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獣人さまと一緒  作者: 牧野りせ
鳥獣様と一緒
73/86

アイテム職人の職業病

お越しいただきありがとうございます。


楽しんでいただければ幸いです。

 王城の中にある騎士団の演習場。円舞台を思うようなその場所の真ん中に茜色の髪をした男が槍を振っていた。


 最初に手にしたのはパルチザン型の槍でその手元には火の魔石が大小三つ嵌めてあり、彼と相性がいいのかちょっとの振りでゴウゴウと炎が呻る。


 次に手にしたのはグレイブ型の緑の槍。最初の槍と同じように手元に魔石があるがそれは黄緑の風の魔石がつけられていた。先ほどの赤い槍に比べて効果が見られないかと思いきや、時折つむじ風が巻き起こり、留め方もわからず、目標もないそれが壁に当たるまで周りの騎士たちが逃げまどっていたがルリの視界には入らなかった。


 最後に取ったのは穂先が三又に分かれた青い槍。これは完全に切る目的ではなく刺すのみに特化したものだろうと思われるが、作った本人は『水の槍って言えば異国の海の神様がこんなの持ってるらしい』という昔どこかの本で見た奴をイメージしたものだった。振っている本人はただ形を流しているにすぎないので刺す以外の動作もしている。4回に1回ほどパシャンと水が跳ねる。


 「違和感はこれかぁ。水の特性まで持ってるなんて……。」


 振っている姿を見ながら鞄からスクロールと羽ペンを取り出す。


 「これでいい……かな?」


 三パターンの槍を試したにもかかわらず息一つ乱していない。


 「お疲れ様です。すいませんがこれを持ってもらえますか?」


 ズイと差し出された羊皮紙とペンをエリュトロンは受け取ると手が動き出す。


 「鑑定紙……ですか?」


 「はい。魔力の属性が気になったので。」


 「そういっても私は鳥にありがちな風と弱い火ぐらい……だよ。」


 鑑定紙とは鑑定師のスキルを持ったものが作り出した羊皮紙でその用紙に特定のペンを合わせることでその人の能力が鑑定される。


 エリュトロン・ショゥビーン

 --27歳

 番;有

 職業;騎士

 属性;火78 風56 水32

 筋力;4

 賢さ;5

 素早さ;4

 魔力;2

 器用;3


 スキルーーー


 


 「あー。やっぱり。」


 槍を抱えたままルリは用紙を覗き込んでつぶやく。


 「なんで属性が三つも?入団の時は風が一つだった……のに。」


 「属性は成長や研鑽により引き上げられたり目覚めたりすることがありますから。それにしてもエリュトロン様は三つですか。獣人では稀有な方ですね。凄いですね、初めて見ました。」


 単純にルリから『凄い』と言われてエリュトロンの頬が緩み瞳に甘さがさすが、手元に注目しているルリは気づくことは無い。


 「でも魔力は2なので魔石の大きさを調整すれば技として発揮できると思います。あ、それは記念に差し上げます。」


 一体なんの記念なのかと周囲は思ったがそれを口に出すものはいない。


 斜めのポーチバックから折りたたまれた布を取り出し地面に広げる。広げた布の上に槍を置いて、その隣に今度は弓と矢筒を並べる。こちらもやはり三種類。


 「すいません、こっちも試してもらっていいですか?矢となるとまた調整が変わってくるので。」


 「わかりまし……た。」


 並べられた弓の中から赤いものを手に取ると、きょろきょろと視線を彷徨わす。


 「団長ー的探してるならいいのあるよ!」


 扉から転がりだした男がニマニマとエリュトロンに話しかけると、今度は別の騎士を呼んで壁際に立たせるとなぜか頭にリンゴを乗せた。すると周囲の騎士たちはササっと離れていく。キッチンに出没するあいつのようだとルリは思ったが、きっと黒い制服のせいだと気にしないことにした。


 それよりも彼女としては語尾になるにつれて小さくなる言葉を不思議に思いつつも、ルリは仕事に取り掛かる。


 バックから小さな鎚を取り出し、エリュトロンが最初に選んだ赤い槍の手元にある魔石の裏を叩き器用に外していく。代わりにバックから別の魔石を嵌めようとしたその時だった。


 「ねぇ、キミのそれ普通のと違うよね。ちょっと見てもいい?」


 楽し気な転がり男はしげしげと槍を見つめていた。


 「構いませんけど、属性は大丈夫ですか?相性が悪いとケガにつながるのですが。それに槍ですが……。」


 「大丈夫!俺サルだから武器はなんでもいける口なんだぁ。あと属性は水かなぁ。」


 「はぁ。そうですか。では青いものをお使いください。くれぐれも殺気の出しすぎは……。」


 「大丈夫、大丈夫~!」


 一体何が大丈夫なのか。呆れて男の背中を見送ると今度は周囲からおおぉ!と野太い歓声が上がる。何事かとそちらを見ればエリュトロンが放った矢が騎士の頭に乗ったリンゴに刺さっている。


 「あんなに小さいのに器用だなぁ。」


 ぽつりとつぶやいてルリは自分の手元に集中する。外した魔石の後に大きな緑の石と小さな青い石を嵌め込んで布の上に戻す。


 じっとエリュトロンの弓を引いている姿を確認していたが不意に影が落ちてそちらを見上げれば先ほどのサル……サルの獣人がずぶ濡れで立っていた。そうやら水が出るのが楽しすぎてやり過ぎたらしい。


 「なぁなぁ、俺これの剣があれば欲しいんだけどないの?」


 「店に戻ればあります。ですけど……。」


 そう言い淀んで相手の腰にある剣を見る。


 「すでに業物をお持ちのようですが……。」


 お借りしていいですか。断りをいれると男は剣を抜いて渡してくれる。


 「でもコレは水なんて出ないんだもん。」


 駄々っ子が拗ねるように唇を尖らせてそう言われても何とも言えず、騎士さま相手に苦笑いもうかべられないので黙って渡された剣を見る。


 「手入れはされているようですが、少し錆びてますね。それにわずかな刃こぼれも。」


 「ああー先月磨きに出したんだけどねぇー。」


 「剣は使ってこそなのでそれでいいと思います。直してもいいですか?」


 「いいけど、持っていかれるのはさすがに……。」


 「大丈夫です。すぐ終わらせますから。」


 いうや否や、ルリは男に背を向けて距離を取る。歩みを進めながらバッグから手乗りサイズのぬいぐるみを二つ取り出して魔力を込めれば赤と緑の小鳥が羽ばたく。人が少ないほうを向くと剣をまっすぐ前に突き出した。その脇に鳥が挟むようにホバリングする。


 「≪隔壁展開≫温度、熱風、遮断。≪紅蓮炎錬≫」


 ルリの言葉と共に空気中に炎が上がる。それは1500度を超える劫火。


 突然の出来事に周囲は周囲はざわめくが本人は視界に入ってないようだ。うねる炎をしばらく見つめるとぐっと剣を引き抜く。すると見る間に炎は収束し何事もなかったように消え失せる。


 煙を上げて、オレンジのような赤になったそれを握ったまま、しばしきょろきょろしていたが、ルリはサルの獣人に近づく。


 「あのー。すいませんが槍でこれに水掛けてもらえますか?」


 「おっけー。」


 軽く返事をした男は勢い任せに槍をふるうとそれは見事な水しぶきが上がり、剣どころかルリごと水浸しにする。


 しかし、そんなことも気にせず、前髪からポタポタと落ちる雫もそのままに剣を持って仕上がりを確かめると満足いったのか、満面の笑みでその剣を男に差し出す。


 「これで使いやすくなったと思います。とても良いものなので大事に使ってやってください。それでもご用命の際は店までお越しください。」


 それだけ伝えると、今度は視線を壁に向けてから俯く。


 するとなにやら慌てた様子で近づいてきたエリュトロンが覗き込むようにルリと視線を合わせた。


 「ルリ殿、そのままでは風邪をひいて……。ルリ殿?」


 「あ、あの……。壁にかけてある剣磨いてもいいですか?き、気になって……!」


 意を決して言い募る姿にエリュトロンは目を見開き、横のサル獣人は咄嗟に手で口をふさぎ背中を向ける。わずかに肩が震えているのはルリの身間違えかもしれない。


 「ルリ殿?」


 「騎士団お抱えの職人がいることはわかってるんですが、あんなに傷ついてるこたち放ってられません。だめですか?」


 引き上げられた顔は必死なのだろう。潤んだ瞳に赤みがさして斜めに見上げられてエリュトロンは口に手を当てて息が止まる。ほとんど反射的にした返事。


 「どう……ぞ。」




ご覧いただきありがとうございます。


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