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03 才能

「さて。この度はなんとお礼を申してよろしいか……」


 馬鹿でかい屋敷の馬鹿でかい部屋に招かれてしまった。久しぶりにこんな美味しい菓子を口にした気がする。

 いけないな。最近は食事を疎かにし過ぎていた。


「お気に召していただけましたか」

「ええ。とても美味しいです」

「何より! よろしければお持ち帰りください。一年分はございますので!」

「そんなに!?」


 数もそうだがよほど良い保存魔法具がなければそんなにもたないだろう。さすが公爵家だな……。


「ところで、お名前も聞いておりませんでした」

「ああ、失礼しました。メルクと言います」

「ふむ……メルク殿、すみません。私も魔法使いの家系におりながら寡聞にして貴方様の名を存じ上げませんでした。いやまぁ、明かせぬ名もありましょう。そこは詮索いたしません」


 そんなものないんだが勝手に話は進んでいく。


「お礼に必要なものがあればなんなりと」


 そういうと次から次へと宝具や金銭の話がポンポン飛び交う。苦労して手に入れていたスクロールも整うなぁとは感じるものの、そこまでのことはしていないので受け取るのも躊躇われる。

 やはり予定通り蔵書を見せてもらうとしよう。


「私は金品は求めません。蔵書を見させていただけるのであれば、それに越したことは」

「流石です……いやはやお恥ずかしい。確かにそれだけの実力をお持ちであれば私の持つ金品など些末なものでしたな」


 まったくもってそんなことはないんだけどな……。

 と、その時だった。


「おや?」


 強力な魔力の波動を感じた。屋敷の中だ。

 一応警戒はするが、屋敷の主人であるビレイム公爵に焦った様子が見られないので大丈夫だろう。答え合わせはすぐに行われた。


「娘ですな」

「娘さんが……これは、かなり優秀な」

「いやいや、メルク殿に比べればまだまだ……」


 いや、俺より才能のない子などこの世にいないぞ?

 それはおいておいたとして、これだけの魔力、それも屋敷の中で大きな事故も起こすことなくやってのけられるのは、かなりの才能の持ち主だ。

 気になる……。蔵書以上に気になる存在だ。


「同世代の中ではまあ、それなりにやれておるようではございます」

「そうでしょう」


 何とかして一目見たいと思った。いまかんがえれば、なにがそうかきたてたのかよくわからないが。

 そのチャンスはビレイム公爵の側からもたらされた。


「もし、メルク殿が興味を持っていただけるというなら、娘に一つ指南していただきたいものです」


 だが……指南、か……。

 かれこれ長くやってきたが、魔力0、才能0の私に師事するものなどいない。これまでも、そしてこれからもそれはそうだろう。


「どうでしょう? 一度娘を見ていただけませんか?」

「娘さんが納得しないでしょう」

「流石はメルク殿……そこまで見破られておりましたか」


 やはり……。

 と思いきや話はそうではないらしい。


「その通りでございまして……かれこれもう50は指南役をあてがいましたが、どれも娘には気に食わなかったようでして……」


 我がまま娘か! いや、それほどに優秀なのかもしれないが。なおのこと気になってくるな。


「ですがメルク殿であればと……とにかく、一度あってはもらえませんか」


 貴族に頭まで下げさせてしまったわけだし、動かないわけにいかない。

 私も見てみたい。これだけの魔力の持ち主、私には与えられなかった才能の持ち主を。

今書いてるとこまでだとほんとに出会いのシーンまでなのであと2.3話予定です!

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