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奴隷に感じる浪漫 その3

家彰View


 アレクに事のあらましを一通り語り終え、遅まきながら割と出来上がっている宴会に参加したところまでは覚えているのだが……


 布団の中。腕の中のモフモフした感触を堪能しつつ記憶を手繰るも、その後どうなったか思い出せない。


「うぅん……」


 そんな鼻にかかったような声が背中から聞こえて来て、ようやく背中の幸福な感触に意識が向く。ついでに、覚えのある下半身をぐるぐる巻きにする鱗の感触も。


 うん……慣れたけどさ?これ傍から見たら完全に連れ去られた男の図だよな。こいつら、俺のヒロインなんだぜ?


 今いる部屋は、馬車の割り当てられた部屋だ。持ち込んだ私物もある。


 こう、毎度の事とはいえ、記憶が無いって不安になるよなぁ。もう飲まない!ってこの一時だけは毎回思うけど、喉元なんてすぐ過ぎんだからまぁ質が悪いったらなんやら。


 酒と煙草は一種の麻薬である。一度手を出したが最後、絡め取られてやめることなんて出来ない。女?それは三大欲求だ。たぶんこの場合三つ目があるならギャンブルだろう。


 そういや、パチンコやりたいな……スロットでもいいや……


 いや、何考えてんよ俺……そもそも、こっちの世界に来てから高級品だってんで煙草吸ってねぇわ。身体新しくなったからか、辛くはねぇしな……でも、あのパチ屋のヤニ臭い空気がたまんなく恋しくなるときはあんだよな……うん、だから俺何考えてんだ。


 さて、動こうにも魔王様に締め付けられてるし、腕の中のモフモフは良い具合に温かい。


 これ、もう一回寝る以外に選択肢無くね?


 などと思ったりもしたのだが、飲み過ぎに付き物な、あの口の中が異様に気持ち悪い感覚と頭痛に邪魔され覚醒を余儀なくされる。


 ――ったく、現実は救い難いぜ。


 俺は二人を起こさないように気を付けつつ関節を外し、ミアラの拘束から抜け出して洗面所で顔を洗う。慣れとは恐ろしいもので、外した関節を繋げるような芸当が苦も無く出来てしまうようになってしまった。


 もし魔王城追い出されたら、どっかのサーカスにでも雇ってもらうか。そういや、今日は奴隷の店に行くんだったっけ……


 昨日、アレクが酔って熱弁していたのを薄っすらと覚えている。奴隷と訊くと襤褸を着て聖帝十字陵的な物を作っているイメージであまり可愛い子がいなさそうな気がするのだが、奴隷とのロマンスが云々と語る奴の話を聞くと、やっぱり少しは期待してしまう。


 とはいえ、魔王様から貰ったお小遣いでそんな買い物するのは心が痛むわけだけども……まぁ、見るだけならタダだしな。


 何となくカッコ良さげに髪をセットし、廊下で歩哨的なことをしていたグレイと挨拶を交わして馬車を出る。見上げる空はまだ薄暗い。あれだけ飲んで睡眠が浅い状態で日暮れまで寝ているということは無いだろうし、おそらく夜明けといった時間だろう。


 ファンタジーの割に色々と揃ってるけど、何気に時計って無いんだよなぁ……しっかし、皆朝早過ぎだろ。


 薄暗いとはいえ、十分人間の目でも周囲が見えるレベルだ。既に周囲の店は開店済みで、大通りにはそこそこの人が歩いている。こういうところだけは異世界っぽい。


「さて、どうしたもんか……」


 もう一回寝るという選択肢も無くはないが、せっかく髪をセットしたのにそれはそれで勿体ない。


 そういえば……ファンタジー世界の割に人間らしい人間ばっかりだな。もっとこう――獣人みたいな……


 そこまで考えて、狼獣人のワーウルフが魔王側だったと思い出した。


 おし、ケモ耳とかのレベルを探そう――って、ん?


 それは、偶然にも俺の視界に映った。見るからに富裕層といった恰幅の良いオッサンの後ろを静々と歩く娘。両腕が羽毛に覆われていて、足元を見ると鳥のそれ。安っぽい貫頭衣のようなものを着ているだけなので、そんな彼女の特徴が良く見て取れる。


 あれ、ハーピィ?ハルピュイア?初めて見るけど何かそんなヤツだよな……普通に歩いてるけど、あれこそ魔物だろ……


 だが、周りの人達はこれといって反応することもなく、当の魔物娘も人を襲う素振りを見せない。何だかんだ言って、人間と共存してる魔物もいるらしい。歩調を合わしているようなので、おそらく前を歩くオッサンの連れのようだ。


 あの見た目で魔物使いなんてジョブはないだろうしな。どっちかってとトルネコだし……でも、敵のまものつかいってあんな見た目だったっけ


 そんなどうでも良いことを考えながら、呆っと道行く人々を観察しながら時間を潰す。どれくらい時間が経ったのか、魔王様に呼ばれる頃にはすっかり日が昇っていたのだった。


 ちなみに、あの魔物娘以降魔物の姿は無く、猫耳らしい人間も数人しか通りかからなかった。


 ファンタジーなのに、サービスのしょぼいことだ。



***



 目の前には巨大な赤いテント。昔一度だけ行ったことのある、サーカスの会場のようなそれが、今日の目的地だ。


「いやはや、お待ちしておりました。道中は大変お世話になりましたし、出来る限り勉強させて頂きますので、ぜひゆっくりと御覧くださいませ」


 そんな畏まるアルバート相手に、冒険者パーティのリーダーという体で竜牙が対応している。アレクがアルバートを助けたとき、ノリで勇者ではなく冒険者と名乗ったらしいのだが、魔王様的にもそう名乗った方が目立たないだろうということで、俺達は冒険者のパーティということになっている。竜牙がリーダーを名乗っているのは、女性の魔王様がリーダーだと舐められるからということらしい。フェミニスト団体が五月蠅そうな理由だ。


 しっかし、こんな大人数で来ても嫌な顔一つしないってのは大物なのか、それともカモがネギ背負って来たと思ってるのか……


 何気に今日初めて本人を見たのだが、アルバートは黒地に金糸という仕立ての良いローブを着た、中肉中背の中年男だ。顔に貼り付いた、考えが読めないアルカイックスマイルが正直ちょっと怖い。


 ちなみに、今日の俺達のパーティは、俺とチビッ子モードのキツに魔王様、そして竜牙にシュバルツ、リルフィーにマユラ、最後にアレクの8人だ。皆、武器こそ持っているが今日はラフな格好をしている。魔王様とキツに至っては武器すら持っていない。まぁ、この二人は普段から持っていないが。


 ソルトはこういうイベント好きそうだと思ったけど――まぁ、それだけあの姫様が好きってことか。


 一通りの挨拶を交わした後、俺達はテントの中へと案内される。薄暗そうな内装を想像していたのだが、随所に設置された照明のおかげで割と明るい。テントの中には巨大な檻が規則正しく並んでおり、一つの檻毎に5,6人のぐったりしたオッサンが詰まっている。


 あ――そういや、昔行った動物園って大抵こんな感じだったよな……てか臭い籠ってるな……


「この辺りは二束三文のものばかりですので、皆様はどうぞコチラへ」


「じゃよな。こんなんただの地獄絵図じゃもんな」


 アルバートの案内の言葉に、手で鼻と口元を覆っていたキツが呟いた。半分以上顔を隠しているにも関わらず、その全身からバッチリ安堵が見て取れた。


「バァさん、鼻良いもんな……」


「我も、少しツラいな……」


 竜牙とシュバルツも手で顔を覆っている。かく言う俺も、鼻を摘まんでいる。正直、話せるだけの余裕のあるコイツ等はスゴイと思う。


「獣と育ちの良い奴は軟なもんだな」


「まぁ、実際村の厠に匹敵する臭いしてるしね~」


 マユラとリルフィーは耐性があるらしい。が、眉間に皺が寄っているのを俺は見逃さない。


 正直、魔王城めちゃくちゃ綺麗だもんな……一回引き上げられた生活水準ってのは、なかなか下げれんもんだ。


「ふむ……こんなもの買った日には、その日の内に縊り殺してしまいそうだ」


 そんな中で顔色一つ変えない魔王様マジ魔王。


「ミアラは、大丈夫そうだけど……」


「どうぞ、家彰さんはこちらをお召ください」


 そう言って魔王様が差し出したのは、何処から取り出したのかいつもその顔を覆っているベールの予備だ。相手のステータスを可視化出来るアイテムだったはずだが、意味も無く差し出されるようなことは考えられないので、とりあえず装備してみる。すると――


「あ、すげぇコレ!臭いしなくなった!」


 そういえば前に一度、俺の魔眼の効果を防ぐためにシーナさんが被ってたことがあった気がする。いい感じに色々と防ぐような効果があるのかもしれない。


「ズルいぞ主ら!年長者をもっと気遣え!!」


「何気にお前のソレ、結構高性能だよな……」


 そんなどうでも良い会話をしている内に、柵で区切られているエリアが見えて来た。薄っすらと、何か半透明の膜のようなもので覆われているのが見て取れる。


「皆様、もうしばしですのでご辛抱くださいませ」


 つまり、あの薄い膜の中は臭いが無いということだろうか?


「ふむ、アレは結界か。確かに、この天幕全体に行使するよりは効率が良いな」


「なんと、皆様はやはり高ランクの冒険者様でいらしたのですね。ご慧眼でございます、御婦人殿」


 そんなアルバートと魔王様の会話を聞いた他の面子の歩く速度が明らかに速くなり、即行で柵の中へと入った皆は、まるで素潜りから浮上したときのように思いっきり深呼吸をしている。


「無様なものだな」


「主はアイテム使っとったろうが!!」


「主は紙切れをケチらず結界を貼ればよかったろうに」


「紙切れ言うな!呪符が勿体ない上に面倒臭いわ!!」


「皆様、ここからが本番でございますよ。このエリアは正真正銘のVIPエリアとなっております。貴族の方々向けに用意した質の良い奴隷を展示しておりますので、どうぞご自由に見学なさってください」


 言い合いをする魔王様とキツの事など何処吹く風と、顔色一つ変えずアルバートがエリアの解説を行う。


 お偉い貴族様にも、あんな臭う場所歩かせるのか?いや、むしろそういう相手には営業に行く感じか?まぁ、この世界に来てから貴族様なんてロベルトとカンナ姫しか見たことないけどな、俺。


「ぃ――よっしゃぁぁぁぁあああああああああ!!」


 どうでもいいことを考えていると、突然火山が噴火したような轟音が響き渡る。それは、今の今まで空気だったアレクが放った、魂の叫び的なものだった。



 アレクView


 ついに来た。VIP向けの、高級奴隷。夢にまで見た、夜伽とか夜伽とか夜伽とかしてくれる、僕だけの奴隷。それが今なら、手が届く位置に!!


 胸の内から熱いものが込み上げて来て吐きそうになるが、追い出されない為にも気合で耐える。記憶は定かではないが、昨日飲み過ぎたのだろう。あの惨状の中で目覚めたことを考えると、おそらく間違いない。


 かなり出来上がっている宴会場に家彰に連れて行かれたところまでは覚えてるんだけど……いや、そんなことより奴隷だ!まずじっくりと選ばないと!!


 買えるか買えないかは、一旦置いておく。まずはこの僕の御眼鏡にかなう奴隷がいるかどうか探すところからだ!


「主よ、もう少し静かに――」


 幼女が何かを言っていた気もするが、そんなものはどうでもいい。僕の目は檻の中にいる女奴隷の姿のみを映し、僕の耳はそんな彼女達の一挙手一投足によって奏でられる衣擦れの音のみを拾う。一人一人が、絶世の美女。と言っても差支えが無いレベルの美少女だ。種類は人間の他に、レアな半獣人やエルフといった亜人、そしてまさかのラミアやアルラウネにハーピィといった魔物まで。しかも、さっきまでのエリアと違い、奴隷一人一人に随分と大きな檻が用意されていて、明らかな扱いの違いが見て取れる。


「ふっへへへ……」


 思わず変な声が漏れてしまったが、仕方ない。こんな空間にあって、テンションがおかしくならないはずがないのだから。


 待て待て待て僕。こんな美少女達の中から一人を選ぶなら、しっかりと基準を定めないと。ストレートに人間?それともやっぱり色白美人のエルフ?筋肉質でお鬚がチャームなドワーフ?は無いとして、ピコピコ動くケモノ耳がチャーミングな半獣人?いやいや、モン娘っていうのも勿論捨てがたい。漫画とかだと、モン娘ってすっごい惚れやすいみたいなのあるし……ヤバい、全然決められない……よし、もう一回冷静に、僕の好みは……



 ――僕の脳裏で、彼女はニコリと微笑んだ。



 リリィ……いやいやいや、今更何を考えてるんだ僕は!あんな……あんな、僕を見限ったリリィなんて……


 振り払おうと思っても、そこに焼き付いたように幻影が消えない。ピンク色のローブがお気に入りだと言って笑う、以前、同じパーティにいた魔法使いの少女の姿。


 なんでこんな時に思い出すんだよ……


 少し冷静になった頭が、周囲の情景を拾い始める。少なくとも、目に見える範囲に、皆の姿は無かった。


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