アイテム職人は酒におぼれる
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オーダー受注される杖に関する打ち合わせをしていたら外はすっかり日が暮れていた。
ルリは鳥獣人の一族から生まれた突然変異の人族である。もちろん家族はみんな鳥獣人。だからこそ知っている。
鳥獣人は夜目がきかない。
したがってこんな時刻にこのまま帰してしまえば間違いなく迷子コースである。
仮にも嫌いな男からかばってくれた人物を迷子になるとわかっていて放り出すのも後味が悪い。幸いにして先日の改装によってできた客間がある。食料も最近買い込んだので急な客人にも対応できそうだ。
「あの、レイヴンさんは鴉の獣人さんだとおっしゃってましたよね?」
「ん?ああ、そうだ。」
「では今日はここに泊っていってください。狭いですが客間もありますし。」
「いや、それは……。」
「日が暮れてしまうと不便でしょうから。私も鳥族なのでわかります。」
しばし考えるレイヴンはゆっくりと頷く。
「では情けなくも世話になる。けして指一本触れないと約束する。」
そんなに気負わなくても怪しくなれば酔い潰してしまおうと思っていたことにルリはちょっとした罪悪感を覚えて斜めの方向を見上げる。
「居住は奥になるのでどうぞこちらに。」
カウンターの脇を抜けて鍛冶場を通り過ぎた先には濃い茶色の木のロ―テーブルとソファ、その向かい側にはカウチが置かれ、斜めにはゆったりめの一人用ソファが置いてある。それぞれのソファは柔らかなグリーンにつる草の模様が織り込まれた布で張られている。
「どうぞ座ってください。一通りのものはそろってますが何を飲みますか?やっぱりエールですか?ワインもありますけど。」
「あー。ではエールを。」
「わかりました。少しお待ちください。」
そういうとルリは一人用ソファの向こう側へと消えていく。
消えた先はキッチンでルリはグラスと瓶入りのエールを冷風箱から取り出す。
冷風箱は銀製の箱に氷と風属性の魔石がはめ込まれたもので食料の貯蔵に使われる。一般的には腰ほどの高さであるが、ルリは自分で魔石が設置でき、素材もジョンに出してもらえば済むのをいいことに慎重とほぼ同じ大きさのものを備えている。
さらに鍋を竈に乗せ、火の魔石を竈の火口に放り込む。鍋にチーズと白ワインを入れると、キッチンを出てレイヴンの斜めの席に行くとグラスを渡して自分の分はテーブルに置きレイヴンが手にするグラスにエールを注ぐ。
すると、レイヴンはするりとルリの手からエールの瓶を持つ。
「あの……。」
「ルリの分は俺が注ぐよ。」
「あ、ありがとうございます。」
テーブルに置いたグラスを慌てて両手でつつみ、その口をレイヴンに向けると金色の液体が泡と共に注がれる。
「今日の出会いと明日の幸福に乾杯。」
「レイヴンさんの冒険と明日の健康に乾杯。」
アニマでは酒の席の乾杯は大人数でない限りそれぞれが相手を思って乾杯の寿ぎを告げ、器を合わせる音で邪を払うが習わしだ。
二人もそれが当然であり、グラスを合わせて飲む。最初の一杯は一気に飲み干すのが酒の席では粋とされているのでそれにならって二人はグラスを干す。
すかさずルリはレイヴンのグラスにエールを注ぐ。
「次を持ってきます。ワインもありますけどどうしますか?」
「じゃぁ、白があればそっちを。」
こくりと頷いてルリはキッチンに入るとワインとパンやソーセージ、野菜を程よく切って皿に盛り先ほどの鍋と一緒に運ぶ。
「これは?」
「チーズフォンデュです。パンや野菜などを串に刺してチーズに浸してから食べるんです。」
「へぇ。初めての食べ方だな。」
「程よく塩気があるのでお酒に合いますよ。」
言うが早いかルリは串にパンをさして鍋の中に浸してくるくる回してから持ちあげる。ふぅふぅと息を吹きかけてぱくんと口に入れる。
「どうぞ。」
言葉と共にレイヴンに串を差し出しす。レイヴンもそれを礼と共に受け取るとソーセージを刺して習うようにチーズの海に浸してくるくる回して持ち上げる。
白く伸びるチーズに「おぉぉ」と感嘆を漏らしながら一口頬張ると、熱さを誤魔化すようにエールを飲む。
「これは確かに酒に合うし美味しいな。」
思わずといったようにつぶやいたレイヴンの頬は紅潮し緩んでいる。
「ですよね!チーズがたくさん食べれて結構気に入ってるんです。お口に合ったならよかった。」
レイヴンの表情にこの料理が気に行ってもらえたことが嬉しくなってルリもにこりと笑んだ。
「あ、湯浴みはどうしますか?すぐに用意出来ますけど?」
一瞬動きを止めてじっとルリを見つめたレイヴンはしばらくして目を閉じた。
「そうだな……。」
しばらく考えたのちにレイヴンは「ん。」と頷く。
「泊めてもらった上に湯浴みまで甘えてしまうのは心苦しいが今日は狩りに出たからこのまま寝床を借りるのも申し訳ない。好意に甘えさせてもらう。」
「ええ。まぁ、でもその前にしっかり食べてください。」
冒険者は荒くれ者が多い中、ずいぶんときっちりした人物だなぁとルリは思いつつ、空いたグラスにワインを注いだ。
ひとしきり食べて満足すると、ルリは客人を浴室に案内した。その間に客間に不備がないか念のため確認し、無駄にベッドを整えてキッチンに戻り食事の片づけをする。
「ありがとう。いい湯だった。」
「え?もうですか……?ちゃんと温まりました?」
「はは。鴉の行水だからな。いい湯だった。先にもらってすまない。」
「いえ。客間に案内します。こちらにどうぞ。」
通路を挟んで向かい合わせに二枚の扉があり、ルリはその左を開いた。
「こちらを使ってください。向かいは私の部屋ですので用事があるときは呼んでください。飲み物はテーブルにありますので好きに飲んでもらって構いませんので。私は湯浴みしてきますので。」
「ああ。ありがとう。」
手早く説明をしてルリは浴室に入る。気を使ったのかレイヴンはお湯を抜いていてくれたようで湯船の中は水が張られている。壁に備え付けられた棚から火属性の魔石を一個取り、湯船に沈めればふつふつと小さな気泡とともに湯気が立ち上る。
「はぁー。幸せだ。」
湯気の立ち込める天井を見上げてふと気づく。鍛冶をしているルリは仕事柄よく汚れる。朝から鍛剣した日には昼には汗と汚れでドロドロだ。なので平民には珍しく毎日の入浴は欠かせず、湯浴みは習慣であり、実家の家族も同じだったのでそれに対して何ら疑問を持つこともなかった。
「家族以外の人を泊めるなんて初めてだなぁ。」
女の湯浴みは時間がかかる。それはルリとて例外ではない。けして短くない時間であったはずなのに、レイヴンはルリの出てくるもを待っていたかのようにソファに座ってグラスを傾けていた。
「ルリは何飲む?」
「では、赤のワインを。」
「了解。」
とくとくと瓶から注がれるワインレッドをグラスと共に受け取り、レイヴンの斜めに座る。
湯上りの酒とはなぜもこんなにうまいのか。こっこっと喉を鳴らして一気に飲み干しグラスを置けば、思いのほか近かったレイヴンの表情にドキリと胸が鳴る。どうやらじっとこちらを見ていたらしい。
「レイヴンさん?」
「好きだ。」
「な、え?酔ってるんですか……?」
「ううん。ルリは可愛くて改めて好きだなって思ったんだ。」
「え?あ、えっと……。」
「ルリが俺の番でよかった……。どうしよう。今夜は指一本触れないって言ったのに早くも後悔しそうなぐらいルリが愛おしい。」
チーズに負けない程蕩ける様な瞳と朱に染まった頬、湯上りのためか開かれたシャツの胸元がやけに艶めかしくてルリは早鐘のようになる動悸を抑えられない。
「あの、ですね。番をみつけた獣人が愛を囀るのは知っているのですが、さすがにちょっと恥ずかしいと言いますか、慣れないことなのでお手柔らかにしていただかないと心臓が持たないというか……。」
「わかった。じゃぁ、少しずつ慣れていってねー愛しい人」
向けられたキラキラスマイルに一瞬ルリは息を止めたものの、それを誤魔化すように酒を煽る。
家族以外と飲むのが初めてのルリはどのタイミングで部屋に引き上げていいのかわからず、結局明け方船を漕ぐまで飲み続けるはめとなるのだが、後半のほとんどは寝ぼけていて覚えていないのであった。
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