領主代行は演武台で踊る
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一層増した殺気を隠すことなくパンテーラは袖に結ばれたリボンを解き、手早く髪をまとめて結ぶ。漆黒の艶やかな髪を流すとアンバランスに結ばれた大きな深紅のリボンが揺れる。
「あぁ、リボンを取れた方には一晩私を差し上げます。」
『!?』
不敵な笑みを浮かべた令嬢に男たちの目が血走る。
「うおぉぉぉ!!やってやんぜぇぇ!!」
わかりやすい。非常に分かりやすい。
手っ取り早く男性陣の士気を上げるにはこの方法が手っ取り早い。
(あと5年もすればこの手は使えないでしょうね。次の作戦を考えねばいけません。)
軍隊というのはとにかくお金がかかる。報奨金以外の方法で士気が上がるなら安いものである。と、少なくともパンテーラは領主代行でありこの部隊の最高指揮官として考えている。
平民出身の士官も多いこともあり、貴族令嬢などという高嶺の花と一晩過ごせるなどという夢のようなシュチュエーションに鼻息荒く軍人たちのボルテージは上り詰める。
「ちょぉっと待ったぁぁぁぁぁ!!」
そんな空気を切り裂くように一人の男の叫びが上がる。
「姫!何を考えているんですか!!未婚の!成人前の淑女が!夫でもない男と!ひ、一晩だなんて破廉恥です!」
「まぁ、破廉恥だなんて化石のような単語、この田舎じゃ何の役にも立たないというのによく知ってたわね。さすがは我らが文官殿。博識でいらっしゃる。我が領地の先も明るいですわね。」
「そんなことでは誤魔化されませんよ。」
「誤魔化すだなんて心外でしてよ。それより早かったですね?」
「まったく恐ろしいことに姫の指示とほぼ同じころにあちらを出たようですから、もう間もなく……。」
「よ!姫さん呼んだ?」
ひょっこりと顔を出したのは白髪の短髪に赤いクリクリの大きな目をした青年だ。あどけなさの残る表情は楽しそうにパンテーラを見上げる。丸い耳の先は少し黒みがかっており太くて丸い尻尾がゆらゆらと動いている。
「さすがマルテルは敏感ですね。」
「当たり前だろ!姫さんの変化を番の俺が気づかないわけないじゃん。」
「マルテル、お前また姫様にそんな軽口を……。」
「硬いこと言うなよ~そんだからアウルは余裕がないんだよ。」
「こんな時ばかり年上ぶらないでいただけますか!?普段は書類から逃げ回ってるくせに。」
「俺文官じゃないも~ん。」
まるで兄弟のようにじゃれつく姿はこの部隊の名物ともなりつつある。そんな二人をパンテーラは見つめる。
いくら獣人で番だろうと、そんなのあなたたちだけですよ。と言いたいのをパンテーラは堪える。正直、人間であるパンテーラにはその感覚はわからない。
「たとえお傍にあらずとも姫の変化を見逃す我らではありませんよ。」
いつの間に演武台に上がったのか、パンテーラのそばに膝をついた青年はそっと白い、けれど剣とペンでタコのできた歪な手にそっと口づける。
「なんだよルナール遅いじゃん。」
「マルテルの屋敷のほうがここから近いのですからあなたが早いのは当たり前じゃないですか。それで?この騒ぎの元凶は……って聞くまでもありませんね。」
三角の大きな耳とふさふさの三本の尻尾がぴくぴくと動いている。
「姫様との一晩がかかっているなら奪いに行けばいいだけのことです。」
「私は構いませんよ?相手がどなたであろうと。では始めましょうか。」
刃をつぶした細身の剣を構える。
飛ばされる殺気に怯むことなく男たちはそれぞれ得意の獲物を持って突っ込んでいく。
最初響いた怒号は嘘のように静まり返っている。演武台の周囲には屍のように動かなくなった100名の部隊員が積み重なるように転がっている。奇跡的にけが人0なのはパンテーラほどの腕前を持つからこそと言える。
そのパンテーラも今は演武台から降りてその武台をジト目で眺めていた。
「おかしいですね。私が体を動かしたくて始めたんですがね。」
打ち鳴らされる剣戟は一体何十合目なのか。
「勝った方が姫様と打ち合うそうですよぉ。」
すでにもうパンテーラに挑んでコテンパンにされたアウルは壁にもたれて天を見上げる。
「くっ。もっと鍛えねば。」
「アウルは頭脳派なんですから身を守る程度で構わないのですし、それだけできれば十分じゃありませんか。」
「いいえ!姫様に万が一があった場合お守りできなければ意味がありません!」
軍神の再来と言われるパンテーラにそんなことが起こりえるのかはなはだ疑問ではあるがその思いはありがたくいただくことにしようと当の本人はそれに関して何も言わないことにした。
「そろそろ決着がつきそうです。」
「そのようですね。」
言うが早いか、パンテーラは演武台に向かって駆ける。
それとほぼ同時に勝者となったマルテルが振り返った。
「姫さん!俺の勝……グシャ!!
「あ。」
「マルテル油断が過ぎます。あなたの相手はルナールではなく私だったのでは?共闘したほうが勝率は上がったと思いますよ。って、聞こえてます?」
言い終えるとほぼ同時に演武台に着地したパンテーラ。助走をつけて飛び上がった彼女はその細身の膝をものの見事にマルテルの顔面ど真ん中にヒットさせて沈める。体重が軽く細い彼女にとってスピードと一発確実は幼いころから沁みついた戦法である。
気が付けば周囲はよろよろと動き出している。さすがは腐っても軍人であった。
「まったく。誰一人リボンを取るどころか触れもしないなんて……バルド、訓練内容の見直しをしようあとで執務室に来てください。」
「了解しました。」
「アウル大丈夫ですか?動けます?」
「だい、じょうぶです。」
「そうですか、では朝食を済ませたらいつものように。」
立ち去りかけたパンテーラはふと足を止める。
「そうそう。近々狩猟解禁です。皆しっかり励んでください。」
『!?』
「戦果を期待してますよ。」
『はっ!!』
狩猟とは戦争を指し、解禁とは開戦をさした北独特の隠語である。戦果、つまり武功を上げよとの令である。
男たちは一層その顔を引き締め声を上げた。
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まだオチもどころか仕掛けも考えていませんww
前章もオチは投稿三日前にキャラたちが動いてくれたので今回も彼女の動きを期待して……。
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