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第二話 戦場は魔王城 その1


「アレが魔王城だ」


 森の木々が途切れて視界が開けた先に、エメラルドグリーンに輝く巨大な湖が広がっていた。そしてそれを臨む切り立った崖の上に聳える、デザイナーの美的感覚を疑うような黒く禍々しいTHE・城といった風情の建物が見える。


「壮観じゃなぁ。いろんな意味で風情もある。のぅ?主様」


「ああ、一目で魔王城!って分かるもんなぁ」


「今代の第十七魔王、ミアラ様が御自ら陣頭指揮を執られ、全面的に改装された城だからな」


 俺とキツが感心していると、グレイが補足情報をくれる。


「魔王様、結構そういうの拘るタイプなんだな」


「美意識の強いお方でな……男漁りをもう少し控えてくだされば、良い主君なのだが……」


 あの手のデザインで美意識云々言えるのは、魔物ならではの思考だろうか。


「まぁ、英雄色を好むと言うしの。強い者の特権というものじゃろ」


 ここに辿り着くまで体感で三時間近く歩いただろうか。なんやかんやあって俺たちは打ち解けて、グレイから色々な話を聞かせてもらっていた。


 しかし、この世界に魔王が全部で三二体も存在して、これから会う予定のこのマナカ山脈を統べる魔王ミアラが、隣国の姫を攫って定期的にイケメンを供給させる面食い魔王とはな……


 グレイには悪いが、これはお姫様を救い出し、勇者として国に招き入れられるパターンといったところだろう。


 やっぱり異世界転生ってのは、こうでないとな!


 俺たちはグレイの案内ということもあり、あっさり魔王城へと入り、魔王様への謁見までのとりあえずの控室として、そこそこなレベルのホテルのような部屋を都合してもらった。


「あ――やっと一息吐けるな」


 そこそこ歩いたので足が疲れていたのだ。ベッドにダイブすると、モフっと柔らかく全身を受け止めてくれる。


「主様、部屋風呂もあるようじゃ。すまんがこの手では蛇口が捻れん。少し湯を溜めてもらっても良いかの?」


「おぅ、なら一緒に入るか。洗ってやるよ」


 反動をつけて起き上がり、キツの声が聞こえてきたバスルームへと向かうと、そこには大理石で作られたような立派な浴場が広がっていた。


 正直、ユニットバスだと思ってたんだけどな……まぁ、この世界にユニットバスがあるかどうか知らんが。


 とりあえず、風呂という文化があったのが、日本人としてはありがたかった。


「しっかし、このデカさだと湯が溜まるのは随分と――」


 いや、違う。頭に情報が浮かび上がる。これは魔法道具だ。蛇口のような器具に手を翳し、そこから魔力を流す。すると浴槽の底から湯が沸き出し、瞬く間に浴槽を満たした。


「おお!EDUの低さが心配じゃったが、流石主様じゃ!」


 称賛なのか何なのか分からないことを宣って、キツはジャポンッ!と湯舟へと飛び込み、犬かきならぬ狐かきで淵に掴まってダレる。


「ふぃー、ええ湯じゃぁ……」


 蕩けているキツをゆっくりと眺めていたい気もするが、俺もさっさと服を脱ぐ。


 そういや、この後魔王様に謁見するんだったな……お姫様の件もあるし反目するのは決定事項としても、一応身なりは整えとくか。まぁ、革の鎧しか装備品ないけど――ん?


「誰これ!?」


 思わず叫んでしまった。


「どうしたんじゃ?主様」


「いや、まぁ、普通に考えりゃ俺なんだけどさ……」


 目の前にある鏡。そこに写るのは、テレビで引っ張りだこにされるレベルの美少年だった。


 若い……いや今のこの身体が何歳か分からんが、10代で十分通じるな。むしろ未成年に見える……でも髪の毛ふっさふさだ!髪の毛、ふっさふさだ!!


 個人的に髭が無いのが気になるが、それも好意的に捉えればテレビの前の奥様方には間違いなくウケる顔だ。これでトーク上手く回せれば、将来は安泰だな。お芝居でも可だ。


「前のままでも男前じゃと思っとったが、今は輪をかけて男前じゃぞ、主様。ワシもうホクホクじゃ」


「これがAPPカンストさせた結果か……てか、何基準のイケメンだよこれ。神様ショタコンか?」


 日本人顔で、醤油顔というよりも塩顔だろう。分かりやすいイケメン顔というか、誰に対しても何とでも言えるイケメン顔、だろうか?


 日本国民が考える、イケメン顔の最大公約数といったところだろうか?結局人によるだろ、こんなん。個人的な憧れを言えば、もっと醤油顔で男らしい感じが良かった。


「まぁそんなこと今は良いではないか。それよりも主様、良い湯じゃぞ?」


「それもそうだな」


 答えの出る問題でもなし、俺は深く考えるのはやめて、キツと一緒に風呂で旅の疲れを癒すのだった。



 ***



「さて、着替えは無いから結局このままなんだよなぁ――ん?」


 風呂から上がり、とりあえず転生時に着ていたロングTシャツとジーパンを履こうとして、違和感を感じた。


「裾が足らんジーンズは正直ダサいのぉ……」


「ベルトも、普段使ってる穴より三つも絞れる……」


 魔王城までの道中はそんなに気にならなかったが、どうやら体格も変わってしまっているらしい。足が伸びているのは良いが、APPがカンストしているのだから、革の鎧以外にももっとそれらしい服飾品なんかを一緒にくれてもいいのにと神様を呪った。


「これ、顔の良さだけで誤魔化し利かんぞ主様。絶対皆笑いよるて」


「つってもこれしかねぇしなぁ……ああ、でも俺長靴履いてるし気づかれんわ。袖は巻くっときゃいいだろ。これで上に革の鎧装備して――ほらそれっぽい!」


現在の装備

・ロングTシャツ

・ジーパン

・革の鎧

・長靴


 Tシャツのワンポイントになっている世界人気ナンバーワンのネズミの顔も、革の鎧が隠してくれているのでギリギリファンタジー感のある出で立ちと言える気がする。


「何となく田舎臭い恰好じゃが――まぁ勇者の最初ってそんなもんじゃよな」


「2は王子だったけどな……」


 そんな王子の初期装備が革の鎧ってのは、結構無慈悲だと子供心に思ったもんだ。


「そうじゃ、主様よ。忘れん内に室内のアメニティグッズを回収するぞ。この後この部屋に戻ってくるかも分からんし、今後の生活に必要になるもんじゃしな」


「あ――なんかRPGゲームっぽい」


 まぁ、歯ブラシとか櫛は今後も必要だし忘れず貰っておこう。


「テンション上がっても壺は割るなよ」


「それは俺もちょっと悩んでたとこだ……」


 なぜか部屋の隅から壁に沿って並ぶ壺が三つ。しかも床に直置きだ。この世界観でコレはもう割ってくれと言わんばかりではないか。


「そういうお約束につけ込んだ罠かもしれん。今はワシら一文無しじゃし、冒険はやめといた方が無難じゃろ」


 どう考えても冒険が醍醐味であろうこの世界で冒険を禁止されてしまった。


「どの世界も世知辛ぇなぁ……」


 部屋の引き出しという引き出しの中を確認しているとグレイが呼びに来たので、一緒に魔王様のいる謁見の間へと向かう。来るときは気にしなかったのだが、道すがらにいる使用人は皆男で、若い執事といった風体の奴らばかりだった。なんともつまらん城だ。


 てか今んとこ獣か男しか出て来てねぇよ……アレな神様以外。


「さて、これから魔王様に御拝謁してもらうわけだが、心の準備は万全か?勇者よ」


 巨大で豪奢な扉の前で、グレイが振り返って訊いてくる。こちらの世界に来てまだ間もないのに最終戦感を匂わすのはやめてほしい。


「まぁ、なるようになると思っとくよ」


「流石はワシの主様じゃ。肝が据わっておる」


「ふん……まぁ、お前らのことは嫌いじゃない。頑張ってこい」


 グレイが踵を返すと同時に、巨大な扉が開いていく。その先にはレッドカーペットが伸びていて、この距離では分かりにくいが、その最短には金色のソファーのようなものが見えた。


「進め」


 扉の前のイケメン執事に促され、俺とキツはゆっくりとレッドカーペットを歩みだす。演奏隊が奏でる出囃子がちょっと嬉しい。


 両サイドの壁には、またしても執事服の男が並んでいる。帯剣していることから、部屋の外の執事とはカテゴリーの違う執事なのだろうか。


「はぁ……一回でいいからこんなとこ住んでみてぇなぁ」


「主様、あんまりキョロキョロしてたら田舎者と思われるぞ?」


「まぁ別段、都会っ子でもないけどな」


「どこの世界でも、都のヤツらは調子こいとるもんじゃ。弱みは見せんに限る」


「そんなもんか」


 俺たちが内心の緊張をひた隠しにレッドカーペットを進んでいると、目の前に進み出た執事二人が、手に持った巨大なハルバードをガチャンと交差させ、歩みを阻む。おそらく、ここで止まれということなのだろう。すぐ先には5、6段の段差があり、その上に横長の玉座があった。


 おお、何かそれっぽいそれっぽい!


「お主が新しい勇者か。此度はよく招きに応じてくれた。誠大義であった。私が当代の第十七魔王、ミアラだ。肩ひじ張らず、よろしくしてくれると嬉しい」


 最初こそ真面目っぽい口調だったが、最後の方はわりと砕けた言い回しだった。はずなのだが、なんとも尊大に聞こえるのだから魔王様のカリスマが凄い。


 玉座に片ひじをついて横たわり、圧力のある視線で俺達を見下ろす魔王様は、息をのむ程のたわわな果実を実らせていた。H――いや、Iか?アニメに出て来そうな程の巨乳が、彼女のそんな姿勢にも拘わらず、垂れるでもなくソファーに接触して柔らかく形を変えていた。そしてそこにかかる亜麻色の髪がたまらなくエロい。


「魔王様におかれましては、ご機嫌麗しゅう。本日はお日柄も良く、ありがたき幸せに存じまする」


 そんな巨乳に魂を奪われてしまっていたが為、意味の分からない返答をしてしまったことに、言い終わってから気づいてしまった。


「ふふふ、可愛いなお主。まぁ私の魅力に我を忘れる者など珍しくもない。どうだ、もっと近くへ来てその顔を見せてくれんか?」


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