宝くじの確率
──砂漠の昼は、暑い。
真夏のそれはまさに殺人的な暑さだ。
旅なれた旅人にとっても、命取りとさえなりうる為、この時期に旅人を見かけるのは、例えるなら宝くじの二等を隣人が当てるのと同じようなレベルか。
余計に、ここの砂漠地方、ジャク・ランは、昼夜を問わず出没するモンスターの恐ろしさ故に、盗賊さえも敬遠するといわれる地域である。
見渡す限りの、砂、砂、砂……。
暑さのあまり、湯気ににたものが遠くでゆらめいている。
「蜃気楼…とは、少し違うか」
細身の筋肉質、長身の男がつぶやく。
身軽な格好ではあるが、やはり日光の暑さがきびしいらしく。
左手で額の汗をぬぐい、右手につけた金属の爪のような武器で自分を煽ぎ、なんとか少しでも風を起こそうとしている(が、効果はないようだ)。
「持山、あとどんぐらい?」
「ああ、あと少しだ。──って、お前見てるだけで暑いぞ。脱げよ」
彼の名を呼びかける、すぐ傍の男の名は、遊希。
頭から黒い布を被って、全身をすっぽりと包んだようなスタイルが特徴的だ。
せめて白い布ならばまだ日よけになりそうなものではあるが、黒尽くめな為、もろに日光を吸収しているようで見るからに暑苦しい。
おまけに、あまり風を通さない素材なのか、かなり息苦しそうでもある。
「お前、湯気でてねぇ?」
「言わないで。よーくわかってるから。わかってる、わかってる……」
願掛けしてるんだから、仕方ないだろ、と口を開きかける彼の横で、
「ちょっとだけでも肌だしたら?」
彼の布のようなローブの裾をまくりあげ(かなりの勢いで拒絶される)、分厚い布が翻った弾みで熱気を浴びて嫌そうな顔をするのは、竜香。
彼女もローブ姿とはいえ、あちこちまくりあげて、だいぶ露出度の高い格好だ。
肩下ほどまである髪を高く結び頭の周りでぐるりと巻いている為、まるで蛇がとぐろを巻いているかのようなヘアスタイルを見て、
「ていうか、おまえそれ美しくない…その巻きといい、とぐろといい……」
鼻をつまむ格好をして、言うのは牧義。
細剣を低めに腰から下げ、涼しげなマントをはためかせた、すらりとした男だ。
「うるさい、ナルシストっ」
「やれやれ、美というものを理解できないとは、所詮は凡人!」
竜香の言葉に首を振りつつも、ふっ、とさりげなくポーズをつけることを忘れない。
「暑いんだから仕方ないでしょ変態!姫竜だって同じヘアよっ!」
──と彼女が指差す先には。
「って、姫竜?」
やや崩れかけた「とぐろ頭」に、胸部のみを包む金属製の鎧。
そして短めの前掛けをゆったりしたミニスカートのようなものの上に装備し、中剣を腰に斜めにさした彼女、姫竜が座り込んで水をのんでいる。
「暑いよー、もう、ノドかわいたぁ」
「私にもひとくちちょーだいっ!」
こくん、と喉を鳴らせのを見て、竜香が詰め寄る。
「俺にもくれえええええええええ!!」
後ろからがばっと姫竜に抱きつくのは、砂流。
全身に15キロは軽くこえるであろう鎧をみっちりと着込み、これまた190センチはあろうかという彼の身長とさほど変わらない大剣を背中に背負っている為、すっかり汗だくになっている。
「砂流、おもーいっ!」
「コラ! 姫竜がつぶれるだろーが!」
「くっくっく、持山ってば意外と焼きもち焼きなんだよなぁ」
先頭を歩いていた持山が姫竜を助けおこしにくるのを見て、牧義が笑う。
──や否や、
「姫竜、牧義は水、いらないそうだ」
素早くその背後に回り込むと、さりげなく首をロック。
慌てて外そうとするが、時すでに遅し。
そんな様子を見てケラケラと笑うのは竜香。
「そーそー、鏡見てれば幸せだってさっ。ハングリー精神が美をさらに増すとかわけわかんないことこの間寝言で言ってたし」
「その分俺頭からかぶりてええええええ!」
ばっばっ、と頭を振るだけで汗が飛ぶ、砂流。
「──持山、……牧義がそろそろ、”落ちる”よー?」
恐る恐る、遊希が言うのを聞いて。
「お? んじゃ牧義の分、山分けな」
「あんた鬼だー……」




