朱の鳥は夢想する
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心臓が止まるかと思った。
(なんでルリがここにいるの?)
今日は演習場で訓練の日。珍しく書類からも解放されて訓練用の潰された槍を手に、煩悩を払うべく後輩騎士たちと向き合っていたが次々となぎ倒していても足りない。
「今日の団長ヤバい。」
「手加減なしだな。」
「女騎士相手にも容赦ねぇぞ。」
「つか、普段デレデレになってるティナにすら手を抜いてねぇ。」
地面に転がっている騎士たちからこそこそと話し声が耳に入るが、何も聞こえないふりをする。
「団長荒れてるなぁ~俺ともやろうぜぇ!」
軽薄な語りではあるがこれでも副団長のマックス。
そういえばちょうどいいからちゃんと話をしておかねば。
「マックス。」
「ん?なんすか団長。」
「俺にも番が現れた。だから今までのようなことはするな。」
「はぁ?!番ってティナじゃなかったのかよ!?」
驚きを隠そうとしないサルの獣人マックス。以外によく響いた声に周囲の騎士たちからざわめきが上がるが、気にしない。むしろ番がティナでなく別にいることが知れ渡ればこれまでのようにわざわざ巡回や当番を組まされることもないだろう。
「違う。今まで焦って行動していたがどうやら違ったようだ。本物が現れたからこそ違いがよくわかるようになった。」
「お、おぅ。」
「まぁ、そういうことだからこれまでのような気づかい(・・・・)はするな。それから団長補佐の候補からティナを外せそういう気遣いも今後必要ない。」
「なんだバレてたんすか。りょーかいしました。」
本当に分かっているのか怪しい返事だがまぁ、大丈夫だろう。向かい合って構えを取るとマックスが踏み込んでくる。
「で、団長のその愛しの番殿はどんな人なんすか?」
ガキン!
「なんだ?お前にはやらんぞ。」
「はっ!団長からそんな言葉が出るなんてな!こりゃぁ本物だな。」
「ああ。本当の番だからな。」
「うわぁ。団長鏡見たほうがいいっすよ。今までにないほどデレデレじゃないっすか。」
「そうだな。自覚もあるし、むしろそれでいいとすら思えるから不思議だな。」
「うわぁぁぁ!惚気っすか!?俺まだ番いないのに!」
「なら、早く見つかるといいなっ!」
口を動かしつつも互いに組合い何度となく打ち合ったとき、渾身の力で振り上げる。
「うおぉ!」
「あ、しまった。」
つい調子にのって力を入れすぎたせいでマックスは演習場の入口まで飛んでいく。あいつに限ってどうにかなっているとは思えないが、様子を確認するためにもそちらに行ってみる。
「おーい。どこまで飛んでいったんだー!」
そこまで言ってふと気づく。
(この匂いは……まさか?)
「ルリ……殿?」
演習場から外に向かって顔を出せばそこに求める姿がある。
小柄な体躯は庇護欲をそそるし、少し癖のある朱まざりの濃紺髪を尻尾のように纏めるそれも触れたらどんな感触だろう。
そんな煩悩を目の前の男が抱いているなんて思っていないのだろう。愛しい唯一が自分に会いに来たと言われれば自然に頬が緩むというものだ。マックスが遠くで小さく「うわぁ。」と言ってるが知ったことではない。
促して演習場に降りようとして気づく。
ここの演習場は地下を抉るように掘られ円形となっており、真ん中は土で平坦に整えられている。掘り下げられた周辺は時に試合も行われているので客席にもなるよう階段状になっている。階段と演習場の間は1mほどの段差がある。ぐるりと回れば降りるための階段がちゃんとあるが、遠いために騎士たちは飛び越える。
実際前を行くマックスも飛び越えた。
鍛えている騎士や獣人ならばそれも軽々だろうが後ろをついてくる人族であるルリがそうすれば足を挫きかねない。
振り向き、屈んでその細い膝を抱えれば驚いた顔がこちらを見下ろしている。羽のように軽く、抱えた細腰が折れてしまいそうで怖いが、その反面で愛しいその人が腕の中にいる喜びが湧く。
いつまでも独り占めしたくて離したくなくて、でも誰かに番を自慢したくて見せびらかしたくて、だけど誰にも奪われたくなくて。
自分の中にある矛盾がどうしようもなく愛おしい。
ルリの言われるままに槍をふるえば黒曜石のような瞳がこちらをじっと見つめているのが背中を向けていてもわかる。
槍を一通り振り終わると今度は羊皮紙を持たされる。すらすらと手が勝手に動いてどんどん自分の能力が書き込まれている。正直裸を見られるようで恥ずかしいが、ある項目で目が留まる。
(番;有……。ってことはやっぱり。)
どうしてこんなに高揚するのか。ただ見つめられるだけで胸の内に広がる甘美な喜び。番とはこれほどまでに狂わされる存在なのか。
って、気が付けばマックスがちょっかい出してる。まるで自分の内心を表すようにギリギリと弓を引いて矢を放つ。
(これで5本目)
マックスが用意した的は今日騎士団の寮で朝食を不当に割り増しして食べた男らしい。その男の頭にあるリンゴには4本の矢が刺さっている。
(四本?今ので5本目なのに?)
不思議に思って矢筒を覗き込めば6本の矢。どうやら本当に矢が戻ってくるらしい。驚いてしばらく見ていたらもう一本矢が増えた。リンゴを見れば矢が3本に減っている。
(こんな能力を武器に付与できる鍛冶師など見たことない。これは……。危険なんじゃ。)
一抹の危惧が頭をよぎる。
だがその器具以上に気づけばルリがずぶ濡れでマックスのそばにいる。濡れて艶めいた姿は幼い容姿に反して醸し出す妖艶さに息が止まりそうになる。おまけに服が張り付いて体のラインは強調されているし、うっすら透けた下着が悩ましい。
慌てて走り寄れば潤んだ瞳で見上げられ、備え付けの武器を手入れしたいと言われる。
(番にこんな可愛い顔をされて誰が断れるんだよっ!)
内心で叫んでいたらいつの間にか騎士の連中に囲まれて武器のあれこれを聞かれている。さすがにムッとして人垣から彼女を救いあげて自分の執務室に向かう。
「エリュトロンさま?」
不思議そうに名を呼ばれて頬が緩み目じりが下がる。
(ああ、名前を呼ばれるだけでこんなにも幸せな面持ちになれるとは……。)
「副団長のマックスが失礼をしま……した。その、服が濡れているので着替えてください。私の予備しかなくて申し訳ないの……ですが。」
語尾につれて声が小さくなっていく声に自分でも情けなくなるがこればかりは仕方ない。
我々アカショウビンの一族は番と正式なパートナーになるまで相手を求め鳴く性質がある。その鳴き声は語尾に向かって小さくなるのが特徴で、これは番以外では起こらない現象で、同族から見ればどれが誰の番なのか一目瞭然である。
執務室のロッカーから予備の着替えとタオルを出して彼女に渡し、自分は外に出て入り口を守る。こんな些細なことに幸福を感じるのだから番とは恐ろしい。
そんな自分が夜に寂しい寝床でその姿を思って果てる日が来るなど全く持って番とは厄介な存在だ。そう思いつつも悪くないと感じる自分はどこまでも番しか愛せないのだと身をもって知るのである。
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