アイテム職人は風になる
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にこにこと兄から差し出され布袋は一抱えほどありパンパンだ。
なんだこれ。
「兄さんこれ何?」
「何ってお前が前回納品したやつの売り上げ。価格はこっちでつけていいって言ったから、武器は前々回の二倍にしてみたんだがそれでも取り合いになったから結局後日オークションになっちまって、冒険者や騎士様が押しかけてちょっとしたお祭り状態だったんだぜ?」
「え、えぇ?」
なんでそんなことになったのか。
「ちなみにオークションやった日は他の物も飛ぶように売れたからこっちとしてもだいぶ稼がせてもらったからな。今やルーカ―といえば有名な鍛冶師だぜ。」
「ルーカ―?」
「お前の銘だよ。何も入れてないと粗悪品や類似品が出回ったら困るからな。これからはお前が自分で銘を刻むんだぞ。」
「はぁ、とうとう私も銘持ちかぁ。偉くなったもんだぁ。」
「何他人事みたいに言ってんだよ。お前のことだぞ?」
「やぁ、だってこっちの店は相変わらずの閑古鳥だから。」
「じゃぁ、店に飾ってる奴全部持って行ってもいいよな?」
「へ!?」
「客来ないんだろ?じゃぁ、オーダーメイドだけでもいいじゃねぇか。」
「や、さすがに何もないのは困るよ!」
「大丈夫だろ。お前は仕事早いし。」
「ちょっと!にいさん!?」
ほらよ。と重たい袋を渡されてあまりの重さに膝をつく。だがそんなことしている場合じゃない。急いで工房に新しく増えた木造りの宝箱に袋の半分を入れて残りは袋ごと生活スペースのダイニングに放り投げ、ダッシュで店舗に行く。
「兄さん!」
時すでに遅し。
「あー。さすがに装飾品全部は入らねぇなぁ。親父のアイテムバック借りてくるんだったぜ。」
壁はもちろん棚の武器は魔道具以外何もない。どうやらぬいぐるみだと思ったのか優先順位を下げて最後に取るつもりだったのだろう。危ない危ない。
とはいいつつも台の上にあった装飾品も半分はなくなっている。
どんだけ手が入んだよニイチャン。
「全部持ってかれたらお客さんがサンプル代わりにするのがなくなるじゃない。うちはカタログなんてないんだから!」
お前は追剥か!といいたくなるのをこらえて抗議する。
「あー。たしかになぁ。でもカタログはそのうちできると思うぞ?」
「へ?なんで?」
「二コルがお前の作を気に入って、毎回細かにスケッチ取るんだよ。あんまりにも精巧だから母さんが喜んで全部纏めたらカタログにするって張り切ってたぞ。」
「あー。二コルは昔から絵が上手だったもんね。そんなに喜んでくれるならよかった。」
「今じゃお前の作ったやつは二コルがスケッチ取った後じゃないと店に並べられないんだぜ。」
「そこまでしなくても。」
「今日だって半分は二コルにせっつかれたんだ。もう描くのがなくてつまらないから早く次をもらって来いって。そりゃぁ癇癪がすごかったんだ。」
「そうなんだ……。」
たったそれだけのことにわざわざ旅をさせられた兄を憐れめばいいのか、末の弟にそれほど気に入られてることに喜べばいいのか心中は複雑だ。
盗賊に荒らされた後のように空っぽになった店舗にちょっとした寂しさを覚えながら、表に出してなかった在庫に思いを馳せる。
「ところで兄さん泊っていくでしょ?」
「ああ。そのつもりだか……。大丈夫か?」
いつもニカッと笑う長兄が背中を丸める姿はちょっとかわいいと思う。
「ジョン、回復薬用の部屋作った分生活スペース広がったでしょ?もう一つ寝る部屋にできない?」
天井に向かって問いかければカウンターに乗った小さな黒板がカッカッと動く。
『新しい武器一個.』
「いいけど、今日?」
『早く』
このやり取りを見ていた兄が目を見開く。
「ルリ、お前いつの間にダンジョンと会話できるようになったんだよ。」
「んーいつだろう。住んで一週間くらいかな?」
ジョンこと、ダンジョンであるこの建物はかなり珍しいことに意思疎通ができる。
そもそもダンジョンとは、ダンジョンという種類の魔物である。最初は倉庫のような姿で一匹のモンスターの巣にしてやり、次第にその大きさを上下左右に広げていき、広げるたびにモンスターを増やし、階層が重なるごとに体に寄生させたモンスターの中からエリアボスを定めてはダンジョンがボスに魔力を注ぐ。
ダンジョンは武器や鉱石、金貨などを集積する性質があり、各エリアから集めたものや自ら生み出したものを宝物庫と呼ばれるダンジョンボスに守らせた部屋に集める。
そんなダンジョンだが、魔物である以上、優良個体もあれば劣等種もあるし、また知能の差はあれど多少の意思がある。
ルリが山の中で見つけた店もダンジョンになり損ねたダンジョンであると、これまでの会話の中からルリは考えている。
どうやら、通常『どれほど大きいか』や『どれだけ強いモンスターを寄生させるか』を目指しているはずのダンジョンだが、このダンジョンは自身の大きさを追求することよりも『どれだけ立派な宝物庫を備えるか』のほうが重要だったらしい。
結果、このダンジョンはモンスターを寄生させるのではなく、自分の満足たるものを作れる職人を寄生させようと考えたようで、モンスターの生息する環境ではなく職人が生息する環境を整えてしまったらしい。
そこへ偶然やってきたルリを気に入り、職人を逃がさないべくルリの要求を受け入れ環境や材料を生み出す。当のルリもタダで住居と店舗と工房が手に入り、材料すら用意してもらえるという最高の環境の見返りにダンジョンの求めるアイテムを作る。
基本鍛冶師のルリだが、制作好奇心はもともと強い性格であることと、レシピがないと作れないと主張すればどこからか『〇〇の作り方』なる本を出されてしまうから次々に要求にこたえてしまうのだ。結果、ルリはこのダンジョンのボスになるわけだが本人はそんなことは知らない。
そんなこんなでこの奇妙な共生関係が成立し今に至る。
ダンジョンなので名前はジョンと安直なネーミングを行ったのはルリだが、それについてダンジョン自身は気にした風ではない。
「武器でいいなら俺が作るぜ。ここの工房は使いやすくていいよな!ジョンもいろんな奴の作風があるほうが豊富でいいだろう。」
『豊富。いい。』
「嬉しいみたい。」
「じゃ、決まりだな。」
ニカッと長兄が笑うのとほぼ同時に建物が揺れる。瞬きほどの振動はすぐおさまる。
「これで兄さんの寝床は確保ですね。」
「んじゃぁ、早速取り掛かっていいか?」
「材料は備え付けてあるもの好きなだけ使って。私は外の畑を片付けたら晩御飯の材料買いに入ってくる。」
「材料ってここから王都まで一日かかるだろ?」
「大丈夫。これがあるから。」
そういって取り出したのは一つのぬいぐるみ。
白い牡鹿は立派な角があり、その角には蔦が巻き付いている
「なんだ?ただのぬいぐるみじゃないか。」
「もう少し改良の余地はあるかなぁとは思ってるけど、まぁ今のところはこれで販売してもいいかとは思って試しに店にも並べれるんだけど。」
そう言いながらルリはぬいぐるみに魔力を込めるとたちまちシカはポニーほどの多きになる。銀の輝きを持つそれはとても神秘的だ。
「なんだ。これ。」
「これは魔道具と言って、中に魔石を仕込んでます。このシカは自分用に風の力を込めて速さだけに特化させました。今のところ魔道具は杖と違って何かに特化させる方法でしか使えないんだけどね。」
牡鹿に手をかざし魔力を抜けば元のぬいぐるみに戻る。それをポシェット型のマジックバックに近づければシュッと吸い込まれる。
「魔力さえあれば動くし、これを使えば馬で一日かかる王都まで半日以下で行き来できるんだよ!」
「や、それは他の通行人に迷惑じゃ?」
「それがどうも最速で移動してると見えないみたい?私もよくわかんないけど、風が通ったぐらいにしか思わないみたい。」
「はぁ?」
「私もその辺の原理はわからないんだけど。」
「なんだそりゃ。」
「ま、とりあえず行ってくるよ。」
そんな妹の様子をしばらく見ていたが何か思い出したように口を開く。
「そういえばシエルが南を旅だったんだ。」
「は?」
「お前を探すって言ってたらしいぞ。」
「げぇ。」
「だからまぁ、気を付けろよ。」
「はーい。」
わかっているのかいないのか、ルリは意気揚々と森を飛び出すのであった。文字通り風になって。
「おいおい。マジかよ……。」
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