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獣人さまと一緒  作者: 牧野りせ
三獣師と一緒
56/86

領主代行は浮かれる

お越しいただきありがとうございます。


ブックマーク100!!

ありがとうございます。ありがとうございます!!(政治家じゃないよ)

誤字報告も引き続きありがとうございます。

これからも頑張ります!

 本日二度目の湯浴みを終えてパンテーラはご機嫌だった。なんなら歌も歌ってる。人目もはばからずスキップすらしてしまいそうだ。


 普段軍神などと厳つい二つ名で周囲は呼ぶが彼女は年相応の少女だ。


 人生特別な日となればその浮かれようもまた当然ともいえる。


 手の中にあるそれをそっと右手で撫でる。少し厚みのあるその鳥は翼を広げて、特別なその指を守るように抱きしめるようにそこにいる。そっとのぞき込むと傾げた顔はちょっと大きめのシトリンの意思が二つ。愛嬌あるその表情は幼いころからそばにいる純粋な彼にそっくりだ。


 『ちゃんとここにいるよ?』


 まるでそう言っているように思えて、愛しさと嬉しさに頬が緩むのを止められない。


 気持ちを乗せるように唇を寄せる。ちゅっとリップ音がしてまたその指輪をじっと見つめる。




 パンテーラには子供の時からそばにいてくれる獣人が3人いる。両親からは彼らの番はパンテーラでいつか結婚することになる相手だと言われていた。


 『こんやくしゃなの?』


 幼いパンテーラがそう質問すれば両親は首を振る。


 『違うよ。まだ婚約者じゃないよ。それはいつかそうなると思うけど。』


 人族であるパンテーラにはその違いが分からない。つまりはいつか結婚する相手なのだろう?とはわかる。しかし獣人の体を持たないパンテーラには番という感覚が分からない。


 だからずっと待っていた。いつかその時が来て『ちゃんと婚約者』になって『結婚するんだろう』って。


 しかし、その時は一向にやってこない。


 世間では早い子は生まれながらに婚約者はいるし、遅くたって14には決まるという。それだというのにパンテーラにはまだ『婚約者』は決まらない。


 変わることなく三人はそばにいてくれる。


 でもそれは軍人だから?


 セプテント家の私兵でいつかパンテーラが上に立つから?


 番って何?


 いつまでこのままなんだろう。


 ねぇ。


 触れていいの?


 何処までなら許される?


 もう子供じゃないよ。


 いつまで一人で立ってたらいいの?


 ねぇ?


 どこまでなら踏み込んでいいの?


 どんなことまでなら語り合っていいの?


 いつまで我慢すればいいの?


 この中途半端はどこまで?


 いつまで?


 いつ終わるの?


 ねぇ。


 寂しいよ。




 何も知らない子供の時はそれでよかった。何も知らないから。ただ無邪気にそばにいてくれる存在を信じて甘えていられた。


 でもパンテーラはセプテント家の時期領主代行だ。


 叔父と共に赴いた戦地ではその幼い体躯からは想像もできない戦果を挙げてしまった。


 そうして周知されて立場をどんどん得るほどにパンテーラは孤独になっていく。


 遠く王都にいる家族は傍にいてぬくもりをくれない。


 叔父に弱音を吐けばきっと失望されてしまう。


 くじけた姿を見せれば下はついてきてくれるはずなどない。


 番だとどんなに囁かれていても確固たるものがなければ機密を漏らすわけになんていかない。


 だからこそ奮い立たせていつも強気で誰にも弱さなんてさらさないようにしてきた。


 思いがけず早まった領主代行交代はいい機会だった。本当は理由なんてなんでもよかった。他の貴族が名乗りを上げてなんて本当はそんなことどうでもよかったのだ。


 人族のパンテーラには番なんて感覚わからない。だからこそたまにわからなくなる。疑っているわけじゃない。信じていないんじゃない。向けられる眼差しもかけられる言葉もちゃんとわかってる。届いてる。


 でも、だからこそ不安になる。


 いつか裏切られる日が来るのではないか。


 この立場ゆえに、この身分ゆえに。いつか要らなくなる日が来るのではないかと。


 だからちゃんと約束が欲しかった。目に見える形が。


 それなのにいくつになっても軽い耳たぶに飾られることのない手に虚しさばかり募っていく。


 いつも父の背中があった。各地を治める彼らが立ちふさがっていた。手を伸ばしたいのに自分の立場でそれをするわけにいかない。いつだって結果を待つのだ。


 そんな人に見せられないジレンマを抱えたパンテーラに降ってわいたチャンスがやってきた。大義名分を抱えて誰にも邪魔をされない。きっとこれが最初で最後。


 一世一代のプロポーズ。


 応えてくれるかなんてわからない。それでも何もしないよりいいんだ。


 だから彼のその言葉は嬉しかった。指にはまったそれが心強い。




 ずっと待ってたんだよ。



 言葉にはできないけど。それを確認するように触れるとやっぱり頬が緩む。


 それは一人ではない。


 夕食の席ですべての視線はパンテーラに注がれていた。そもそも部屋に入ってきた時点で違う。普段凛々しいパンテーラが柔らかく微笑みながら入室してきた。


 「どうしたの?ご機嫌だね?」


 兄であるレオパルトが声をかけると頬を染めて笑みを深めてうなずく。


 「すっと欲しかったものがやっと手に入ったからとても嬉しいの。」


 それは心からの声。もしかしたら無意識のつぶやきだったかもしれない。


 一体それは何だったのか、その正体を探るでもなく室内にいた人々は彼女の重ねられた手がカトラリーを握った瞬間に理解した。


 『梟の指輪!!』


 そしてアウルに注がれる視線。じっとりした視線に多少の居心地の悪さを感じつつ、もそれ以上にパンテーラの様子に頬を緩めた。


 今夜のパンテーラはとにかく食べるのが遅かった。普段ならさっさと食べて食後の茶を嗜むと部屋に引き上げるのに、手を動かすたびにカトラリーから手を放して指輪を撫でたり、手を傾けて光のあたり具合を見たり、鳥の顔を覗き込んでは微笑みを浮かべる。


 一人まき散らす花に本人は気づかず、そんなパンテーラにアウルは頬を染めてその様子を微笑ましく見守り、ルナールとマルテルは先を越されたことと、愛しい番が他の男のプレゼントにかつてない反応を見せたことに絶句し、あまりにも娘の変貌に念願叶ったことを母は歓喜し、父はこんなにも喜ぶほど婚約を引き延ばし続けたことを申し訳なく俯き、それらの様子を眺めて兄はため息をつくのだった。




ご覧いただきありがとうございます。


前回はタイトルのわりにざっくりでしたww

もっと精進せねば

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これからもよろしくお願いします。

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