSO”が発売した瞬間一気に広がり、今ではプレイヤーが全世界人口の七割を超える大規模なブームとなっている。

 名だたるゲーム会社が協力し合って作り出した事もあり、様々なゲームのファンを取り込んだ事もブームの火着け役となった一つ。最も評価されているのは、なれない職業など無いと言われる程に存在する多種多様の職種と、オープンワールド式で数え切れない程あるステージ一つ一つの自由度。そして数十年前から待ちに待たれたフルダイブ型VRである事などが理由である。

 しかしそれ程のゲームだからこそ、様々な問題が生じるのも事実だった。


「……!? 異常が発生しました!! “ステージ1110”にてチート使い、即ち“チーター”が出現!! そこに居るレベル1000以上のモンスターが全て一撃で倒されます!! プレイヤーのレベルは53! 武器もステージ30付近で入手出来る初期の物であり、とても倒せるレベルではありません!! それに加え、“無敵シリーズ”の装備を付けずに全てのダメージが無効化されております!! 次いで“チーター”は“プレイヤーキル”通称──“PK”に移行した模様! “管理者プログラムマスター”は至急“ステージ1110”へ向かって“チーター”を排除してください!! なお、場合によってはその“プレイヤー”を数ヶ月ログイン出来ぬよう設定致します!!」


「こちら、“ステージ162”にて“ウイルス”出現!! “対ウイルスプログラム”を突破した事から、何者かが“アバター”の身体に付着させて隙間から仕掛けた模様!! “バスター”がウイルスの方へ向かい、“管理者プログラムマスター”はウイルスを繁殖させた“プレイヤー”捜索をお願いします!」


 そこに仕掛けられる“プレイヤー”や“ウイルス”の脅威である。

 無論の事このゲームの管理は厳重。滅多に不正は起こらない。

 しかし今ある数十億を超える程の世界人口、その七割がプレイしている。となると必ず、何故こんな事をするんだ? と疑問に浮かぶ程に有名な“プログラマー”や“科学者”が様々な“不正プログラム”を巻き起こす事もある。

 なので俺達、“管理者プログラムマスター”と呼ばれるゲームを監視する役目を担う者が集まり、このゲームから不正をなくすよう日々戦っているのだ。


「よし、じゃあ俺が行く。今のところ全ステージの中で生じている大きな問題は“チーター”による“プレイヤーキル”と“ウイルス問題”。そしてそれを引き起こした首謀者だな? その問題は全て俺一人で十分だ!」


「左様ですか! 流星さん! けど、このゲームに“ウイルス”を持ち込める程の者となると、世界的に有名な“プログラマー”かと……!」


「大丈夫だ、問題無い。爆発的な人気は出たけど、だからこそ不満は多い筈だからな。“分身機能”を使えば一人でこなせる」


 流星、光野ひかりの流星りゅうせい。それが俺、一人の“管理者プログラムマスター”の名前。

 それはどうでも良いとして、この程度の問題ならば俺は幾度となく解決してきた。

 というか、問題を解決する事が俺の職業なのでやらない訳にはいかない。

 そのままゲームの“スキル”である“分裂ディビジョン”を使った俺と俺、そして俺。計三人の俺は問題が発生したステージへと向かった。



*****



 ──“ステージ162・狩人達の森”。


『ゲデ!ィ"バ……gメ"ネ*?!』


 問題の“ステージ162”に俺は辿り着いた。

 そこには本物と見紛う程に生い茂る木々があり、明らかにおかしなモンスターが居た。

 その見た目はこのゲームに出てくる初期モンスターの物で、ゲル状でドロドロした形をしている。

 このゲル状モンスターの色は通常青なのだが、上のステージへ進むに連れて緑や赤、黒や白に灰色など様々な色に変化する。しかし今目の前に居るモンスターの配色は設定されていない色であり、あらゆる色が混ざった鈍色だ。

 ふと体力ゲージを見てみると、通常ならば体力ゲージの上に表記されるレベルが文字化けを起こしており、まさしく絵に描いたウイルスのようなモンスターが動いていた。


 動いた箇所にある花や草木は粒子となって消え行く。それを見る限り、ステージその物を破壊する侵食型ウイルスモンスターのようだ。

 それに挑もうとした者も居たようだが“アバター”がバグを起こしており、停止したまま動かない。

 管理者としてその“アバター”を修復はするつもりだが、今はこれ以上この世界を破壊させない為、ウイルスを相手取る事が優先だろう。


「“治療機能ワクチンプログラム”作動。今からコンピューターを修理する……!」


 俺は通常の“アイテムボックス”とは違う“管理者プログラムマスター専用ボックス”から一つの容器を取り出し、それを一口飲み込んだ。

 この世界は精神世界のような物だが、“味覚”や“痛覚”などと言った五感が機能している。なので回復アイテムや料理屋で出される食事の味を感じたりモンスターによる攻撃の痛みも感じるのだが、“管理者プログラムマスター専用”のアイテムには基本的に味は無い。水を飲んでいるようなものだ。

 それは味わう必要が無いからである。


 食事というものは、基本的に味を感じる為に行う。その理由は簡単、人間にある味覚は様々な味を感じるので食事はそれを楽しむ行為だからだ。一番の理由は空腹を満たす為だが、腹が減っていようと自分が不味いと感じる物は食べない者も少なくないだろう。なので“味”は重要な事の一つである。

 それは“回復アイテム”にも適応され、ドリンクや食物タイプの“回復アイテム”はプレイヤー本人好みの味にこのゲームに内蔵されているAIが自動的に設定してくれる。

 “回復アイテム”はなるべく回収した方が良いので、心地好くプレイして貰う為にそうしているのだ。


 しかし、一刻を争うウイルス切除などに置いて、ゆっくりと味わう時間は無い。

 なので水のように一気に飲み干し、即座に身体をウイルスへ適応させているのだ。

 それもあって今俺は、飲み込んだ瞬間にウイルスのバグを無効化する力を手に入れた。


「行くぞ……!」

『ア"バ々リ"?ャヤ"!ジ*ャキ"ャ』


 ──“戦闘態勢バトルモード”。


 ウイルスに適応した俺が構えた瞬間、俺とウイルスの頭上に一つの文字が浮かぶ。

 どうやらこのウイルスも、ゲーム内ではモンスターとして扱われているようだ。

 “戦闘態勢バトルモード”とはこれから戦闘を開始の準備を致しますという事を表す。

 そこで四つの選択。

 ──戦闘を始める為の“開始スタート”。

 ──回復アイテムや様々な物を使う為の“道具アイテム”。

 ──敵のレベルやステータスの一部を見る為の“確認チェック”。

 ──勝てないと踏んだり、面倒だと感じた場合の“逃走エスケープ”。

 そのいずれかを選び戦闘前の準備をするのだ。それによってプレイヤーの行う事が選ばれ、晴れて戦闘開始する事が出来る。

 二度手間かもしれないが、突然始まるのでは無く報告した後で戦えるので準備不足の者達には割と評判の良い機能だ。

 そして無論、このモードを消し即座に戦闘を開始出来る上級者向けのモードもあるのでプレイヤーの好みによって変えられる。今ではそちらの方を使っている人が多いな。


 俺がこの機能を使っている理由も勿論ある。それは戦闘が主にウイルスかチーター、不正モンスターが相手なので“確認チェック”で敵の素性を知る為に行っているのだ。

 内部データを見るだけで消滅してしまう者も居れば、内部データを見る事で辺りにウイルスを撒き散らす者も居る。しかし“管理者プログラムマスター”の俺ならば、ウイルスを撒き散らすタイプのモンスターでも問題無く見る事が出来る。

 戦闘前はウイルスの性能を無効化する薬のような物を飲んでいるので、それが適応されウイルスのプログラム発動を防いでいるのだ。

 因みに“戦闘態勢バトルモード”にはプレイヤー同士の戦闘も行える物もあるが、それは今関係の無い事である。

 今は内部を破壊するウイルスが相手なので、手加減する必要は無い。


「“選択チョイス”! 態勢モード開始スタート”……オン!」


 ──“戦闘開始バトルスタート”。


 選択画面から素早く行動を選び、早速戦闘を開始する俺。

 この手のウイルスは何度か相手にしているので、わざわざステータスや内部データを確認する必要は無い。

 完全な自立型故に、作成者の情報も何も無いのだ。


「やるか……!」


 開始と同時に腰に携えた剣を抜いて手に取り、ウイルスに向けて俺は駆け出す。

 戦闘は基本的に己の自由に動かせる。つまり、戦い方にコンボなども無く完全に自分の力で戦えるのだ。

 その種類はプレイヤーによって様々。まさしく十人十色というやつだろう。

 ゲーム内では身体能力も向上しているので、現実世界では出来ない動きも可能だ。


『ガ*ギャ─ギ々ギュ?ギェ!』


 ウイルスは声にならぬ声を出し、ゲル状の身体を伸ばして俺に仕掛ける。その先端は槍のように鋭くなっており、ダメージを与えるのに特化した形となった。

 その動きは元々居るモンスターと同じであり、一見は不規則に見えるがパターンがある。

 俺はそのパターンを見抜き、巧みに左右へ避け一瞬にしてウイルスとの間合いを詰めた。


「ハァ!」

『ゲ!リ"*ャギァ?』


 詰めた瞬間に剣を下ろし、ゲル状の一部を切断する。一撃でウイルスの体力ゲージが一気に半分減り、動きが一瞬停止する。次いで剣を横に薙ぎ、再びウイルスを切断した。

 それによって敵の体力ゲージがゼロとなる。が、ウイルスは絶命しない。

 このウイルスは体力ゲージに表示されているモノよりも多い体力を持っている。つまり隠されているのだ。倒したと思って油断した者を、逆に倒す為にそう作られたのだろう。


『ワ"ギ*ェ?ロ"ォ"!!』


 それを見、ウイルスは再び仕掛けてくる。先程のような攻撃をしつつ、数十を越えるゲル状の身体が俺に向かって降り注いだ。

 それはいずれも鋭利な形をしており、バグによって触れただけで空や空間が崩れる。


「まあ、早く決めなきゃならないな」


 その身体を確認した瞬間、俺は刹那に駆けてその身体を切り裂いた。

 触れるだけでゲーム空間が崩れるので、身体の一部だろうと切り裂き、そのまま消滅させる必要があるのだ。

 切り裂いた瞬間に速度を上げ、ウイルスに向けて剣を掲げた。


「終わりだ!」

『ワ"*バシ々ャメ"テ※ァァ"ァ"ッ!!』


 次いで剣を振り下ろし、ウイルスの身体を一刀両断する。

 ゼロだった体力ゲージがマイナスを示し、そのままウイルスは光の粒子となって消滅した。これにてウイルス削除完了という事である。


「……さて、他の俺達は大丈夫かね」


 一仕事終え、俺は一息吐きながら再生させた空を見上げる。

 チーターの方は問題無いと思うが、“オリジナル”の俺でも首謀者を探すのは大変だろう。

 ー事で、俺は俺と合流して俺と一緒に首謀者を探すか。

 そう思い、管理者(プログラムマスター)専用能力(アビリティ)の“転移ワープ”を使って俺はその場から消え去った。

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

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