領主代行は賭けをする
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今回の章は「キャラが走るタイプ」なので作者的に寝起きするたびにシーンがどんどん出てきて書いててとても楽しいです。4です皆さんも楽しんでいただけると幸いです。
王都までは馬車で10日、馬だと7日かかる。即位式は2週間後だ。王都に到着してから十分な余裕があるだろう。
王都についたらまずは情報収集が先だと決意してパンテーラは馬に荷物を載せる。どうしても乗せなければいけないアレの存在を馬に申し訳なく思う。
「ちょっと重いけどお前なら大丈夫よね。頼りにしているわ。相棒。」
漆黒色の大きな軍馬はパンテーラが10歳の誕生日祖父にねだった。祖父に頼んで繁殖場にまで足を運び自分で選んだ馬で毎日の世話が日課である。
本来の令嬢ならば馬車で中間の街で休みながら行くところだろう。しかし軍行にすら率先して参加するパンテーラにとって夜通しかけることも野宿することもノープロブレムだ。
「キャロル、本当に馬車じゃなくていいの?」
「もちろんです。主たる姫様が馬だというのに私が悠々と馬車に乗って予定を遅らせるわけに参りません。それに早く着けばその分即位式の準備もできるというものですわ。」
「さすがは姫様付き侍女。姫ともどもしっかり守らせていただきますよ。」
北狐族のルナールが優美に笑む。北の領地特有の色素の薄い白金の髪と同色のふさふさの尻尾が三本揺れている。そんな男が乗っている馬はやはり白。というのも1年の半分が雪に覆われるこの地方では雪に紛れるために白い馬を好む。同じ理由から軍服も白だ。
そんな事情があいまって自然と4騎の白い馬と1騎の黒い馬なので黒は非常に目立つ。おまけにその主は漆黒の髪を首の後ろで一つの三つ編みにし、金色の双眸は楽し気に高い位置から周囲を見渡している。
本来ならば司令官たるものが一人目立つような恰好というのも憚れるものだが、軍神とうたわれる者であるパンテーラにとっては自分を手っ取り早く目標にさせるほうが作戦も立てやすい。なのでパンテーラ敢えてこの馬を好んで選び敢えてそういった格好をしているのだ。
「戦地にも付き従ってくるのはキャロルぐらいですからね。ま、おかげで私は大助かりですけど。」
「お付きの侍女として当たり前です。戦場に立つ戦姫が常に誇り高く美しくあるように仕上げるのが私の誇りです!」
「なんかまた変な呼び名増やしてるし。」
「確かに戦場の姫さんはかっこいいもんなぁぁ。俺番としてすっげぇ自慢だからな!」
「それはどうも。」
とても名門貴族の令息発言とも思えぬ口ぶりだがこれでも立派な貴族である。自由な三男坊であるが、その所作は綺麗なものだ。
「とはいえ、最近は自室と執務室と訓練場しか移動してないから遠駆けは久しぶりね。ちょっと気晴らしに走ってもいいかしら?」
「もちろんですわ。せっかくですから何か賭けますか?」
「あら、それはいいわね。キャロルは何がいいの?」
「そうですねぇ~あ、王都で今とてもおいしいニンジンが流行っていると聞きました!なんでも地方の狼族が栽培したもので甘みも栄養も他に類を見ず、なかなか手に入らないとか!ぜひそのニンジンでキャロットケーキが食べたいです!」
「そんなおいしいニンジンなら私も食べてみたいわね。じゃぁ、キャロルの景品はそれで決まりね。あなたたちには……耳でも指でも好きなほうをあげるわ。」
ニッと笑ったパンテーラの言葉にルナールとマルテルだけでなくアウルも目を見開き一瞬動きを止める。何を考えたのか、ルナールは極上の笑みを浮かべ、マルテルは目がどこか宙を見つめキラキラ輝き、アウルは小さなガッツポーズをした。
「まぁ、姫様がそんなことおっしゃるなんて。あんなに大切にとっていらっしゃいましたのに。」
「そんなこと言って見知らぬ奴に埋められるのも嫌だと考えを改めたのよ。」
「そうですねぇ、王都なんて行けばどんな輩に目を付けられるかわかりませんし。」
「確かにこの3人とは政略も含めた婚約だけど、それ以上に幼馴染としての部分が大きいから私は何の憂いもないけど、今更王命で政略なんて決められたらたまらないもの。」
「それもそうですわね。」
耳とは、獣人が婚約の際にその印である自分の色を入れたピアスを番に贈る権利をさし、指とは人族の習慣でやはり婚約の際に指輪を贈ることがあるのでその権利のことをさす。つまり、勝てば第一婚約者になれるというわけである。
雪豹族であるパンテーラは祖母が人間でその隔世遺伝なのか人として生を受けた。その為外見は人であるが習慣は獣人のそれである。そんな生い立ちなので指でも耳でもどっちでもいいのだが、そこはやはり年頃の女の子、それなりに夢くらいはあった。なので、これまでどんなに指輪をもらおうと付けたことは無いし、耳飾りもイヤリングは付けてもピアスは受け取らないという徹底ぶりだった。
その高潔さがかえって3家の父親たちを喜ばせ、ヒートアップさせた一因であることをこの令嬢は知らない。
「姫様は何が欲しいですか?」
「私?ん~。ないわ。」
「ない……。ですか?」
「だってキャロルは私が結婚してもずっといてくれるでしょう?だからキャロル自体をもらっているも同然だし、アウルたちは婚約するんだから同じでしょ?だから私が4人から今更何かもらうものなんてないと思う。」
これが何かの思惑あっての発言でないのだから恐れ入る。これこそが彼女が人好きされる所以でもあるわけだが、領民も臣下も大事にするこの領主代理にとっては普通のことで特別な発言だと思っていない。
「まぁ、そのようにおっしゃられては益々離れるわけにいきませんわね。侍女冥利に尽きますわ。」
いくら親しいと言えどその立場を思えばいつ誰に裏切られてもおかしくない立場なのに、一度懐に入れた人物を決して疑わないのがパンテーラなのである。
「では次の街に最初についた人の勝ちね。」
ハンデのためにキャロルとパンテーラが先に駆け、懐中時計で5分きっかり計ってから男たちは駆けだした。結局勝者はパンテーラとなり、それではつまらない。と抗議が上がり、その日は予定を超えて次の町までかけた。
それでも勝者は変わることなく、半ば維持になった面々とただただ走るのが楽しいパンテーラは王都につくまで賭けが続き、7日を予定した道程が最短5日(早馬とほぼ同じ日程)で王都入りした。
満面の笑みに葉っぱと埃まみれで久々に会う妹はタウンハウスで待ち構える両親と兄をあきれさせたのは言うまでもなく、その表情を見たお付きたちが我に返ったもののもはや手遅れ。挨拶もそこそこに浴室へと連行されるのだった。
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