領主代行といえど
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出来れば今日中にもう一本いければ…れば…れば
普段よりもゆっくりとした夕食を終えてパンテーラは父と兄を見つめる。
「さて、領主さま方。例の書面の用意はできまして?」
表情はいつもの凛々しい姿ではあるがその内面をうかがわせるように頻りに指輪を撫でている。
「ああ。大分苦労はしたがね。若い王とて今の愚王と小競り合いを繰り返すよりもさっさと終わらせたいとこだろう。」
「幸いあちらには年の離れた王弟がいる。あれらを押せば行けるだろう。そっちはどうだ。」
張り詰める様な空気の中、カツカツと音がして振り向けば一羽の白梟が窓辺にいる。素早く執事が窓を開けると梟はパンテーラのもとにやってくると一瞬で人型となり懐から取り出した1通の手紙を恭しく掲げ膝をつく。
「バルド隊長から報告にございます。」
「ご苦労。」
気を利かせたキャロルがエプロンのポケットからペーパーナイフを取り出し素早く手渡してくれる。
「ありがとう、キャロル。……あちらに動きがあったようです。また、こちらも準備整いました。北はいつでも動けます。必ず無血で勝ちを取ってみせましょう。……報告ご苦労。下がって休んでください。」
いつもの不敵な笑みを浮かべつつ、パンテーラは家臣をねぎらった。
「あちらも動いたか。パンテーラはいつあちらに戻る気だ?」
「あら、きちんと明後日の即位式まではいますわよ。こちらに来たのは継承式をするためですもの。義務をはたしますわ。」
にっこりとほほ笑んで、パンテーラは部屋を出た。
それを追いかけるようにアウルは立ち上がると、領主とレオパルトに黙礼し足早にかけていった。
「はぁ、やっぱり最初に動いたのはアウルだったかぁ。」
追いかける様子を横目にレオパルトは意地悪な笑みを浮かべる。
「そういうな。アレの執着はパンテーラが生まれた時からだ。人一倍あれの機微には聡いだろうよ。」
にやにやとする領主も何か言いたげではあるが、あえて言明は避けている。それを一歩遅れて悟ったルナールとマルテルは慌てて立ち上がるも領主に制される。
「今は花を譲ってやれ。お前たちもまだまだ若造だな。」
遅れて立ち上がる二人におよそ貴族らしからぬ様でケタケタ笑いながら領主はワインを傾けた。
人気のない廊下でパンテーラは一抹の不安を覚えていた。先ほどは皆の手前あえて笑ってみせたがちゃんと笑えていただろうか。
いつからだったろうか。笑っているときにきちんと笑えている感覚がない。今自分がしている笑みは引きつっていないか自信がない。でもそれを周囲に悟られるわけにはいかない。上に立つ者の不安が下に伝われば勝つものすら勝てなくなる。
そっと己を抱き込むように腕を交え右手で左の上腕をゆっくりさする。
「大丈夫です。」
声と共にふわりと香る伽羅に目を見開けば、そっと後ろから包まれていた。声も出せずにいると耳触りの良い甘やかな声がつぶやく。
「大丈夫。あなたは間違ってない。誰がなんといおうと私は傍にいます。」
「――っ!」
失望されるのは怖い。期待に応えられなかったら?もしうまくいかなかったら?どれほど取り繕っても押し迫る恐怖は簡単に拭えるものではない。
「あ、うる……。」
「はい。」
「アウル……。」
「はい。ちゃんとここにいます。」
これまで溜めてきた思いが溢れるようにその頬を伝う。
「わた、し、本当は、怖い。」
重ねられた腕に縋るように震える指先が添えられる。
「もしうまくいかなかったら、北が赤く染まる。どれだけ、失うのか、何が残るのか、わからない。大切に、してた、のに、零れ、落ちて、なくなっちゃう。わたしが、わたしが、しっかり、しなきゃ、いけないのに……。」
戦地に赴くのも、見送るのも誰だってつらい。それを伝えなければならない少女にどれほどの重圧がかかっているだろう。
少し力をいれてしまえばポッキリと折れてしまいそうな体は軍人であることを忘れそうになるほどに儚い。嗚咽の混じった声が途切れ途切れにこれまでの想いを吐き出す。
「大丈夫です。たとえどんな結果になろうと私は傍にいます。あなたを支え続けます。」
絶対うまくいく。なんて言わない。どんなに口当たりのいいことを言ったって彼女が納得しないことをアウルは知っている。
「アウル……あうるぅ。」
幼子をあやすように、ただそばにいる。それだけで、たったそれだけのことでパンテーラは救われるような思いがした。物心ついたころからそばにいるこの男がいてくれるだけで胸につかえていたものが通るような気がした。
優しく体を反転させられて、頭と背中を抱かれる。
背中を支える手は上から下へと撫で、頭に添えられた手がポンポンとリズムを取ればパンテーラの呼吸が落ち着いてきた。
「ごめんなさい。なんだか子供の様ね。昔もよくこうしてもらってたわね。」
照れたようなあどけない笑みを見せられて、アウルは頬を染め目を細めた。こつんと額と額を付けて薄い唇を引き上げる。
「パンテーラ。あなたはあなたのままでいてください。どんなあなたでも、どんな結果になろうと私は変わることなくお傍にいます。」
頬にそっと手を添えて涙をぬぐい反対側の雫を柔らかな唇で吸い上げられ、パンテーラは体の熱すべてが顔面に集まるような気がした。
「泣かないで、愛しい人。そんなに泣かれてしまうとあまりに可愛すぎて腕の中でもっと泣かせてしまいたくなるから。」
不意に囁かれた言葉にパンテーラの目は見開かれ、耳まで染まった顔を横に背ける。
「あ、アウルは意地悪です。」
と、つぶやけば再びその腕に抱き込まれた。
二人の子のやり取りを廊下の陰で見ていた二人が翌日小さな箱を忍ばせて、孤児院の慰問から帰ったパンテーラに膝をついたのは10年たとうとセプテント家の笑い話となるわけだが、それはまた別の話である。
ご覧いただきありがとうございます。
やっと一山超えました。
ルナールとマルテルの活躍を乗せたいですがいつ持ってこようか……(ないかも?)
まだまだがんばります!!




