表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人さまと一緒  作者: 牧野りせ
鳥獣様と一緒
69/86

朱の鳥と懐中時計

お越しいただきありがとうござます。


評価いただきありがとうございました!


今回はエリュトロン目線です。大分ヘタレの残念男感がにじみ出てます。苦手な方は今回は飛ばすことをお勧めします。*たぶん読まなくてもストーリー的には大丈夫と思いますが……。

 今日は街の巡回当番日である。街への巡回は7つある士団が交代で行う。


 基本二人から四人一組で見回りをする。そしてその日はティナ嬢と二人で巡回していた。なぜこんなここになっているのかと考えて頭を抱えたくなる。


 正直自分は惚れっぽい。というよりも焦っていたのかもしれない。


 「可愛い」と思う女性がいればかたっぱりから声をかけずにはいられない。


 27という結婚適齢期を迎えたのに番を見つけられないでいる。子孫を考えなければ死ぬまでには出会えるはずとはよく聞くが、そんな暢気なこと言ってられない。


 社交場にいる番を得た幸運な先輩方に聞けば「見ればすぐわかる」というが、生まれてこのかた一目でわかる何かなんて出会ったことがない。


 騎士としての道を志して数年、初めてティナ嬢を見た時は守りたいと思った。助けてあげたいと。これまで感じなかったその感情にこれが「見ればすぐわかる」なのか!と感じた。


 だというのに、彼女の他にも可愛いと感じる女性は後から後から出てくるのだ。


 (番とは一人ではないのか。)


 だからと言って唯一の人を見逃してはいけないと、次々に声をかけては花や装飾といったプレゼントを贈り、運命の人を探す。


 だがどんなに仲良くなっても『愛しい』という感情は出てこない。友人との違いはなんだ?次第にこの関係がなんなのかわからなくなりいつの間にか疎遠となっている間にその女性たちは婚約したり結婚したり……。


 結局はまたティナ嬢に戻ってしまう。と、いうことはティナ嬢が番なのか?


 彼女は職場が同じだ。非番以外は毎日6時間以上共に過ごすことも珍しくない。そのせいか『早く会いたい。飛んでいきたい。』などという感情は起こらない。当然だろう。黙ってたって明日会える。


 そうこうしているうちに周囲も『結局はティナに戻る』といって仕事中もやたら彼女とペアを組ませようとする始末だ。当も本人も余所の女に行っても戻ってくるという意識があるのか、最近ではさり気なく欲しいものをねだってくる。


 (そういう風にしてしまったのは自分なのだろう。)


 そう思えば申し訳なくもあり、可愛くもあり、うんざりする。


 何か違うと思う。それなのにそれが何かなんてわからない。


 今まではそう思っていた。


 でも、今ならわかるこれまでの行動がどれほど愚かなことなのか。


 そう。確かに分かった。「見ればわかる」だった。


 


 今日もいつものようにティナ嬢と一緒だ。だがそれも、もう番を見つけた今となってはひどく虚しいものに感じる。


 副長にもうこういったことは必要ないと伝えないといけないな。


 上着のポケットに手を忍ばせればそこにある箱。


 (ああ、これもあの人が作ったものなのか。)


 番と出会ってしまった今、もうティナは部下としてしか見ることができない女性への最後のプレゼントだが、そう思えばこの箱の中身を愛おしく思えた。


 (名前くらい聞いていればよかった。)


 そんなことをぼんやり思いながら箱を弄んでいたが、もうこれが最後だときちんと向き合おうと思った。


 「ティナ嬢。これを。」


 名前を呼んでも何も感じない。


 随分たくましくなった。それでもまだ頼りない部下にそれを差し出せば、花がほころぶような笑顔が箱の中身を見つめると、満足したようにそれをポケットの中に入れる。


 「嬉しい!あ、でもね。私そろそろ時計が必要なの。騎士団から支給されたものは使いにくいで……」


 「ティナ嬢、いや、ポンデヘッド団員。」


 「え……?」


 「これまでのことは全て自分がしでかした過ちだ。それにキミを巻き込んでしまったことは本当に申し訳ないと思う。すまなかった。だからこそこの過ちは終わらせなければならないと思う。」


 「何言ってるの?だって私が番なんでしょう?」


 「……君にそう言葉で伝えたことがあったか?」


 「っ!最低!」


 言葉と同時に乾いた音が頬を打った。長年の訓練を思えばこれくらいどうという痛みでもないが。走り去る後ろ姿を追いかけることもせず。ふと思う。


 そういえば、番を見落とさないようにという思いばかりで、これまでだれ一人として「好きだ」とか「愛してる」どころか「番」なんて口にしたくもなかった。


 「ああ。どこまでも愚かな男なんだろう。」


 つまりはそういうことだったのだろう。思考よりも本能のほうが上だなんて獣の性とは恐ろしいものだ。 


 自分のことが情けなくなる。ほとぼりが冷めたころ探しに行かねばならないか……。


 そんな時に耳に響く金玉(きんぎょく)の声にすべての感覚が持っていかれる。雑踏の中にあっても埋もれることのない声に喜び、視界にとらえられない姿を求める。


 あの日と同じ全身の毛が逆立つような、血液が沸騰するような感覚に体が震える。急ぎ足でそちらに向かえば愛しい唯一の苛立つ声と男の会話が聞こえる。どうやら事の成り行きを周囲も見定めようとしているがどうにも埒があかなさそうだ。


 と、いうよりもこれ以上他の男が自分の唯一を害していると思えば腹立たしい。


 それだというのに耳に許しがたい『一緒に暮らそう』というセリフが響いて冷や水をかけられた思いだった。ドクドクと響く音もすぐさま彼女の「一緒に暮らすわけない」の言葉に凪いでいく。


 とにかく状況を把握しなければと思い声をかければカブス用にもう一つの声がする。


 (げ。)


 昨日ぶりの番に会えた喜びをかみしめる間もなくもう一つの声の主を見る。


 シネス・スワン。騎士団の同期でやたらと絡みに来る男だ。昇進だ褒章だと騒いではわざわざ見せに来る。それだけでもうっとおしいのに、そういえば今までの女の子も途中でコイツに持ってかれてた気がする。今となっては良かったきもするが。絶対口にはしないが。


 これまでの女の子なら横から持っていかれても文句は言わなかった。去る者を折ってまでつなぎとめようとも思えなかった。しかし、さすがに番は譲るわけにいかない。というか、こいつにだけは絶対に譲りたくない。


 話を聞けば彼女の名はルリというらしい。というかルリ・カケス。思っていたそのままでちょっと面白かったが彼女の髪色を思えばぴったりだと思った。


 ルリ殿から事情を聞けばこの男はどうやら付き纏いのようで、男の行いが許せないらしいシネスは男を屯所まで連れていくというので、彼女の保護と警護という名目でエスコートに成功する。


 家まで送るというが、家は店と同じなのでここから送ってもらうのは申し訳ないから必要ないと言われた。なおも送ろうと言い募ると、突然彼女の手がこちらに伸びてきて反射的に動きを止めてしまう。


 一瞬の躊躇をみせたものの、その手は優しいしぐさで自分の頬に触れてきた。


 「あの、大丈夫ですか?少し腫れてます。すみませんお客様のプライベートとは思ったのですがたまたま見えてしまって。」


 見られてたのかあれを。


 別れ話の末のビンタを。


 焦りまくって動けなくなる自分をよそに彼女は困ったように囁く。その声すら愛おしい。


 「あの、余計なお世話だと思いますが恋人さんですよね。これまでもうちでたくさんプレゼントをご購入いただいてましたし。大切な方ならきちんとお話して仲直りされたほうがいいと思います。」


 まさかの番から他の女と仲良くしろと言われ絶望が駆け巡る。そんな自分のことなど気づかないルリ殿はごそごそと鞄を漁って何かを出す。


 「よかったらこれ仲直りに使ってください。ショゥビーンさまにはいつも御贔屓にしていただいてますのでこれはお礼です。」


 金属の音と共に掌に冷たい感触を受け、見つめるとそこには蓋に鳥の細かい細工がされた懐中時計。


 「じゃ、私はこれで失礼しますね!助けていただきありがとうございました!」


 「っ!今度は武器の注文に伺います……ので。」


 縫い付けられたように動けなかったが辛うじてその言葉だけ言うと、彼女は「また!」と笑顔でかけていってしまった。


 手の中に残されたそれを見つめて他人事のように思う。


 「女性にプレゼントをもらったの初めてだ。」


 ぽつりと漏らされた言葉は夕暮れの街にかき消された。



ご覧いただきありがとうございます。


書いといてなんですが、エリュトロンは貢ぎ体質の残念青年です。

何処でこれを挽回すればいいのかかなり苦心しますが。見守っていただけるとありがたいです。


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ