04 公爵令嬢
「私に教えるつもりなら、このくらいのことができてからにしなさい」
第一声がこれだった。
明らかに高い白のドレスに身を包んだ少女、いやもう大人だろうか。この国は15で成人だしな。
髪は短く見えるがアレンジが施されている。顔だちは王都でもお目にかからないくらい整っていた。まだあどけなさの残るものの、勝気な吊り目もチャームポイントになるくらいの美少女だった。
「これ! この方は高名な……」
ビレイム公爵が言い終わる前に彼女の指先から光が漏れ出し、外にむけた瞬間森の木の枝が一本弾け飛んだ。
まさかこれは……。
「この魔法、どこで」
「ふふ……貴方には出来ないでしょう? わかったら……」
「素晴らしい!」
これだけの才能、どこで!?
そしてあの魔法! 興奮が隠しきれない。
「そ、そうでしょう。私に教えることなんて何も」
すこしたじろいだ様子の少女が何か言い切る前に思わず言葉を挟んでしまった。
「まさか光魔法、いや雷魔法か、いずれにしても第五属性、理論は組み上げていたがこうして目の前で他人が使うのを見ることができるとは! まさかもう外の世界ではこの魔法は一般化されているのか?!」
興奮を隠すこともなく少女に詰め寄る。端正な顔を引きつらせながら距離を取られるが今はそんなこと気にもならない。
「してるわけないでしょ! これは私とあの人だけの魔法よ!」
「そうか……あの人というのも気になるが今はいい。そうだな……今の魔法はおそらくここが……これをこうすれば……」
「何をぶつぶつ言いながら……」
少女が何か言っているがそれよりも大事なことがある。思いつく限りの情報を紙に殴り書いていき、組み上がった部分からスクロールに落とし込んでいく。
「何をしているのかわからないけれど、他所でやってもらえるかし」
「できたぞ!」
「本当に人の話を聞かないわね!」
なんで起こっているのかわからないがとにかく今はこっちだ。
「わかるか?」
「一体何を見せようという……え……?」
「中心部がこの魔法の根幹になる魔法陣。これまで存在しなかった五つ目の属性。私は光と呼んでいるが広まるときは雷になるか?」
「嘘……これ……」
少女に噛み砕くよう一つずつ魔法陣の意味を説明して行く。いや多分、私が話したいだけだろうな。
少女は私の説明など聞くまでもなく理解した顔をしていたが、私が話すのを待ってくれていた。
「そして今君が使った魔法はおそらくこの部分まで改良がなされている。引き絞った魔力を離れた場所にのみ作用させる効果」
「ええ……」
「ここが新たなポイントだ。意味は……わかるかい?」
少女が考え込む。この少女がどこからこの魔法を導き出したのかはわからないが、できるはずだ。
「まさか……」
「できる」
一番外に記した新たな魔法陣。これにより木の枝どころか森を焼き尽くす極大魔法が完成する。
ただし、この魔法は術者の魔力でなく、環境に依存する。雑な補足をするならそう、天気が悪い日の方が使い勝手は良さそうだ。
「やってみるかい?」
「ええ……はい!」
「よろしい。くれぐれも人の住むところに向けてはいけないよ」
「もちろん。あの辺りなら誰も住んでいないはずです」
そう言って森の一画を指差し、魔法陣に魔力を流し始める。ん? あの辺りは誰も……?
「待て!」
「え? あ……」
「あ……」
強烈な爆発音。空から突如現れた巨大な光の支柱が森に降り注ぎ、そのまま森の一角を根こそぎ破壊し尽くしていた。おそらく私の住んでいた小屋も跡形もなく消しとんだだろう。
「何か問題が……?」
「いや……私の家がな……まあいい」
「ええ?! ごめんなさい私……」
「大丈夫だ」
必要なものは収納して持ち歩いていたしな。小屋くらいまた、建てればいいだろう。
そんな会話をしているとビレイム公爵がハッと我に返ったようにパタパタとこちらへやってきた。
「だ、大丈夫ですか?!」
ビレイム公爵が窓から森を見下ろして目を白黒させていた。