紫黒の鳥は春を囀る
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今回はレイヴン視点です
その時の衝撃をレイヴンは今でも忘れもしない。
そもそもレイヴンという男は鴉族の獣人あり冒険者だ。鴉族という獣人はとても稀な魔力を操ることに長けた種族である。そのためレイヴンも優れた魔法使いであり、獣人の多いアニマでは圧倒的に人間の魔法使いが多い中にあって、同じ思考である獣人だけでパーティが組めるという利点から引く手数多である。
そんな彼はどこかのパーティに手伝いに行くことはあっても基本的には一人でダンジョンに入るタイプの冒険者だ。その為名前が知られ知り合い程度の付き合いは多いが、誰か特定のものと深くつるむことはないことでその業界では有名な男だ。
そんなレイヴンではあるがもちろん友人くらいはいる。そんな数少ない友人に珍しく自分から話しかけに行く。
「おや、レイヴン久しぶりじゃないか。どうしたの?」
穏やかな笑みを称えて迎えてくれたのは鷹獣人の男。
「実は最近魔力が高くなって杖が合わなくなっているんだ。通いの武器屋では手に負えないと言われてしまったからどこかいい店を探しているんだが、どこか知らないか?」
要点だけ率直伝えれば、男は少し考えてからポンと掌に拳を落とす。
「最近通い始めたお気に入りの店なんだけど確か杖も置いていたと思う。店員さんが鳥系の人族でね、オーダーメイドもしているから相談してみるといいよ。今私が使っているのも彼女の作なんだ。なんて言ったかな南では有名になりつつあるらしいんだけど。本名はルリ・カケス嬢という可愛らしい子だよ。」
「まぁ女でも男でも腕が確かならそれで構わないが。それでどこに店はあるんだ?」
レイヴンは人と距離を置くタイプの男だ。なので、本人は適齢期にもかかわらず番を探そうとは思わなかったし、出会えないならそれでもいいと思っている節がある。
なので基本女といわれても特別な感情は起きない。武器屋に求めるのは作った人間の性別ではないく、確かな武器が作れるかどうかなのだ。
「ここから東北に向かって半日飛んだ森の中にあるよ。」
「森の中?」
なんでそんなところで店を?という疑問がレイヴンの頭によぎる。商売をするなら人の多いところがいいだろうに。
「ああ。森の中にある出来損ないのダンジョンでやっている店でね。一見すると山小屋にしか見えないけどちゃんと看板があるからわかると思う。といっても、ダンジョンの固有結界があって必要としない者は店にたどり着けない。」
「でもお前はいけるんだろう?」
「ああ。武器を求める者なら導かれるようだよ。まぁ、行くだけ行ってみなよ。その価値はあると思うから。店の名前はね……。」
用件だけ済ませるとレイヴンは獣化して言われた方向に飛んでいく。広げた翼で捕らえ加速すれば半日と経たずに目的の森へたどり着く。上空からみて森のほぼ中心にぽっかりとした空間を見つけて降りてみようと降下の体勢に入ったとき、一人の人物が見えた。その人から目が離せなくて、レイヴンは風を読み誤り落下してしまう。
すると上空からは見えなかった小屋がそこに現れ、着地点にあった煙突へ吸い込まれるようにダイブして引っかかる。
すると女の声がする。誰かと話しているようだが、女の声に応える者はない。それでも女はしゃべり続けていると何か大きな振動にあい、煙突から解放された。
獣のままでパタパタと体についたすすを払って人の姿に戻る。
振り向い先に少女がたたずんでいた。
癖のある朱混ざりの濃紺髪、色は少し焼けているが健康的で小柄な女性。レイヴンはその人を美しいと思った。
異性に対し美醜を意識したのなどこれが初めてだった。
これまでいろんなパーティで女性冒険者と組んだことはもちろんある。だがそれらに対して見た目がどうこうなんて考えたことがなかった。すべてが『一時的に行動を共にする女』程度でそれ以上でもそれ以下でもなく、好意など到底浮かばなかった。
それだというのに、これは一体どうしたことか。
念のため魅了の呪いの類はないのかと自身の状態を確認してみるが特に体に異常は感じない。その正体を見極めねばと思いじっと見つめてしまう。見つめすぎて『睨まれてる』と思わせてしまいそうだが今それどころではない。
そしてふと気になったことを聞いてしまう。
「ジョンとは男ではないのか?」
店名になっている『ジョンのアイテム用品店』とあって、レイヴンはジョンが誰なのかが気になった。一応店員は女だと聞いていた。こんな森の中の店ということは店主と思われるジョンとこの店員は一緒に住んでると考えるのが妥当だろう。
まさかすでに結婚しているのか?
その思考に至ってレイヴンは絶望する。
(いや、まてよ。俺は何で絶望している?それほど特別に思うんだ?)
女に促されるまま店の中に入る。とにかくこの感情とこの女について知らねばなるまい。そう思っていた。
気が付いたら白い杖と緑のぬいぐるみをもって店の外にいた。ぼうっとした頭で獣化して空に舞い上がる。いつもならまっすぐ帰路につくところだが、なんだか離れがたくて上空を三回も旋回していた。
まるで熱に浮かされたような感覚に頭を振り帰路につくもすぐにでも戻りたい衝動に駆られる。後ろ髪惹かれる思いで王都にもどり、ひとまずギルドに降り立つと、そこにタイミングよく店を教えてくれた鷹の獣人がいた。
「あ、レイヴン!店には行けたいかい?」
「ああ。行けた。杖も買えた。なぜか白いのを買ってしまったが。」
「え?オーダーメイドにしなかったのかい?まぁ、彼女の作る物はどれもオリジナルらしいから店に並べてあるのもいいものだと思うけど。」
そういわれてレイヴンはムッとする。『彼女』なんて言い方をしたらまるでこいつが彼女の番のようではないか。と。
そこまで思ってハタと気づく。
「そういえばトマには番がい見つかったんだよな?それってどんな感じだ?」
「え?珍しいね、レイヴンがそんなこと聞くなんて。そうだなぁ。まずは彼女を見て美しくて素敵な人だと思ったよ。とても好ましく思って、目が離せなくてずっと傍にいたくて離れがたくなる。名前を呼ばれるだけで幸せになるんだ。他にもまだいろいろあるけど……。レイヴン?」
とても甘やかな表情でつらつらと紡がれる言葉に自身でも覚えのある感情。いや、たった今体験した感情をなぞるように言われてレイヴンは目を見開いた。
「つまり、あの子が俺の番だってことか?」
顔に体中の熱を集めて掌の中でつぶやいた言葉は喧騒の中に溶けた。
冒険者レイヴン27才 適齢期真っただ中に訪れた春であった。
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