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第一話 勇者、異世界に立つ!! その1

「おお浩彰よ!死んでしまうとはなにごとだ!」


 果ての見えない暗い暗い空間。そこで金色の光を纏った美女が大仰な身振りを交えて名作RPGの王様みたいなことを言う。しかも2作目だ。


 しかし、美人だ……


 目鼻立ちのハッキリした、しかしけしてくどくない顔立ちは、まさに芸術だ。若干化粧が派手な上に栗色の髪が見事な名古屋巻きになっている為、印象としては超高級なキャバ嬢といった感じだ。白を基調とした露出の多いサマードレスと、煌びやかなアクセサリーの数々も、そういった印象を加速させる。


 こんな子と同伴にアフターと楽しめる程稼げるようになるには、あとどのくらい頑張ればいいんだろう……


「稲荷の大神様が、初っ端から何をふざけとるんじゃ……」


 そんな溜息交じりの声が、すぐそばから聞こえた。発声源に目をやると、俺の傍にこん吉がいた。


 ――うん?


「今、喋った?」


 こん吉が、喋った?


「当り前じゃん。その子だって一応あちきの遣いだし?」


 そんな俺の疑問に答えたのは、目の前の美女だった。いや、イマイチ意味が分からないので答えたとは言い難いが……


「一応とはなんじゃ、一応とは!保食様も黄泉から帰って来たと思えばサボってばかりで!!何百年もゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!!」


 美女の言葉が癇に障ったのだろう、こん吉がダメ息子をしかるお母さんみたいなこと言い出した。


「あちきはいいんですー!どうせ宇迦とか大気都比売とかが全部やってくれるしー、むしろ邪魔したら悪いかなー?まであるしー」


「そんなじゃから、なんちゃって御饌津とか言われとるんじゃ!!」


「なんちゃってでも神は神。てか豊穣とか遠回しなことしかできない連中に比べたら、明らかにあちきの方が力上だし?」


「そう思うんならもっとちゃんと働いてくれんかの!?」


「いやほら、パワーバランスって大事じゃん?」


「サボった分レベル下がっとるしいらん心配じゃ!」


 一人と一匹がひたすら言い合っている。どうやらこの美人は働いたら負けを信条に生きているらしい。


 なんか、出来のいい兄弟を持った引きこもりの末っ子みたいだな……


 手持無沙汰だ。ここは何処かと首を巡らせて見るも、何も無い。ひたすら暗い空間としか形容出来ない場所だ。


「ああ、浩彰殿すまん。まずは状況の説明からかの?」


 と、こちらに気づいた――というか思い出したこん吉が、改めて俺に状況をサラッと説明してくれた。それによると、俺は死んだらしい。こん吉を抱えて森を進んでいた最中に、土砂崩れに巻き込まれたのだそうだ。薄々そんな気はしていたが、一人で死ぬならまだしも、こん吉を巻き込んでしまったという事実が重い。


 あれ?でもこん吉、神様と最初から知り合いっぽい?


「で、本来ならここで輪廻転生ってぇのが普通なんだけど――まぁ、ちょっと提案があってさ?」


 そう言って美女が差し出す一枚の紙を受け取る。


「異世界転生について?」


 その紙には、回覧板でありそうな安っぽいフォントで、そんなタイトルが書かれていた。


「そう、異世界転生。今神の中で結構流行ってんの!アンタもだいたいどんなのか知ってるっしょ?抵抗無いようにそっちの世界でも流行らせてあるし。剣とか魔法で魔物とかと戦うアレ!」


「ああ、ええ……俺TUEEE!ってするヤツですよね?え?神様って流行とか操作出来るんスか?」


 その割にはこの人――神?ちょいちょい見た目とか言動に古臭さがあるけど……


「あったりまえじゃん!だって神だもん。G-shockとかルーズソックスとかたまごっちとか、ああいう大きい流行って割と神噛んでっから。まぁそれはいいとして、異世界転生知ってんなら問題ないね。じゃあこれからアンタを異世界に送るから、その準備始めましょっか!」


 スゲェサクサク話進めるな、この神様。


「いや、俺もああいうの一回やってみたいって思ってたからいいんですけど、言葉とかそういう細かいとこって、フォローされるんですか?」


 向こうに行って、意思疎通出来ずに野垂れ死にっていうのは勘弁願いたい。


「ああ、大丈夫×2。言葉と文字はパッチ当てれっから無問題!固有単語に関してはEDU次第だけど。じゃあ早速、パラメーターの設定からね!」


「パラメーターって……」


 何かゲームみたいだな……


「期待しててね!めちゃくちゃ強くしてみせっから!あ、名前変えるんなら今の内に決めといてー」


「あ、名前変えられるんですね――ってちょっと待ってもらえますか!?」


「ん?どしたん?」


 そんな風に聞き返しながら、神様は転がした三つの6面ダイスの目を数えて何やら用紙に書き込んでいく。


「パラメーターって、それで決めるんです?」


「うん。あ、そうそう、安心して。このダイスはちゃんとダイスの女神が作ったヤツだから、神の力でも不正とか出来ないから。完全ランダムだから!」


「そういうことじゃなくて!そんなランダムじゃ俺TUEEEなんて出来るわけないじゃないですか!!」


「十連ガチャでUR五枚くらい引く運あれば大丈夫だって!」


「不可能じゃねぇか!!」


 思わず敬語が消えてしまった。ムリゲー過ぎる!!


「まぁまぁ、あちきに任しときなさいって!STRは残念だったけど、VITは割と普通だし――さぁ、次はINT!」


 あぁ、俺のパラメーターがスゲェテキトーに決められていく……てかSTR残念って、場合によっちゃ即詰むがな……


「な、なぁ、浩彰殿、大丈夫か?泣きそうな顔になっとるが……」


 こん吉が心配そう?に見上げてくる。表情は分からないが、口調的に心配してくれているようだ。


「ん?ああ、こん吉……そういやお前、悪かったな。巻き込んじまって……俺が連れ出したりしなけりゃ、お前は生きてられたのに……」


 色々考えていたのだが、結局出たのは普通の詫びの言葉だった。何を言っても、取り繕えるとは思えなかったのだ。


「い、いや、そんな!浩彰殿が来てくれんかったら、普通のキツネはあのまま凍え死んどった!浩彰殿の行いは、褒められこそすれ、誰から恨まれるようなものではない!」


「でもこうやって殺しちまったしよ……ダイスで来世のパラメーター決められんのも、償いなのかもな……」


 せめてダイスもう一個増やしてほしい……


「やった!DEXめっちゃ高い!」


 ……地味!!


 嬉しそうな声上げてガッツポーズしてる神様には悪いけど、もっと別のパラメーターでその数値が欲しかった。


「浩彰殿、大丈夫じゃ。保食様にお願いして、ワシも浩彰殿に付いて行けることになっておる。これでもキツネ側仕え大隊ナンバー6のワシじゃ!きっと役に立ってみせる!」


「キツネ側仕え大隊……いや、それよりこん吉も一緒に異世界に行くのか?」


 あとどうでもいいがナンバー6が凄いのかどうか……何とも伝わりにくい順位だ。


「そうじゃ!次はワシが浩彰殿を助けてみせよう!」


 人間だったら、グッと拳を握ってやる気を見せるようなシーンだ。もちろんキツネなのでそんなことはしないが。


「それでなんじゃが、浩彰殿。前から気になっとったんじゃが、そのこん吉という名前のぉ――いや、浩彰殿が付けてくれた名前じゃし、すっごい嬉しいんじゃが……じゃが……ワシ、これでも雌での……」


 こん吉の言葉の最後の方は、すごく言い辛そうな、絞り出すような声だった。


「あ――重ねてすまん」


 雄も雌も気にせず、直感でこん吉って名前で呼んでたわ。


「いや、本当に名前をくれたことは嬉しかったんじゃ!ただ、転生で名前も変更出来るタイミングじゃし――折角じゃし、ワシも雌らしい名前が欲しいなぁ、と……」


 雌らしい名前って何か響きがエロいな……しかし、名前か……


「なぁ、せっかく喋れるんだし、そもそもの名前とか無いのか?そっちの方が――」


「ワシは、浩彰殿に名前を付けてほしいんじゃ」


 こん吉が俺の言葉を遮り、後ろ足で立ち上がって俺の足に寄りかかる。ふむ、あざとい。


「名前なぁ……そうだな、キツネだからなぁ……」


 何となく抱き上げて欲しそうだったので、こん吉を抱き上げて考える。考えるが――


 キツネの名前って何だ?ゴンか?雌っぽくはないよな……怒ると髪の毛伸びそうだし。きつね子はどうだ?いや、長いか?でも割と可愛いよな……あ、漢字で書いたら狐子ってなるし、ココってどうだろう?いや、さっきからの喋り方からしたら、ちょっと可愛すぎるか……もっと素直に――


「キツってどうかな?」


 こん吉からこん取っただけだが、少なくともこれならココよりも落ち着いた感じだし、おキツさんとか時代劇とかでもいそうだし、イメージ的にはピッタリだろう。


「キツ、キツかぁ……へへへぇ、感謝する。嬉しいぞ、主様!主様は自分の名前もう決めたのか?」


 スリスリと胸に頭を擦り付けてくるのは素直に可愛い。


 しかし、名前か……



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