始まりの戦い
【感想など貰えると助かるし有難いです】
誤字脱字のバーゲンセール中
《ギリリリリリリ!!》
「のおぉァァアア!?」
「紫月!階段!!」
「上層かよ!でも、この際どっちでもいい!!」
ボスが現れて俺達は死に物狂いで走り続けた、巨大なアルラウネに追いかけられながらも、運が良かったのかギリギリ射程に入ること無く上層への階段前までたどり着けたのだが……。
「アガッ!!」
「ガハッ!!」
バンッ!と、見えない壁に顔面を強打し後ろへ仰け反る。
痛って…何だこれ…壁?
「…!?クッソ!上層に上がれなくなってる」
迫り来るアルラウネを背に、力技で突破出来ないかと俺は透明な壁に体を押し当てる。
退避不能…トラップ踏んだやつは確殺ってか……こんなの作ったやつは絶対に性格悪いな!!
力技じゃ無理だと諦め少し離れて、透明な壁を蹴る。
しかし、ただ蹴った足が痛いだけで虚しさだけが残り、俺は冷静になるため息を大きく吸った。
「…て事は下層階段も同じ状態かもな」
「だろうね……応援が来ると思う?」
俺は首を横に振り、アルラウネの方へ向き直る。
応援は望み薄だろうな…植物系の資源は他にここよりも安全に取れる階層だってある……
ダンジョンは10階層毎にボス部屋が存在しており、
ボスを倒し先へ進むと11階層との間に攻略者への労いと言わんばかりに、安全地帯として10.5階層が存在している。
安全階層には転移の魔法陣が存在しており10.5階層から20.5階層へ10階層づつではあるが、攻略済みの階層へ転移ができてしまう為、毛嫌いされてる階層へ来る物好きはそう居るものじゃない。
「助けは期待できず…敵はレイドボス……」
逃げる事が出ない退避不能ボス…相手はクラウン級、レイドを組まなきゃまず倒すのは不可能と言われる相手だ…2人でどう倒す……
俺はブツブツと呟きながら生き残る為に思考を巡らせて行く、徐々に全身の感覚が鈍くなる…周りの音が少しづつ小さくなり同時に時間の流れが遅く感じ始めた時…。
「…!翔弥、煙幕弾あったよな?」
全ての感覚が元に戻ると、直ぐに翔弥の方へ身体を向け頬を流れ落ちる汗をそのままに口角が少し上がる。
俺の顔を見た翔弥は、目を閉じ困った様な顔のまま答えた。
「あぁ、まだ1個も使ってないからね。全部残ってるよ」
「なら…3つでいい、先ずはあっちめがけて投げろ。投げたらあの大岩に身を隠すから走れ」
煙幕弾の投げる方向を示すと、
眉間に皺を寄せたまま歯切れ悪く「わかった」と答え、マジックバッグの中から煙幕弾を取り出す、と同時に大岩を目掛けて走り出す。
壁に沿いに横へ走りつつ、取り出した煙幕弾を俺達とは逆の方へ投げると、アルラウネは大きく動いた空気の揺らぎを追い始めた。そして、投げられた煙幕弾へ触手を伸ばした、その時…。
パァン!パパァン!……と小さな爆発と共に広範囲に煙幕が広がる。
《ギギャ!?》
煙幕弾が炸裂すると、アルラウネから驚きの声が発せられ、全ての触手が少しだが動きを止めた。
動きが止まったのは、偶然だがラッキーだ!
俺達はアルラウネが再び動き出す前に、岩陰へ姿を隠し息を潜めたまま、直ぐに作戦会議を始めた。
「翔弥、武器は何が残ってる?」
装備の種類と数を把握しておかなければ命に関わるミス(記憶違い)が起きかねない事を、理解してるようで翔弥はゆっくりとマジックバッグを開き中を確認する。
「近接武器が計10本、ハンドガンが6丁、アサルトライフル3丁、マシンガン2丁、対人ライフル2丁…コレは紫月用、ランチャー系が4丁と予備弾は10個、対戦車地雷50個、対人地雷70個、煙幕弾含む手榴弾系が計97個、設置型爆弾計30個だね。近接武器とランチャーの弾はセット済みの4発と予備の4個が魔法付与済み、こんな所だね」
「あ、煙幕弾は全部、俺にくれ」
「??…わかった」
不可解そうな顔をしつつも自身のマジックバッグから少しづつゆっくりと取り出し、それを俺は自分のマジックバッグへ仕舞って行く。
「実際に数字にするとマジックバッグ凄いよな」
本当に凄い量入るし入れてるな…俺も人の事は言えないけどさ?魔法とかが使えなくても、こうして魔法が付与済みのアイテムは使えるのが救いだよな…
「そんな事、言ってる場合じゃないでしょ」
おっと、そうだった…とりあえず一難は去ったけど安全な訳じゃない、今はアルラウネが俺達を見失ってるだけでいつ見付かってもおかしくない…
「で?紫月の手持ちは?」
「えぇっと…刀が大刀2本小刀2本の計4本、ハンドガン2丁、アサルトライフル1丁、マシンガン1丁、対人ライフル1丁、対物ライフル…5丁」
「対物を5丁!?って、紫月…持って来過ぎじゃない?」
凄い驚いてるのはわかるが、小声のまま変に動くこともない所を見て流石だな…と思いつつ俺は笑いを堪える。
「俺の主要武器だし個々で用途が違うんだ…てかランチャー系4丁持ってきてるお前に言われたくないわ!!」
「あはは…」
コホンッ!閑話休題だ
「えーっと…マシンガンとランチャー系は持ってきてないから後は…対人地雷20個、対戦車地雷10個、手榴弾類は前回のと合わせて計48個だな。魔法付与済みは刀だけだ」
煙幕弾は翔弥から貰ったのも含めて全部で75個か…足りる事を祈ろう…
あのアルラウネ相手に有効打たり得る武器は、威力的に対戦車地雷だけ…対人と対物も使えない事は無いが、触手が邪魔だ……まぁ上手くいけば問題にはならないか
「残弾は問題ない?」
「ここまで来るのにナイフしか使ってないから1弾たりとも減ってない」
そう言って腰周りに装備しているナイフを、少しだけ引き抜き戻す。
「紫月…どうせ何か打開策でも思いついてるんでしょ?勿体ぶらないで教えてくれないかな?」
はぁ…と溜め息を着いた後、翔弥の顔から緊張の気配は消えていた。
生きて帰れる確信は無い。倒せても片方が死ぬ可能性だって…そもそも俺達2人共生き残れないかもしれない……だが、どうせ死ぬなら最後まで足掻いて一矢報いてやらないとな!
「翔弥、ランチャー系4丁って言ってたよな」
「…?あぁ」
翔弥にしては珍しくピンと来てないのか小首を傾げ思考を巡らせている。
いつもならこの辺で気付きそうなものだが…と、珍しく察しの悪い翔弥を背に岩端からアルラウネの様子を伺う。
大きな動きはなし…本能だけで動いてるんだろうな、俺達の動きを記憶されてたら今頃ミンチだったな…
現状が最悪な事に変わりは無い。しかし敵が記憶器官の無いとされる植物系モンスターで良かったと…ほんの少しだけ安堵しつつ翔弥へランチャーの種類を聞く。
「種類?…種類は、いつもどうりRPGとホーミングランチャーが2ちょ……紫月…お前まさか…」
物分りが良くて結構、細かい説明の手間が省けて助すかるよ
コレから俺のやろうとしてる事に気付いたのか、目を見開き顔が徐々に青ざめて行く。
「多分、お前が今考えてる事で間違って無いだろうな」
「避け続けるなんて、無茶だ!!」
その言葉が出てくるって事は、ちゃんと察してくれたみたいだな
「無茶でもやらなきゃ死ぬ」
「そうだが……危険すぎる…」
「お前なら必ず成功する…俺はお前を信じる!!」
俺の言ってる事を理解しているが故に俯き懸念するのだろう…しかし、やらなければいつかは見つかり死ぬ。いつ来るかもわからない援軍を待つよりは幾分か可能性がある…ならばやる以外の選択肢は残されていなかった。
俺だって理解してるさ、たった1度の失敗も許されない…1度でもしくじれば確実に全滅だろうし、後ろに逃げる事は出来ず岩陰に隠れるにも限界がある、そして近くに隠れられる他の場所はない…まさに絶体絶命だ……
「やれるか?…翔弥」
「……紫月は僕なら出来ると言った…僕もお前の事を信じる!」
プレッシャーに押し潰されそうになりながら、握った拳に力を込めて無理やり震えを止めた翔弥は、ゆっくりと顔を上げ…。
「僕が死ぬ時は紫月、お前も道連れだ!」
翔弥はそう言って無理矢理…。
「フッ…任せたぞ」
「あぁ!」
お互い覚悟を決め顔付きが変わる。ついさっきまで目の前にある"死"を恐れていたとは思えない程に…。
さっきまでの震えは止まり、思考がクリアになっていく感覚に全身が染まる…
「RPG1発じゃ絶対に届かないだろう…だから隙を見て2発目を撃て」
「わかった!」
俺はゆっくりと息を吐きつつマジックバッグから煙幕玉を取り出し翔弥に背を向け走り出す姿勢になり、確認をする為に顔を後ろに向ける。
「準備はいいか?」
「あぁ!いつでもいいよ!」
翔弥の方を見ると2丁のRPGの内1丁を壁に立て掛けもう1丁を担いぐ。
「よし…じゃあ始めるぞ!!!」
そう言って俺は大岩の右側から走り出し前方11時の方向へ煙幕弾を投げる。煙幕弾は地面へ触れると同時に俺は急停止し煙幕弾が炸裂した。
俺が走り出した事に反応したアルラウネ、しかし煙幕弾の炸裂直前に俺は動きを停めた為、爆発地点へ標的を変え煙幕の中、爆発地点目掛けて触手が方向を変え攻撃を繰り出す……が…。
《グギ?ギギ??》
当たらない…。
アルラウネの触手が地面を抉る音が聞こえた瞬間、俺は再び走り出した。それと同時に前方へ投げ、直後に上空へも煙幕弾を投げる。
《ギャ?ギギ??》
俺は煙幕でアルラウネの視界から身を隠しつつ、あっちこっちへ走り煙から出ないよう様々な方向に煙幕弾を投げ炸裂の瞬間で停止、を繰り返していると…。
「危ッ!!」
触手が穿った地面の破片が、凄まじい速度で俺の走り出した方へ飛び、既の所で避けたが額を掠る。
少しづつ攻撃に使う触手も2本から3本へと増え…触手の直撃は免れているが、抉られた地面の破片が俺の体へ何度かぶつかり、疲労と痛みにより走り続ける足がもつれ…地面へ倒れてしまう。
直後、俺の真後ろから地面を叩き付ける爆音が聞こえ安堵した。
危ねぇ……倒れる瞬間に背後へ煙幕弾を投げといて良かった…
アルラウネは視界が不明瞭な時、わずかな空気の揺れで敵の位置を感知する…故にあちこちで炸裂する煙幕弾は、アルラウネからすれば敵がワープし続けている状態に等しかった。
その為、先程の攻撃は俺に直撃すること無く背後を叩く結果になった。
その後も、アルラウネの攻撃は何度繰り返しても当たらない。その不可解にアルラウネの反応が一手遅れたその瞬間…。
ドシュゥゥゥ……
翔弥の方から発射音が鳴り響く…発射音が聞こえた瞬間、俺は煙幕の外へと走りアルラウネの動きを確認する。アルラウネは視界に映る放たれた弾を防ぐ為、半分近くの触手を束ねた。
その動作を確認し俺は直ぐに煙幕の無い場所へ飛び出し、マジックバッグから、バレットM82:対物ライフルを取り出し仰向けの状態に寝そべり、三脚の代わりに膝と足で銃身を支えアルラウネの胸部に照準を合わせる。
ドゴォォォォン!!!
アルラウネを目掛けて進む魔法付与済みのランチャー弾は束ねられた触手に直撃…その全てを吹き飛ばした。
その瞬間…。
《ギギャギャギャギャァァァ!!!》
痛覚があるのかと思えてしまう程にアルラウネが叫びだす、視界に映る攻撃主だろう翔弥の元へ触手を伸ばそうとするが半分近くの触手が消し飛んだ事に、再び一瞬の動揺を見せた…その隙を翔弥は見逃さなかった。
ドシュゥゥゥ……
再生のタイミングを与えない様、間髪入れずに2発目が発射される…動揺していたにも拘わらず、放たれた弾を防ぐ為に残りの触手全てを束ね防ぐ為に動き出す。
それを見た俺は笑みを浮かべながら、引き金に指を掛けた。
「予想通り動いてくれてありがとよ!!チェックメイトだアルラウネ!!!」
ガウゥゥゥン!!!!…
ドゴォォォン!!!…
翔弥の放ったミサイル弾が残りの触手に当たり全ての触手が無くなる、それとほぼ同時にライフル弾が命中…アルラウネの人間部位は砕け散り、ライフル弾は止まる事なくダンジョンの天井を抉った。
核となる人間部分が消し飛んだ事により急速に全身が枯れ始める。息も絶え絶えなまま、俺は翔弥の方へ対物ライフルを引きづりながら歩き出した。
翔弥も大岩から降り、俺と合流して少しの間、静寂が辺りを包む……。
「シャアアァァァ!!勝ったァァ!!!」
まるで堰を切った様に膝から崩れ落ち、倒せた事に心の底から叫び出す俺、それに対して翔弥は…。
「良かった……勝てた……はぁぁぁ………」
ランチャー弾が2発とも防がれ絶望した瞬間アルラウネの身体が消し飛び、その事に思考が追いつかず放心していたが…徐々に状況を把握し始めると大きな溜め息と共に全身の力が抜け、俺と同様にその場へ座り込んだ。
「紫月ィ!!僕の攻撃は決め手にしてなかったな!!」
俺の前に座り一息ついて考えが纏まり始めた翔弥は、俺の作戦が【ミサイルで倒す】ではなく【ミサイルで"気を逸らし"対物ライフルで撃ち抜く】だった事に今さら気付き小笑い気味に叫びながら、俺の伸ばした足をベシベシと叩く。
「なんだ?気付いてなかったのか??あっははは!」………
その後、少しして俺と翔弥が芝の地面に大の字で寝転がっていると上層から降りてきたのだろう複数人の足音と声が徐々に近付いてくる。
「なっ……何だこれ…」
「巨大な植物が枯れてやがる……」
「コレは…君達がやったのかい?」
そう言って自衛隊員の1人が寝転がっている俺達の顔を除く。
自衛隊…という事は恐らくギルドに所属する、13人の自衛隊員で構成された唯一のパーティー【国家迷宮特務調査班】だろう。
「えぇ、何とか……倒しました」
アドレナリンも治まってきたのか、全身に鈍い痛みを覚え始める。
「ははは……死ぬかと思いました……」
俺は疲労と痛み、翔弥は緊張からの精神疲労により、立ち上がる事すら出来ない俺達はお互いを見て苦笑する。
…………
「たっ……隊長!!」
死んだアルラウネの所へ向かった隊員の一人が焦った様子で此方へ走って来る。
「何だ、どうした?!」
「あっあの植物…アルラウネです!!しかもクラウン級の……」
此方に来た隊員の報告に、隊長と呼ばれたその男は目を見開き額や頬には冷や汗が伝う……。
「……クラウン級を、2人で…!?」
……
薄らとそんな事が聞こえたが、その後の事はよく覚えていない。多分、質問を返した辺りを最後に気を失ったのだろう。
………………
モンスター図鑑
No.20/アルラウネ【討伐難度:S(クラウン級)】
通常種は3mに対しクラウン級は約15mと5倍もの大きさを誇る。
特殊な感覚器官を持ち、微量の空気の揺れを感知し生物の細かい居場所を割り当てる事が出来る。その精度はハエ1匹の動きを正確に察知する程に優れており、隠れての不意打ちによる攻撃はまず不可能と言われているが視界に獲物を捉えている場合、空気のゆらぎによる感知は後回しとされてしまう習性がある。
植物系のモンスターには、見た物を記憶する器官が存在していないと記録されているが、厳密には記憶は出来るが僅かな時間だけな為、合ってない様なものとされており、精々1分も覚えていたら長いとされるほど短い為、驚異になる事は先ずないとされている。
攻撃手段として用いられるその触手は真っ直ぐ突けば20cmの鋼鉄板を優に貫き、薙ぎ払えば大木が砕け散る程の超威力を誇る、だが攻撃手段が触手しかなくその触手が無くなると何も出来ずにデクの棒となってしまう。しかしその触手の再生力が非常に強く失っても数十秒程度で完治してしまい触手の全損を狙うのはほぼ不可能である為、難攻不落の"Sクラスモンスター"と記録されている。
植物 故に人間部分は火による攻撃に対して、非常に弱く"身体"の1部にでも火がつけば瞬く間に燃え広がり自然に絶命するが、そもそも近付く事が困難な上、水分量が多く火や炎がほとんど効かない触手で防がれていまう所為で火を点けようとする者はまず居ない、触手を突破するには高威力の爆破等で吹き飛ばす必要がある為、戦闘の際にはランチャー系の武器や対戦車地雷または爆破・爆裂系魔法などの爆破系攻撃が攻略には、ほぼ必須である。