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さくっ。
・・・・・・?・・・・・・
「こらあああああああああ! まぁぁたお前らかぁぁ!!!」
びくっとして首をもの凄い勢いで振る姫竜。
その彼女の胸を後ろからわしづかみにして、
「だってー! 姫竜のお胸が筋肉でアレだけど私の柔らかくて豊満なお胸が最近ますますおっきくなって──」
「いーかげん違うの考えろ! さもなくばもうきっぱりさっぱりはっきり諦めろ!」
竜香の言い訳をさえぎって持山が言うや否や、
「だよねー! あたしもそうおもう! 持山、何かいいのない?」
竜香が姫竜(の胸)を放すと、怒り狂う持山の傍にくるくる回転しながら近寄っていく。
「ない! やめろ!」
肩当てに刺さった矢を、すっと抜いて竜香に近づける持山。同時に、姫竜にも視線を送る。
「だって敵に近づかないで何とかなる攻撃覚えたいって言ってたし、弓はどうかなーって思って……」
「そーよねー♪」
恐る恐る言う姫竜と、つきつけられた矢じりに小指と人差し指を絡ませて笑顔で答える竜香。
「そーよねー♪ って……」
深くため息をつく、持山。
すうっ、と息を吸うと、
「剣は重くて嫌、槍はバランスとりづらいしー、だぁ?」
「あら、物まねうまいじゃない?」
「そういう話じゃない!」
「じゃあ、どういうお話?」
「遠距離攻撃を選ぶのはいい! でもなんで弓を引いたら当たるのは毎回俺なんだ! どこを狙ってるんだ! それとも俺が好きなのか!?」
そう言いながら見せる肩当てには、パッと見ただけでも両手の指では足りないほどの真新しい矢傷がある。
「んもぉー、あたしにクラクラきちゃうのはわかるけどっ♪ よぉぉぉくね♪ 彼女の前でそういうアプローチはどうかと思うわー?」
「ええっ! 持山私のこと好きっていったくせにー!! ひどーい!!」
大きな胸を揺さぶってみせる竜香と、怒りで酸欠になりかけている持山に弓を向けて叫ぶ姫竜。
「でもね? 姫竜のほうが、あたしはすきよっ♪ ほら♪」
たふ、と姫竜の顔をその胸にうずめてやる竜香。
涙ぐんだ姫竜の頭をよしよし、と優しくなでてやる。
「……じゃぁ、持山が裏切ったの?」
小首をかしげて持山を見る姫竜。
「なんでそうなる!!!」
──まったく、なんでこいつらは…。
そう言いかけた持山の脳裏にふとひとつの案がひらめく。
──かなり面倒で、厄介だが、俺が見てたほうがまだマシなんじゃないか?
連日休憩中に矢が飛んできて身も心も休まらないどころか下手をすれば傷を負う。そもそもチームに専門で弓を使う仲間がいない分、矢の準備もない。仕方なく毎回拾った木や敵の骨を縦に割き、矢を作らされているのは持山だ。
──どうせ竜香は戦闘向きじゃない。三日もすれば飽きるだろうし…よし。
「なぁ、道具使うんじゃなくて、素手、っていうのはどうだ? なんなら俺の鉄爪あるから貸してやるし、教えてやるぞ?」
持山がほら、と右手を挙げて見せる。
しっかりと使い込まれ、念入りに手入れをされているその鉄爪はベースが革製で見た目よりははるかに軽い。
手指を覆うように付いた金属製の長い爪は鋭く磨かれ、それなりに重量はあるものの鍛えれば使いこなすのはそれほど問題はなさそうだ。
──が。
「嫌。いたそーだし、原始的だし」
「……っ」
ポカッ、と竜香の頭を小突いて、無言で立ち去る持山。
それを見送る、竜香に姫竜。
「ねぇ、竜香は回復じゃいやなの?」
姫竜が竜香に尋ねる。
そもそも、この数日間の騒動は、彼女が、
「何か攻撃をおぼえようと思うのよねぇ」
と、言い出したのが始まりだ。