アイテム職人のお客様
お越しいただきありがとうございます。
評価、ブックマークありがとうございます!!
「に、にに、にいさん!で、出ました!!」
帰宅するなり真っ青な顔でルリは兄に告げる。
「お?ルリもとうとう見えるようになったか!」
「え?何の話?」
「や、むしろお前がだろ。主語を言え主語を。」
どうやらすでに一本の剣を打ち終えた兄は磨きの工程に突入していた。
「あいつよ。あいつ。極楽男!」
「まぁ、間違っちゃいないが語弊のある言い方だな?」
極楽男こと極楽鳥獣人のシエルはルリが南にいた時からのなじみの客だ。といっても両親の店の客なので正しくは両親の客なわけだが、ルリは店番を手伝っていたので互いに顔は知っているわけだ。
最初は本当に客だった。槍や弓、矢といった店ではごく定番のものを買っていたが仕舞いには鋏に至るまで毎日買っていた。
それがいつからだったが差し入れと称して飲み物食べ物から装飾ドレスなどのプレゼントを持ってくるようになった。さすがに装飾や服はもらえないと断り続けているが受け取るまで毎日くる。と言い張り、本当に毎日来てはレジの前に陣取って非常に営業妨害だった。
さすがに毎日されてはたまらないと、プレゼントはいらないとはっきり断れば、今度は両手を握られ自分の恋について語りだされる。やっぱりレジ前を占拠され他のお客さんに再三誤り通しの日々で、困っていた。
恋は盲目というが、その男はどんなにその好意を断られようとも聞こえていないふりをする。さすがに困って両親に頼んで店番を外してもらったら今度は外出先に表れ始める。
陽気にな声でつらつらと愛を囁かれるが、毎日学校代わりに近所の集会所で開かれる勉強に行くたびについて回られてはただの迷惑を通り過ぎてある種の恐怖だった。しかし直接何かされるわけではない。これでは町の警邏隊に知らせるわけにもいかない。
それからルリは表に出なくなった。工房で父に師事して技を磨く以外部屋から出てこず、家族はたいそう心配したものだ。
ルリが成人と共に家を出たのは人族である体が南に会わなかったことに加え、この迷惑男も一つの一員といえる。
ただ、ひとつあの時と違うのはルリの店がダンジョンであることだ。
ダンジョンは自身が完成するまで結界で身を守る。そして必要な魔物だけを選んで体内に共生させる。それはルリも同じで、ルリの店は「ルリの仕事を必要」としてる客以外たどり着けないようになっている。なのできっとあの男も近づけない。
「まぁ、ジョンの中にいるうちは大丈夫だろうけどな。それかいっそ諦めて番になるか?」
「馬鹿言わないでよ!あいつ南にいた時なんて言ったと思う?」
「さぁ?」
「僕は楽天家だけどキミ程の働き者が番ならこの先安心だ。って!あいつ私を働かせて自分は遊びまわる気なのよ!私仕事は好きだけど、そんなやつ絶対いや!」
それはそうだろう。誰が好き好んで苦労をしたいと思うのか。結婚したところで先が見えるというものだ。
「ない。あれはない。」
ぶつぶつとつぶやく妹の頭に手を置いてポンポンと軽くたったく。
「お前が早く別の男と結婚すればいい。」
「そんな奇特な人あれ以外に居ればいいんですけどね。」
ヤケクソのように言い放つ。
今日はもう仕舞いにしようと兄がつぶやくと、二人で居住スペースに移り夕食を作ることにする。嫌な出来事を忘れようとその夜は奮発して肉と新鮮野菜のサラダ尽くしにした。
それでもやっぱり気が晴れることなく、ルリはちっ、ちっと無意識に舌打ちをしながら夢路へと旅立った。
翌日、ルリは兄の話声で目を覚ました。どうやら寝坊したらしい。
声は店の方から聞こえてくる。
「兄さん?お客さんですか?」
慌てて身支度を済ませると店に走った。
「おお、制作の注文だと。」
兄の大きな背中がカウンターからずれると茜の髪を一つに結んだ青年が立っていた。
「あ、騎士さま。」
「ルリ殿、昨日の今日とは思ったのですが仕事をお願いしに来ま……した。」
「はい。ありがとうございます。」
もともとショゥビーン家からの仕事は毎月に2,3回はもらっていたので特に驚いたりはしない。しいて言うなら毎回中年の男性が発注や受け取りをするが、今回は最初からエリュトロン本人が来てるという変化があるだけだ。
「それにあの後大丈夫だったか心配だった……から。」
「ありがとうございます。おかげさまで無事です。本日はどのような装飾にしますか?」
ショゥビーン家からの発注はいつも女性向けの装飾品がほとんどなのできっと今回もそうなのだろうと思い、装飾品のアイディアをまとめたスケッチブックをカウンターに出す。
「いえ、今日は装飾品じゃなくて……武器を。」
「武器ですか……。失礼ですが騎士様は鳥族ですよね。槍にしますか?弓矢にしますか?」
「そうだなぁ……。矢はある……かな?」
「申し訳ございません。私は矢のみの販売はしていないんです。」
「矢を売って……いない?」
鍛冶屋なのに?といいたそうなエリュトロンに申し訳なさそうにルリは言う。
「あの、うちの矢筒は風の魔法がかけてあります。撃ち放った矢は一定時間がたつと矢筒に帰るんです。だから矢のみは売っていません。」
「それは凄い!それはぜひ……欲しい。」
「ただその効果は対となる弓もなければ発動しないんです。」
そこで一度区切ってちょっと言いにくそうにする。」
「いつもは在庫を置いているのですが大口のお客様がいらっしゃったものですから……。」
ウソである。まさか兄に強奪されましてとも言えず、そういうことにする。
「一組あるにはあるのですが、雷属性付与の弓矢なのです。騎士様はお見受けする限り火属性をお持ちだと思います。雷属性のついているものを使うと作用しあってよくないんです。その・・・…やりすぎちゃうから。」
「なるほど……そうですね。」
「もちろん火属性の弓矢もお作り出来ます。少しお時間はいただきますが。」
するとその言葉にエリュトロンは考え込む。その横顔を見てふと疑問を浮かべる。
「あの、そういえば王都の警備の時は何を使っているんですか?弓のような飛び道具も槍のような長物も人の多い場所では向いていないような気がしますが……。」
「ああ、そうだね。どちらも王都では向いて……ない。だから支給された剣を使う者もいる……けど。私はやっぱり槍のほうがいいから、基本は素手……かな。」
「なるほど……。」
しばらく考えた後にある考えに思い至る。
「お急ぎでないなら短槍はいかがですか?」
「短槍です……か?初めてききます……が。」
「はい。南の一部の鳥族しか使わずあちらでも珍しいものですからこちらだと作る職人もいないと思います。長さは剣とほぼ同じですが、扱い方は槍です。」
「それは面白そう……です。」
「槍も弓も支給の物があるでしょうから早急にお作りせずともよろしいと思いますが、巡回の時に獲物を持っていないのは心もとないというか、なにかあったときにお困りではないかと……。」
「ではそれを。もちろん弓矢もお願い……します。」
「はい。ありがとうございます。」
それからいくつかのデザインを見せてみたり、希望の素材や握りはないかと話し合いを行う。二時間ほどああでもない、こうでもないと話してから最終案をまとめると騎士様は遅刻する。と、慌てて出ていったのだった。
ご覧いただきありがとうございます。
下の方から評価をポチッとしていただけるとありがたいですっ!!
よろしくお願いします。




