アイテム職人は都会に出る
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王都の商業区を、ルリは鼻歌交じりで歩いていた。
元々買い物には出なければいけなかったし、日用品も普段より多めの食料も買い込んでそろそろ帰ろうかと思っていた頃だった。
通りの向こうに見える茜色の髪に目を止める。遠くからでもよく見えるその色は単純に綺麗だなと思っていると、その視線の先にピンク髪の少女。頭の上に長い耳が2つあることからうさぎの獣人なのだろう。
おそろいの服、もとい、揃いの制服を着ていることから騎士なのだとわかる。
(あの人騎士様だったのか……。)
それは昨日店に来た人物だった。あの高身長に引き締まった体躯を騎士服に見を包む様はよく映える。
そんなことを呆然と思った刹那。
可憐な見た目から予想できないほどキレのいい少女の平手打ちが男の頬を打つ。
(うわぁ。痛そう。)
何やら揉めている風なので、職場恋愛の末に痴話喧嘩だろうか。修羅場だわ〜。と思いつつ。何も見なかったことを決め込んで、帰路につこうとする。
ふと、少し離れた先に頭一つ飛び出した薄紫の髪を目に止めて、ルリは目を見張り息を止める。
赤や黄色に青といったメッシュが入った髪色はとにかく人目を引いていた。むしろ派手だった。
王都では珍しい毛色に行き交う人々も遠巻きにチラチラと観察している。
そんな人々に逆らうように、ルリはくるりと踵を返してあるき出す。人目を引かないように走ることはしないまでも競歩さながらの速度は彼女の焦りを表してるかのようであった。
(気づかれませんように!気づかれませんように!気づかれませんように!)
祈りとも叫びとも区別のつかない感情をいだき、普段は神や精霊などに祈りも捧げないくせに、とにかく聞いてもらえるなら今は誰でもいいから助けてくれ!とさえ思う。
普段信仰心の欠片もないものの祈りが届くはずもなく、彼女の胸中をあざ笑うかのごとく、るりの目の前に音もなく一人の男が降り立つ。
「!?」
通りで一際目を引いていた男、薄紫の髪に所々カラフルなメッシュを三つ編みにした極彩色、くっきりした二重の黒目が楽しげに細められたそれは見定めるようにリルを見下ろしている。
王都では珍しい褐色の美丈夫がそこに立っていた。
「ひどいなぁ、俺はずっと探していたのに逃げることないじゃないか。」
爽やかな笑みを浮かべるその男に対し、ルリはひどく苛立ちを覚えながら隠すことなく半眼を向ける。
「探してなんて頼んでないから!一体何しに来たのよシエル!」
しかし、男…シエルは気にする素振りはない。
「さ、一緒に南に帰ろう。迎えに来たんだ。」
そう言いながら差し出された手をルリは見えないふりをする。
「頼んでないって言ってるじゃない!私は自分で決めてこっちに来たの。」
あきらかに嫌そうなルリの姿は目に入らないのか、シエルは少女の両手を握りしめる。
周囲にいた人たちも何事かと二人の会話に耳を傾けている。
「じゃぁ、俺もこっちで一緒に暮らすよ。もう寂しい思いはさせないから。」
気持ち悪いほど変わることなくにこやかに話し続ける男の姿はある種異様なものだった。
「誰がいつ寂しいだなんて言ったのよ!一緒に暮らすわけないでしょ!トンチンカン男。」
握られた手を払い除けて不快感を表すも大したダメージも感じることなく、あくまでもにこやかだ。
「いくら往来とはいえルリは照れ屋だね。それに俺はトンチンカンじゃなくて極楽鳥だよ。」
暖簾に腕押し糠に釘、ルリの渾身の拒否はなかなか伝わらない。
あまりにも温度差のある二人に周囲の人は困惑の色を隠さず、遠巻きのご夫人方は明らかに残念なものを見るような視線を向ける。
周囲の視線に痛みを感じつつ、ルリははっきり言わねばならないと頭を振る。
「私とあなたはただの店員とお客様です!過剰な交流はご遠慮願います!」
大方、店の店員に恋慕したもののスゲなく断られているのだろう。と、褐色の美丈夫を残念そうに見る。
「何を言っているんだ。お前は俺の番。ともにある運命なんだ。」
どこまでも強い男である。どうやら引く気は無いらしい。しかし、番と聞けば獣人として見過ごせない。お嬢さんなんとか!と、見知らぬおじさんたちが拳を握る。
「そんな運命はありません!お引き取りください!」
しかしまたその答えも潔いもので、取り付く島を与えない。
どこまでも平行線の二人の間に声が掛けれたのはそんなときだった。
「昼日中の往来で何事ですか。」
「この騒ぎは何事……ですか。」
同時にかけられた声の一つは歩道の向こう、馬車や馬が行き交う通りからのもので、そちらを見れば白い騎士服に見を包んだ金髪碧眼のいかにも王子といった風体の青年だった。
心なしかキラキラしている。しかもご夫人方が黄色い声を上げていることから、森の奥に住んでいる世捨て人のようなルリでも人気者なのだろうと容易に想像ができる。
ひらりと馬から降りる姿はまさしく絵本から出てきたのではないかと思わせるその人は、じっとこちらを見ていたが、ふと別の方向に目を向ける。
視線の先には人並みをかき分けてきた茜色の髪。漆黒の騎士服に特徴のある尻すぼみの口調と、くっきり二重の漆黒の瞳が細められたかと思えばすぐに金髪青年に向けられる。
その間ペースを乱すことの無い正面の男がルリの肩を抱こうとするがすかさず叩き落とす。
「おや、第四が一体何の用かな。」
ニコニコと笑みを崩さない金髪だが目は笑っていない。
「そのセリフそのまま変えさせてもらおうか、第一。今日の巡回は我々……ですが。」
気弱なのかと思うような尻すぼみのこえだが、その目はしっかり金髪を見つめて怯むような態度は見えない。エリュトロンの昨日とはずいぶん印象を不思議に思う。
どこか違和感のあるその喋りにルリはふと思い至る。
「アカショウビン……?」
喉に引っかかった骨が取れたようにその正体を思い出したルリは心の中でなるほどーと納得する。
キュロロロローと次第に鳴き声が小さくなる特徴のアカショウビンはルリにも馴染みがあった。
「ええ、ご店主殿。今日は買い物……ですか?」
右手を胸に当て視線を合わせるように前かがみになる男はなぜか頬を染めている。
「あ、はい。そろそろ帰ろうかと思っていたのですが……その。」
どうしたものかと言いたげにそばの極彩色を見上げる。
「あぁ、帰ろうじゃないかルリ。僕たちの家に。」
褐色の美丈夫から放たれた言葉にエリュトロンと金髪が目を見開く。
「失礼します。私は騎士団の第一士団長で、シスネ・スワンと申します。詳しい事情が知りたいのですが、先程番という言葉が聞こえましたが、お嬢さんと彼はご夫婦なのでしょうか。」
金髪碧眼の男はシスネ・スワンと名乗った。そのスマートな身のこなしから身分の高い人物なのだろうと思う。すると横からエリュトロンも口を開く。
「ご店主はルリ殿と言うのか、改めて名乗らせて……下さい。騎士団の第四士団長でエリュトロン・ショゥビーンと……いう。今後とも世話になる……と思う。それで、そこの彼とは一緒に住んでいるの……かな?」
矢継ぎ早に言われてルリは多少面食らいながらも、ここで礼を欠いては不味かろうと、右手を軽く握り胸の下で水平に構え、左手を体の後ろに隠す。左足を軽く引いて膝を浅く曲げてブレることなく垂直に頭を下げる。
身分無き者から上位のものに対して敵意がないと示す礼である。商売をする傍ら身分ある相手と取引することもあるので礼を欠いて逆鱗に触れることのないよう、父に厳しく躾けられた礼は王都でも遜色ない見事な礼だった。
「私は鍛冶師のルリ・カケスと申します。どうぞ今後ともご贔屓に。」
そう呟いてエリュトロンに微笑みかける。なぜか極彩色の男、シエルはその様子を自慢げに満面の笑みで見ている。なぜそこでドヤる。
「先程の騎士様方からのご質問ですが、私はそこの人とは夫婦でもなければ家族でもありません。よって共に暮らしてはいません。」
ハッキリとした物言いに騎士の二人はなぜか安堵の表情を浮かべる。
しかし、その言葉に反論するようにシエルは口を開く。
「あぁ、そうとも!だからこれから家族になればいい!」
大仰に両手を広げる極彩色を騎士たちはねめつける。
「あ〜、キミ、順番に話を聞くので待っててくれるかな。……ではなぜこの男はともに帰ろうと言うのかな?」
前半はシエルに後半はルリに言って体を向ける。
「あ〜それは。」
「それは……なんです?」
半眼でチラリと横の極彩色を見てルリはため息をつく。
「この人は私の実家である鍛冶屋の常連のお客様で、私は家の手伝いをしていましたのでこの人とは顔見知りです。しかし、私は成人とともに家を出て王都の近くに店を構えてからというもの会うこともなかったのですが……。」
「それはそうさ!俺はルリに会いたくて追いかけてきたからね!まさか王都について早々会えるなんてやはり俺とルリは運命なんだよ!」
「そんな運命はありません。私の顔はもう見れたでしょうから、どうかこのまま南までお帰りください。」
にべもない。
そんな二人の様子を見て騎士たちは顔をしかめる。
「付き纏い……?」
「失礼な。俺は優しく見守っているだけだとも。」
ものはいいようである。
「キミね、そういうのを付き纏いというのだよ。ちょっとこのままでは埒が明かないな。詳しく話を聞きたいから屯所まで来てもらおうか。」
にこやかなのに寒気がしますよ。シネスさん。
「ではルリ殿は私がご自宅まで送っていこう。」
なにか言いたそうなシネスとシエルをさっそうと無視すると、エリュトロンはルリをエスコートして歩き出す。
「あ、あの……。」
「もうすぐ陽も傾きます。私の心の安寧の為にも……送らせて……ください。」
台詞は格好いいのにその尻すぼみの物言いが残念でならない。とルリは密かに思う。
(ところで……心の安寧ってなに?)
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