表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/44

第十七話 魔王軍、出撃!! その1

 命が掛かっているというのは分かるが、根を詰めて準備を続けては身が持たない。等と言うだけなら簡単だ。


 もう身が持たないとかいうレベルは越えちゃってるよな……もう明後日には出発だし。


 魔王様がサ国への侵攻を宣言してから早五日。あの姫と同系統のバケモノに対処する為、キツに集められた俺を始めとした居候の人間メンバーは、あの日から祠のある地下室にほぼ缶詰状態で作業している。それは朝から始まり、日が暮れるまで続く。この世界に時計は無いが、休憩込みで体感的に日に十二時間は作業している気がする。


 サービス残業って言葉が死んでるな……労基に訴えられるレベルだわ。まぁ、この世界にそんなのあるか知らんけど。


 しかも勇者枠の俺と竜牙とシュバルツは、キツ先生のスパルタ特訓が作業の合間に入り、正直心身共にダメージがデカい。


 とはいえ、戦闘を全部キツに任せるのかって訊かれたら、それは有り得んしな流石に……


 今日の作業を終え、魔王様の部屋へと報告に向かうキツと別れて一足先に自室に戻り、今度は個人的な作業を再開する。


 姫様二人も目が覚めたって話だけど、ゆっくり話してる余裕も無ぇな………


 机の上には、ここ数日の自由時間にちょっとずつ組み立てていたマジックアイテムのパ

ーツが散らばっている。


 理屈的にはこれでいけると思うけど……これでダメだったらもう今回は諦めるしかねぇか……


 と、自分に言い聞かせるも、たぶん無理だった場合は道すがら作り続けるんだろうなと、冷静な自分が思っていたりする。


 机の上にある部品を、頭の中にある設計図に沿って組み立てていく。といっても、必要なパーツを固定した細い木の板に、蓋になるもう一枚を重ね、魔力を漏らさない魔物の革でグルグル巻きにして固定するだけなのだが。正直、今回は本にあった機構を参考にして、それを組み合わせていた今までとはまるで違う。参考基があったとはいえ、これまでそこそこ蓄えた知識を基にした勘が、全体の4割くらい入っている。


 血液を結晶化する魔法があるって聞いてやってみたけど……でも、キツの話を聞いた感じだと、こんな感じで行けると思うんだよな……


「なんじゃ、今日も工作に励んどるのか」


「おぉ、おかえり。とりあえず、これが試作品一号」


 ドアを開けて戻って来たキツに、俺は組み立てたマジックアイテムを突き出して見せる。


「このタイミングで試作品の時点で、今回は使えんの。しかし、なんじゃそれ?新しい棍棒か何かか?」


 キツのド正論に心が挫けそうになるが、せっかく興味を示してくれたのでアイテムの解説に興じることにする。作り手にとって、この瞬間が一番楽しいのだ。スペックを語れるのが、とても嬉しいのだ。


「これはこの前回収したソルトの剣を基に、マジヴァイスの機能を組み込んで疑似的にその力を使えるようにしてみたんだ」


 確かに俺の手の中にあるマジックアイテムは、形状に拘っている時間も無かった為、適当極まりないデザインだ。刀身はエネルギーで構成される為、柄の先端にあるマジヴァイスに相当する機能を詰め込んだ先端が膨らんでいる様は、革でグルグル巻きに固定された棍棒に見える。しかも、あのライトなセーバーもどきの機能に更に付け足して完成したそれは、ソルトが持っていたものの倍以上長い。


 しっかし、こんな城に住み込んで作ってたにも関わらず、見た目の安っぽさハンパねぇな……


「疑似的に?」


「うん……まぁ、ニュアンスで言っただけだけど――たぶん、動けば分る。たぶん」


 疑似的というのは、間違いではないと思う。マジヴァイスは使用者と眷属を繋ぐもので、俺が主に使うのは魔力の譲渡だ。それを利用したシステムであることは間違い無い。


 さて……起動にちょっと勇気いるんだよな……


 俺は剣の柄頭の部分に、深呼吸をして右手の親指を押し付ける。と、その指に鋭い痛みが走る。柄頭内に仕込まれた針が、指の腹を突いたのだ。そう、これはよくある血が必要なタイプのマジックアイテムなのだ。


 アップデートするなら血が無くても使えるように、だな……割とこういう地味な痛みの方が辛かったりするし……てか、汎用性重視したせいでこうなったけど、本来俺はこの工程必要無いしな……


 改めてグリップを握り、マジヴァイスを使う要領で魔力を流す。すると――


「ブッシュ―!」


 何となくノリで効果音を自分で演出してみた。ソルトの剣と同じように、柄から光の刀身が構築される。違いと言えば、ソルトの剣は緑色の光だったのに対して、こちらの光は赤い。流石にこれは想定外だ。


 まさか、俺が作った方が敵側だったとは……まぁ、それはさておき――


「どうよ?」


「なんじゃ?あの糸目の持っとった武器と何が違――なっ!?」


 途中まで言って、キツは大きく目を見開いて絶句する。


 お、マジか?マジで一発目から成功か!?正直ちゃんと刀身が出ただけでもめっちゃ嬉しいのに、LUK普通でも大当たりって出るんだな!


「へへ、驚いたか?これはな――」


 自分でも分かるくらいのドヤ顔で説明してやろうとした瞬間だった。


「「あ」」


 キツと声がハモった。突如明滅し始めた光の刀身が消えると共に、プシュー……と情けない音を立ててマジックアイテムが煙を吐いたのだ。どう見ても、典型的な道具が壊れたときの演出だった。たぶん、オーバーヒートだと思う。


「……もうちょっと、抵抗の計算とか煮詰めるべきだったかな?」


「爆発せんだけ成長したってことじゃろな。しかし驚いたの。まさかそんなもんを作っとったとは」


「その反応見る限り、成功はしてたみたいだな」


「――さっきの剣、霊力で作られとった……」


 その言葉が欲しかった!


「よし、じゃあ朝までに最終調整終わらせて竜牙達でも使えるか試すか!燃えて来た!!」


 俺は再び机に向かい、剣を分解して調整に戻る。


 よしよし、これが完成すりゃ晴れてお荷物卒業だ!


***


 チュンチュンと、極めてスズメっぽい鳴き声を発する鳥の声が耳に届き、俺は鑢を置いた。調整はある程度早い段階で完了した為、城の外に出て木材を加工し、取り回しを良くする為に剣のガワの作成を進めていたのだ。


 即席にしては良い感じだろ。何か、悪魔とかが持ってそうなステッキっぽくなったけど……


 棒の先に丸い画面が一つの簡易デザインになったマジヴァイスが付いている様は、何となく串刺しの目玉に見えなくもない。ある意味ファンタジーらしい見た目だ。


 さて、この時間なら先にあっちだな。


 城に戻り、綺麗に手入れされた様々な花が咲き誇る中庭を突っ切り、目的の場所を目指す。近づくと、むわっと熱気が漂ってくる。今は旅に必要なモノを揃える為、皆持ち回りで一日中稼働し続けている。


「おはようございまーす」


「ん?おお、家彰か。どうした?魔王様から何か指示か?」


 そう言って振り向いて赤い額から汗を拭ったのは、二メートルを越える巌のような大きな姿。今日もパンチパーマが決まっているオーガのトラコネさんだった。他にも三人のオーガが鍛冶工房の中でカンカンと金属音を響かせている。


 やっぱりいつ見ても純和風の立派な赤鬼だよな……


「んや、ちょっと頼みがあって。コレ、何でもいいから取り回しの良さそうな金属で作ってもらえたりしない?」


「ん?なんだ、こんなギリギリまで何か作ってたのか」


「こんな時だからこそ、な。ただでさえお荷物なんだし……」


「んなこと言ったら、俺達ゃみんなそうなっちまうよ……まぁ、アレだ。月並みでアレだけどよ、それぞれ戦場があるって話だ。任せとけ。こんくれぇ楽勝よ」


 そう言って俺から受け取った木製のガワをくるくると色々な角度から眺める。


「ちなみに、時間が許すなら4セットくらい頼めたり――?」


 侵攻作戦の為の準備で忙しいこのタイミングに非常に心苦しいのだが、コイツを間に合わせるには、ここから先の作業を専門家に任せるしかない。


「ま、こんだけしっかり出来てんなら問題無ぇ。昼にはダースで揃えてやるよ」


「恩に着ます!こんな忙しいときに……」


 ダースも作られても中身が足りないけど……


「作戦の肝担う奴が必要だって言ってんだ。遠慮すんな。それに、俺達の命まで預けちまってるんだしな……任せとけ、バッチリ用意しとかぁ」


「――頼んます」


 ひらひらと預けたガワを振りながら作業に戻って行くデカい背中にそれだけ告げて、俺は工房を後にして、祠のある地下室に向かう。途中、二人寄り添って歩く魔王様とリムの後姿を見つけた。


 魔王様とも、長らく会ってないんだよな……いや、一週間も経ってないんだけどさ?でも同じ城で暮らしてるカップルが数日全く会わないってまず無くない?って――あれ?


 声をかけようとして、その後ろ姿に違和感を覚えた。


 魔王様、縮んだ?てか、短くなった?


 正式な数値は知らないが、グルグル巻きにされていたことを考えれば全長4メートルくらいはあったはずだ。だが、あの後ろ姿にその尻尾が見えない。でも、二人はゆっくりではあるが前進している。


 ……尻尾前にして前進する練習?今それする?いや、悩んでも仕方ないか。


「魔王様、リム!」


「い、家彰さん!?や、キャッ!?」


「魔王様!?」


 突然呼びかけられたからか、驚いてコケそうになった魔王様だが、リムが8本ある足を活かして支えることで事なきを得た。


「ちょ、大丈夫!?」


 まさかそんなに驚くとは思わなかった。俺は駆け寄ろうとして、自分が抱いていた違和感に気づいた。


「ミアラ、足が!?」


 っと、思わず二人きりでもないのに名前で呼んじゃった。


 魔王様の下半身。本来蛇のそれだったものが、二股に分かれていた。有体に言えば、人の足だ。肉感的なそれが、短い上にやけに透けているスカートから伸びていて思わずガン見してしまった。


「ヤ、まだダメ!!」


 そんな魔王様の切羽詰まった声と共に、ばっと太ももの辺りを隠すように伸ばされた手の下で、ぶわっと二本の脚が膨れ上がり、一本に纏まって長く伸び、やがていつもの蛇の下半身を構成していく。そして最終的に、目尻に涙を溜めてはいるが魔王様のいつもの姿がそこにあった。


「大丈夫ですか?魔王様。もう、家彰君?デリカシー無さすぎよ」


「リム、私は大丈夫だ。少し驚いただけだ」


「いや、ごめん。俺も配慮が足りなかったから。でも、どうしたの?さっきの」


 何がどうデリカシー案件に当たったのか分からないが、女性相手にはこういうときとりあえず謝っておけという前世の知恵に従っておく。


「あの、えと……これから人間の街に行かないといけないのに、この格好だとマトモに動けませんし、だから森の魔女から足を生やす薬を貰って来たんです」


「ああ、前に言ってた。あれ?でもアレって、声の代わりに足をくれるって……」


 たしかにそう言っていたはずだ。人魚姫かよと心中ツッコミを入れたのを覚えている。


「こういう状況ですから、強制的に接収してきたんですよ」


 物品はすごくファンタジーだというのに、ファンタジー感の無い話だ。


「なるほど。てことは、さっきのは歩く練習?」


 魔王様は至ってノーマルだし、リムと寄り添って歩いてたのはつまりそういうことだろう。


「はい。明日には出発だっていうのに、まだ上手く一人では歩けませんけど……」


「一週間も無い期間だったんだし、仕方ないって。大丈夫、俺もサポートするからさ。頼ってよ」


 魔王様のサポートならいくらでも買って出よう。それに、先程の生足を今度はちゃんと近くで拝みたい。


「……ありがとうございます。もし、明日までに上手く歩けなかったときは、よろしくお願いします」


「うん。だから、あんまり無茶しないように。明日から、だし」


「そうですね。でも、それは家彰さんもですよ?ちゃんと寝てくださいね?」


「こっちは実験が成功したら、今日は早めに寝るつもりだよ」


 明らかにこっちの顔見て断言したな……目の下、クマでも出来てるかな。


「馬車の中で寝れば良いとはいえ、無理は禁物よ。貴方とキツさんは要なんだから」


「ああ、大丈夫。今日は本気で休もうって思ってるし。じゃ、俺は最後の支度に行って来るから」


 釘を刺すリムと魔王様に何となくサムズアップで返して別れ、俺は当初の目的通り祠の部屋へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ