白梟は思いを馳せる。
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勢いだけで読み返しもしないで投稿する阿呆な作者ですので心の底からありがたいです!
パンテーラが王城へ呼ばれているころアウルは城下町にいた。
本来なら彼女の副官としてなんとしても傍に仕えていたいところであるが、当主となるレオパルトに否と言われてしまえば従わざる得ない。どうやら今日は護衛がいるとかえって邪魔であるらしい。
おまけにパンテーラはもちろんレオパルトも己の身は自分で守れる北の人間なのである。
というわけで本日は休日を言い渡された。
アウルはもちろんルナールもマルテルもパンテーラやレオパルトのタウンハウスの客間を使わせてもらっている。その為急な休みをもらったところで手持ちぶさたになる。
そこでふと手に触れたのは髪の毛に埋もれた耳とそこにあるピアス。触れるたびに自分がここにいていいのだと囁かれるようで胸が熱くなる。
「やっと……。」
緩む頬を隠すことなくその感触を楽しめば、これに返すべきものは何かと考える。通常であれば獣化してその柔らかい耳を牙で食み穴を穿ちそこに自分の色を嵌め込む。
しかしアウルは梟の獣人で牙がない。嘴ということもできなくないが、牙よりは鈍いしきっとそれをされるパンテーラには必要以上の痛みも伴うであろう。
「となると、人族式に指輪を贈るべきか。」
最上のアプローチならば屋敷一件。と言いたいが、領主代行であるパンテーラは北に己が住むべき屋敷を受け継いでいるので家という選択はない。
となれば人の習慣に習うのもありかもしれない。環境としては雪豹の一族として育ったパンテーラは基本獣人の習慣が身についている。しかし、そこは年頃の少女。憧れというものはやはりあって、祖母と同じように特別な指輪を受け取る日を待っていることをすっとぞばに従うアウルは知っている。
「と、なれば宝飾店に行くべきか。梟ならば定番としてあるだろう。」
獣人のプロポーズには宝石がつきものだ。なので店には定番の動物モチーフやその種族に近いシンボルのアクセサリーが並んでいる。王都ともなればその種類は豊富であろう。
思い立ったがなんとやら。返礼も早いほうがいいだろう。
客間の応接ソファから立ち上がると足早に部屋から出て家令の男に出かける旨を伝える。要件を告げると男がいくらかセプテント御用達の店があるので案内してもらうことになった。
目的の店までは領主家の馬車を出してもらえたので、北よりも整った道を揺られながら進む。
カラカラと轍の音を聞きながら通りの向こうに幼い男の子が乳母車を覗き込んでいる姿が見えて、在りし日を思い浮かべた。
それは遠い日、アウルが初めてパンテーラを見た日のことだ。それは彼女が生まれて二か月がたち北の領主邸にてお披露目が行われた日だ。
二歳になった僕は両親に連れられてきた屋敷に立ち入ったとたんに甘やかな香りがしてその匂いの元がきになってそわそわした。一緒に連れられてきた双子の兄はそうでもなかったようで変わることなく母親の腕で眠そうにしている。その姿に安心したような感覚の共有ができず残念なような。だがそれもすぐにおさまる。
通された部屋で落ちつけず中を見渡していると領主夫妻が何かを抱えてやってきた。夫人の腕に抱えられた白い柔らかな毛皮から目が離せずにいると、頭上の父上が楽しそうに笑っている声がした。
「おや?アウルが反応しているね。」
その優し気な声に咎められることは無いのだと感じて立っている父上の腕からもがくように飛び出すとすぐさま出来るようになったばかりの人化を解いて梟になると急いで夫人の肩を目指した。
その間も僕の目はずっと同じ場所に縫い付けられていた。
屋敷に満たされた香りが一層濃く感じてその正体がここにあるとすぐに分かった。柔らかい毛皮に包みからちらりと見えた自分よりも小さな手に目を見開いて心臓が高鳴る。
(見たい。会いたい。もっとそばに行きたい。近づきたい。)
気持ちばかり焦って翼が言うこと聞かない。一直線に行きたいのにとても遠く感じる。やっとの思いで夫人の肩に留まり、焦がれるそちらをじっと見つめる。
「っぁあ!」
「あら、この子起きたわ。今の今まで寝てたのに。」
声ともならない声。ただの反射であったのかもしれない。きっと母親に反応しただけだろう。それでもじっと見開かれた金色の瞳に心臓が止まりそうになる。顔に集まる熱に戸惑うもののやはりその赤子から目が離せない。
「赤ちゃん……?」
やっとの思いで発した言葉は色気もそっけもなくただただ見た感想だ。
しかし、その赤子が一瞬目を細めて口を開く。声もなく笑うような仕草に天にも昇るとはこういうことをいうことだと初めて感じた。
(嬉しい。)
ここに生まれてくれたこと。今こうして出会えたこと。そばにいられること。その声が聞けること。五感のすべてで細胞の一つ一つが震える気がして全身の毛が逆立つ。
どうしようもない感情を表現できなくて持て余したとき大粒の涙がこぼれた。
何を考えたのか次につぶやいたのは、夫人の頬に寄り添って頭を擦り付けながら。
「う、生んで、くれて、ありが、とう。」
嗚咽を辛うじて堪える様なか細い言葉に、大人たちは一拍間を開けると、アウルの父は思いっきり吹き出し、母は『私が生んだ感謝すらまだされてないのにこの子は……。』と呆れ、夫人は『まぁ、夫にも感謝の言葉をもらっていないのにこんな小さな紳士にいただけるなんて感動だわ。』と笑顔で隣の夫を睨み上げ、当の夫は額に脂汗を浮かべて天井の角を見つめた。
言うが早いかアウルは夫人の腕の中に納まる赤子の胸のあたりに転がるとそっと丸まって頭をぐりぐりと赤子に寄せる。
赤子特有の柔らかく甘やかな香りはアウルの心を満たし、これまでせかすような鼓動がうそのように凪いだ。ただそばにいるだけで幸せでだった。
たとえ羽をにぎにぎされようと反射で引っ張られて抜けてしまおうとそ場にいられるだけで満足なのだ。
人の姿でいることすらもどかしく本能のまま白い梟としてそこにいることにした。
「あら、二人とも寝ちゃったわ。」
あっさりと眠る赤子と鳥をそっとゆりかごにおろしながら夫人がつぶやく。
「アウルくんと一緒だからかしら?いつもは揺りかごに下ろすと泣くのにピクリともしないわ。」
夫人のつぶやきに領主は驚きながら頷く。
「もしかしてどちらかは反応するかとも思ったけど、アウルが反応したか。」
あまりにも情熱的な息子の反応に父親は嬉しそうだ。
「我が家からの番が出ただけでも御の字ですわね。」
母親もニコニコとしている。
『それにしたって生んでくれてありがとうって!』
眠る子らをしりめに大人たちの肩が震えた。
父親は引き笑いすら浮かべている。
「あんな情熱的に結婚許可を求めるなんてやりますわね。」
夫人は扇で口元を隠しながらも目尻に浮かぶ雫は楽し気だ。
それからというもの、アウルは仕事に出かける父にあの手この手で(ある時は鞄に忍びこみ、ある時は馬車の御者台に隠れて)ついていき領主邸を訪れては赤子のパンテーラに寄り添った。
眠る間は顔の横で鳥となってうずくまり、目が覚めると世話係の邪魔をしないようベビーベッドの手すりに留まって大人しくしていた。
やがてお座りができるようになると、ちょこんと座ったパンテーラの後ろに寄り添って後ろに転がらないよう背中を体で支え、しれっと腰に手を回した。
そのころには年の近い男の子がそばに寄るのを牽制したし、成人した男が近づこうものなら明らかな威嚇すらした。
(あの頃は見境なかったなぁ。)
通りにいる子供にあの頃を重ねつつ思いをはせていると馬車は目的の場所についたのか振動が止まる。
(近づく男は全部姫様を奪っていく敵に見えてたもんなぁ。)
子供なので本能丸出しなのは仕方ないと思いつつも、あの頃は青かったなぁと流れる雲を見上げるのだった。
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