領主代行は依頼される
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目が回るような一夜があけ、パンテーラは夜会ほどでないにしても普段着よりは豪奢なドレスに身を包んでいた。
今日は兄と一緒に次期国王に呼ばれていた。
普段領地で過ごしているパンテーラは基本的にシンプルなワンピースぐらいしか着ていない。まして飾り物など身につけない。北の領地では頻繁に魔物が出る。そうなれば魔物狩りに出るわけだがその度に街の自警団を動かしていては街の中が手薄になる。そうなれば今度は他領地からの侵攻に備えられない。
もちろん表立って攻撃されることなど早々ないが、指名手配の者、他領地の間者や盗賊などに気を配らなければならい。かといって正規の騎士団を動かせば国境の守護に響く。もちろん手に負えないような場合は騎士団にも協力を要請する。
しかし大抵の場合は領地で雇った傭兵や志願者からなる部隊を組んでいる。これは私兵も同じで国からの給料は出ない。国から領地への国境監視補助金は出る。しかしそれで賄えるのはせいぜい50人がいいとこだろう。もちろん面している国によってはそれぐらいあれば問題ない領地もある。
だが北はそうもいかない。5年前に隣国の王が代わりをしてからというもの諍いが耐えないのだ。そのためパンテーラが関わるようになってから人員を200まで増やし左翼右翼中核と三つに分け、左翼をマルテル、右翼をルナール、中核をバルドが隊長を務め、それぞれのその総指揮をパンテーラがとり、その補佐官をアウルが務めている。
それらの給料は補助金だけでは足らず。訓練を兼ねた定期的な魔物狩りや狩猟、強者だからこそ行ける森の奥でとれる薬草採取で稼いだり、特産品などを売り上げた領税から賄う。隣国の事情を考えれば200という部隊ではまだ足りない。しかし、急速な隊の拡大は練度を欠き間者を入り込ませやすくするし、何より先立つものがない。軍事はお金がかかるのだ。
また、領主代行は王国から派遣される騎士団の団長も兼ねているので、不測の事態などは前代行の叔父が出張ることにはなっているが、騎士団の統率に私兵の訓練、特産品の開発など陰ながら領主を支える代行は実は大変なのだ。
その為彼女は移動に平気で馬を使う。不便な重たく嵩張るだけのドレスなど邪魔なだけなので普段着たりしない。その分シンプルだが淑女として損なわないような簡素だが足首までしっかり隠れるワンピースを好み、いつも5センチのヒールを愛用して駆けまわる。
まして年間後いくら削減したら私兵を増やせるかと考える彼女にとって、自分の装飾ほど無駄なものはない。
「このドレス仕立てなければ最新の防具がいくつ買えたのかしら。」
ぽつりとつぶやけば隣の兄が苦笑する。
「普通はもっと仕立ててほしいっていうのが令嬢だと思うけど?」
「嫌ですよ。ドレスじゃお腹は膨れないし、まして領民の命なんて守れません。」
あまり王都に出てこないパンテーラにとってドレスは領地で公式行事をこなす程度にあれば流行りとかどうでもいいのだ。そんな彼女にとってたかだが半月のために仕立てられる何枚ものドレスを新しく仕立てることは血税を無駄にしているようにしか感じれない。
ひらひらとしたそれを見るたびに優し気にこちらを見て笑う領民たちの姿が浮かぶのだ。
「だが他領や貴族になめられてはそれこそ領民の生活を脅かしかねない。こういうことも私たちの必要な仕事だ。」
「だからこそそういうのは父様や兄様がしているのでしょう?まぁ、今回は仕方ないにしても。で、次の王様がなんのようじですかねぇ。」
「ん~。まぁ、それは本人から聞くといいよ。」
「つまり兄様は知っているんですね。要件の内容。……まぁ、いいですけど。」
そんな話をしつつ馬車は王宮に到着した。聳え立つ白亜の城を見上げてこれで三回目と人知れず指を折る。あと何回ここに来るのだろうか。
「それより兄様、あちらの方はどうなっておりますか?」
「ああ、あれか証拠は固めた。だが肝心の伯爵が捕まらん。息子は昨日の夜会に出ていた。随分羽振りがよさそうだったがな。」
「あんの狸じじぃ。自分だけ逃げたのですか……。」
「恐らくな。」
「逃がしませんよ。」
人の身でありながら一族特有の金色の瞳をぎらつかせつかせながらパンテーラはつぶやいた。兄にエスコートされながら行き着いたのは次王の執務室だ。衛兵と視線が合えばなぜか後期の目を向けられる。軽く会釈すると感極まったようにしつつもノックと共に室内に来訪を告げると「入れ」と短い返答が来る。
「失礼します。」
兄に続いて入れば金色の髪をした男が座っていた。ふさふさのその髪のてっぺんには二つの丸い耳。だが兄様のと違って厚みがある。
「昨日の今日で呼びたててすまないな。」
昨日の夜会でも思ったが威厳を纏う姿は確かに王にふさわしい。と、パンテーラは思った。それほどの存在感があった。促されるままに向かい側に座ると、侍女がお茶と焼き菓子を出してくれた。
「いえ。」
短く答える兄は特段緊張しているようにも思えない。つまりそれほど慣れているのだろう。
「早速で悪いが、軍神に頼みがあってな。」
「私にですか?」
いきなり話の水をむけられてパンテーラは眉を上げた。
(前置きもなしとはよほどのことか?)
「実はある部隊の訓練を見てほしい。」
「訓練?」
予期せぬ言葉にオウム返しをしてしまった。いや、正直軍事関連の何かだとは思っていた。武神と言われる自分が呼ばれる内容などそれぐらいしか覚えがない。どこかの砦を落として来いとかなにか無茶振りされるのかと思っていた。それが「訓練」など拍子抜けだ。
「そうだ。知っていると思うが私の番は隣国からの人族でね。」
「存じています。選定の際には素晴らしいご活躍だったと聞き及んでおります。」
「ありがとう。きっと彼女と君は仲良くなれると思うんだ。だから君に彼女専属の近衛になってほしいんだ。……って、レオパルドそんなに睨まないでくれよ。ま、私としてはそう思っているんだがセプテントは君ら二人しか子供がいない。だからそうもいかないだろう。」
「そうですね。私も領地を離れる気はありません。」
「だが隣国からの輿入れだ。いくら彼女自身が腕前があろうと獣人でない以上護衛は必要だ。これからは女性だからこその公務も増えるだろう。そんな中で男の護衛を付けるわけにいかない。」
「つまり番のために女性の近衛隊を作ったということですか。」
「ああ。騎士団から評判のいいものを20名集めた。正式な発表はまだだが今は準備期間として訓練をしているが正直心もとない。」
「はぁ。騎士さまならなんら問題ないと思いますが。」
「問題なければ頼みはしないがね。」
「訓練……。今日一日なら。明日からは予定が詰まっておりますし、式典が終わればその足ででも領地に戻ります。今空けるのは得策ではありませんから。」
「ああ。とりあえずはそれで構わない。」
随分とあっさりしているな。とパンテーラは再び眉を上げる。
「それから君たちの継承式は即位式の翌日だ。」
「賜りました。」
短く答えると今度は殿下が眉を上げる。
「軍神と聞くからどれほどの者かと思っていたが大人しいな?」
唐突な囁きに三度パンテーラは眉を上げた。どうやらこっちが素なのだろう。
「反抗してほしいなら一戦交えますか?」
「いや、いくらレオパルドと私が懇意であろうと君が私に従うかどうかは別問題ではないかと思っていただけだ。」
「お言葉ですが。私は王になど仕えるなど思ったことは一度もありませんし、今後もありません。」
「ほう。」
向かいの男のの目が細くなり周囲の気温が下がる。それを見ている横のレオパルドは何やら楽し気だ。
「私は領民を守る今の立場が与えられるならば仕える相手など誰でもいいのです。父や兄が王や次期王に仕えるならばそうしましょう。彼らは私のことを一番よく理解し、利用できるのも彼らですから。逆に言えば領民を虐げる王ならば誰であろうと全力で引き摺り下ろすだけです。私の全身全霊で。」
「なるほど。まさしく北の雌豹。かの軍神と同じことを言うのか。」
「誰に仕えるかではありません。何を守るかです。」
「肝に銘じよう。」
「お話は以上で?」
「ああ。……隊長を呼んでくれ。」
最後の方は扉に向かって言われた言葉だ。それとほぼ同時にノックがする。
「入れ。」
重厚な扉から現れたのは体のメリハリが強烈な女性。
「クーリント・カウ入ります。」
「ああ。パンテーラ嬢、これが隊長のカウだ。カウ、紹介するまでもないと思うが噂の軍神だ。本日訓練の監督を依頼した。案内してくれ。」
「了解いたしました。」
「ではパンテーラ嬢よろしく頼む。」
「畏まりました。」
会釈をしてカウ隊長と廊下に出る。
「パンテーラ・セプテントです。本日はよろしくお願いいたします。」
スカートの端をつまんで礼を取れば少し間があって彼女からも騎士の礼が返される。
「クーリント・カウです。こちらこそよろしくお願いします。」
家名から察するに牛の一族なのだろう。確かそんな武門の名家が王都にいたと思い出す。四兄弟男女問わず騎士だった気がする。
「カウ家と言えば有名な武門ですね。ご高名はかねがね。」
「まぁ、軍神にご存知いただけるとは光栄です。」
「いえ、隊長と聞いて納得しました。槍の名手が多いと記憶しております。」
「ええ。私も得意なのは槍です。普段は携帯できませんので剣を扱いますが。」
「ぜひ一度お手合わせ願いたいものです。」
「そんな、私など貴方様に比べればまだまだ。しかし武人として機会があればぜひ。」
うふふふふ。おほほほほ。と楽し気な笑いを残して女たちは廊下を進むのであった。
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