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獣人さまと一緒  作者: 牧野りせ
鳥獣様と一緒
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アイテム職人ギルドに行く

お越しいただきありがとうございます。


ブックマーク・評価・誤字報告ありがとうございます。

これからも頑張ります!

 「なんで私騎士様の服着てるんだろう。」


 町の中でルリはぽつりとつぶやく。王城の演習場でずぶ濡れになってしまったのでタオルだけ貸してもらえただけでもラッキーではあったのだが、まさか着替えまで貸してもらえるとは。


 曰く『部下の不出来は上司が責任を持つもの……です』とほほ笑まれてしまった。ちょっと顔が赤かったが風邪だろうか。と思ったけどルリはあえて触れなかった。


 ルリよりも上背も肩幅もあるエリュトロンの服は当然大きい。肩が合わないから袖が余って手が出なかったので捲り上げ、黒のスラックスの裾を曲げた。しわが寄って洗濯係の人に申し訳ないとおもいつつも引きずるよりは良かろうと諦めた。


 上まできっちりボタンをしめても鎖骨がちらちらちらと見えていたことにルリ本人は自覚がなく、このまま返してはまずいと悟ったエリュトロンは慌てて自分の髪を解き、襟を立てて髪紐で結んだ。


 愛しい番の柔肌を他人に晒してなるものか。という彼の独占欲と心配が合いまった結果なのだが、そのせいで下町の『兄弟のお下がりをもらったものの服が大きくて残念な子』を地でいっていることになってしまったのだが、元々男兄弟に囲まれて育ったことや、鍛冶仕事をしているときは綿のシャツにズボンといういで立ちなので、騎士団の制服は上等なお下がり感覚だ。もちろん後日返すことは忘れていない。


 「せっかく街中に来たわけだし。」


 実は以前訪れた客から「こんな森の中に店構えても誰も来ないだろう。せっかく物が良いんだから冒険者ギルドの武器委託販売所に置いてもらえば?」とアドバイスをもらった。


 よくきけば王都の冒険者ギルドにはすぐに冒険に出かけられるように受付の横に武器屋と防具屋、道具屋が設けてあり、装備を備えることもハントしてきた装備を換金することもできるようにと簡易の販売所が設けられている。


 基本はギルド職員が店番をしており、登録さえすれば誰でも商品を置かせてもらえるらしい。おまけに冒険者がちょいちょい商品をチェックしに来るのでわりとポンポン売れるらしい。


 せっかく王都まで出てきたので試しに行ってみるのもいいだろう。


 ってなわけで、ルリは冒険者ギルドにいた。


 武器販売担当の職員に話しかけて鍛冶職人の木簡を見せると簡単に登録をさせてもらえ、せっかくだからなにか置いていきますか?と聞かれたので、エリュトロンに試しに使ってもらった槍3本と弓矢3組を置いてもらい、意気揚々と出ようとした時だ。


 「そこにいるのはルリじゃないか。」


 ギルドの騒がしい中でもよく通るその声にルリは体を硬くする。が、何も聞こえなかった振りをしようと決めて歩き出すと手首をがっちり握られる。


 「放してもらえませんか?シエルさん。」


 「おや、つれないね。キミのためにわざわざ南から移住してきた番に対して。」


 忘れもしない鳥頭の極楽男シエルがそこにいた。極彩色の髪色が室内にあっても光を反射してうっとうしいことこの上ない。


 「そんなこと誰も頼んでません。番というのもあなたが勝手にそういっているだけで、人族の私にはそんなこと言われてもわからないので困ります。」


 はっきりと伝えているが、その真意が伝わらないのか無視を決め込んでいるのか。


 「へぇ。ところで今キミの着てる服から別の男の匂いがするけどその服は一体どうしたの?僕の気を引きたいのはわかるけど、番である僕以外の男の匂いを纏うなんて感心しないな。」


 顔は穏やかなのにルリの手首をつかむ手に力が込められていく。


 「いっ……た……!放して!」


 苦痛にルリの顔がゆがみ眉間にしわが寄る。うっすらと張った水の膜が瞳からこぼれそうになるがシエルはそんな様子もお構いなしだ。


 「さすがにそれはやりすぎじゃない?ルリ。これは僕を裏切る罰だよ?」


 変わることなく笑顔を称える目の前の男に身の毛がよだつ。背中に流れる冷や汗と恐怖で動悸が早まる。どうにか振りほどこうとするのにがっしりと握られた手首は解けない。


 「さぁ、二人きりになれる場所に行こう。きちんとお仕置きしなきゃ。」


 言われた言葉に瞠目し、頭が真っ白になる。力ずくで引きずられそうになる。このまま連れていかれたらいったいどんな目に合うかわからない。なんとか抵抗しようと足を踏ん張るが大理石の床につるつると滑るだけだ。


 「放して!行くわけないでしょう!」


 どうにか逃げなければと声を立てたその時だった。


 「待たせてごめんね、ルリ。どこかに飛んでいってしまわなくてよかった。」


 かけられた言葉と同時に体を救いあげられる。一瞬の出来事に頭がついていかないルリは急に高くなった視線と地面から離れた足、踏ん張っていた姿勢からの急な体重移動に驚いて声の主を見つめると漆黒の髪にぶつかり、目を見開けば紫黒色の瞳にぶつかる。


 ルリはその顔に見覚えがあった。


 以前店にやってきた青年だ。しかも始終しかめっ面で「俺に障るな」オーラ全開だったのに今向けられる笑顔はいったいどうしたということだろう。


 「探していたんだよ?店に行ったけど閉まっていたから。」


 「え、あの、ごめんなさい……?」


 「いいんだ。こうしてここで会えたから。俺の愛しい(ディーレクタ)


 「え?」


 聞きなれない言葉にキョトンとすれば赤みのさした頬が穏やかな笑みを浮かべている。咄嗟の出来事だったが抱き上げらていた。その拍子に離れた手で彼の肩に手を添えてバランスを取る。


 青年はその手を肩から外すと優しく手を握る。


 「一体なんだお前は?ソレは僕の番なんだが。」


 「番?笑わせるな、番ならばこんな無体な真似はできるはずがない。お前のそれは隠れ番だろうさ。」


 ルリを守るように抱き上げたままで青年はシエルを睨みつける。


 隠れ番とは、繁殖適齢期に合って番を見つけられないものが疑似的に定める番のことで本物の番とは本能的な部分が異なる。まさにエリュトロンがティナに対して抱いていたものがそれといえるだろう。


 「な。そんなはず……!」


 「ああ。可哀そうに、こんなに赤くなってしまっている。」


 青年は眉間にしわを寄せ泣きそうな顔をする。


 (なんで、あの時のお客さんが私の手にちょっと跡がついたくらいで泣きそうになってるの?)


 もはやルリの頭はパニック寸前。自分の予想外の事態に言葉も出ない。


 優しくとった手の赤くなってしまった手首にそっと唇を寄せて口づける。


 「!?」


 「貴様!」


 「なんだ、まだいたのか。俺の番を傷付けたんだ相応の覚悟はあるんだろう?今すぐ雷にさらしてやろうか。」


 剣吞な瞳はルリに向けられる甘やかなそれとはまったく異なり、目の前の男を射殺さんばかりで、周囲にいる敏感な獣人はその殺気にかたずを飲んで止めに見つめている。


 「おい、あれレイヴンじゃないか?」


 「うぉ、どこのどいつだよレイヴンにケンカ売ってる馬鹿。」


 「獣人の魔法使いにケンカ売ってタダで済むわけないのに。」


 周りから囁かれる言葉が耳に入ったのか、苦虫を噛んだような顔をしてシエルはその場を後にした。


 その背中が見えなくなるまで殺気立っていた青年、レイヴンがその鋭さを緩めると周囲の緊張も解けたようでいつの間にか静まり返っていたそこは次第にまた賑やかになっていく。


 「ルリ?もう大丈夫だよ。」


 腕に収めたその体を抱きしめて片手を朱混ざりの濃紺髪に添えてできるだけ優しく、怯えさせないようにゆっくりと撫でる。


 反射で一瞬ピクリと肩が跳ねるが、ルリはその手にどうしようもない安堵を覚える。穏やかなその手つきに気が抜ける。


 「ああ、泣かないで愛しい(ディーレクタ)。もう不快なやつはいないから、大丈夫だ。」


 ポンポンと背中を優しく叩かれる。溢れる雫が止められなくてその片口に顔をうずめる。しゃくり上げる声をこらえることもできなくて、気が付けばその胸に体を預けていた。


 しばらくたって落ち着いたものの、変わることなく抱き上げられているこの状況に恥ずかしさがこみ上げる。顔面に集まる熱を自覚しながらもずっとこのままでいるわけにもいかず、ゆっくり顔を上げる。


 「あの、助けていただいてありがとうございました。えっと……レイヴンさん……?」


 先ほど周囲から上がった名前は目の前の彼のことだろうと思いルリは名前を呼ぶと、目の前の青年は少し驚いた表情を浮かべたもののすぐに目じりを下げて柔らかく笑んだ。


 「そうだ。俺はレイヴン。冒険者をしている。前にルリの店で行ったんだが覚えてる?」


 「はい。杖と魔道具をお買い上げくださった方ですよね?」


 「ああ、そうだよ。よかった覚えててくれて。あの時ルリが番だとわかってどうしていいかわからず随分な態度を取ったから嫌われたんじゃないかと心配していたんだ。さっきの男がルリを見ていたのは気づいていたんだが、知り合いだったらルリの邪魔をしてしまうと思って遠慮していた。もっと早く助けに入るべきだった。怖い思いをさせてすまない。愛しい(ディーレクタ)


 「あの、そのディーレクタって……?」


 「ああ、どうやらルリは俺の番なんだ。俺は鴉の獣人なんだが我々の一族では番のことを愛情と信頼を込めてー愛しい(ディーレクタ)-と呼ぶ。」


 言われてルリは額にキスを落とされる。


 「ヒェッ……!」


 向けられ慣れない言動にルリは恥ずかしいやら驚きやらで目を白黒させる。


 「悪いんだけど、ルリ俺のマントを羽織ってもらえるかな?認識阻害の魔法をかけてあるからさっきの奴に見つからずに済む。それから家まで送るよ。」


 ふわりとマントを巻き付けられて微笑まれてはルリはもう何も言うことができず、顔の熱を隠すように俯いてコクコクと首を動かすのであった。



ご覧いただきありがとうございます。


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