アイテム職人は脱走する
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いよいよ終盤ですがガンバリマス。
なんだ?ここは天国か?
誘拐されて数日。
ルリはすっかりそこに馴染んでいた。
周りは親子ほど離れた。どうかしたら祖父と孫ほど年の離れた職人たちに大分可愛がられていた。職人とは重ねた年齢と実力がものをいうのだ。そんな中にあってルリという存在は手放しで歓迎された。
あるいは同じ職人として尊敬し、またあるいは家に残してきた子や孫に対するように接し、はたまた誘拐という異常な状況から現実を忘れるためのマスコットとして求められたのかもしれない。
しかし、ルリにとってそれはなんでもいい。
監禁されたこの状況で一日中鍛冶だけを好きなだけできる。おまけに周囲にいる先輩たちの仕事ぶりに刺激されっぱなしで、早く帰ってオリジナルデザインを作りたいと心から思う。
今は決められた材料でただ量産するためレシピ通りの制作だが、それはそれなりに満足していた。さらにいいことがもう一つ。
誘拐されてからしばらくして毎晩現れるシエルである。
その存在自体はやはり煩わされるものではあるが、シエルが現れるたびに職人たちが庇い、威嚇してくれる。さすがのシエルといえど、種族も違う年上からにらまれては引かざる得なかったのだ。
おまけにルリは炉を使ってはいるがほぼ自分の魔力で生み出した火と水で生成しているのでテンプレート通りの剣を一本こしらえるのなどお茶の子さいさいである。
ガランガランと音を立てては次々床に転がしていく姿は衝撃だったろう。一日に課せられたノルマをさっさとこなし、次はメイルだ兜だと防具までガンガン作る。
ある時ナナックに言われた。
『ノルマを簡単にこなしては使い捨てられる日が早く来て殺されてしまわないか?』
と。
しかし、そんな壮年の言葉にルリはコテリと首をかしげて答えた。
「私は鍛冶師ですから求められれば腕を振るいます。それが私の鍛冶師としての誇りです。戦争に使われようが魔物退治に使われようが刃物は刃物。何かを傷つけるものです。ならば、自分が鍛えたもので私が誰かを傷つけても同じことですよね?簡単に死んでなんかやしません。」
などとさらっと言ってのけていつの間に用意したのか刃先から柄まで銀製の短槍をてにして笑った。それをいそいそと炉の裏に隠す。
「こんな胸糞悪い仕事はさっさと終わらせて帰るのみです。」
言うが早いかまたルリは黙々と炉と向かいあう。その後ろ姿に自然と男たちは己が何者だったのかを思い出しこれまでとは比べ物にならない集中力を発揮し始めるのだった。
それから数日がたったある日、渡されたインゴットがいつもの半分以下だった。
とうとうその日が来たのだとルリは思った。それは男たちも同じだったのだろう。依頼にある者とは違うものを作り始めるあたりそれが彼らの手慣れた得物なのだろう。
あくまでも余ったインゴットで『納品分です。』と言わんばかりに箱に詰めて入り口に置くと内側からガンガンと戸を叩く。
ここまでくると時間勝負だ。相手にこっちを処分させるための時間を与えてはいけない。油断してる間にこっちから攻めるべきだ。
しかし向こうから反応がない。
『おんやぁ~?』
と、思っていたが、押してもあかないので鍵がかかっているのだろう。大斧を持った男が代表して戸をたたき割る。
これだけ物音立てているのに誰も来ない。むしろ誰もいない。というか、遠くが騒がしい。
「なんだかよくわからないが。」
「これはまさしくチャンスですね。」
「この騒ぎに乗じて逃げるぞ。」
「騒ぎの反対側にいくぞ。見つかったら片っ端からなぎ倒す。」
誰かの言葉に一様に頷き、一斉に部屋を飛び出していく。体の小さなルリを中心に陣形を取り駆け出すのだった。
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