表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/44

少年の決意 その2

 家彰view


 魔王様が回復魔法で全員の二日酔いを治療し、酒場の店主に思った以上に膨れ上がった酒代を払った後、俺はキツを、シュバルツはマユラを背負い、土産を買った後俺達は村はずれに停めていた馬車へと戻っていた。


「夜番、ボクとロベるんの二人だけで回してさ……もう超眠くてさ……」


 そんな朝帰りの俺達を待ち受けていたのは、目の下に隈を作ったリルフィーの恨みがましい視線だった。


 まぁ、グレイ達は外に出れんし、そうなるとリルフィーとロベルトの二人で回すことになるわな……


「すまなかったな、リルフィー。今日は一日ゆっくり寝てくれ。あと、これは詫びだ」


「え?やったー!ありがとー魔王様―!」


 魔王様からバスケットに山盛りのリンゴを受け取った途端、リルフィーの機嫌がコロッと変わって早速ひとつ取って齧りついた。


「いや、ホント悪かった……」


「マジすまんかった……コイツは土産だ」


「……悪かった」


 そしてこっちはこっちで、勇者三人そろってロベルトに頭を下げる。なんとも情けない風景だ。


「はっはっは、そんなに気にするな。真夜中はグレイ達も協力してくれて、それ程ツライことはなかったからな。それより、後ろの子はどうしたんだ?」


 竜牙から土産の酒瓶を受け取るロベルトの言葉に俺達が振り返ると、そこには昨日自分のパーティーから追放された少年が立っていて、こちらを睨んでいる。


「ホントについて来るとはな……」


 朝まで遠回しに断り続けたんだけどな……これが最後のチャンスに縋りつくガッツから来るものなのか、はたまた素なのかで、悲しい前世の色々が見えそうだ……


「僕はアレク・アスガルト。付与術使いの勇者だ。アンタもこの人たちの仲間なのか?」


「俺か?ああ、仲間のロベルトだ。よろしくな、勇者殿」


「なぁ、ロベルトさんからも口添えしてくれないか?このパーティーに入れて欲しいんだ。僕には、見返したい相手がいるんだ!」


 グッと拳を握って熱弁する姿だけを見ると、普通にカッコイイ主人公だ。まぁ、それまでの経緯を見守っていた身からすると、相変わらずアレなわけだが。


「ほぉ……何とも穏やかじゃないな。だがこのパーティーに入りたいなら、俺に頼むより魔――ミアラ殿か家彰を口説いた方が早いぞ?リーダーとそのお気に入りだ」


「――え?そっちの二人のどっちかがリーダーじゃないの?」


「ん?俺等?」


「――ふん、ガラではないんでな」


「え?じゃあ、アン――貴女が……」


 指された竜牙とシュバルツが揃って否定したことにより、ついにアレクの目が真っ直ぐに魔王様を捉えた。


「――そんなに意外か?」


 が、そのやり取りによって既に魔王様は少し臍を曲げていた。


 まぁ、こう言っちゃなんだけど、人間状態の魔王様はただただハイレベルな美女であって、戦闘力が高そうには見えないもんな……踊り子的なサポート職とかにいそうな気がする。


 対人で舞われたら視線が強制固定されること請け合いだ。


「い、いや、そんなことは……えと……お願いします!僕をパーティーに入れてください!」


 俺は見た。何の躊躇いも無く土下座したアレクに、魔王様がちょっとビクッとしたのを。


 完全に引いてるな……


「まぁよい。ざまぁについてもだいたい分かったしな。では小僧、これから私が訊くことに正直に答えよ。まず、お前が見返したいと思っている相手とは誰だ?」


「はい……前のパーティーの仲――奴らです」


 仲間と言いかけて口元を歪めて言い直したアレクの表情が、やけに印象に残る。


 まぁ、あんな一方的に縁切られりゃ、もう仲間じゃないわな……


「では、どうすれば其奴らを見返すことが出来ると思う?」


「アイツらより強くなって、先に魔王を倒します!」


「ふむ……却下だ。他には?」


「他――ですか?えと……」


「例えば、お主が強くなってそのパーティーメンバーを全滅させるというのはどうだ?魔王を倒すなんて絵空事よりは現実的だろう?」


「それは……いや、確かにそれでも見返したってことになるだろうけど、ダメだ。名も無いパーティーを全滅させたところで、誰も僕を認めない。ざまぁっていうのは、圧倒的な差を見せつけないといけないんだ。それこそ、国に認められるくらいの偉業が必要なんだ!そもそも、倒しちゃったら、これから先の僕の活躍をアイツらに見せつけられない!だから、それはダメです」


 ああ、全滅イコール皆殺しなのな。意味的には合ってるけど、たぶんこの場合ニュアンス的には違う気するけど。


「なんか面倒くさいな、主……まぁいい、分かった。ならこれが最後の問いだ。先程偉業が必要だと言ったな?その偉業と言うのは――この国を支配するというものでも良いのか?お主の見返したい者達も帰る場所を失うだろう。そこで手を差し伸べてやればよい。今まで感じたことも無い程の優越感となろう」


「あ?え、と……国を、支配する……?」


「ああ、この国をな。勝手にお主を召喚し、理不尽に魔王を倒してこいと叩き出したこの国の中枢をお主の手で滅ぼすのだ」


「国を、亡ぼす……え?いやでも、僕は勇者で……」


「率直に答えろ。これはお主の基準ではアリか?ナシか?」


「……」


 見るからに悩んでいる。悩んでいるのを良心と取るべきなのか、悩んだ時点で終わりと言うべきなのか……つっても普通、勇者を自称するなら絶対選ばない選択肢だろうに。コイツが魔王のところに辿り着いたら、世界の半分で簡単に寝返るぞ……


「ア……アリ、です」


 しかも結局転ぶし。


「ふむ……少々不安は残るが、十分とするか。人手があるに越したことは無い。とりあえず使ってやる」


「ほ、ホントに!?ありがとうございます!!」


「さて、詳しい話は中でしよう……竜牙、先に入ってグレイ達に部屋で待機するように伝えて来てくれ。その後でリムからリングを貰って来てくれ。私がそう言っていると伝えれば用意してくれるだろう。シュバルツと家彰さんは、二人を部屋に運んだら奥の部屋で合流を。ロベルトとリルフィーは、ありがとう。今日はゆっくりと休んでくれ」


 と、魔王様は全員に指示を出し、俺達がそれに従ってゾロゾロと幌の中に入っていく風景に、アレクはギョッと目を剥いた。


「――え?何コレ!?サザエさんのエンディング!?てか魔法の馬車!?」


 幌の中は明らかに荷物が満載で、ここにいる全員が乗れるスペースがあるように見えない。そこに5人以上の人が消えればそれはもう事件だ。


 さて、ここは俺の出番かな。


「ミアラ、捕まって」


「――ありがとうございます」


 先に荷台に上り、ずり落ちかけていた背中のキツを背負いなおし、魔王様の手を取って引き上げる。そうしないと、まだ魔王様は足に慣れていないのだ。


 まあ、普通に歩けるだけで十分スゴイもんな。


 俺は早足でさっさと中に入り、部屋に戻ってキツをベッドに寝かせ、すぐに馬車の中に入った魔王様の下に戻る。そこではアレクが豪華な内装に口をポカンと開いていた。竜牙が指示通り伝言を伝えて行ってくれた為だろう、魔王様が戻ったにも関わらずリザードマン一匹出てこない。


「ミアラ」


「――もう、ちょっと照れますね……」


 軽く肘を曲げて差し出した腕に、魔王様が手を添える。


「お姫様抱っこも考えたけど、そっちの方が良かった?」


「……二人だけのときに、お願いします」


「りょーかい。奥の部屋って、突き当りのいつもの部屋でいいの?」


「ええ、あそこです」


 ギリギリと、アレクの方から歯噛みする音が聞こえて来たが無視しておこう。


 俺はミアラと一緒に、アレクを引き連れて通路の先にある会議室へ向かうのだった。



 アレクview


 選択、ミスったかな……


 目の前を、これ見よがしにイチャ付きながら歩く二人。男――家彰は見るからに戦った痕跡を感じさせない、しかもどこかの忍者並みに目立つオレンジ色の鎧姿で、それにエスコートされるパーティーのリーダーの女――ミアラは、露出過多のドレスで引く程の色気を振り撒いている。


 一応、家彰の方は僕と同じで転生者らしいけど……どう見ても城にいた貴族連中と同じような絵面なんだよな……


 お約束的に言えば部下に命令するだけして、いざ自分が危険に晒されるとてんで弱くて即殺される。そんな役所だ。


 まぁ、酒場での雰囲気はそんな感じじゃなかったけど……でも、コイツ等毎回こんななのかな……嫌だなぁ……


 そんなこっちの気持ちを知ってか知らずか――いや、完全に見えてないな。どんどん通路を進む二人の後をついていく。左右の壁に等間隔にドアが並んでいて、昔社員旅行で泊まった高級ホテルのような造りをしている。


 にしても、これって空間魔法とかそういうのなのか?馬車の中にこんな広い空間とか、どうなってるんだろう……


 こういう成金感のある魔法道具持ってる辺りが更にダメ貴族っぽい等と思っていると、ついに通路の端に辿り着いた。そこには両開きのドアがあって、家彰が開けたその先には、ちょっとしたホテルのホール並みに広い空間が広がっている。


 いや、広いってか……長いな。しかも何もない。ドラクエとかで王様が居そうというか……


 奥まで二、三十メートルはありそうな長い部屋に、入口から続くレッドカーペット。そしてその先には金色に輝く玉座――っぽいソファーがある。それ以外は特に何も無い。いや、そのソファーの横に竜牙とシュバルツが控えてはいる辺り、圧倒的に玉座の間っぽい。


 そういえばシュバルツに竜牙……漆黒の牙の勇者に、青鎧の勇者。王都で何度も聞いた、凄腕の勇者だけど……本物?いやでも、あれが玉座だとしたら……


「さて、じゃあアレクはここで。ミアラから説明があるから」


 僕は玉座っぽいソファーの前で、家彰に止められる。そしてそのまま彼はミアラに手を貸して彼女をソファーへ届け、竜牙達の隣に並んだ。


 そこは一緒に座るんじゃないんだ。ならそのソファーそんなサイズいらないじゃん……


「さて、話と言ったが――どう話したものか……先程の話が全てだ」


「いや、説明してやれよ……さっき外で話してた内容ってただのテロリストだかんな?」


 ソファ―に身を投げ出したミアラから説明する気皆無な説明が飛んできて、すかさず竜牙のツッコミが入った。あとの二人もうんうんと頷いている。


 良かった。サイドの三人は比較的良識人らしい。いきなり話終わるかと思った……


「冗談だ。正直面倒だが、まぁ論より証拠。見れば分るだろう。竜牙、リングは持っているな?」


「おう、これでいいんだよな?」


 竜牙が確認の為に掲げたのは、黒い金属の輪っか――腕輪だった。


「ああ。ではそれを小僧の腕に」


「ん?ああ……」


 竜牙が僕の左腕に、腕輪を通す。手から嵌めれるようなサイズから分るように、ブカブカで、腕を上げておくか、もう片方の手で押さえていないとズリ落ちて外れてしまう。


「さぁ小僧、最後の確認だ。本当に私達と共に来るのか、このまま何も見なかったことにして帰るのか」


 ミアラの表情は、相変わらずベールの向こうでほぼ分からない。ただその口端が歪に吊り上がったのを見た。引き返すなら、これが最後のチャンスということだろう。


 正直言って、どうでもいいわ。どうせ行くあても無いんだ。それに、本物かどうかは分からないけど、あの竜牙とシュバルツの装備が一級品だっていうのは分かる。それにこの馬車だ。おそらく、この連中のギルドランクはガルフ達なんて及びもつかないAランク越えだ。だったら、断る理由なんてない。見てろよガルフ……このパーティに入って先に魔王を倒せば、僕がヒーローだ!リリィ……いや、もう関係ない。ヒーローになった僕を見て、後悔すればいい……!


「連れて行ってくれ、何だってする!僕はもう、引き下がれないんだ!」


「ハーレム作る為にか?」


「違ッ――わないけど……それよりも、僕は見返したい!僕をお荷物扱いしたガルフ達を!でも、僕はこんなレベルで……もうアンタ達に見放されたら、次は悪魔にでも魂を売るしかないんだ!!」


 なんとも慈悲の無い問いにもういっそ胸の内をぶちまけると、ミアラは満足そうに頷いた。


「悪魔に魂か……誠面白いことを言うものだ。まぁ、その覚悟があるなら私が貰っても構わんだろう。その腕を出せ」


 ミアラはゆっくりと立ち上がり、こちらへと歩み寄ってくる。“その腕”とは、まぁ間違いなく腕輪を付けた腕だろう。俺が左腕を差し出すと、彼女はそっと腕輪に触れる。


「――コントラクト」


 その短い言葉が紡がれた瞬間、黒い腕輪が縮み、俺の手首ピッタリのサイズとなる。不思議と締め付けは無く、本当に丁度良いサイズだ。


「おぉ!」「え?すっげ」「――ふん、悪くない趣味だ」


 サイドの三人もこれは初見だったようで、分かりやすく驚いている。いや、最後のシュバルツはちょっと違う気もするが。


「ふむ、上手くいくものだな。さぁ、よくその目で見るがいい」


 そう言って、ソファーへと戻ったミアラのその手が、その御御足を覆うスカートの中へと入っていく。右手、そして次いで左手。抜き出されたその左手には、小さな黒い布。


 ――あれは、紐パン!?何だ!?何が始まるんだ!?


 突如始まったストリップショーにテンションが上がる中、更に艶めかしい吐息がその口から漏れる。


「大丈夫?ミアラ」


「あ……家彰さん……」


 クソが。そんな言葉が口から出なかったことを誉めてもらいたい。悩まし気に身を捩るミアラの両手を、家彰がギュッと握る。


 何これAVの撮影か何か?


「あ、ん……あぁ……」


 そんな嬌声に交じり、今度はメキメキという何か湿った音が混ざり始める。いや、それからすぐ大きな変化が訪れた。そのスカートの中から、何かが猛スピードで伸びた。


「――ふぅ。ありがとうございます、家彰さん」


「正体、見せちゃって大丈夫?」


「その為のスレイブリングです。問題ありませんよ」


「そっか。まぁミアラがそう言うんなら大丈夫か」


 家彰がミアラから離れていく。何かを話していたようだが、内容など入って来ない。それよりも、何で家彰や他の二人もアレを見て反応しないのか。


 何で……何で、魔物が……ラ、ラミアの属性って、えっと……


「驚いているようだな。どうした?声も出ないか。まぁいい、そのまま黙って聴いていろ」


 シュルシュルと、まるで蛇が獲物に喰い付こうとするかのように伸びあがり、彼女は宣言した。


「私が当代の第十七魔王、ミアラだ。よろしくな?勇者」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ