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魔王軍、出撃!! その2

 祠の部屋へと降りると、そこには既に皆が揃っていた。部屋の中央ではキツを前に、竜牙とシュバルツが地べたに座禅を組んで瞑想している。そんな二人の目の前にはそれぞれ三枚ずつ、青白く光る御札が浮かんでいる。


 かなり安定するようになって来てるな……魔王様には休むって言ったけど、俺も用事済ませたらもうちょっと練習しとくか……いまだに一枚しか浮かべられんし……


 そんな三人とは別に、壁際に並べられた机に向かって紙に筆を走らせているのは、ロベルトにシーナさん、リルフィーの三人。キツが作った御札を参考に、それを量産するという仕事中だ。この御札は蛭子様の力が満ちるこの部屋でしか作れない為、自然と作業をするのは人間となる。ジャックとマユラの二人はマトモに筆を扱えなかった為、戦力外通告が出たのは言うまでもない。


 しかも、作った御札を使えるのは元居た世界の神様――というかもっと限定的に日本の神様の祝福を受けて転生した奴だけってんだもんな……まぁ、そのおかげで竜牙とシュバルツもいざって時の戦力に数えられるようになって、若干肩の荷は軽くなったけど。


「おっす、遅れて悪い」


「まったく、一晩中何処で何しとったんかは訊かんが、その調子じゃと調整は済んだようじゃの?」


「おぅ。色々やってたら朝になってたけどな。ちなみに、流石にこんなタイミングで疚しいことはないからな?大事なお前の為でもあるからな?」


 本気で集中して頑張ったにも関わらず、キツの視線に疑惑の念を感じたので、とりあえずその頭を撫ぜて真意を伝えてみる。


「その割にはミアラの匂いがするわけじゃが……ふん、ワシには関係ないことじゃの」


「いや、これはさっき廊下で会ったからでな!?マジで!マジでずっと朝まで作ってたから!信じてマジで!!」


 こんなときにそんな不謹慎なことは流石にしない。いや、行為的には俺も死地に赴くわけで、別段不謹慎というわけではない気もするが……


「――ふふ、冗談じゃ。流石に信じとるよ。で、数は揃うんか?」


「四本だ。マジヴァイス部分に使う鉱石が足りない」


 マジヴァイスはアンロン鉱と言う名前の希少鉱石が核部分に使われていて、これが城中を探しても物置で少量見つかった程度だったのだ。


「少ないの……いや、想定外の武器が用意出来ただけマシと思うべきか……」


 キツが難しい表情を浮かべたが、思い直したように頭を振ってプラス思考に切り替えて続ける。


「竜牙、シュバルツ、もう良いぞ。二人ともよぉ頑張ってくれた。今日は明日に備えてゆっくり休め」


「あ?マジでもういいのか?」


「ふぅ――ありがたいな。このまま瞑想を続けていれば、いずれ目の前の闇に飲まれかねん……」


 二人がそれぞれのリアクションで目を開くと、集中が切れて御札がふわりふわりと地面に落ちた。


「ここ最近朝から晩までコレだったからな……いやまぁ、戦えるようにしてくれって言ったの俺等なんだけどな?……」


「新たなスキルを得るのがこれ程の苦行とは……認めよう。正直舐めてた……」


 二人シンクロしたように座禅の足を解いて、そのまま立ち上がることなくバタッと背中側に倒れる。そんなところ悪いのだが……


「お疲れだな。ちょっと二人に使って貰いたいんだけど――大丈夫か?」


「「足の痺れが取れたらな!」」


 見事にハモッた二人がそのまま笑い出し、それに釣られて俺もキツも、御札を書いていた三人も笑い出す。何とも平和な光景だ。それも明日から当分見れないかもしれないとなると、思ったより心がざわつくものだ。


 その後、別に待ってる必要も無い気がしたので寝転がっている二人に創作武器を試してもらったところ、無事刀身が構成された。もちろん、途中でオーバーヒートを起こしたり、妙な発光とかはしない。ただ、勇者以外のロベルトやシーナさんではうんともすんとも動かなかった。キツが言うには、御札同様で俺達が元居た世界の神から得た祝福が関係しているようだとのことだった。


 そういや、基にしたマジヴァイスの使用条件がそんなだったっけ……戦力は増えない、か……んや、そもそも剣を使う二人に有効打与えられる剣を提供出来たんだったらプラスか。


 確認が終わった俺は、足が痺れて動けない二人をおいて――というか、陣頭指揮を執るキツに半ば強制的に睡眠をとれと祠を追い出され、自室へと戻ることにした。


***


 翌日、空は雲一つない快晴で、俺は太陽を見ただけで方角がどちらかは分からないが、空の先には白い山脈がぼんやりと見える。そんな旅立ちの朝に相応しい気がする陽光の下で、俺達を含む魔王城の皆が城の前に集まっていた。目の前には四台の馬車が並び、一台につき二匹の馬が繋がれている。


 こういう布っぽい屋根のついた馬車って、幌馬車とか言ったっけ……RPGって言ったらコレだよなぁ。


「選抜された者は最初に伝えた通りに馬車に乗り込め!予備は積んでいるが、普段の装備は忘れるなよ!」


 魔王様の言葉に、皆が改めて自分の装備を確認する。てっきり俺は城の総力で国に攻め入るようなものを想像していたのだがどうやら違ったらしく、少数精鋭による奇襲を行うのだそうだ。


 まぁ、よく考えりゃ城の守りだって必要だもんな。


「似合ってるじゃねぇか、家彰」


「お、ガルルか。へへ、おろしたてだからな」


 そう声をかけてきたのは、ワーウルフのガルルだ。毛皮に覆われた大きな身体に革製の鎧を纏っているその姿は、如何にも速度重視の戦士っぽい。


 ちなみに、俺の装備は今までの初期装備ではなく、軽い金属で作られたオレンジの鎧だ。リムが作ってくれたインナーは白く、聞いたところキツと揃いになるようにとデザインされたらしい。正直ちょっと、いやかなりコスプレ感が強くて少し恥ずかしいが、それでも勇者感は随分出ていると思う。


「お前とは別の隊になっちまったけど、陽動は任せとけ。派手にやってやっからよ。だから、死ぬなよ」


「そこは魔王様のことを頼む、じゃねぇんだな?」


 心配してくれるのは嬉しいが、まずは自分達の主のことを最優先するものだろう。


「それは竜牙とシュバルツに頼んどいた。お前はまず自分が生き残ることを考えろ」


「適材適所だな!」


 ちょっと悲しくなってしまった。少し雑談を交わしたあと、自分の隊へ戻って行くガルルを見送っていると、またしても誰かに声をかけられた。


「やぁ、たしか家彰君――だったよね?君には感謝しているよ。殿下に牙を剥いた罪の重さというのを、僕はかの国に思い知らせないといけないからね」


 そんなキザったらしいことを言っているのは、ウ国の勇者博多野ソルトだ。牢の中で飢えていた頃とは違い、バッチリと軽装の鎧を身に纏っている姿は確かに勇者らしい。


 まぁ、前にも一回見てるけどな。でもあのとき敵だったし、そういうもんだよな。


「出して貰えたんだな。あと、そのキャラでいくのな」


「キャラ言うなし……ま、まぁ、伝えたかった礼は伝えたし、僕は殿下を探して来るよ。じゃあまたあとで」


 またあとで、ということはアイツも一緒の隊か。そんなことを言いながら颯爽と去っていった先では、ギリギリまで工房でオーガ達が作っていた武器や防具が次々と馬車へと運び込まれていた。


 なるほど、体よく使われてるわけか。逃げようと思えばサクッと逃げれんのに……カンナ姫のこと、そんだけ気にしてんだな。


「――勇者様!」


「カンナ姫、お久しぶりです。お加減はよろしいのですか?」


 タイミングが良いのか悪いのか、ソルトを見送った後で事前に魔王様から伝えられていた馬車に向かおうとしていたところを、カンナ姫に呼び止められた。御付きの二人も、フル装備で後ろに控えている。


 あの開戦宣言の後から色々と忙しくしていた所為で、結局彼女が目覚めてから今日まで一度も会えていなかったのだ。


 にしてもまぁ、泣きそうな顔しちゃってさ……


「私のことなんかより!いえ、あの……――この度は、本当に申し訳ございませんでした!」


 ガバっと、一国のお姫様が思いっきり頭を下げた。


 まぁ、そうするくらいのことはしてるけどさ……ほら、後ろの二人もあたふたしてるし。


「顔を上げてください。姫様の所為じゃないんですから。俺も生きてますしね」


 悪いのは攫った上に細工したサ国の連中だからな。


「ですが、私のせいで勇者様が死にそうになったと……私、私――」


「大丈夫、大丈夫ですよ。それよりほら、もう皆馬車に乗り込み始めてますよ」


 カンナ姫のこの反応、シーナさん辺りが大袈裟に吹き込んだな……厄介な。


 ついに泣き出してしまったカンナ姫の頭を撫ぜてあやし、話題を逸らそうと馬車の方へ目を向けたところ、キツのジトっとした視線が突き刺さった。


「主様、そんなとこで突っ立っとったら邪魔んなるぞ」


「おー、今行く。さ、姫様、俺達も乗り込んじゃいましょう」


「は、はい……」


 カンナ姫と俺達は同じ馬車のはずなので、彼女の背を軽く押して促し、一緒に馬車へと乗り込む。正直、手を取ってエスコートするシチュエーションだと思ったのだが、それをすると後でキツが怖そうだ。


 馬車の中には、いくつかの荷物。縛られた干し草に、果物が入った木箱。吊り下げられた布。そして、それらに隠れるように大きなドアのある木箱がある。こう言ってはなんだが、なんか田舎の汲み取り式のトイレというか、工事現場の仮設トイレみたいに見える。


 カモフラージュはバッチリだな。どっからどう見ても、雑多な荷物が積まれてるだけだ。


 カンナ姫の御付きの二人が、殿下をこんなところにと騒いでいるのを横目に、俺はドアを開ける。すると、そのドアの先には明らかに馬車のサイズに釣り合わない程の広い空間が広がっていた。


「こ、これは魔法の箱ですの!?」


「すごいですよね。俺も初めて見たときにはテンション上がっちゃって」


 ドアの先には長い通路が続いていて、その両壁に更にドアがいくつも並んでいる。木造のその通路に窓は無いが、魔法の照明が温かい光を灯していて、まるで高級ホテルのようだ。


 基本的に前世紀っぽいのに、ちょいちょい22世紀に迫る辺りファンタジー世界凄ぇよな。


「えっと、部屋割り表だと……こっちか。俺がこっちで、姫様はそこですね。で、その隣が二人の部屋。とりあえず、一旦部屋を確認して荷物置きましょうか」


「ええ、分かりましたわ」


 割と近い部屋だったので、部屋の前で別れて俺は自分に割り振られた部屋へと入る。用意された部屋は普段の部屋より少し狭いくらいで、十分高級ホテルと言って通じるレベルに広く、綺麗だった。しかもベッドも机も用意されていて、風呂トイレ別。


 これで旅するって、もはや馬車ってか豪華客船じゃん……いや、実際に豪華客船とか乗ったことないけど。


「あの御札やらは別の部屋か……?」


 部屋を見回しても、皆で必死になって量産したあの御札はどこにもなかった。


 てっきりキツが持っとくもんだと思ってたけど……


「普段使いの部屋に置いとったら邪魔じゃろ?」


 独り言への返答に思わず肩が跳ねた。振り返ると、キツが部屋へと入ってくるところだった。


「お、もう準備終わった?」


 姫を案内するときついて来なかったし、何かしら準備を手伝っていたと思うのだが、ここにいるということは終わったのだろうか?


「準備というより、ワシは頼まれて乗員の確認しとっただけじゃ」


「それも、全員が乗り込んだので終わりです。ここでは出来ることもあまりありませんし、家彰さんは無理してでも休んでくださいね」


 キツの後ろから、魔王様が現れる。昨日に引き続き、そのスカートの裾からは魅惑の太腿が覗いていた。今すぐむしゃぶりつきたいが、キツもいるし流石に我慢する。


 これもう休んでる場合じゃねぇわ。にしても、まだ壁に手ついてるけど、ちゃんと一人で立てるようになったんだな。すげぇわミアラ。


「昨日割と寝たんだけどな……まぁ、数日はかかるんだし、どの道のんびりするよ。それよりお疲れ様。ミアラこそ、ゆっくり休んでよ?」


「ええ、そのつもりです。ミーティングなんかは目的地が近づいてからでいいでしょうし、それまでは少し休もうかと」


 そう言って笑う魔王様の顔にも少し疲れが見えるのは、気の所為じゃないだろう。


 まぁ、仕事量もそうだけど、一番しんどい役どころだもんな……ここ最近は自分のことばっかりだったし、今日は言われた通り大人しく休むとして、明日からは上手く労わないとな。


「そっか。なら、今日はこれからゆっくり――」


「勇者様――あ、魔王様もご一緒でしたのね」


「よぉ、家彰!どうよ?お前この馬車乗るの初めてだろ?すごくね?これで走ってんだぜ?」


「家彰、昨日のあの剣についてだが――」


「アッキー、キツ姉ぇ、ゲームしよー!」


「殿下、ここにいたんだ。おや、ロークン卿ともう一人は――」


「ちょっと竜牙君、貴方私との約束――」


「なんだ、随分と賑やかじゃないか」


「んだこの密集地帯!?」


 カンナ姫に竜牙、シュバルツ、リルフィー、ソルト、リム、ロベルト、マユラと、休むのを決めた瞬間にまるでギャグのように次から次へと部屋に人が訪れる。


 何だろう……こんなに広い空間にも関わらず、なんでみんなピンポイントでこの部屋に……しかしまぁ、こっからのことを考えりゃ静かに休養とるより、こんな空気で英気養った方が、精神衛生的にはいいのかもな。


 賽は投げられた。と、サイコロで色々決められた俺達が言うのも何だが、サ国への進軍は始まった。ここから先、何が起こるのかは分からない。だけど、コイツ等がいれば、何とかなるんじゃないかと思う。


 目指すは平穏な日常。世界平和とかデカいこと言わないから、上手くいってくれよな。


前回から随分間が開いてしまいましたが、ちゃんと続きます!

尚、気分的には次回から新章です。

それに伴い、ノリで始めたタイトルの縛りも取り除き、AパートBパートな展開も無くして単発で更新していきますので、よろしくお願いします!

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