勇者、異世界に立つ!! その2
「――ぷッハッ、EDU低!小卒かッ!!」
今神様の酷い言葉が聞こえた気がするが、もうスルーだ。全部振り終わってから見せてもらおう。一回一回絶望してたらキリが無い。
「そうだな……特に自分の名前に対してコレって思うこと無いしなぁ……そういえば、これから行く異世界ってどんなとこなんだ?」
「異世界かえ?そうじゃのぉ……だいたいドラクエとか世界名作劇場とか、何かそんな感じの世界観じゃな」
「ドラクエとハイジはだいぶ違――いや、まぁ何か分かるわ。それならカタカナで書くような名前の方がいいのか?アレックスとか」
ビグロとかヘキサとか?個人的に好きだしゼータとかにしとくか。
「ん――ワシとしては、もっと男らしい名前の方が好みなのじゃが……」
「お、キツにいい名前があるんなら、それにしよっかな。どんな名前?」
こん吉改めキツに何か案がありそうだった為、ここは彼女に決めてもらおう。迷惑もかけたことだしな。
「そうじゃのぉ……ここは天下人から一文字ずつもらって、織臣家彰というのはどうじゃ?バッチリ天下取れそうじゃ!」
最後の一文字!最後の一文字が明らかに前三文字に押しつぶされそうになってる!!
い、いや、別にいいけど……まぁ、異世界の世界観的にツッコミ入れて来るような奴はいないか。しかし、鳴かないホトトギス出てきたら俺はどうすりゃいいんだろうな……
「じゃ、じゃあ、そう名乗るかな。織臣家彰、いい名前だな!」
慣れれば普通の名前だろう。そう信じてやけくそでテンションを上げてみた。俺、ちゃんと笑えてるかな?
「ああ、名前決まった?こっちも今パラメーター全部決まったから確認ヨロー」
さて、ここからがまた大変だ……てか、これで俺の今後が決まるんだよな……パラメーター微妙だったら普通の輪廻転生に変えて貰えるかな?
俺はキツを下ろして神様からパラメーターを書いた紙――ぶっちゃけプレイヤーシートを受け取って確認していく。
「なんか俺、ひ弱だな……てか基本3D6なんだよな?3ってもはや奇跡の数値だろ……」
てかDEX以外基本低くね!?いや、MEN無駄に高いわ……あと何気にLUKもそこそこ高い――ことないな、普通だ。周りが低すぎて高く見えてただけだ。てか最後にあるこのSANってどこで使うんだよ!?そういうの出てくんの異世界!?
「大丈夫じゃ、主様。今回はワシがついとる。ワシがお供になる特典として、能力値を一つカンストさせることが出来るんじゃ!」
いきなり凄い補正が来た。
「え、マジ!?じゃあどうしよ……ってかやっぱSTRかな。剣と魔法の世界ってたしか言ってたし」
攻撃は最大の防御。なんて言うつもりはないが、敵を倒せないと最悪先に進めない危険性がある。キツもついて来るって言ってるし、一人VIT上げて耐えててもどうしようもないしな。こう見えて、わりと若い頃はよくRPGゲームをやったもんだ。敵の殲滅速度が勝敗を決する鍵だと俺は思っている。
「STRはいくつなのじゃ?」
「ん?ああ、こんな感じ」
と、キツにプレイヤーシートを見せる。
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随分と長い間だ。そんなに酷いパラメーターだったのだろうか。
「保食様……STRを……」
どうしたんだろう?キツの歯切れが悪い。
何か悩んでるっぽいけど……やっぱりあのパラメーター、酷かったんだな……でもまぁ、STRさえ何とかなりゃ、ワンチャン……
「それで良いのか?それはそれでめっちゃいとおかしいけど」
わー、今のセリフ昔の人っぽい!
「――主様、すまん……保食様、主様のAPPのカンストを!!」
ん?APP?ああ、そういえば何の数値か分かんなかったけど、最低の3だったやつな。STRとかVITとか、他のはだいたい分かったんだけど……そんなに重要なパラメーターだったのか。キツにシートを見せずに俺一人でパラメーター設定してたら、完全にミスるところだった。
「いや、キツが一緒にいるから貰える特典なんだし、だったらキツがいいように設定してくれりゃいいけど――で、APPって何?」
「えっと――じゃのぉ……何と言うかぁ……」
「見た目よ、見た目。転生先での、み・た・め。いやぁ、御使いに選ばれときながらカンストさせるのがAPPとかめっちゃウケんですけどぉ!!でもまぁ、こればっかは基が悪いと鍛えてどうにかなるわけじゃないし?カンストさせてみんのも一興じゃん?てかAPP3で転生とかしたら――ぷぷッ、超いとおかし―!!」
くっそこの神様ムカつくなぁ……これでブスだったら蹴り入れてた自信がある。
「――ん?見た目がカンスト……?俺の戦闘力は?」
「まぁまぁ、そう悲観しなさんな。APP3とか良くて腐った死体だし、少なくとも人間扱いはしてもらえないと文化的生活もままならないしぃ?超ブサメンになって村八分で森に引き籠もりとか、数で圧倒する人間の優位性捨てたらむしろ戦闘力マイナスじゃね?ってなるし」
「神様がさらっと夢壊すなよ……」
「十人並みの引き籠もり男が異世界に行ってキャッキャウフフ出来るのなんて、フィクションの中だけだって。それが腐った死体だったらもう無理ゲーっしょ?」
「俺の異世界に対する憧れ返せよ。あと俺引き籠もりじゃねぇからな。三十過ぎて引き籠もりとかそれこそ腐った死体と同義だろ」
「でも、そんなアンタでもAPPがカンストした超絶イケメンなら、お金持ったマダムとかお金持った女社長とか、大企業の社長夫人とかにモテモテの未来が待ってるってわけよ!」
「なんで金の臭いのするヤツしか寄って来ねぇんだよ!てか最初と最後わりと被ってんぞ!なんかピュアな美少女とかにモテねぇの!?」
そういうのも吝かではないが。吝かではないが!
「なによロリコン?無理よ無理。APPカンストとか経験少ないザコは一周回って逆に近寄れないって。近寄ってくる若い子とか相当なビッチに決まってんじゃん」
「過ぎたるは及ばざるが如しか……」
あれか、遠巻きでキャーキャー言われるやつか?どうでもいいけどあれって、言われてる奴にモザイクかけたらモテてんのか嫌われてんのか分かんないよな。
「さ、パラメーターも決まったし、さっさと行った行った!あ、職業は向こうで決めてね?もう一回言うけどホストがオススメ!あ、あとこれ選別ねー。じゃーねバイビー」
「いや、ちょっ、待――」
***
「――夢?」
あの黒一色の世界が、突然森の中へと切り替わった。そう、森の中だ。ポンチョ着た男と、狐が一匹。空は驚くほどの快晴だ。
俺はあの嵐で土砂崩れに巻き込まれて……
「紛れもない現実じゃぞ、主様」
ほら、こん吉もこんなに元気――に喋ってる。
「おいおい……マジかよ」
てことは全部現実か……随分適当な転生の説明だなぁ。てか俺ポンチョのまんまじゃん。異世界旅情もあったもんじゃねぇな。そもそも転生って言ってたけど、どっちかってとこれ転移じゃね?生まれ変わったってかそのまま世界シフトしただけっぽくね?
――ガサッ。
「で、この漫画とかでよくあるベタな物音か……」
「主様、大丈夫か?そこまで落ち着いとると一周回って不気味なんじゃが……MEN値15の補正相当じゃな」
――グルルルル……
獣の唸り声だ。ゆっくりと後ろを振り向くと、鎧を身に着けた巨大な影が、腰溜めに剣を構え、今にも飛び掛からんと姿勢を低くしている。
普通に考えりゃ、戦っても勝てないよなぁ……
姿勢の所為で身長は読めないが、頭から尻尾までは優に2mを超えている。赤銅の鱗に覆われた顔には、細い瞳孔をした金色の瞳と獰猛な笑み。それは、見事なまでに人の姿をした蜥蜴だった。
リザードマンってのは、リアルで見るとめちゃくちゃ怖いな……
彼我の距離は5mも無い。相手は一匹だけのようだが、どう見ても友好的ではない。
「主様。下手に動くでないぞ……此奴、こちらの反応を楽しんでおる」
「――ほぅ?その小動物は霊獣か。小僧、貴様何者だ?」
キツの存在に気付いたリザードマンが、攻撃姿勢を解いて誰何してくる。意外だが、身長は高いとはいえ2mも無さそうだ。
キツだって喋ってるんだから、蜥蜴だって喋るか。にしても、小僧て……もういいオッサンなんだがな。
「俺は相沢浩彰――じゃなくて、織臣家彰だ。まぁ、何だ。旅人だ」
現在住所不定無職の為、何とも名乗りが締まらない。うまくいかないものだ。
「旅人?ふむ……見たところ、勇者ではない――いや、これは僥倖。勇者の雛というわけか」
「勇者の雛なぁ……」
30過ぎても雛か、俺……大器晩成型過ぎんだろ。このまんまいったら生乾きで人生終わっちまうよ……あ、もう一回終わってたわ。
「惚けようとしても無駄だ。その鞄から漂う勇者の力、俺から隠し通せると思ったか?」
「鞄?」
あ、これか。
俺は足元に落ちていたソフマップの紙袋を拾い上げる。中身は――革ジャンだろうか?
「ごめん、ちょっと中身出していい?」
「まぁ、別にそれくらいは良いだろう」
リザードマンの許可を貰って、袋の中身を取り出して広げる。
――これは!?
「革の鎧かぁ。まぁ、初期装備だもんな」
最初のセリフもそうだったけど、あの神様、やっぱりナンバリングは2派か。
武器は――やっぱり無さげか?
銅の剣をくれる宛も無いのだ。せめて檜の棒くらいあればと思うのだがと紙袋を逆さにしてみても、出てきたのは中古ゲームをまとめ買いしたレシートだけだった。
「天穹の剣とか、入ってなかったのか?……勇者の力を感じるとか言っちゃったぞ」
リザードマンもちょっと気まずそうだ。
「保食様は変なところで凝り性じゃからな……初期装備で伝説級の武器など望むべくもない」
キツの言葉通りなのだろう。しかし、なら最初の敵はスライムとかにしてくれ。即行で詰んだ。
「――ふぅ、まぁ同情はするが……どうだ?魔王城へ来ないか?一応は勇者の雛のようだしな。連れ帰れば、あの方もお喜びになるだろう。どうする?共に来るか、ここで俺に斬り殺されるか、だ」
お、生存選択肢出た!
「主様……悔しいかもしれんが、ここは此奴の言う通りに……」
「大丈夫。別に正義の味方ってわけじゃないし、まだ命は惜しい」
キツの頭を撫でて抱き上げ、リザードマンに同行する旨を告げる。
「ならばついて来い。ミアラ様のもとへ連れて行く。俺はグレイだ。敬称などはいらんから、グレイと呼べ」
「おぅ、道中よろしくな、グレイ」
「よろしく頼む」
そんなこんなで、俺達三人――いや、一人と二匹は仲良く魔王城を目指すのだった。




