アイテム職人は帰還する
お越しいただきありがとうございます。
とうとうこのシリーズも完結です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
ぼんやりする意識の中、ルリは見慣れぬ天井を見上げていた。
(ここはどこだろう。)
「ルリ?起きた?」
ふとかけられた声の方を見上げれば心配そうに眉尻を下げたレイヴンの姿。
「レイヴン?なんで……?ここはどこ?」
聞きたいことがたくさんある。なんで騎士でもないレイヴンがここにいるんだとか。そもそもここは一体どこなのか。記憶違いじゃなければルリは城壁から飛び降りて気を失ったはずだがあれからどれほどの時間がたっているのか。
体を起こしてよく周囲を見ればここがどこかの宿の一室ということが分かった。
「ここはルクシア領だ。ルリはそこの領主に連れ攫われた。という見解なんだけど……。今はエリュトロンが騎士団に行ってる。もうそろそろ戻るころだと思うけど。」
チラリと入り口を眺めたまさにその時、コンコンとノックがされその扉が開いた。
「エリュトロン……。」
「エリュトロンおかえり。今ルリが起きたところ。」
「ルリ……。よかった……。」
室内に入ってきた朱色髪の青年はぽつりとつぶやくとベッドにいるルリのところまで早足で来るとかぶっている布団ごとルリを抱きしめた。
「ルリ……。ルリ。」
「あ、エリュトロン!俺だってまだなんだからな!自分だけずるい!って、それじゃ話聞けないから!離れて!」
「ごめん。ルリ、起きた早々で申し訳ない……んだけど。ルリの知っている事教えてくれるかい?」
「えっと、レイヴンと別れた日に王都のギルドで素材を買った帰りに女の人に呼び止められて、振り返ったらシエルとその女の人に小道に引きずられて、薬をかがされたんだと思う。息を失って次に起きたら広い工房で何日も武器を作らされた。」
「女?」
「作らされたのは武器だけ?」
「えっと、その女の人は騎士団の人で、団長のところに案内するからって、逃げ出したときにほとんど無理やり連れていかれて、でも連れていかれた先にはシエルがいたからその女の人を短槍で廊下から動けなくして逃げたんだけど、仲間が他にいるといけないから上に逃げた。作らされたのは銀の剣と兜と鎧。」
「女はなにかいってた?」
「えっと……。」
尋ねられてルリは少し考えた。それを今ここで言っていいのだろうか。そのせいでエリュトロンは傷つかないだろうかと。
「ルリ?」
それまで淀みなく話をしていたルリが急に黙ったので二人はその先を促すようにじっと待った。ルリもそうされることで話さなければならないし、隠していてもしょうがないことのように思えた。
「私がいるからエリュトロンが帰ってこなくなったって。今までは他の人のとこに行っても必ずその人のところに帰ってきたのに、お前がいるからだって。邪魔なんだって言われた。」
紡がれた言葉にエリュトロンは顔面を蒼白にさせ、レイヴンは怒りを隠そうともせずエリュトロンを睨みつけた。しかし、エリュトロンにはレイヴンが目に入っていないようでルリの手を握りその場に膝をついた。
「ごめん、ルリ。私のせいだ。私のせいで君は誘拐された。本当にごめん。」
懇願するように謝罪を述べられたが、ルリは別のことの方が気になる。
「そんなことはいいんだけど、騎士団からそんな人が出て大丈夫なのかな?」
それは素朴な疑問だった。
ルリにそんなこと扱いされたエリュトロンは一瞬うなだれたものの二人に断りを入れてすぐ部屋から飛び出していった。
そんな様子にレイヴンはため息をついてルリの方を見る。
「まったく、エリュトロンの日頃の行いが悪いからルリが巻き込まれたんだ。」
「あ、でも攫われたひとはいろんな地域からいたからきっとそれだけじゃないと思うよ?」
けしてかばおうとしているのではなく単純に感想だった。実際あの部屋には北から南まで様々な場所から誘拐された人がいた。あとから連れてこられた人の中には南で見知った顔の人すらいた。
「それより、レイヴンとエリュトロンは知り合いなの?」
「ああ。飲み仲間なんだ。ルリが攫われたその日の夕方に素材渡そうと思って店にいたのにいつまで待っても帰ってこなかったから騎士団で立場を持つエリュトロンに相談しに行ったら王都でも何日か前から鍛冶職人が誘拐される事件が続いてるって聞いて、あいつは騎士団側から俺はギルド側から捜索してたんだ。」
「そうだったんだ。」
「とにかくルリが無事でよかった。失ったらどうしようかと……。」
延ばされた手が震えていた。だからこそルリは黙ってその手を受け入れて抱きしめられた。安心させるように背中をそっと撫でた。
「探してくれてありがとう。」
「当たり前だ。ルリは大事な番だから。」
そういってさらに強く抱きしめられた。
「二人が見つけてくれたから無事だったんだよ。」
抱きしめられたその手にまた自分も安心したのだとルリは気づいた。
「安心したらなんだか眠くなって…きた。」
「大丈夫ちゃんと傍にいるから。次に起きたらきっと帰れるから。ゆっくりおやすみ。」
かけられたどこまでも優しい声にルリはそのまま身を任せて再び眠りについた。
それから次にルリが目が覚めたのは見慣れた自分の部屋だった。宣言されていたとおりレイヴンはずっと傍にいてくれたようで、ルリが起きた後もかいがいしく世話を焼いてくれた。
エリュトロンも騎士の仕事だって忙しいだろうに毎日少しでもいいからと顔を出してくれていた。しばらくは顔を合わせるたびに謝罪されたものだが、それは気にしていないからとことの顛末を聞いた。
誘拐を企てたのはルクシア領の領主親子で、隣国に武器を密輸する目的で職人を集めていた。誘拐は各都市のスラムにいた人間を雇っていたようだけど、王都で誘拐の実行犯をしていた人間とシエルが酒場で出会ってルリの存在を知ったらしい。同時にその実行犯たちは王城お抱えの鍛冶職人の誘拐を企んでいた時にやはり酒場にいて悪酔いしていたティナに出会った。誘拐犯たちはティナの憎んでる相手ととシエルの恋慕してる相手が同じ鍛冶師のルリであると気づき、二人を引き合わせて誘拐させた。ということだった。
世の中どこでつながるかわかったものではないなぁ。とルリは人ごとに様に思ったが、自分が外で飲むときはほどほどにしようと心に決めた。
この件にかかわった人物は王自らの詮議が行われた末に厳しい処罰が下るらしい。
まぁ。ルリとしては終わったことなのでもういいかなと思っている。それよりも目下の悩みは。
「なぁ、二人ともこんなとこに入り浸ってていいの?仕事は?」
ルリ誘拐事件のあとからエリュトロンとレイヴンは毎日顔を出す。どうやら先の事件が相当こたえたらしく、できる限り目を離さないと決めたらしく可能な限り店にやってくるのだ。
「はぁ。今日もルリが可愛いくてつらい。」
「怒った姿も可愛いよ。愛しい人。」
「人の話聞いてないでしょ。まったく」
とはいいつつもいれば店番くらいはしてくれるので、工房に籠るときは便利かもしれない。などと密かに思うルリなのだった。
そして、四人の少女は未曾有の危機レイドで出会うこととなるが、それはまた別のお話。
ご覧いただきありがとうございます。
ひとまず獣人様と一緒完結です。
少し時間をおいてじっくりと書き直せたらいいなと思っております。
長らくお付き合いいただいた皆さん、評価、ブックマーク・感想・誤字報告を下さり支援してくださった皆様のおかげで完結できました。
本当にありがとうございました!
また作品を通してお会いできれば幸いです。
次作;隠密王子は嫁しか愛せない~夫婦仲良く異世界転生~
https://ncode.syosetu.com/n0649fu/
どうぞよろしくお願いします。




