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ハーフタイム・ラブ その2


「今日は一日、どうするんですか?」


「うーん、とりあえずこの後は部屋に戻って、午前中は魔法道具の勉強かな。コイツ、使いこなせるようになりたいし」


 腰に付けていたマジヴァイスの感触を確かめる。今や魔王様の他に勇者が二人。俺の出る幕など無いかもしれないが、昨日の決意に即日掌を返すのは流石の俺でもどうかと思うのだ。かといって、いきなり俺がレベリングを始めたところで、いつ戦力になるのか分からない。


 なら、コイツの解析進めて、少しでも役に立てるようにってのが、現実的なとこだわな。


 俺がミアラを守る勇者になる!なんてカッコイイことを言って愚直に修行編に突入出来るほど、悲しいかな俺は若くないのだ。格闘技の心得の一つも無い俺が戦えるはずがない。


 引き籠もりが異世界に来た瞬間活躍出来るなんてのは、漫画やアニメの中だけだよな……いや、俺は引き籠もりじゃないけど。


「勉強熱心ですね。そうだ、これを」


 立ち上がった魔王様がデスクから何かを取り、戻って来て俺の首にかける。


「――これ、宝石?」


 赤、青、緑の光の三原色をした親指大の宝石が三つあしらわれたペンダントだった。何気に少し重い。しかし、明らかに男女の立ち位置が逆な気がする。まぁ、前々から事ある毎に思っていたことではあるが。


「私はあまり詳しくないんですけど、ルーンのお守りです。人間の家彰さんなら、ご利益があるかもしれませんし、持っててください」


「へぇ、何か色々能力値とか向上しそう!」


 ファンタジー世界にルーンとくれば、そこそこ鉄板な強化アイテムな気がする。なんなら、特にアクセサリー系はあるあるな気がする。アイテムにルーンを刻んでパワーアップとかもベタなとこだし、後でルーンの勉強もしとくか。


「で、午後からはどうするんです?」


「うーん、実はまだそこは考えて無くて……俺の力じゃ門の修理も足手まといだし、何か即戦力で出来る仕事探してみてるけど、掃除がいいとこなんだよな……」


 情けない。でもヒモ生活だけはしたくないのだ。何かしら、出来ることを探したい。出来ればもっと生産性のあることをしたいところではあるが――自分の足元は見えているつもりだ。それだけに、歯痒いというか申し訳ないというか……


 早いこと、穀潰し回避策も考えよう。


「家彰さんは客人待遇で逗留して貰ってるんですから、そんなこと気にされることは……」


「ははは……前にも言ったけど、流石にそれは気が咎めるって」


「気持ちは分かりますが――この問答も何度目、ですね。では、これを」


 そう言って差し出されたのは、簡素な見た目をした鍵だった。


「これは?」


「勤勉な家彰様の為に用意した、開かずの間の鍵です。シーナの礼拝堂みたいなものですよ。

あっちは鍵をする必要も無く誰も足を踏み入れませんでしたけど」


「なら、こっちの部屋は……」


 つまりこちらも、礼拝堂とかそういうのに準ずる施設ということだろうか?何故こうも魔王城に不要な――というか邪魔になる施設が揃っているのだろう?そういえば、以前リザードマンのグレイが、魔王様がここを全面改修したと言っていた。魔王様が建てたとは言っていないし、もしかして元々あった何かの施設か何かを乗っ取ったのだろうか?


「そちらの部屋も、あまり魔物である私たちに良い影響を与えない部屋みたいで。ですけど、おそらく貴方とキツにはこれ以上ない部屋だと思いますよ?」


 話を聞くと、もともと礼拝堂の清掃が終わったら渡そうと用意してくれていたそうだ。シュバルツの登場で少し遅れてしまったと魔王様は苦笑する。


「俺とキツに……ありがとうございます。勉強が終わったら行ってみます」


 渡された鍵を、無くさないようにナイフのキーホルダーに通す。まぁ、部屋のことは気になるが、行けばどういう部屋かは分かるだろう。今は魔王様との朝のひと時を大切にしよう。この後は勉強――の前に、朝帰りのフォローが待っているのだから……


 ***


 自室へ戻り、フォローのフォローという超イケメンムーブを繰り出したことに少し悦に浸り、その後の処理で今後こういうことが起きないように気を引き締めようと強く心に誓い、昼食の時間まで真面目に勉学に励んだ後、俺は最近人化しっぱなしのキツを伴って魔王様に言われた、1Fの隅にある部屋に来ていた。


「しかし、どういう部屋かくらい、ちゃんと聞いてこんか。ちょっと怖いじゃろが」


「まぁまぁ、俺とキツなら大丈夫って言ってたし、妙なことになったりしないって」


「姫を牢から解放しようとしただけで、この前ボス戦突入しとったけどな」


「何も言い返せねぇな……つっても、あんな初見殺しみたいなボスキャラが同じ建物からまた出て来ることもないだろ。ラストダンジョンとか隠しダンジョンじゃあるまいし」


 そもそもここはダンジョンでなく住居なわけで、あんなアクシデントが何度もあってたまるものか。鍵を開けてドアノブを捻る。流石にああいうことを言われると少し怖かったので、息を止めて一気に開いた。


「いや、ここ魔王城じゃからな?普通にラストダンジョンじゃ」


 開ける前に言って欲しかった。が、特に何かが飛び出して来たりということはなかった。が、嫌なものが目に飛び込んで来る。


「また、地下に続く階段か……」


 何でこの城はいちいち地下への階段を部屋の中に作るんだろうか。いや、鍵を閉められるようにしたいんだろうけど、てことはこの下にはまたあの地下牢みたいな空間が広がっていたりするのだろうか?


「これ、ホントに降りて良いんかの?」


「鍵くれたの魔王様だし、流石に大丈夫だろ」


 今度こそは。とは、フラグっぽいので口に出さなかった。


「まぁ、警戒して進むに越したことは無いの」


 そう言ってキツは俺の手を握り、ゆっくりと階段を下っていく。割と本気で怖がっているようで、小さな手でギュッと握られると地味に痛い。


「懐中電灯くらい持って来りゃ良かったな」


「世界観的には松明じゃろ」


「ここはランタンくらいが丁度いいんじゃないか?」


「そうじゃの。でもこの城の部屋、魔力仕掛けのワンタッチで電気点くからのぉ……」


「あ――魔力使ってるの分かるけど、ほとんどスイッチ押して電気点けてるのと変わんないしなぁ。情緒がな……」


「圧倒的に便利ではあるんじゃがなぁ……なんなら慣れたら遠隔でオンオフ出来るしの」


 薄暗い階段を、恐怖を忘れようとどうでもいい会話をしながら降りていく。その甲斐あってか、下に着いたときにはかなり気が楽になっていた。キツの方も余裕が出来たのか、腕に抱き着いてあざとい上目遣いで見上げて来るまであった。


「さて、降りて来てみたはいいけど、暗いな……電気電気……」


「なんじゃろ、普通こういうの入口の辺りにあるもんじゃよな……」


 二人でぺたぺたと壁に手を這わせ、照明の起動魔法道具――面倒なので以下「スイッチ」と呼ぶ――を探す。が、なかなか見つからない。


 というかこれ、壁というか岩肌……整備されてないんか?ボルダリング出来そう。


「見つかんなくない?」


「実は手動とかいうオチないか?コレ」


「手動って……ああ、マジでランタンかもって?なら一回どんな照明か調べて――」


「あ、すまん、今見つけた。これじゃな」


 と、キツがスイッチを見つけたようで、地下室に明かりが灯った。ボボボと何かが燃えるような音が聞こえたと思ったら、壁に並んで設置されている蝋燭型の器具の上に、火の玉が燃えて照明の役割を果たしていた。芯なしの蝋燭といったところだろうか。それが岩肌むき出しの何の整備もされていない洞窟らしき空間を等間隔でぼんやりと照らしているのだから、普通に怖い。今思えば、あの姫が囚われていた地下牢獄の灯りも、これと同じものだった気がする。設計者、雰囲気重視し過ぎだ。


「で、どこにスイッチあったの?」


「こっちじゃ。階段側は整備されとるから、こっちに付けたんじゃろ」


 なるほど。階段に面した部分の壁は整備されてるし、部屋の構造を知っていればここにスイッチ付けるか。


「しかし、またホラー感のある場所じゃな」


 部屋はざっと30畳以上の広さがあり、しかも家具的なものが無い為、広々としている。天井も高く、そのおかげで真っ赤な鳥居もしっかりと部屋の中に納まっている。そう、よく神社の入口にある朱色の鳥居だ。それが部屋の中央の辺りにあり、そして部屋の最奥の壁一面を埋めるように、豪華な祠が建っていた。供えられている榊は枯れ、そこら中埃塗れになってしまってはいるが、なかなか立派に見える。


「まぁ、確かに魔物が入るのはキツそうだわな」


 とはいえ、わざわざ鍵をかけてまで対処しないといけないような部屋なのだろうか?


「にしても、こっちの世界でこの手の祀られ方するような神様はおらんはずなんじゃが……」


「転生者が故郷が恋しくて作ったとか?」


 普通に外に作れよと言いたいが。まぁ、国教とか色々あって大っぴらに祀れなかったのかもしれない。


「いや、手水舎無いし作りの細かいとこもアレじゃし、にわか知識で作ったんじゃろうけど、こんなんでも霊気は感じるんじゃよ……」


「ふぅん。霊気感じると、どうなん?」


「霊気を感じるということは、ちゃんと祀られとる神様がおるということじゃ。しかも、こっちの世界は霊気とは関係ない力が主じゃし、となると元居たあっちの世界の系列の神様が祀られとるはずじゃ」


「ふぅん?」


 頑張って頭を動かしているが、キツが何に引っ掛かっているのか分からない。


「要はおらんはずの神様を祀っとるのに、ご利益があるんじゃ。ならつまり、おらんはずのもんがおるということだ。クトゥルーでも何でもええから、外なる神とか、主様好きじゃろ?そんなんじゃ」


「お――なんかふんわり分かった気がする。てか、それってヤバいんじゃ?外宇宙から何か来た?」


 そういやSAN値も実装されてるし、実際ガリガリ削られたしな。


「あくまで例じゃ。じゃが、この祠を見る限り、この世界のものでない神様が干渉して来ておるのは間違いない。ということで、まずはご神体を調べるか」


「いいのか?そういうのって」


「主様はしちゃならんぞ。ワシはあっち側の御使いじゃからな。色々と心得ておる」


「なるほど、そりゃ頼りになる」


 キツが祠にある扉を開け、中に入っていた木製らしき何かを取り出す。


「これは……流木?――ヱビス様か!?」


「恵比寿さん?海老で鯛釣る人?」


「正しくは海老差し出すと鯛くれる神様じゃが、今回のはそっちでない。流木をヱビス様と呼ぶときは七福神ではなく、伊邪那岐様と伊邪那美様の第一子、蛭子様のことじゃ。本来いない神。故に何処にでも流れ着く神じゃ」


 蛭子という名前は聞いたことがあるが、そんなアザトースみたいな神だとは初耳だ。


「確かに、蛭子様ならここにいらしても不思議ではないのじゃが……」


 何やらキツの歯切れが悪い。するとその手の中で、カタカタと流木が動き出した。


「やっぱりか!そりゃ誰も祀っとらんかったろうしな!逃げるぞ主様!!」


 キツが慌てて流木を手放すと、そこから緑色がかった水が溢れ出し、それが風船のように膨らんでいく。それを尻目に、俺の手を取ってキツは階段を駆け上がっていく。


「何がどうなってんの!?」


「保食様から聞いたことがある!蛭子様はな、一回祀ったら最後、祀るのをサボったりしたら即祟り神になってしまうんじゃ!!」


「蛭子様祟り神なんかにならないでぇぇぇええええ!!」


 完全にとばっちりだった。最初に祀った奴出てこい!!


 キツに手を引かれるままに階段を踏破し、俺達は二人で力いっぱい、叩きつけるようにドアを閉めた。


 さぁ……これからどうしよう?


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