領主代理だって女の子
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予定よりも早く王都入りしたパンテーラに待っていたのは夜会へのお誘いだった。
と、いうのも16になるというのにパンテーラはまだ社交界デビューを済ませていなかったからである。本来なら14歳から社交界デビューできるのであるが、14歳の年は隣の領地が他国に狙われ小競り合いとなった。隣領となれば黙っているわけにいかず遠征することになった。
表立っての指揮官は叔父であったが実務的にはほぼパンテーラがこなしていた。遠征の指揮はもちろん事後処理に至るまでをこなし、戦線を押し上げ不利だった戦局を覆し終わってみれば随分と母国に有利な条約まで取り付け、北に軍神ありと言わしめた。もちろんその年はデビュタントどころではなかった。
一年それで過ごすと、翌年の社交シーズンは『去年デビューしなくても問題なかったんだからもう実質の婚約者もいるしわざわざ王都まで遠路出向いて社交デビューする必要ないのでは?社交は兄の担当だし。』などという思考に駆られまた今度~と先延ばしにしていた。
おかげで深層の軍神だとか囁かれるがそんなことパンテーラは知らない。
しかし、面倒だと避けていたデビュタントも領主代行引継ぎを考えたらすましていたほうがいいだろうと無理やりねじ込まれたのである。幸いにして年四回あるデビュタントが行われる夜会に間に合わせるかのように王都入りしてしまったのは彼女の誤算だった。
「家を思えばそりゃ好都合ですけどね。ですけどぉ~。」
王都入りしてタウンハウスに到着したパンテーラは即座に浴室に連れていかれた。湯浴みを済ませてすっかり磨かれて応接室に行くとともに旅をした番三人もすっかり紳士然とした様子で座り。その向かいに両親と兄が座っていた。
あいた席にこしかけるとデビュタントの話をされた。用意が間に合わないと反論したパンテーラに母がニコニコと『衣装は随分前から用意はしていたのよ?』と問題ないことをさらりと告げられ、逃げ道を失った。夜会は明日~ほほほほ~と席を立つ両親と、憐れむような視線を兄に向けられたが、それぞれ自室に引き上げていった。
番と共に残されたパンテーラはクッションを抱えうなり声をあげた。
「お姫さん何が問題なの?領地の夜会もそつなくこなしてたじゃない。」
「領地の夜会はいいんです。ほぼ顔なじみと言っても過言ではないくらい見知った人たちばかりだし、相手は武家ばかりでしたから腹の探り合いはあまりしなくて良かったし。」
「狐狸のじじぃどもにも負けてなかったじゃん。」
「それはまぁ、あの時は隣領の戦で大分頭に血が上ってましたし。何より領民を思えばこそでしたから。大体あれは次期代行というマウントがあればこそですよ。王都ではそんなこと何の武器にもならないでしょう?」
「そうかなぁ?」
「あの魔窟にいきなり放り込まれるなんて。」
いかに軍神だなんだともてはやされても所詮は年頃の少女だ。嫌なことも苦手なこともある。女の鞘当など最たるものだ。もちろん軍に女性士官もいるが実力主義の隊でトップに立つ少女を蔑む者など一人としていない。尊敬こそされても鞘当など経験がない。
「きっと田舎者って馬鹿にされてわざとぶつかられてワインかけられて笑いものにされるのよ。」
「そんな勇者がこの国の女性にいるとは思えませんが。」
パンテーラの取り乱しようにルナールはそっと隣に座りその頭を撫でる。
「それでもそういうことがあるのが社交界でしょ?母様の小説の中にはもっとひどいのもあったのよ。」
「それはあくまでも創作物ですから。」
「でも日のないところに煙は立たないっていうでしょう?」
自分の想像に追い詰められながらパンテーラの目じりにうっすら水滴が盛り上がる。その様子に三人の番は息をのむ。
普段は凛として男どもを従える少女がこんなにも弱い姿を見せるのは後にも先にも幼馴染であるこの三人の前でだけである。そんな三人にとって普段とのこのギャップある姿は非常に庇護欲をそそられるのである。『この可愛い番は自分が守らなければ!』という闘志がみなぎる。
そんなことを知る由のないパンテーラは隣に座ったルナールのに向かってバッと両手を広げ一思いに飛び込む。
「わかって入るんですけどね……。嬉しいような、悲しいような。」
「そうやって飛びついてもらえる分役得じゃないですか。何なら変わりましょうか?」
「アウルは尻尾なんて持ってないじゃないですか。」
「じゃぁ、俺が代ろうか?尻尾ならちゃんとあるぜ。」
「却下です。この役目は昔から私のものです。」
ツンと逸らされた顔とは裏腹に三角の耳がせわしなくぴくぴくと動いている。
「はぁ~このもふもふに癒される。」
それはまるでぬいぐるみを抱く幼子のように目を細めぎゅっと抱きしめる表情は恍惚にさえ似ている。周囲を気にすることなくぎゅ~っと抱きしめては頬ずりしてその柔らかな感触を堪能する姿は先ほどの泣きそうな表情とは違い無垢な少女のそれである。
どんなに軍神と崇められようとそこはやはり少女、嫌なことも苦手なこともある。そんなことで落ち込むと決まってパンテーラはルナールのふさふさで滑らかな3本の尻尾に顔をうずめて心を静める。この癖は彼女が2歳の時から始まったもので、紳士の尻尾にむやみやたらと触れるのは淑女として問題ある行為だとわかっていても幼子のころから続く習慣なので今更やめるのは寂しく、またこのよく手入れのされた尻尾に代わるものが見つけられず、ズルズルと続いている。
一方のルナールも目的が尻尾とわかっていても普段は男勝りで堂々とした年下の女の子が弱る姿を見せるのは自分だけであり、またそんな少女が自分の尻尾で癒されることで元気を取り戻す瞬間に立ち会えるのもまた自分だけだという優越感に似たものすらあった。だからこそ彼もまた止められずにいた。
(くすぐったい。)
とはおもいつつもこの後の光景を思えば耐えられる。
「っ。はぁ~。……ごめんなさい。ルナール、もう大丈夫だから。」
ひとしきり尻尾を撫でまわし堪能したパンテーラはそっとはなれ、あどけないけれでも満面の笑みでルナールを見上げ、そのまま向かいに座るマルテルとアウルを見つめてつぶやく。
「心配かけてごめんね。もう大丈夫だから。」
向けられた笑顔に瞬間息をのむ。
「はぁ、姫様のその天使スマイルはたまりませんわね。」
そばに控えていたキャロルから男たちの心を代弁するかのような言葉が漏れる。
「またキャロルが変な呼び名増やしてる……。」
「変ではなく事実ですわ。」
ニコニコ顔の侍女に呆気に取られているとパンテーラの頬にそっと触れる手があった。
「姫さま、お願いですからこのようなお顔はここだけにしてください。」
「わかってるわ。こんな情けない姿他で見せたられるわけありません。指揮系統に乱れが出ますもの。」
「ん~。そういうことではないのですが、そういうことにしておきましょうか。」
狐族特有のキラキラスマイルに見つめられパンテーラは身じろいだ。急に決まった明日のスケジュールを思えばため息が出そうになるが自分でどうにもできないことはどうしようもないので考えないことにした。なるようにしかならないのだ。
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