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少年の決意 その3

 反射的な行動だった。僕は背を向けて、全力で走る。



 魔王との遭遇。



 それは本来、こんな偶発的に発生して良いイベントではないはずだ。今のレベルで太刀打ち出来るわけがない。冷静に考えれば、逃げることすら叶わないだろう。どうせ、大魔王からは逃げられないとか言われるのだろう。僕は知っている。でも、それでも脚は勝手に動く。


「エ、エンチャント・レジストカース!エンチャント・レジスト――」


 そしてルーラ的なものなど使えるわけもないので逃げるのに不利になる硬直系の魔法に対する耐性を付与して行く。だが――


「跪け」


 その声が耳に届いた瞬間、脚から力が抜けてそのまま前のめりに倒れ込んでしまった。


「――うわっ!?」


 そのまま慣性に引き摺られてしまうのかと思いきや、身体は立膝をついてその場で止まり――無理矢理慣性を殺した膝は摩擦で擦り剥けたが――そのまま器用に回れ右をして魔王に対して跪いた。


「痛そ……」


「おぉ、すっげ」


「あんな魔法が使えたとはな……」


 外野が何か口にしているが、それどころではない。動け、動けとどれほど力を入れても、どれほど念じても身体は動かない。何なら口すら動かず声も出ない。いや、これは身体全体の力が入らないといった方が正しいのだろうか。まるで、操り人形から伸びた糸を、何者かが操っているような――


「ふむ、いつぞやの魔法使いが持っていた玩具も、低レベルの人間くらいは縛れるらしい。良かったな、小僧。死なずに済んで」


 そう言って魔王の顔に浮かべられたニヤリとした笑みからは、彼女の持つ嗜虐性が滲み出ているようだった。


なんだよ……さっきまで家障とイチャイチャしてたのは、演技だったっていうのか?こんな……こんなところで……――ん?死なずに済んで?


「ふふ、怖がらせ過ぎたか?さて……静かになったところで真面目な話、どこからどう説明したものか……」


 気付くとそんな笑みは引っ込んで、魔王は思案気に顎に指を添えている。随分と人間臭い仕草だ。まるで、人間のような……


「普通に伝えれば良いのではないか?我らのカルマを」


「いや、何だカルマって。カルマって……何だ?」


「俺に訊く?何かこう――アレだよ。ほら、シュバルツ」


 シュバルツが決め顔で言った言葉を竜牙が広い、家彰に投げたらシュバルツへと投げ返された。正直、どうでもいい。


 コイツ等、何で魔王の前でそんなアホな会話出来るんだよ!?


「――フッ、カルマとは……カルマだ」


 お前も知らねぇのかよ!


 身体の自由があれば叫んでいたところだ。シュバルツの教養の無さはよく分かった。今後どう影響するかは分からないが。


 てかカルマって具体的にどういう意味なんだよ結局!!


「とりあえず、よく分からんが解説役のキツがおらんときにアホなことはせんことだ。話が余計ややこしくなる」


 魔王の冷静なツッコミが入って、シーンと周りが静かになる。音も無くそっぽを向くシュバルツに、誰も次の言葉を発せないでいた。当たり前だ。この空気の中、生半可な言葉を発することがどれ程のリスクだというのか。


「確かに、バアさんいると良くも悪くも話進むもんな……」


「良くも悪くも、な」


 だからこんな状況でも口を開ける竜牙と亮也は素直にスゴイと思った。


「まぁ、つまらん話は抜きに……そうだな、率直に言って私達の狙いはこの国の王族だ。いや、正確に言えばその中にいる異界の寄生生物を根絶やしにするのが目的だ」


「寄生生物!?」


 いきなり何の脈絡も無く飛び出した心躍る単語に、思わず叫んでしまった。


「てか声出た!」


 あまりの嬉しさに思わずいらない部分まで声に出てしまった。


「そういう反応になるだろうな……しかし、説明が面倒だな……やはりいっそ殺しておく方が楽か?」


 背筋に寒気が走った。明らかに軽口と分るような言葉にも関わらず、僕の頬に冷や汗が流れた。


 あれ……?ここまで来て――冗談、だよな……?目、笑ってないけど……


 今回声が出なかった理由は分かる。普通に、怖過ぎだ。


「いや、殺すな殺すな」


「ミアラ、流石にやり過ぎだって……どうせアレクは魔法で縛られてるんだし、普通に全部話していいんじゃない?そこからどうするか決めても遅く無いって」


「……そうですね。家彰さんが言うなら……まぁ、妙な動きを見せたときはその場で消してしまえば問題無いか……」


 竜牙が止め、家彰がとりなしてくれたおかげで先程の空気は霧散したのだが、それでも言葉が怖い。


 ていうかそこの勇者三人、魔王倒せよ!何の為の勇者だよ!魔王に囚われてる姫どうなったんだよ!!


 ここに来て、コイツ等三人が本当に勇者なのか――というか、そもそも人間なのかという疑問が沸いてくる。


 いやまぁ、それを今指摘して実は魔物でしたとか言われてボコボコにされても嫌だけど……


「しかし、全部話すと言っても……」


「そうだな。さっき喰い付いてたし、寄生生物のところを掘り下げればいいんじゃない?たとえば……そうだな。ザックリ言うと、さっき話にあった異界の寄生生物が今回の俺達の敵で、そいつらが今この国の王族に寄生して、魔女の森の向こうにあるウ国に攻め込もうとしてるんだ。それを止めるのが、今のところの目的だな」


 ミアラが悩んでいるところに、家彰が簡単に纏めた目的を語る――って、


「大問題じゃないか!?え?じゃあ僕、寄生生物に操られた王様に召喚されたのか!?」


 そんな大事になってんの!?国を守る為に召喚されたとばっかり思ってたのに?まぁ今となっちゃどうでもいいけど!どうせ倒せもしない魔王の目の前だし!!


 随分と楽しそうな話でテンションがダダ上がる。だがもちろん、鵜呑みにするわけにはいかない。何せ相手は魔王なのだから。


「え?じゃあ、魔王を討伐しろっていうのは……」


「魔女の森の魔王は、ウ国侵攻での最大の障害だろうからな」


「そんな……」


 随分と軽い感じで家彰が肯定する。魔王の言葉というか、魔王と一緒にいるような奴の言葉を信じていいのかと思ってしまうのだが――


 守るどころか、戦争の下準備の為に召喚されて戦ってたなんてな……皮肉なもんだぜ!


 正直、テンションの上昇が止められない。魔王に協力して、王を討つ。王道でない上に、別段昨今では珍しいストーリーでもない気もする。だがそれでも、パーティーを追放された直後にこの話というのは、もう運命としか思えない。話の辻褄もまぁ合っている気もするし、こういうシチュエーションを求めていなかったかというと大嘘になる。


 どうせ寄生プレイで王女助けたところでオイシイ所持って行かれるだけだし?


「まったく、この程度の連中をいくら送り込もうとこの私が負けるはずがないだろうに……」


 やれやれと、うろんげに魔王は溜息を吐いて玉座に寝そべる。


 スゴイな……マジな強者の余裕を感じる。


「この程度とか、夢も希望もあったもんじゃ無ぇよなぁ……」


「まぁ、我は元々勇者等と呼ばれて良い存在ではなかったのだがな」


「パッと見で一番敵っぽいもんな、シュバルツ……」


 横で三人がどうでもいい言葉を交わしているが、今はそんなものどうでもいい。


 悲惨な前世に別れを告げて憧れのファンタジー世界に来て勇者になれたと思えばステータスが振るわず、挙句パーティから追放されて……出会った強そうなパーティーに寄生してざまぁを狙おうと思ったら、まさかそのリーダーの正体が魔王でこんなトンデモ話聞かされて……


「まぁとりあえず、このままじゃ話進まないし、俺の方から一から説明して――」


 燃える展開じゃないか……!ガルフ達が何も知らないで王様の命令通り戦ってる内に、僕は世界を救う。サイコーじゃないか!!


 寄生生物?ふん、こちとら寄生プレイで今まで生きて来たんだ、負ける気がしない!


 ガルフ、お前が歯噛みして僕を見上げる風景、思ったより早く想像出来るようになったよ……首を洗って、待ってるんだね。



家彰View


「で、俺達はウ国の姫と協力して――って、聞いてないなコレ」


 せっかく人が説明してやっているというのに、アレクは心ここに在らずといったふうに床を見つめ、気持ち悪い笑いを漏らしている。


「まぁ、色々価値観とかそういうのひっくり返るような話だしな。ちょっと整理する時間くらいやってもいいんじゃねぇか?で、俺等は流石にそろそろ出発しようぜ?」


「そうだな……あまりゆっくりしていて良い旅でもあるまい」


 ぐっと伸びをしながらの竜牙の提案にシュバルツも賛成する。たぶん、二人ともいい加減飽きて来ている気がする。


「あ――今日俺が御者か。なら、さっさと出るか」


 今日はシフト的にリルフィーが担当だが、昨日無理をさせてしまったので繰り上げるとすれば、自然と俺の順番だ。


「家彰さんはそんなことしなくても、そこの二人に任せておけばいいんですよ?」


「俺等の扱いよ……」


「ま、俺は普段の戦闘じゃ役に立てないし、これくらいはさ。じゃ、行って来る」


 ミアラの言葉は嬉しいが、甘えてばかりもいられない。俺は会議室を出て、そのまま馬車から一旦降りて御者台へ上る。


 ふぅ、やっぱ何か緊張するなぁ……


 手綱を握り、そのまま軽くパシンと出発の合図を送ると、二匹の馬はゆっくりと走りだす。


「よしよしよし、いい感じだ」


 これが勇者として必要な知識だからなのか、初期のEDUがギリギリ足りたからなのかは分からないが、問題無く馬を操れてしまう。道が舗装されていない為か、あのアニメとかでよくあるカッパカッパ言う音が聞こえないのが残念だが、正直、めちゃくちゃ気持ち良い。


 今俺、めっちゃ主人公してる気分!


 御者台に常備されている地図とコンパスを頼りに、街道沿いに馬を走らせる。なんともカーナビが恋しくなる作業だ。


 ホントにこの道で間違ってないんだろうな……


「てか、煙草も恋しくもなるなぁ……」


 この世界に煙草が無いわけではない。ただ、キツがあまり好きでないと言っていたので、身体が新しくなったこの機会に禁煙を始めたのだ。が、身体は変わってもそういった感覚は引き継ぐようで、この我慢もなかなかツラいものがある。


 MENの数値的にヤバい状況でも引く程冷静でいられるようになったけど……ニコチンに対しては別のパラメーターが影響してんのか?でもまぁ、可愛いキツの為だ。竜牙とシュバルツを含めて城の連中で喫煙者はいないし、誘惑が無いのをチャンスと考えないとな。何事もプラス思考だ……ふとした時とかキツいけど。


「それにしても……異世界っぽいよなぁ……」


 ヤニが欲しくなる欲求を忘れる為、澄み渡った青空を見上げる。朝の空気の中、小鳥の囀りを聞きながら馬車に乗るこの瞬間。この世界に来てから、一番異世界感のあるイベントな気がする。


 いやまぁ、異世界感ってのは既に嫌って程感じてるんだけども……魔王城に住んだり、リザードマンやらワーウルフと世間話したり、他の勇者と卓囲んで麻雀したり、etc。思ってたのと違うんだよなぁ……しかも今は魔王軍として王城を攻めに来てるわけで……


 つってもこっから先、また王城を攻め落とすとか勇者らしからぬイベントが待ってるし――


 深く考えるのはやめておこう。折角良い天気に絶好のシチュエーションなのだ。今くらいはゆっくり、この異世界感を楽しむとするか。

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