2人の日常
紫月「今回なんでこんなに遅くなったんだ?」
作者「時間が無くて…なかなか手が付けられなくて……」
紫月「言い訳ですか?そうですか??」
作者「えっと…あの……すみません…」
紫月「で?次回は早く出せるの?」
作者「……ワカリマセン…」
紫月「ア゛??」
作者「わかりません!!ちょ待って待って待って!!その手に持ってる刀を下ろして!それ死んじゃう!死んじゃうから!!」
紫月「次回は早く投稿すると誓え…」
作者「ぜ…善処します……」
紫月「はぁ…」
作者「それでは本編へどうぞ!!あ!誤字脱字100%です!」
紫月「胸張って言ってんじゃねぇ!!」
作者「ヒェッ…ゴメンナサイ……」
【改めて誤字脱字、有りです】
ダンジョンの中で記憶が途絶えてから…次に目覚めると、そこには見慣れない天井がぁ……なんてお約束はなく見慣れた天井があった。
「ん……?ここは…病院か……」
俺はまともに力の入らない身体を無理やり起こそうと力むが、意思に反して身体は言うことを聞かず直ぐに枕へと少し上がった頭を落とす。
流石に無理か…クソォ中途半端に治したな?ほぼ毎回来るせいで、目が覚めたら即刻起き上がろうとする俺の性格をよくわかってやがる……
力の入らない身体に辟易し、心の中で悪態を着き歯軋りをしていると…。
「やっと起きたみたいね」
聞き覚えのある声と同時に仕切りのカーテンが開かれ、白衣を着た顔なじみの女性が姿を見せる。
「今回は随分と重症だったけど…無茶しすぎじゃないかしら?」
彼女はここ、ダンジョン内専門の医療者…治癒魔法を用いて攻略者のサポートをする…詰まる所、病院の先生だ。
「貴方達が搬送されて来るなんて余程の事よ?骨が折れても腕とか脚が飛んでも自力で帰ってきてたのに」
何があったのよ?と言いたげな彼女に、俺はダンジョン内で起こった事を記憶の限り話しながら首だけを動かし翔弥を探す。
「そんな事があったのね。それにしても貴方達2人だけで…」
何かブツブツと考え込み始めてしまった彼女へ、お構い無しに翔弥の所在を問うと…考え事をしていた先生はハッと顔を上げる。
「ごめんなさい。つい……翔弥君なら、そこに居るわよ」
と俺の寝ているベッドを指差すが…。
見えねぇ…首もまともに起き上がらないんだから当たり前だが、起き上がれる程度には治してくれても良くないか?
首すらまともに上げられず、目線を先生へ向けもっと治してくれ…と目で訴える。いや声は出せるから直接伝えればいいのだが、何となく目で訴えるだけで声は出さなかった。
「ま、それだけ元気なら…もう大丈夫ね」
少し困ったような笑みを浮かべ、手をかざすと先生の手元と俺の体は淡い光に包まれ…麻酔でも打たれたかの様に力の全く入らなかった身体が嘘かのように軽くなる。
相変わらず凄まじい治癒力の魔法だな…
光が消え少しして起き上がった俺はベッドの端に突っ伏す翔弥を見て、ひとつの疑問が頭に浮かんだ。
「そう言えば、誰が俺達を此処まで運んで来てくれたんですか?」
記憶が途切れる直前…何処かの集団が来たような気はしているのだが、イマイチ記憶がはっきりとしない。記憶に靄が掛かったままな事に、軽い頭痛を感じながら…ふと先生へと目を向ける。
先生は目をパチクリさせ、覚えていないの?と言いたげに訝しげな視線を向け、コホン…と一間を置いてから話を始める。
「…貴方達を運んで来てくれたのは特自の人達よ」
「特自……あぁ!あの人達!!」
靄のかかっていた記憶が途端に晴れやかとなり、感じていた頭痛も綺麗さっぱり無くなって行く。
特自。確か特殊迷宮専科自衛隊員、ギルドの登録名は…【国家迷宮特務調査班】だったかな…
「自衛隊の人達と会えますかね?お礼を言っときたいんですが…」
きっと俺達を治療所へ運んだ後、彼等は直ぐに立ち去ってしまったのだろう…先生は肩をすくめ煽り気味な笑みを浮かべた。
「さぁ?ダンジョンに潜ってればいつか出会うんじゃないかしら」
その後……俺も翔弥も怪我や疲れは完璧に治療されており、治療所に意味もなく長居していると…先生から「治ってるんだから、さっさと帰れ」と言われ早々に帰宅した。
・・・・・
「ただいまぁ」
玄関を開けると、ひんやりとした緩やかな風が体を包む。空調の効いた我が家に、ほんの少しの快適さを覚えながら…蒸し暑い外とは おさらばだ!と中へ入り玄関を閉めると、奥の部屋から声が飛んで来た。
「あら!おかえりなさい、今回は随分と早かったわね」
アルラウネとの死闘など知る由もない母は、いつも通りの穏やかな声で出迎えてくれる。
「まぁね」
なんだかんだ言って、この声が1番落ち着くんだよなぁ。生きて戻れたって実感できるわ………ダンジョンに長く潜り過ぎた所為だな、コレ…
リビングのソファーへ荷物を投げると、先に置いてあった別のカバンに当たり中身が飛び出した。
あ、やべ!まぁ後でいいか…
後回しにしようと台所の方へ振り向く、それを見ていた母がテーブルへ晩御飯を並べていた手を止め…投げた荷物と倒れたカバンを、指でさしながら無言のまま笑みを浮かべていた。
こうなった母は、言うことを聞かなければ後が怖いと…俺は身に細胞レベルで理解していた為、脳が指示を出すより先に条件反射でソファーの方へと足は向っていた。
ソファーに投げた荷物を持ち上げ退かすと…俺の目に飛び込んで来た物は、カバンの中から飛び出た白紙の宿題を大量に見つけ…。
……!?!?夏休み終わりまで、後一週間もねぇ!!!
冷や汗を滝のように垂れ流していた。
「ごめん母さん。ゆ、夕食は部屋で食べるから、後で取りに来るわ…」
俺は母に白紙の宿題が見られないよう、カバンをしっかりと抱きかかえ…ダンジョンからの持ち帰り物を肩へ斜めにかけて、そそくさとその場を後にした。
・・・・・
一方その頃………。
「ただいまぁ。ってまだ19時だし誰も居ないか…」
父親はダンジョン、母親は仕事…ある意味、僕の家は共働きなため大体21時頃にならな親は帰ってこない。それでも帰って来るのは基本的に母親だけだ…。
靴を脱ごうと玄関口の段差へ腰を掛け座っていると、家の奥から大声が聞こえてきた。
「おぉ?帰ったか!翔弥!!」
「!?」
聞こえるはずのない声が聞こえ…反射的に振り向く。振り向いた先でリビングの扉を開け眼前に飛び込んで来た者は、滅多に帰って来る事のない父親の姿だった。
「おかえり!!」
ガッハッハッ!!と言い出しそうなほど豪快な笑顔を浮かべながら、ダンジョンで培ったのであろう硬く大きな手で僕の頭を掴む。
「え!?と、父さん??なんで?」
精神疲労の所為なのか…父が居る事も何故、僕の頭をワシャワシャと雑に撫で回しているのかにも、思考の整理が出来ずアタフタしてる俺を無視して…。
「なんでったってなぁ…ここは俺の家でもあるんだから当たり前だろ?」
何言ってんだ?と本気で意図を理解していないのだろう…僕の頭から手を離し腕を組んだかと思うと、目を丸くして首を傾げる。
いや!そういう事じゃない!何かしらの記念日でもないと帰ってこないアンタが、なんでいるんだって事だよ!!
相も変わらない父の反応に、割と強めに苛立ちを感じアッパーでも食らわせてしまおうかと、拳を握り締めるが流石にマズイと思い既の所で踏み止まれた。
「…そうじゃなくて、今日は記念bッ」
頭の中にある一番の疑問を聞こうとした、その時…。
「あー!!俺が帰ってきた理由か!!ハハハhガァッ!!!」
アッパー用に握りしめた拳は、僕の理性の働きより早く父の腹部を打ち抜いた。
「お…おぉ…ぉ…ッ」
ドシンッと大きな音が廊下に響く。どうやら‘’かいしんのいちげき‘’だった様だ。お腹を殴られた父は、その場に踞る。痛みに悶える父を見下ろして「で?なんで居るの?」と尋ねると…。
「ぁ゛ぃ゛…お前が、じっ心゛配゛で………」
今にでも吐き出しそうな顔で答え…その直ぐ後に力尽き、お尻が上がったまま廊下に突っ伏す形に倒れ込んだ。
「お父さん……」
僕の事を心配してくれた父に目元を潤ませる……事は無く、お尻が上がったままは可哀想だと思い、丁寧に父の体を仰向けにし…その場に寝かせた。
「グブェ!!むずごよ……なん…で………」
僕はそんな父を避ける事なく…父が帰って来ていた理由を考えながら、父の上を歩きリビングへと向う。
おそらく父さんは、僕達がアルラウネと戦い病院へ運ばれたのを何処かで聞き、先回りして自宅で僕を待っていたんだろうなぁ…アレでも家族第一主義ではあるし…
リビングへ入った後は、ダンジョンから持ち帰った物の確認をする為に中身を全て並べる。
全ての確認が終わる頃に丁度、玄関の開く音が聞こえ…そのすぐ後に母親の悲鳴がドアの閉まる音をかき消した…。
帰ってきた母が廊下で倒れてる父を見てちょっとした寸劇の様なモノが起こっていたのはまた別のお話…。
・・・・・
そんな感じで俺達2人の夏休みは終わっって行くのだった………。
数日後、夏休みも終わり俺達は学校へ向かっていた。
「紫月…何日徹夜した?」
「徹夜はしてねぇ…2時間も寝てないだけ……」
それはそれでダメじゃない?と苦笑する翔弥を横目に、大きな欠伸をしながら地面でも割れているんじゃないかと錯覚するほど重たい足を気力だけで動かし続ける。
足が重い…足というより、もう体が酷く重い……
帰宅したあの日以降、宿題を終わらせる為に殆ど部屋から出る事なく半ば缶詰状態になっていた。
「相変わらずだね…。どうせ宿題やり忘れて昨日まで大急ぎだったんでしょ」
呆れ気味に笑う。翔弥を見て脊椎でしか会話ができない俺は目をパチクリさせる。
「なんでわかった!!」
本気で疑問だった。
いやホントに、頭が欠片も動いてないのは わかってるけど何故?
「いやもう…顔のヤツレ具合が全て語ってるよ。それでわからない方がおかしいって………」
え?俺、そんなにヤツレてるの??
傍から見たらきっとやばいのだろうと思いつつも、周りの事なんて頭にない俺は不敵に笑う。
「フッフッフッ……」
「え?何??気持ち悪いよ紫月」
酷っ!!いや、まぁ否定はしないけど……
わざとか無意識か…露骨に距離を取られ少し落ち込みはすれど、後に引けない!と話を戻す。
「気持ち悪いだって…いつも通りじゃないか!!」
「いつも通りは、なお良くないでしょ!」
デスヨネー
少し離れた翔弥へ俺の方から近付き、変にテンションを上げた所為で余計に重くなった体に鞭を打ちつつ、再び大きく欠伸をする。
「もぉ…無理だろうけど始業式で寝ちゃダメだよ?」
「うん!多分無理だな今回に限っては100%寝ると思う」
猫背に沿った体を無理やり起こしドヤる。
歩きながらでも眠れそうなのに、校長の話を聞きながら起き続けるなんて無理無理…
「うん…紫月のそういう所、清々しくていいと思うよ……」
その後、俺は始業式中しっかりと熟睡した……のが先生にバレて絶賛、怒られてます。
「お前なぁ!始業式で堂々と爆睡コクなよ…逆に清々しいわ!!!」
生徒指導室から怒号が飛ぶ…先生は困った表情を浮かべ、ポリポリと頭を搔き言葉に困っていた。
「すみません…」
「他にも寝てる奴は居るからお前だけを怒る、ってのはできんが……」
先生の握る拳に力が入り震えだす…血管が割れるんじゃないかと思うほどに赤く浮き出し、俺はその圧に小さくなって行く。
「はぃ……」
力が入り過ぎているのか、握りしめている物がひしゃげたまま拳を振り上げ…。
「アイマスク持って来んなよ!!その上バッチリ使ってんじゃねぇよ!!!」
「あ゛い゛…………」
俺は先生に1通り怒られた後、教室へ戻り席に着く。
「はぁぁ…」
「前々から思ってたけど貴方バカでしょ……」
隣の席に居る女子が呆れた顔でこちらを向く。
「バカとは心外だなぁ欲望に忠実と言ってもらおうか」
「そうね…バカでしょ?って聞いた私が悪かったわ」
そう言ってクスッと笑った彼女は確信を得た声で……。
「間違えようのないバカね」
可哀想な奴を憐れむような顔でそう言った。
余計に酷でぇ!せめて有余はくれよ!
「コラそこ!ちゃんと話を聞きなさい!!」
怒られた…。
「すみません」
「うぇーい怒られてやんのー」
「お前もだ!紫月!!」
「ウグッ…す、すみません……」
「貴方やっぱりバカね」
「うるせぇ…」
始業式も今後の行事説明も終え放課後…。
「久しぶりだな紫月、翔弥!」
「ん?おぉ久しぶりだな!」
夏休みが始まってから1度も会わなかった友達と会い俺の眠気が吹き飛びテンションが上がる。
「相変わらずお前らは夏休み中ダンジョンに潜ってたの?」
「いや俺達が潜ってたのはお盆以降だけだよ。ね?紫月」
「そうだな、俺はお盆の時は実家に帰ってたしその前は主にギルドに行って武器の手入れとかしてたくらいだな」
「俺の方は同じくお盆は武器の手入れと弾補充かな…後は宿題くらいかな」
「あっ宿題…」
「ん?宿題がどうしたの?」
「そう言えば提出してないなーって思って」
思い出したかのように俺は机の下から無茶して終わらせた夏休みの宿題を取り出す。
「お前、話聞いてなかったの?宿題提出明日だよ?夏休み前に言ってたじゃん」
「えぇ…俺、頑張ったのにぃ……」
「まぁまぁ…終わらせて来たんだからもう気負う事ないんだしいいじゃん」
項垂れる俺の背中を軽く叩き慰めてくれる翔弥。
「ダンジョンかぁ…僕も久しぶりに入ろうかな……」
「ん!いいじゃね?でも無理はすんなよ?」
ダンジョンは例え1階層でも油断すれば死ぬ可能性は十分にある。聞いた話だが最初とは言え1階のゴブリン1匹を相手に腰抜かしてたんじゃな…
「なぁ僕も2人目のパーティーに入れてくr」
「「もちろん!!」」
そう言って俺達はお互い顔を見合せ……。
「「断るに決まってるじゃん!」」
何の躊躇いもなく満ち足りた笑顔で…断った。
「えーーー!!!…そこは仲間になる流れじゃないの!?」
「何言ってんだお前?ゲームのやり過ぎだぞ?」
「まぁ断ったのにもちゃんと理由はあるから、とりあえず一旦落ち着いて……」
はい!深呼吸〜……っと彼が落ち着いたのを確認した翔弥と俺は順を追って説明を始めた。
「コホン、そもそも俺達が基本潜るのがだいたい40階層辺りなんだ」
「お前に合わせていつまでも上層に居るつもりはねぇんだよ」
「なら!僕も40階層に!!」
食い入るように言ってくる言葉に、俺は被せるように大きな溜め息を吐く。
「はァァ…無理に決まってんだろ」
「そうだね、キツイこと言うけど1階層で腰抜かして救助されてる様じゃ、到底40階層なんて夢のまた夢だよ」
事実、生半可な気持ちで挑んで1階層のスライムに殺されたなんて事例もあるくらいだし断るのは当然だな…
1階層でも死ぬ危険があるの上で40階層に『お前らが居れば大丈夫』『俺なら行ける!』なんて考えはもはや、飢えた猛獣の居る檻に裸で『俺なら生き残れる』なんて死亡フラグを立てて入って行く様なものだ。
「………」
重く説得力のある翔弥の言葉に、彼は静かに俯くしか無かった…。
「お前が俺達の背中を預けられるくらい強くなったら仲間に入れてやる」
「本当っ!!」
「そうだね…はじめの一歩としては1人で10階層までを攻略かな…でも誰かに助けてもらうことも大事だからね」
まぁ俺達が背中を預けられると思う頃には、信頼出来る仲間が出来てることだろ…
「10階層か……」
「諦めるか?」
「いっいや諦めない!うん、善は急げって言うし!!早速行ってくるよ!またねー!!」
「あっおい!」
行っちまった……張り切るのはいい事だが無茶はしないでくれよ…
「それじゃあ俺達はこの後どうする?」
「そうだなぁ…確かお前、親父さん帰ってきてたよな」
「多分もういないよ?あの人」
「んー確かに…お前の親父さん殆どダンジョンに入り浸ってるからなぁ」
「「………」」
俺達はしばらく沈黙した後、大きく溜息を吐く。
「ま…まぁいなかったらいなかっただ!そん時は別の事でもするさ!!」
「何するの?」
「知らね、やる事はそんとき考える」
学校も終わり放課後、俺は翔弥の家へ向かった。
俺の家、ここの隣だからほぼ帰宅したようなもんなんだけどな!
「ただいまー」
………
「お父さんいる〜?」
…………
「こりゃいねぇな」
「いなさそうだね…」
靴も無いしもうダンジョンに向かったか…流石というかなんと言うか……
そんな事を考え俺は苦笑いを浮かべる。
「お邪魔しまぁす」
「まぁいつも通り適当にくつろいでよ」
普段通りの会話をしながらリビングのドアを開けると……。
「367…368…369…37…」
パンイチで腕立て伏せをしている変態が居た……。
「あ!もしもし警察ですか?実はですね!」
翔弥が電話をした瞬間、親父さんが猛ダッシュで這い向かってくる。
「ちょ!!まてまてまてまて!!!???」
気持ち悪!?這って来んな!!動きがGなんだよ!!てか翔弥…嬉々として警察に電話してやがる……
《もしもし!!大丈夫ですか!?何があったんですか!!》
本気で電話している翔弥を止めようと走る音と声に驚き電話越しの警察が焦り始める。
スマホの向こうから声が微かに聞こえ、相変わらず父親に対して当たりのキツイ翔弥を見て俺は顔を引き攣らせる。
「おっと!あぁッ……」
翔弥は襲い掛かる父親を躱すが、手を滑らせ持っていたスマホを落としてしまう。そして親父さんが落としたスマホを即座に拾った。
「いや!なんでもないです!なんでも!!息子がイタズラしただけですから!!あ、あは、あははは……はぁ……」
親父さんが安堵の溜息を大きく吐き持っているスマホを翔弥へ返す。
「勘弁してくれ…翔弥…父さんになにか恨みでもあるのか?」
そう言われた翔弥から微量の怒気が溢れる。
表情は笑顔なんだけどな…全く目が笑ってねぇよコイツ……
「ないとでも思った?」
正直、親父さんを庇う事が出来ない俺は……
ハイライトの消えた目で『あ!空、綺麗!』と現実逃避を始めた。
「うぐ…あの件は謝ったしもう彼女とは会ってないからそろそろ許してくれ…」
「謝って許されるなら警察は要らないって言葉知ってる?」
何があったかと言うと…この父親、組んでいる女メンバーに垂らしこまれギルド内で逢い引きをしており、果てはキスまでしてる姿をバッチリ翔弥と俺が目撃してしまったのである。
まぁその件は【既婚者とわかってて浮気へ誘い込んだ】女性側が《8:2》で悪い事になり翔弥も父を許し母に事件の事は伝えていないようだ。
因みに彼女はキレた翔弥にしっかりダンジョン内でトラウマを植え付けられ、今ではもうギルドに近づいてすらいないそうだ。
それ以降、翔弥は親父さんに対して当たりが非常にキツくなっているが…本人曰く《この位、雑な方が丁度いい》とのこと…。
まぁ当りはキツいけど翔弥は決して、親父さんが嫌いって訳じゃ無いのは命預けてる俺が保証するよ、翔弥は翔弥なりの距離の取り方なんだろうな…とは言え、このままだと本格的に喧嘩になりそうだな…
小さくため息を吐くと、俺は翔弥と親父さんの間に入り仲裁する。
「はぁ…お前らそろそろストップだ!歯止めが効かなくなってんぞ」
「止めてくれてありがとう……」
やり過ぎたと自覚があるのだろう、俺が止めに入ると翔弥は俯きそう呟いた。
「気にすんな…こうなった時に止めるのも仲間である俺の役目だからな」
「ヌゥ…すまない紫月くん…つい熱くなってしまった」
「あぁ…気にしないでください!それにコイツも少しやり過ぎたと反省はしてるようなので責めないでやってください」
「ゥ…ウム、承知した……」
「「「………………」」」
く…空気が重てぇ……
暫く静寂が続き、俺は空気に耐えられず親父さんに話し掛ける。
「き、記念日でもないのに親父さんが帰ってくるなんて珍しいですね?」
「あ…あぁ翔弥が病院へ運ばれたと聞いてな居ても立ってもいられず飛んで帰ってきたんだよ…」
結局の所【家族が一番大事】って根っこは、あの日以降何一つ変わっちゃいないんだな……それならもう少し帰ってくる頻度を増やしてもいいと思うけど…
俺は親父さんの本心を知り表情が少し和らぐ。
しばらく会話がギクシャクした後、場の空気も元に戻りそれからは親父さんのパーティーが、ダンジョン内でどんな敵と戦っていたのか…俺達が病院へ搬送された日に何があったか等、他愛も無い会話をして盛り上がっていると……。
「ただいまぁ…あら?紫月ちゃん来てるのぉ?」
翔弥の母が帰ってきた。
「あ!お邪魔してます」
翔弥の母の方へ向き軽くお辞儀をすると、
「あらあらぁ〜ご無沙汰ねぇ!皆でどんな話をしてたのぉ?」
「お互いダンジョンであった事などを…」
「あら!楽しそうじゃない後で私にも聞かせて!あっ!紫月ちゃん夜食べて行く?」
「あー…ではお言葉に甘えて頂きます」
「そうだ!せっかくだから紫月ちゃんのお母さんも呼びましょ!」
母さんの事だから呼んだら絶対に来るだろうな…
「そうですね」……
こうしてダンジョンから戻った後の数日間は多少トラブルはあったものの、あっという間に過ぎて行った…。
そして夏休み明けのテストも終わり、俺達はギルドへ来ていた。
「さて!今回はなんの依頼をやろうか!」
「面白そうなのがあるといいね?」
……………
No.1・スライム(コアが本体)危険度C
全身にジェル状の液体を纏う小型モンスター。
現在攻略されている【セーフ階層を除き】全階層にて目撃情報があるモンスター。
最弱と認識されているがその実、ゴブリンより強敵であり剣などの攻撃は、なかなか当たらず逆に殺されてしまう事例も少なくは無い。
魔法耐性が飛び抜けて高く、威力が足りないと受けた魔法を取り込んで自身を強化してしまう。その強化に再現はなく受ければ受けただけ強くなってしまうので魔法で倒す際は初手で倒す必要がある為、魔法士にとっては天敵とも言える敵。
攻撃は纏わり付いてくるだけだかその全ての攻撃で顔を狙って来る為、油断して窒息死する物が多くいる。
纏っているジェルは全身を覆う感知センサーの働きをしており、攻撃等がほんの少し触れるだけで生命コアが反応し殆どの攻撃は躱されてしまう。
倒す為にはジェルごと纏めて吹き飛ばすか、生命コアの反応速度を超えて壊さなければならない為、ダンジョンでスライムと遭遇し生還した者たちは、みんな揃って『スライムに舐めてかかると死ぬぞ!!』と言われる程、厄介な相手である。
【補足事項】
・生命コアがある限り纏っているジェルは瞬く間に回復してしまう為、一撃必殺を狙う必要あり。
・魔法などの魔力を帯びた攻撃はスライムを強化させる為、非推奨。