アイテム職人改装する
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夜が明けて店の横に広がる畑の手入れをしていた。
この畑は店の横から裏にかけてL字に広がっているのでそこそこの面積がある。
もともとはジョンが回復薬も備えたい。というリクエストから始まり、ならば薬草がないと話にならないということでジョンが店の外に畑を用意したのだ。
せっかく畑をするのなら、ということでルリの日常食べる野菜もお情け程度に植えている。
ジョンの結界に守られ土壌管理されている畑の作物は驚くほどに状態よくすくすく育つ。そのため週に一回は刈り取る。10本を一つの束にして戸口の方に放り投げる。
「ねぇ、ジョン?回復薬まだ作るなら専用の部屋がないと管理できないよ。倉庫兼作業場。工房じゃ日を使うから薬草は燃えたり焦げるし、私の生活スペースだと天井が足りないもの。薬草の状態が悪いと上級が作れないよ。」
薬草を刈り取る手は止めず、ボヤくように店を見上げると、カッカッと聞こえるチョークの音。
ジョンが何を伝えようとしているのか確認しようと店の表側に回って黒板を確認する。
『部屋作る』
店の主であるジョンにとって特級回復薬の常設は悲願である。ゆえに、制作を担当しているルリの言うことを素直に聞いてくれる。
「じゃぁ、ついでに入り口のとこウッドデッキ作って、テラスみたいに一段上げようよ?で、こっちからこっちに柵を作ったら薬草干す場所も増えるし……。どうせならテラスに面したところをガラス窓つけたら中が明るくなって素敵になると思う!」
今はただ整地された場所に小屋があるだけで正直店らしい外観はない。ルリはそのことが前から気になっていた。大きな窓が一つあれば中が見えて店だとわかるだろう。
建物の見てくれなどあまり気にしていないジョンではあるが、ルリが『素敵』という言葉を使うと自分が一つ上等になる気がするのでそれに従うことにしている。
今回は具体的にルリが指し示したので言われた通りの作りとなっている。
「さてさて中はどうなったかな?」
刈り取ったばかりの薬草を抱えて中に入ると新しく作られた窓から陽の光が差し込みずいぶんと明るい。
以前よりも横に広がった店舗の真ん中に台が二つ増えており、その上には前まで窓がなく、壁だったところに付けられていた武器が無造作に重ねてあった。
「これは後で整理が必要ね。」
更に店舗を見回すとカウンターも横に広がり広がった部分は包装用の作業台になってるらしい。台の下は引き出しになっているので、包装道具を入れるためのものだろう。
今までただの木造りだったのがガラスのショーウィンドーになっているし、カウンターの後ろも壁だったのが大きなガラス窓になって工房が見えるようになっている。
どうやらジョンはルリに窓について説明されたことにより『ガラスを使う』を学習したようだ。
工房の方に回ってみる。
「特に変化は……。」
あった。工房の面積は変わっていないが、側面の壁にも窓ガラスがあり、その横がくり抜かれているのでおそらくそこが新しい回復薬用の部屋なのだろう。
目的の部屋ができれば大分作業が進むのでありがたい。ありがたいのだが、ルリは新しくできた窓の下が気になった。
今までよりも大きくなった箱、否。宝箱。木製の宝箱が一回り大きくなって一つから3つに増えている。
つまり、部屋を広げた分働けということなんだろう。とルリは思うがあえて口に出さない。
目的の部屋に進むと中は思いの外広く、外壁にもガラス窓がはめられて明るい。店側の壁には作業台と一面腰窓になって、背を向ける壁は薬品を入れるためだろう一面引き出しになっているので使いやすそうだ。
見上げれば天井間近にロープ張られているので、そこに今日刈り取った薬草を吊るしていく。
「これなら本当に回復薬も作れそうだし、近いうち材料買いに行こうかなぁ。日用品も買い足したいし。」
昨日も似たようなことを考えていたなぁ。と、思いつつも出不精のルリは出かけようとしない。追い詰められなければ動かない質なのだ。出かけようと思ってから行動するまで3日はかかる残念娘であった。
そんなこんなで薬草を吊るし終わった頃、外から声がすることに気づく。
「おお〜!だいぶ見違えたじゃないか!店らしくなってるじゃ〜ん。俺も自分の店欲しくなってきたなぁ。」
楽しげに発した声に惹かれるように店舗を抜けて入り口を開くと作られたばかりのテラスに男が立っている。
細身で170センチほどの男は紺色の髪をぴっちりと一つに結び、ルリを見止めると茜色の目を見開く。
「ルリ!ちょっと見ない間に立派な店になったぁ!」
「兄さんいらっしゃい!」
パタパタと駆け寄るルリの両脇に手を入れると、男はルリを抱き上げる。
「ちょ、ちょっとにいさん!もう子供じゃないんだからやめてってば!」
勢い余ってクルクルと回されるんじゃないかとヒヤヒヤするルリだが、講義の声は受け入れられることなく片手に抱かれたまま視線を合わされる。
「仕方ないだろ?月に一度しかここに来るチャンスはないっていうのに、先月はお袋に取られて先々月はリオに取られて更にその前は親父に取られたから4ヶ月ぶりなんだぞ?これじゃぁ一年に3回しかお前に会えないじゃないか。おまけに来年はクルトが成人するから絶対ここに来たいって言うのは目に見えてるし。」
拗ねる長兄の姿を見れば申し訳ない気になってこれ以上文句も言えず、大人しく腕の中に収まることにする。
「お、中もだいぶ広くなったじゃないか。」
「さっき広げたばかりでまだ整理できてないの。」
「へぇ、相変わらず種類じゃなくて作風で並べてるんだな。見づらくないか?」
「父さん達の店みたいに一見さんが頻繁に来るわけじゃないからいいの。それにこのほうが作風の色が分かりやすいし、見た目がきれいでしょ?」
普通鍛冶屋の店舗といえば、武器や防具の種類に纏めて値段の高いものは目線の高さより少し上の壁に掛け、手頃なものは目線の少し下でならべ、安くどの店にもありそうな物はかごや箱の中にひとまとめに入れる。
お客さんが目的のものを選びやすくし、余計な動線を作らないことで別のものを探しに来た客の邪魔にならないための工夫だ。
しかしルリはそうした来客が多い従来の並べ方ではない。どこでも誰でも作れるようレシピが出回っているものは一切作ることなく、自分の制作したオリジナルデザインの商品を作る。
例えば星屑モーフの剣を作ると、これの短剣バージョンを作り、さらに長物、盾、杖、弓といった具合にシリーズで作ってしまう癖がある。
なので、それならばそれが分かるようにとシリーズごとに並べている。
その結果店の中は色ごとに並べられて、さながら新品の絵の具箱のようなグラデーションになっているのだ。
「まぁ、お前らしくていいけどな。ここは何を乗せるんだ?」
先程増えたばかりの台を指されてルリは少し考える。
「そうねぇ。武器のをおいたほうがいいと思うけど…。まだ決めてない。」
「ふ〜ん。まぁ、何でもいいけどな!お前が作ったものなら性能はいいだろう。そういえば、この前母さんがお前から預かったポーション3日で売り切れたんだぜ?武器だって取り合いみたいになってたしなぁ。」
楽しそうに話す兄の言葉にルリは驚きを隠せない。
「え、だって前は回復薬3箱は出したよ?」
「お前のは混ぜものもがなくて質もいいし、味も苦くないから子供でも飲めるって南じゃもう有名だぞ。」
「ええ?!」
思わぬ言葉にルリは驚愕する。
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