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奴隷に感じる浪漫 その2

家彰View



 あれから半日程経った頃だろうか?貿易都市アリステラに着いたとシュバルツが教えに来てくれて、俺達は初の大都市を一目見ようと、路肩に停められた馬車の幌から顔を出す。そして、目に飛び込んで来た夕日に染まる街並みに思わず口を開けて固まってしまった。


「これが、人間の街……」


「土日の渋谷並みじゃの……」


「――キツ、もっと別の喩え無い?」


 魔王様もキツも、この人混みに圧倒されているようだ。


「凄いよねぇ。貿易都市っていうだけあるよ!王都に匹敵するもん!」


 リルフィーもいつもに増してテンションが高い。竜牙やシュバルツ、マユラは見慣れた風景なのか、馬車から降りて普段通りこれから先のことを話し合っている。ちなみに、アレクが乗せた奴隷商のオッサンは、都市に入ってすぐに辻馬車を捕まえて店へと帰ったらしい。時間も時間なので、店には明日お邪魔する運びとなったらしい。


「そういや、今日どうすんの?どっか宿にでも泊まる感じ?」


 俺もその話し合いに加わるべく馬車から飛び降りる。いつも通り適当な場所に馬車を停めて泊まるものと思っていたのだが、どうもこの人混みを見ていると、わりと普通に中に侵入されそうで怖い。夜中の街中で焚火をするわけにもいかないし、そうなると見張りも心許ない。せめて駐車場みたいなところがあれば良いのだか、そういうのは存在するのだろうか?


「それに関しちゃ、俺等が買い出しのとき使ってる宿でいいだろ。飯も美味いし、何よりメインストリートに面してるから綺麗だしな」


 そんなに綺麗かどうかって大切なのか?そんな俺の疑問を代弁するように、キツが幌から降りて来る。


「なんじゃ、宿の綺麗さなんぞ気にするような玉でなかろうに」


「ほっとけ。あとこの世界舐めんなよ?そこそこデカい街でもちゃんと店選ばねぇとクソみてぇな部屋で寝る羽目になるからな?」


「なんかそれはそれで異世界っぽいけど、ストレートに嫌だな……」


 基本的に、外国に旅行に行ったときの注意事項といっしょだな。


「まぁ、部屋が汚ければ私達は馬車で泊まれば良いのですから」


 そう言って出て来たのは、アレからまた足が生える薬を飲んで人間形態となった魔王様だ。まだ足に慣れていないので、俺が手を取って幌から降りるのを補助する。


「私達って、どうせ家彰と二人だけだろ?」


「何を分かりきったことを」


 竜牙の問いに、愚問とばかりに魔王様が鼻で笑い飛ばす。


「まぁ、街で野宿とか怪し過ぎるしの。なら素直に宿を取って、これまた素直にそこに似つかわしい者が泊まるのが一番じゃろ」


「お前らが普段俺をどういう目で見てるかよく分かった……」


「まぁまぁ、目的の宿は綺麗なんだろ?なら問題ないって」


「そりゃお前はどう転んでも安全な場所にいるからな……ま、この作戦最終的にお前が押さえられたら終わりだしな。それが無くても今に始まった話じゃねぇけど。宿の連中と面識あるし、こっからは俺が御者するわ」


 竜牙がアレクと御者を代わったところで全員幌へと戻り、俺とキツ、ミアラは何となく扉に入らずに、狭い幌の中で三人寄り添いその隙間から流れていく街並みを眺める。ちなみに、アレクは竜牙の横に座っている。


 ――ったく、あのとき俺が説明してやったのに聞き流すから……


 なんか、ありえないタイミングで上司怒らせて居づらくなって会社辞める奴って、たぶんこういう感じなんだろうな……んや、今はせっかくの景色だし後悔せんように楽しんどこ。


 流れていく景色には、テレビでしか見たことがないようなレンガの家々が並んでいる。日本の景色とも全く共通点を見出せないというのに、何となく郷愁を感じてしまうのは――


 昔はよくいろんなRPGで遊んだもんだよな……今みたいにグラフィックも綺麗じゃなくて……そういや、あの頃想像してたゲームの街並みって、こんな感じだったかもな……なんてそれっぽくモノローグ並べてみたけど、社会人になってから忙しくて、海外の旅番組なんかも全くだったしな……そりゃ懐かしくもなるか。


「人の街というのは、こうも雑然としているんですね……」


「鼻が良い身としては、あのドブのような川には近寄りたくないの」


 残念ながら二人の評価はなかなかに低いようだ。


「竜牙~」


 そんな声が聞こえて来たのは、そんなときだった。


「あ?ソルト!?お前なんでこんなとこに?」


 竜牙のそんな声と共に、馬車が再び路肩に停車する。


「進軍中の連中と思った以上に早く合流出来てね。このペースならこのアリステラで合流出来ると思ったけど、まさにドンピシャだ」


 俺達の馬車へ歩み寄って来る革の軽装を身に纏った男は、サ国に入って早々別行動の為に別れたウ国の勇者ソルトだった。ある程度進軍速度を合わせる為にいくつかの村で観光紛いの情報収集をして来たとはいえ、俺達はいったいどこで追い抜かれたのやら。


「え?じゃあお前らもう宿取ってんの?」


「もちろん。ここから見える黄色の看板の店だよ。まだ厩舎も空いてたし、殿下も待っているんだ。ぜひ君たちにも同じ宿に泊まってほしいところだね」


「やっぱあの宿になるよな……分かった、お前も乗ってけよ」


「なら、お言葉に甘えるとしようかな。やぁ、三人お揃いで。相変わらず仲が良さそうで羨ましい限りだよ」


 幌から顔を出している俺達に気づいたソルトが、にこやかに右手を持ち上げる。アニメで見るような慇懃無礼な青年的な言動だ。


 こいつにしてもシュバルツにしても、この世界満喫し過ぎだよな……


「主、またあの姫にデート断られたか?やっかみが顔に出とるぞ?」


「――ぐっ……!」


「全く脈が無いにも関わらず、よく続くものだ」


「――がはっ……!」


「二人ともやめたげて……ソルト意外とメンタル弱いから」



「君もまぁまぁ酷いよ……」


 そんなどうでもいい会話を交わしつつ、トンッと軽いジャンプでソルトが幌へ乗り込むと同時に馬車はガラガラと動き出し、俺達は目的の宿へと向った。



アレクView


 突然現れた爽やか系騎士と合流し、僕達は割と綺麗な宿屋に来ていた。


 やっぱりそれなりの額を払えば、こういうちゃんとした宿に泊まれるんだな……今まで泊ってた宿なんて、雨を凌げるだけで風なんて素通りだったし。蜘蛛の巣が無いとかスゴイ!


「じゃあ僕は殿下――じゃなくてお嬢様に伝えて来るよ。部屋番号は?」


「二階のD、E、Fだ」


「それはまた、都合よく空いていたものだね」


 竜牙に部屋を確認した爽やか系騎士が上の階へと続く階段を昇って行くのを見送り、僕達――人間に擬態した魔王以外の魔物を除く人間メンバーは割り当てられた部屋を目指して進む。



 ――ん?殿下?



 殿下と言って思い出されるのは、魔王に連れ去られたという姫のことだ。そういえば、魔王はここにいるわけだけれど……


「そうだ!姫だよ姫様!!」


 思わず叫んでしまった僕の声に、全員が振り返る。魔王が心底鬱陶しそうな顔をしているが、そんなもの今はどうでもいい。魔王が味方にいるんなら、頼めば姫なんてすんなりと返してくれるのではないだろうか?


 コレってもうゲームクリアなのでは!?


「――黙れ」

「~~~!!」


 早速交渉に移ろうとしたところに、魔王からの命令で声が出なくなってしまう。


 またコレだ!この、スレイブリングさえ無ければ……!


 腕に巻かれた真っ黒な腕輪を睨んだところで、何も変わらない。何度か外れないかと色々試してみたのだが、手首に吸い付くようにピッタリと嵌った腕輪はその位置から微動くらいしかしなかった。


「それについても、家彰さんが説明してくれたというのに……本当に、絵に描いたようなハズレだ」


「それ引いたの、酔って顔だけで逆ナンした主じゃからな?」


「……分かっている。だから何とか料理出来んかと考えているところだ」


 ――え?僕、料理されちゃうの?


 確かに、普通に考えればこんな無駄飯喰らいは必要ない。そもそも、僕が前のパーティーから追い出された理由の一端でもあったのだろう。


 冗談だろうけど、ちょっと不安になってきた……


「はぁ――とりあえず部屋で落ち着いたら後でもう一回一から説明してやっから、次はちゃんと聞くようにしとけ」


 僕がよほどアレな顔をしていたのか、苦笑しながら亮也が提案してくれた。


「ホントに!?ありがとう、次はちゃんと聴くから!」


 男に対してこれ程感謝の念を感じたことが今まであっただろうか?いや無い。


 次はちゃんと、真面目に集中して最後まで聴こう。


「家彰さん、行っちゃうんですか?」


「全部説明したら戻るから、そんな顔しないで?」


 そんな感謝の念が、甘えるような上目遣いの魔王に対しやれやれ仕方ないと対応するその姿に霧散しそうになるのだが、幸いこれもこの短期間で何度も見た光景だ。それに心に秘めた野心の助けもあり、ギリギリ感情の爆発を阻止できた。自分を褒めたい気分だ。


「じゃあミア姉とキツ姉も、先にちょっと買い物行かない?前に一回だけシュバルツ達とこの辺のお店回ったことあるんだけど、可愛い小物とか色々売ってるし、楽しいんだよ!」


「ほう、それは興味があるな」


 何気にリルフィーちゃんとのショッピングイベントに参加出来ないことが決まったが、ここも歯を食いしばって我慢する。


 目先の幸せより、信頼を勝ち取るんだ……!そうしておかないと、僕には奴隷商の店に行

く自由すら貰えないかもしれないんだ……!!


「そうじゃの。この手の大都市で主様が出歩くとギャンブルにハマりそうじゃし、抜けとるタイミングにショッピングは名案じゃ」


「――俺、そんな認識なのな……」


「前世であれだけパチスロの愚痴垂れ流しとったらな……」


「分かるぞ家彰。俺もよく愛犬のポロに女房の愚痴聞いてもらったもんだ」


「主、妻帯しとったんじゃな……」


「婆さんの俺の認識酷くね?」


 ちゃんと信頼を勝ち取れば、何となく後ろで楽しそうに話している一団に自然と加わることだってきっと出来るはずなんだ!


「そういえば、ロベルトは馬車泊まりか?」


「ん?あぁ、ここでも顔見られるわけにはいかねぇんだと」


 シュバルツの言葉に竜牙が答える。そういえば戦闘時以外で殆ど会ったことはないが、均整の取れた肉体のロベルトという魔法剣士がいたことを思い出した。


 そういえば、あのガラの悪そう――というかガラの悪い女戦士もいないけど、どうしたんだろう?


「そうか……なら我は、酒でも買って差し入れにでも行くか」


「んなら俺も買い出し手伝うわ。リムにもいくつか頼まれててな」


 何だ?前世で奥さんがいてこっちでも相手がいるっていうのか?……ダメだ、何か憎しみとかそういうのに支配されそう……


「君たち、部屋にも入らず通路で駄弁るって高校生か何かかい?」


「勇者様!」


 突然の声に振り返ると、僕達が来た方向からさっき別れたソルトと、二人の従者らしきオッサンを連れた少女の姿があった。


 ――って、


「か、カンナ姫……いや、お嬢様。御無沙汰してます」


 またしても家彰。駆け寄って来た少女を、鬼の形相をした二人を気にしつつ受け止める。


 クソッ!もう闇落ちしそう……僕だって、僕だってあんな転生が良かった……!!


「ほら、家彰さんは忙しいんだ。だから離れろカンナ」


 魔王が少女を家彰から引き離す。そのとき僕は見た。なんだかんだで家彰が名残惜しそうな顔をしていたことに。


「そうじゃそうじゃ。新人が使えるようになるかどうかの瀬戸際じゃからな。それより、これからミアラとリルフィーと買い物に行くが、主も来んか?」


「それはいい。荷物持ちも二人確保出来るしな」


 魔王の視線を受け止める従者っぽいオッサン二人はとても迷惑そうだ。


「なら、ソルトは俺等と行くか?一緒に馬車で飲もうぜ?」


「い、いや、今後の打ち合わせとかが……」


「安心せぇ。言うたじゃろ?主様が忙しいんでな。どの道話は明日以降じゃ。そもそも、ワシらと違って主らは少し羽を伸ばせ。この長期間の行軍、普通数日の休息で疲れが抜けるはずなかろう」


「ふん、舐めてもらっては困るね。これくらいでこの僕が参るとでも?」


 そんなソルトの返答に、キツが盛大な溜息を吐く。


「そんなじゃからモテんのじゃ。主のことではないわ」


 と、キツが視線を向ける先には、魔王と家彰と一緒に他愛無い話をする少女の姿があった。


「胸に突き刺さるね……分かった。なら僕もお邪魔させてもらうよ」


「よし、じゃあ皆部屋に荷物置いたら出発するか!」


 そんな竜牙の号令と共に各々部屋へと準備へ向かい、そして僕と家彰を残して皆は街へと繰り出して行ったのだった。


 すっごい寂しい……


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