黒紫の鳥は酒に酔えない
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レイヴン視点です。
無事にルリを店まで送りレイヴンは一息ついていた。自分の役目は終わったのでそのまま帰ろうかと思ったが、ルリかせめてお茶ぐらいと言ってくれたので、ご馳走になることにした。
しかし、澄まして大人しく茶を啜っていたものの、前回来たときよりも広くなった店内を窓際に置かれた応接用の小さなテーブルセットの椅子に座りながらも眺め回した。
前より増えた台には杖や魔道具が乗っているが、遠目から見れば壁に掛けられている大剣や槍、弓に始まり壁に近い新しい台には剣、短剣が乗り、その下の段には盾が並べられている。そして真ん中に増えた台には杖に下の段に魔道具。空間をまたいで色や模様が揃いになった武器たちがシリーズ的な意図を表していることが伺える。
壁や棚を彩るそれらが綺麗に並べられた店内は虹のようで美しく目を楽しませてくれる。
先日購入した杖と魔道具はとても良く手に馴染んだ。他にもどんな物があるのか気になって凝視する。
(そういえば帰りに乗せてもらった牡鹿も魔道具だと言っていたな。あれなら護衛などしなくても普通の馬などでは速さで追いつけないだろう。)
新しい構造の武器というだけでも人目を引くだろう。それなのにこれほど飛び抜けたものは革命とも言える。その重要性をこの少女はわかっているのだろうか。
まぁ、それはともかく今は置いておこう。まずは自分のオーダーメイドが先である。
その話題を向けた途端にルリの目がキラキラし始める。よほど作るのが好きなのだろうとその表情だけでわかる。夢中になって材料をしゃべる彼女の頭の中にはそのデザインや構造が描かれているんだろう。
利き手の長さや筋肉の付きを確認する間も脳内微調整までかかっていることだろう。
彼女にとっては仕事の一端なのだろうが、その表情が可愛らしくて頬が緩む。
気がつけば外はすっかり暗くなっている。このまま帰れば夜目のきかない鳥としては迷子になるだろう。これはこのまま森で一晩過ごして朝に飛び立とう。どうせならそのまま足りない素材を狩りに行くのもいいかもしれない。
そんなことを考えてたら夜目を心配したルリが止めてくれるという。
(待て。気持ちは嬉しいが男とひとつ屋根の下とは不味かろう。それだけ警戒心がないことを咎めるべきなのか、警戒心を向けなくていい男と認定されて喜ぶべきなのか……。)
悩んだものの結局泊めてもらうことにする。
出された食事は目新しくて面白美味しかった。おまけに酒まで出されて隣に番がいればここは天国かとすら思えるというのに湯浴みまで進められる。
流石にそれは図々しいだろうと思いつつも、昼に狩りをして汚れていたことを思い出す。寝床を借りるのに汚してしまうのは申し訳ない。かといって湯浴みを借りるのはどうなのか……。どちらが心象を悪くしないか……。
結局湯浴みをさせてもらうことにした。一度狩りに出ると何があるかわからないから着替えは一式持っているので助かった。
少し広めの浴室には壁際に木作りの浴槽が備えられている。浴槽から斜めにある棚には石鹸と瓶が2本、かごの中に手ぬぐいと、その更に隣に蓋付きの硝子の入れ物に塩のようなものが入っている。
「ん〜。よくわからんが石鹸だけ借りよう。」
王都でも定番になりつつある石鹸だが、ここにあるのは少し違う。王都で売られているのは油の匂いがして、泡立ちがいいし汚れはよく落ちるが独特の匂いに嫌煙されがちだ。
「ラベンダー?」
だがその石鹸はラベンダーのいい匂いがする。よく見れば石鹸自体もうっすら紫かかっている。
「これいいな。」
誰に告げるでもない単純な感想を述べつつも、手早く全身を洗い、流した湯に色がついてないかを確認し湯船に浸かりすぐに出る。鴉だからな。仕方ない。
湯上がりに客間を案内されたが、ローテーブルに置かれたバケツに食事は時と別のワインとエールが用意してあるのに気づいて、ソファに腰掛ける。
エールをグラスに注ぎ、ゴクゴクと飲み干す。湯浴みのあとのエールが体に染み渡る。
「ギルドでも飲めるエールのはずなのにこんなに美味いとは……。何が違うんだ?」
思わず瓶のラベルを確認すればそんなに高いものではない。寧ろギルドにもあるような懐優しいものだ。冷えているからだろうかと頭をひねるがよく分からない。
一人で座っていると湯浴みの音が耳に届く。不規則に流れる音に背徳感を覚え、水音をかき消すようにどんどん酒を飲む。
それにしても長くないか?
すでに1時間は経過している。
女の湯浴みは長いと聞くが本当に大丈夫なのか?倒れているんじゃなかろうか。そう言えば少し前から音がしない。時折パチャパチャと水の跳ねる音がするから無事なのだろうか……。
もう少し待って出てこなければ様子を見に行くべきか。自問自答の後にザバリと音がして衣連れの音がして慌ててワインを開ける。
今夜ほど自分が酒に強くてよかったと思った日はない。一体何本飲んでるんだ人の家でとも思うがこれは不可抗力としてもらおう。後日一箱届けることを心に誓う。
ゴクゴクと飲み干せば、まだ濡れ髪のルリがタオルを肩にかけて出てきた。
普段結んでいる髪は後ろに流してその艶めき、湯船で温まった体は首元までほんのり色づき頬は紅潮している姿は艶めかしい。
(目のやり場が!心臓がっ!!)
動悸を誤魔化すように酒を飲めばルリが気を利かせて次を注いでくれる。
なにか話題を振らねばと思いまずは彼女のことから始めるべきだろうかと考える。
「そういえば、ここを勧めてくれたトマに貴女は南の出身だと聞いたけど……?」
「ええ。あちらの気候は人の身を授かった私が鍛冶仕事をするには辛かったんです。なので、仕事のしやすい土地を求めてここまで来てしまいました。おかげでジョンを見つけられたのでラッキーでしたね。」
無邪気に笑うその姿に心臓が握られたようにキュンとする。少し酔いが入ったのか、喋りがなめらかになってくる。
「それにシエルさんから離れたかったんです。店に迷惑もかけたくなかったし。」
グラスで揺れる酒を追う瞳がゆらゆらとしているのは気のせいだということにしよう。
自分が聞きたかったことを向こうから話してくれたのだこの流れに乗らぬてはない。
「シエルさん?さっきの派手な髪の男かな?」
「はい。」
「彼は恋人じゃないの?」
否定されるとわかっててあえて問いかけてみる。
「っ違います!!」
かぶり気味に力強く明言する彼女に安堵する自分に狡い奴だと胸の内で自嘲する。
「違います。彼は南にある実家の鍛冶屋のお客さんでした。毎日一つ買って帰るから気前のいいお客さんぐらいにしか思ってなかったんです。」
ルリは眉値を寄せてグラスを両手で支える。
「でも、店の中の商品を一通り買ったあと、今度は毎日プレゼントを持っては開店から閉店までカウンターに居座るようになって。」
「それは何とも迷惑な客だな。」
かけられた言葉にルリはコクリと頷いたまま下を見る。
「私が接客をすればその人に嫌がらせをして、だんだんお客さんが減って。困った両親は私を表に出さないようにしました。でも寄り合い所である勉強だけは行ってましたがそのたびに付きまとわれて、ある日強引に連れて行かれそうになったんです。幸い街のみんなは状況を知ってて助けてくれましたが。」
「だから住み慣れた土地を離れたのか?自警団や騎士には届けなかったのか?」
「もちろん届けました。でもシエルさんは街でも裕福なお宅の三男でそこの奥様が溺愛して育てたお子さんなんです。寄付もあちこちにしていて発言権がかなり大きいようでした。」
「あ〜。なるほど。」
典型的な甘やかされたボンボンってやつなんだろう。一方的に番と勘違いして追い回した。
度し難い。
本当に番であれば相手の嫌がることは出来ない(・・・・)ものだ。相手の嫌がる姿に本能が嫌悪感を示しそんなことできない。
いまだって苦痛に歪むルリを見てると抱きしめて安心させてあげたい。大丈夫だよって囁いてどろどろに甘やかしたい衝動に駆られる。
しかし、泊まるにあたって指一本触れないと宣言した手前そうもいかず、ぐっとこらえる。
「そんなことするやつ番なんかじゃない。俺ならそんなことしない。」
「レイヴンさん?」
「レイって呼んで。俺はルリの嫌がることはしないよ。」
「レ……イ?」
「うん。俺ならルリを守る。ルリの嫌なことはしない。ルリが好きなことを楽しんでできるように手伝うよ。」
「本当に?」
「もちろんだ。俺のー愛しい人ー。」
「不思議……。シエルさんに言われるのは嫌だったのに……レイに言われるのは……嫌じゃない……です。」
それだけ言うと、ルリは座っていたカウチにポフッと倒れ込んだ。
「ルリ?!だいじょ……寝ちゃったか。……しまった。あの男に嫉妬するあまり無理させてしまった。……ゴメンな。」
寝ている少女に聞こえないとわかりつつもポツリとつぶやく謝罪は空気に消えた。
彼女の部屋に運ぼうかと思うが、触れないといった手前それもどうかと思う。それに異性の部屋に勝手に入ることも非常識だろう。
「無防備に寝ちゃって可愛いなぁ。」
穏やかな寝顔を少し眺めてローテーブルの位置をずらし、自分が座っていたソファをくっつけてルリを囲う。まるで簡易ベッドのようだ。
部屋の済に置かれたかごの中のブランケットを見つけて足に寄せてかければ若干足りない。どうやらハーフケットだったらしい。足りなかった上半身に上着をかけて自己満足に頷く。
「おやすみ。愛しい人。これだけは許してくれよ。」
小さくつぶやいて彼女の額にそっと唇を寄せる。ずっと見ていたいがそれは無粋というものだろう。
もうすぐ夜が開ける。少しばかり自分も眠ろう。と客間の戸を開けるのだった。
ご覧いただきありがとうございます。
レイヴンのターン意外と長いな(笑)
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