紫黒の鳥は欲望を隠す
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今回もレイヴン視点です。
その男は頭を抱えた。
思えば最初の印象が悪すぎる。思いっきり凝視したし何より煙突に突っ込んだことが格好悪くて恥ずかしすぎてついしかめっ面になっていた自覚がある。
きっと自分だったら「失礼な奴」と思うだろう。
そこから挽回して意識してもらうにはどれほどの時間がかかるだろうか。
知らずため息が出てしまうのは仕方ない。とりあえずせっかく入手した武器を試そうと山の上に来ていた。紫黒の髪が風に揺れている。
「何かいい獲物はいないかな。」
ぽつりとつぶやいてあたりの気配を探ってみる。
全身の毛が浮き立って何かいる気配を感じる。
「雷獣か。丁度いいな。」
こう見えてレイヴンはAランクの冒険者である。大抵の獲物は一人で狩ってしまうし、今回の雷獣に至っては相性がいい。なんといっても彼の魔法属性は雷と闇である。少しなら光も扱えるがそれは攻撃として役に立つレベルまで昇華されてはいない。
先日買った杖は白色だった。使われている素材はユニコーンだろうか。他にも何か感じはするがいくつかの気配が混ざっていて正体までつかめない。
とりあえず握ってみて最初の魔力を込める。
杖は最初に魔力を流したものを記録し、その者が杖を解放するまで他を拒む。また上位のアイテムとなれば手放すことはかなわず、死をもって離れるという。
白い杖は瞬間的に虹色に光るとまた白に戻る。
「馴染みがいいな。」
最近魔力が引き上がってから杖を握るたびにチリチリとした反発があった。どうにかねじ伏せれないかと思案していたら魔物討伐中にパキパキと音を立てたと思ったら粉砕し霧散した。
魔力の反発も感じない。
「これが雷か闇を引き出すものならよかったんだが。」
実際につかいってよくわかる。これを作ったのは一流の作り手だろう。これほどのものはダンジョンでも30階層潜っても見たことは無い。
「雷獣持っていったら作ってもらえないだろうか。」
杖を作るには金属や鉱石ではなく魔獣を素体とするか精霊の宿る樹木を使う。良い武器を作るならそれなりの素材が必要になる。
倒した雷獣の牙、爪、鬣、尻尾を取り、核を取り出す。
「初陣としてはこんなもんか。」
言葉と同時にこつんと杖を手の甲で叩く。そのまま獣化して王都まで戻る。
もうすぐ日が傾くだろう。獣化を解いてギルドに向かおうとした先、人だかりができている。また酔っ払いでも騒いでいるのだろうと通り過ぎようとしたときだった。
『そんなこと誰も頼んでない!』
はっきりとした言葉、よく耳に響くその声に喜びすら感じる。それなのにその声が紡ぎ出した言葉は何とも不穏であり、乗せられた感情は不機嫌この上ない。
足を止めたものの、前回の自分の態度からそういった感情をむけられても仕方ないと自嘲する。
他人事とは思えないが何事なのかは気になる。
騒ぎの先にいるのは先日自覚した愛しい番の存在。それと一緒にいるのは極彩色の派手な頭に日に焼けた褐色の肌。
「南国系の獣人か?」
頭の上に耳がないから人か鳥だろうが、あの頭が天然ものなら間違いなく鳥だろう。
会話の中からわかることはルリがひどく男を拒んでいる事。相手の男が執着し一方的であること。二人が同じ土地の出身で顔見知り(嘘でも知り合いなんて言いたくない。)であること。それを騎士さまが助けに入ったこと。
「あの騎士さまはご同輩ってとこか……。」
燃える様な赤い髪の騎士は解ける様な甘い瞳でルリを見ていた。ならばあの男も彼女を番と認めたのだろう。だが、付き纏っている男は違う。そもそも目つきが違う。あれは固執して執着するものの目だ。
子供が玩具を取り上げられて意固地になるそれとひどく似ている。
「隠れか。」
つぶやいてから自分の眉間にしわが寄っていることを悟る。
「いかん、いかん。」
どうやらルリは騎士様が送っていくらしいのでこの場は身を引くべきだろう。どうやらルリ自体もあの騎士様とは顔見知りのようなので問題ないだろう。
「まずは情報が足りないか。」
それからレイヴンはこれまでの冒険者歳ての伝手を惜しみなく発揮して情報を集めた。ルリ自身はもちろん、それに執着していた男に騎士、それらの周辺まで。
「さて、どうしてやろうか。」
身上調査書を片手にあの男の排除方法を考える。ぼんやりと紙を眺めてギルドの談話コーナーにあるソファを陣取っていればよく響く能天気な声。
不快な声がまた番を困らせていると思えば我慢ができなかった。
「ルリが誰の番なのかしっかりわからせてやらないとな。」
思わず積口から洩れた言葉に自分がそれほど溺れていることに気づく。握っていた紙を暖炉に放り込んで足を勧めた。
わざとらしく大仰に彼女のそばに侍ると自分の番が彼女であるとわかるように語り掛ける。少なくともこれで冒険者ならば彼女に手など出さないだろう。この王都でもAランク冒険者は20人とおらずその中で魔法が使えるのはレイヴンだけだ。王都を中心にしてギルドにいる者なら彼を敵に回すことが得策でないとわかるだろう。
そんな男の番にうっかり声をかけて不興でも買った日には王都から出なければならないのは明白だ。だからこそレイヴンは大仰にまるで愛の奴隷だとでも言いたげに振舞う。
自分一人の名で守れるのならばいくらでも使おう。
彼女をかばい、守り、害鳥を排し、その愛しい人が腕の中で安堵し涙を流す姿に心が震えた。泣いてる姿は見たくないと思うのにその流される雫はどうしてこんなにも美しく映るのか。
でもどうせ腕の中で鳴くなら褥に運び甘やかで甘美な悦楽の中で鳴かせてみたい。その囀りがどんなふうに響くだろう。自らの手で体を清め食事をさせて水すらも自分が飲ませてやりたい。そうやってぐずぐずに甘やかして溶かしてしまいたい。
そんな欲望を抱きつつもおくびにも出さず少女に向き合う。
するとその体から彼女と違う匂いがする。最近嗅いだことのある匂いと不自然なほどルリの身に合ってない服。
どろりとした独善欲が鎌首をもたげる。それでも何とか取り繕って涼しい顔で彼女にマントを羽織らせる。他の男の匂いなんて自分の匂いで上書きしてやる。といわんばかりの男の態度に周囲が動きを止め、目を見開き、口が閉じていないことなど、レイヴンは気にすることは無かった。
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