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第18話 新章プロローグ!ある勇者の身の上

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 夕刻程の賑わいは無いが、夜が更けた今も荒くれものの冒険者たちの溜まり場である酒場からは、笑い声や罵声が絶えない。この賑やかさで店のテーブルの半分ほどしか客がいないというのだから、あの日本と言う国では考えられない状態だ。



「悪いな、アレク。俺はパーティー皆の命を背負ってるんだ。だから、お前にはパーティーを抜けてもらう」



 そんな中にも関わらず、彼の声はとてもよく僕の耳に届いた。


 それは、丸いテーブルを挟んで僕の正面に座る大剣を背負った偉丈夫――パーティーのリーダーであるガルフが、とても冷たい目で僕に言った言葉だった。


「な、ちょ、ガルフ、何も追放なんてしなくても――」


「お前は甘いんだエミリー。コイツの所為で何度俺達が死にそうになったか忘れたのか?森の奥に行くほど敵は強くなる。無能な付与術師を守って戦う余裕なんか、とうの昔に無いんだよ」


 僕の右隣りに座る、白い外套を目深に被った白魔導士のエミリーが庇ってくれようとしたが、ガルフの言葉に口を噤んでしまう。


 正直攻撃では役に立たない僕が、皆の足を引っ張っている自覚はあった。でもそれでも、ずっとこのパーティーでやって来たのに……なんで、今更?


 ガルフの目、本気だ……とにかく、今は何が何でもパーティーに残らないと!


「ぼ、僕がいなくなったら、誰が戦闘で属性を付与するのさ!?」


「そんな役に立たん魔法なんざ端から当てにしてないんだよ、俺達は」


 有無を言わせないとはまさにこういうことだろう。僕の言葉など意にも介さず、ガルフが立ち上がる。身長2メートル近いその巨体とその黒い鎧が放つ威圧感に、僕の次の言葉は喉につっかえて出なくなってしまう。


「これは選別だ。安心しろ、俺達が魔王を倒して平和な世界を取り戻してやるさ」


 そう言ってガルフがテーブルに置いた小さな革袋の中から、カランと金貨が一枚零れた。同じものが袋の中に詰まっているとすれば、相当な大金だ。これが手切れ金ということなのだろう。


「いくぞ、エミリー、サザンカ、リリィ」


 椅子を蹴り飛ばすように立ち上がったガルフに呼ばれた三人の少女達も、僕とガルフの間で視線を彷徨わせつつも、静かに席を立つ。


 分かっていたことだ。僕と一緒にいたところで、これから生きていける保証など無い。あの背中に担いだ大きな剣を軽々と振るうガルフについて行くのが、どう考えても自然な流れだ。


 でも、だけど……!!


「ま、待って……――リリィ!!」


 酒場から立ち去ろうとする背中に、そのピンク色のマントを纏った小柄な背中を呼び止める。すると、ピタリと彼女の歩みが止まった。


 リリィ……――よし!伝えるなら今しかない!


「魔王を倒したときに言おうと思ってたんだ!ぼ、僕は、君が好きだ!!君さえいてくれたら、僕はもう何もいらない!!」


 一気に全てを言葉にした。心臓が今まで感じたことがない程に早鐘を打ち、息が乱れる。一瞬が、とても長い。どれくらい待ったのか、この時間感覚の中では、もはや分からない。僕の全てを賭けた言葉の答えは、振り返ることなく再び歩き出した、その後ろ姿だった。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・



 サ国というこの国に召喚されて、どれくらい経ったのだろう。


 日本と言う国に生まれて四十余年。良いことなんて何一つ無い人生だった。学生の頃はいつも他人の引き立て役。コンパではいつも隅で独り酒、手酌酒。話した女の子から番号やアドレスなんて貰えた試しなど一度もない。社会人になり、年下の可愛い彼女が出来たかと思えば、散々貢がされた上に捨てられて、一人で入ったカラオケでいいわけを熱唱。せめてシングルベッドが歌えるくらいの関係だったらどんなに良かったことかと思いながら、こんな俺を慰めてくれた一回りも上の会社の先輩に恋愛感情を抱くも、部長がやらかしたことで彼女は職場を去り、そこから音信不通。取引先との飲み会でもチャンスにありつけず、婚活サイトに登録したら結婚詐欺だ。なけなしの意地も自信も金も失って、最後は一人暮らしのアパートの風呂場で頭を打って昇天。


 そんな哀れな僕に、もう一度チャンスを遣ると神様がくれた新しいこの人生。勇者として召喚され、王様から魔王から姫を助け出してくれと頼まれた。


 あぁ、前世の不幸はきっとこのときの為にあったんだ!


 そんなふうに喜んだのも束の間。その国には他にもたくさんの勇者がいて、同じ勇者であるガルフ達と一緒にパーティーを組むこととなった。だが、最初こそ勇者が複数存在することに落胆したが、それでも大好きなRPGのようなこの展開に、心の底から湧き上がるワクワクは止まらなかった。


 今生は違うんだ。それにこのパーティー、男女比は2:3。カッコイイところを見せれば、きっと僕だって!


 そんなふうに思っていた。なのに、いつからだろう。皆との力の差を感じるようになったのは。ガルフが攻撃、サザンカとリリィが攻撃魔法、そしてエミリーが回復。そして僕は、補助魔法。敵に対して有利な属性を付与するといっても、一番肝心な初見の敵に対しては探り探りで役に立たず、かといって一度攻略方法を確立した相手には不要となる場合が多い能力だ。


 ああ、改めて考えても要らない能力だ……でも、そんな僕に対して、エミリーもサザンカも、リリィも優しかった。優しかったのに……リリィ……


「店員!まだまだ足りんぞ!もっと清酒、じゃんじゃん持って来てくれ!!」


 人が感傷に浸っているというのに、隣のテーブルからはお構い無しに店員を呼ぶ大声が上がる。白いワンピースを着た随分と小柄な少女が、空の瓶をユラユラと揺らして店員にアピールしている。


「葡萄酒も頼む。血のように赤いものをな」


 そんな少女の横で、気取って注文している黒い鎧の銀髪男にガルフの姿が重なり、無性に腹が立ってくる。ガルフのようにガタイがいいわけではなく、どちらかというと鋭いナイフのような印象を受ける男だが、黒い鎧という点だけで、今の僕の目には重なって見えてしまう。


「何かツマミも足りねぇよな……マスター、もう何品かオススメの肴頼んまーす!」


「あと肉系の何かも頼まぁ!」


「お前ら……大丈夫か明日……」


 何処かで見たような青い鎧を着た大男が追加注文をかけ、革鎧を纏ったガラの悪そうな赤髪の女がそれに便乗する。そんな仲間を見ながら眼鏡をかけたオレンジの鎧の少年が頭痛を堪えるように額に手を遣る。


「まぁまぁ、皆ここのところ息苦しい思いをさせてしまってますから。ガス抜きは必要ですよ。ほら、家彰さんもどうぞ」


 そう言って、オレンジの鎧の男の隣に座る黒いドレスを着た妖艶な女性が、彼のグラスに葡萄酒を注ぐ。美人だとは思うが、顔を隠すベールを付けているせいでよく分からない。


 何とも楽しそうな絵面だ。人が今までの人生で一番ダメージ受けてるタイミングで、しかもすぐ隣のテーブルで、よくこれだけ騒げるものだ。


 なんだろう……この心がざらつくような感覚は……くそっ、涙出て来た……


 そんなとき、目の前でコトッと音がした。


「色々あったようだが、お前も飲め。こういうとき、酒に逃げるのも一つの手だ」


 黒いドレスの女性がこちらへ来て、テーブルに置いたグラスにトポトポと葡萄酒を注ぐ。近くで見るとスタイルもそうだが、ベールの下の気が強そうな、怜悧な美貌に思わず息を呑む。サラサラと流れる亜麻色の髪が、黒いドレスに栄えていた。


「さ、遠慮せず飲め」


 勧められた酒を、僕が一気に飲み干すと、もう一度トポトポと酒が注がれる。


「自分をフッた奴ことなど忘れてしまえ。何なら私の物になるか?可愛がってやるぞ?」


「ミアラもだいぶ酔っとるのぉ。なら、ワシが主様を独占してよいということじゃな?」


「いいわけないだろ!家彰さんは私の伴侶となるのだ!」


「何度も言っとるじゃろ!少し貸してはやるが、伴侶までは許さんと!」

「お前はいいだろう!家彰さんが誰と結ばれようと、ずっと隣にいられるんだ!なら、伴侶くらいは譲ってくれても!!」


「阿呆!ワシだって伴侶になりたいに決まっとるじゃろ!!」


「それは欲張りすぎるという――」


「あー!もう!!何なんだよお前ら!?こっちはパーティー追放された上にフラれてんだよ!!なのに、なのに……見せつけちゃってさぁ!!」


 思わず叫んでしまっていた。コイツ等は人の傷口に塩でも塗り込みに来たのか!?


「知るか!フラれたのはお主の問題じゃろ!女も繋ぎ留めておけんヘタレが何生意気抜かしとるんじゃ!!」


「少々顔がいいからと調子に乗るな下郎が!そもそも大の男がメソメソメソメソと、恥ずかしくないのか!?」


「え、あの……」


 白い少女と黒い女性にギロリと睨まれ、思わず背筋に怖気が走る。まるで、高レベルの魔物を相手にしたときのような絶望感が身体を支配し、マトモに話すことも出来なくなってしまう。


 何、この圧力……森の魔物でも、こんなには……


「待て待て二人とも、お前らに詰められたら誰だってそうなるわ。バアさんも魔――ミアラも、ほらほら、俺が酌してやるから」


「「いらん!!」」


「意外と傷つくな……」


 仲裁に入った青い鎧の男が、サラウンドで拒絶されて目に見えて凹む。少し親近感が沸いた瞬間だった。


「キツ、ミアラ、ごめんな……でも俺、本当に二人共同じくらい大事だから……」


「――まったく、家彰さんは優しすぎるんですよ」


「ふん、まぁ今日のところはそれで勘弁してやろう。どうせ何を言ったところで変わるもんでもないんじゃろうしな」


 何なんだろう、コレ。青い鎧の男のときと違って、オレンジの鎧の男が優柔不断限りないことを宣った瞬間、二人の態度が目に見えて軟化する。


「何だこの茶番!!」


 思わずあらん限りの声で叫んでいた。それは、今までどんなピンチに陥ったときにも出なかったような声だった。


「いいぞもっと言ってやれ!マジでムカつくぜ。口じゃ困ってる風に言いやがって、顔ニヤけてんだよ!デレデレデレデレデレデレデレデレしやがってよぉ!」


 赤髪の女が加勢してくれたと思えば、だがそれは聞いてみれば、明らかに、少年への嫉妬から生まれた言葉だということが分かる。


「もう離れたとこでやってくれよぉぉぉぉおおおおお!!」


 僕は、勇者になって初めて人前で号泣した。


 この連中の賑やかさに、失った日々に対する喪失感が追い付いて来たのだろうか。それとも、単純に嫉妬だろうか。今の僕には、分からなかった。


 いや、分かるけどさ……惨めだよ……


 ホントにもう、この人達どっか行ってくれないかな……


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