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獣人さまと一緒  作者: 牧野りせ
獣人パーティと一緒
43/86

冒険者獣人に求婚する

お越しいただきありがとうございます。


ちょっと長いですがお付き合いいただけると幸いです。


誤字報告ありがとうございました!このお話は勢いでリアルタイム投稿なのでご指摘いただけるととてもありがたいです!!

 フロンティアが籠ってから三週間がたった。


 厳密には籠っていたのは最初の一週間であったが、10日目からはひっきりなしに人の出入りが始まった。最初はそれこそ異性が現れたと気色ばんだ獣人の番たちであったが、よくよく観察するとどうやら大工のようであった。彼らはフロンティアと二言三言話をするとシングルベッドと小さなベッドを解体して運び出し、壁紙をはがし、床材を変えたりと10日ほど出入りしていた。


 部屋を整えた後に新しい家具が運ばれる様子を見てとりあえず出ていくわけではないのだろうと番たちは胸をなでおろした。


 工事の関係者が来なくなった翌日、フロンティアは朝から一階の窓辺に座っていた。それはその日だけではなくて、工事の期間中一日の大半をそこで過ごし、手元で何かずっと作業をしているのは後ろ姿のため何をしているのかさっぱりわからなかった。


 その日の昼過ぎ、朝から窓際に陣取っていたフロンティアはいそいそと立ち上がり布の塊を一抱えして二階へと上がる。そのままそれを窓辺まで持っていくとカーテンレールへと掛けていく。窓に供えられた一組のカーテンを閉じたり開いたりしてはうんうんと頷いてしばらく見つめてまたカーテンをいじっては頭を捻っている。それからしばらくして納得したのか部屋を出て隣でも同じようにしている。


 ひとしきり部屋を巡って階下に降りると鞄を持って足早に出かけていく。三十分もせずに戻ったかと思えば今度はキッチンに籠る。


 これまでの行動パターンとの違いに屋根の上で男たちは首を捻った。




 その日、フロンティアは気合いを入れていた。


 雑貨店でお願いした部屋の模様替えは予定通り終了した。むしろ自分が用意するカーテンの準備のほうが後れてしまったので今日中に仕上げたい。


 朝食もそこそこにここ数日座っていた窓際のソファに腰かけてカーテンを縫う。窓の大きさに合わせて長さを詰めて華美になりすぎないよう刺繍を縁どっていく。この刺繍に手こずってしまったわけだが、最後にはだいぶ上達したと自分を褒めたくなった。


 やっと完成した最後の一組とこれまでのカーテンをもって二階に駆けあがる。期待と充足感を胸に脚立に上るとカーテンを装着していく。広出家様子を確認してふと気づく。


 「あ、右と左が微妙にずれてる。」


 しかし今からやり直す時間もないし、買い替えるにはお金もちょっと惜しい。しばらく考えたのちに、これもう笑って許してもらうしかない。と、判断し他の部屋も次々に巡っていく。


 バタバタと脚立をしまって階下に走り、鞄をひっつかんで足早に家を出る。予定より遅くなった出発に焦りながらどうやったら効率よく店を回れるか頭で確認しつつ買い物の内容を考える。


 まずは肉屋に走る。高い肉を買うべきかと少し迷ったが、『獣人は質より量!』とアドバイスをもらったので、今日は奮発なのだ!と自分に言い聞かせて下から二番目の棚を全部買い占め鞄に詰め込む。それから隣の八百屋で果物と葉物野菜を注意深く選ぶ。


 (ねぎは危険ねぎは危険。)


 さらにその向かいの店に渡り魚屋ですでに裁いてある魚を数種類買って、三件隣のパン屋に飛び込んでコッペパンを1ダース買いさらに隣の酒屋でワインとシャンパンとエールを三本ずつ買ってと家へと引き返した。


 玄関の扉を開ける直前ふと手を止めたがここで台無しにできないと急いで中に飛び込む。それから買ったものをダイニングテーブルに並べて作る品目とレシピ、その材料でわけてキッチンへ足を向ける。


 予定よりも遅れた分要領よく作らねばと黙々と手を動かす。料理の終盤には煮込みを待つ間にテーブルセッティングをしてできた料理を皿に持ってどんどこ並べていく。


 「食器は今後買い足さないといけないだろうなぁ。」


 独り言のようにつぶやくと最後の一皿を並べてテーブルを見渡す。元あったテーブルを大工にリメイクしてもらい少し広くなったそこには所狭しと料理が並ぶ。


 「これで足りなかったらどうしよう……。」


 一抹の不安がよぎりつつも、フロンティアは意を決して一歩を踏み出す。



 陽も傾き色を変えだしたころ、あたりは夕食を準備する匂いが立ち込める。


 「お腹空いてきましたね。」


 「どこからともなく肉のいいにおいがする。」


 「安心しろ少なくともこの家からじゃない。」


 「ってここの家菜食主義なのか?見張ってる間肉の匂いが一度もしなかったぞ。」


 「兎の獣人だからな。」


 「そりゃ納得だわ。」


 「この匂いのもとはティアじゃないですか?テーブルの上がすごいことになっていますよ。」


 「は?」


 「え?」


 「まさかティアあれを一人で食べるの?」


 「いやいやいや。無理でしょ。」


 「しかも圧倒的に肉が多い。」


 「これは一体。」


 何事かと目を見張る男たちを知ってか知らずか、フロンティアが玄関から出てきた。キョロキョロとあたりを見回すとじぃっとこちらを見ている。


 「え、気づいてる?」


 「こっち見てるよね。」


 「そんなはずは……。」


 困惑の男たちは互いに顔を見合わせるが、緊張した面持ちのフロンティアがおずおずとこちらに向かって手の甲を向けそろえた指先をちょいちょいと遠慮がちに動かす。


 「気づいてますね。」


 「視線はちょっと怪しいが、少なくとも俺たちが見張っている事には気づいていたってことか?」


 「それはちょっとまずいんじゃ……。」


 「怒っているわけではないと思うが。」


 「呼ばれているなら大人しく出ていったほうが良いのでは?」


 なおも動けずにいる四人に意図を伝えようとしているのか、玄関の戸を開くと体をずらし手を水平にスライドさせた。その口が音も立てず『どうぞ』とゆっくり動く。


 「え、入っていいの?」


 「クロウ、今までもこんなことが?」


 「いや、初めてだ。」


 「どういうこと?」


 「俺に聞くな。」


 「でもまぁ、せっかく用意してくれたんだから出ていかなきゃ失礼でしょ。」


 そういいつつも彼らの頬が緩むのは仕方のないことだった。なぜなら獣人にとって異性の家に入れてもらえるというのは信頼を表す最上級の手段だからだ。 




 「来てくれるかな……。」


 あのあたりにいるよ。とこのあたりに住んでいる妖精に教えてもらってものの、人族のフロンティアに彼らの姿は捕らえられない。声を張り上げるのは近所迷惑だし。伝わるかわからないがジェスチャーで意思を示した。もし来てもらえなかったらこの料理は一人で食べきるはずもない。数日に分けて腐るまでに食べきれるか思案するが、無理だろうと判断する。


 「近所の配るしか……。」


 「近所に配るくらいなら僕らに食べさせてくれる?」


 いつの間に距離を詰められたのかすぐそばに白いふわふわヘアーの少年がたっていた。


 「テディ……。」

 

 「僕たちのために用意してくれたって己惚れてもいいのかな?」


 にこにことした屈託のない笑みに連れれてフロンティアも微笑む。


 「うん、えっと上手じゃないかもしれないけど食べてくれたら嬉しい。」


 「ティアの料理はダンジョンでもおいしかった。こんな良いにおいをしているんだからまずいとは思えない。」


 迷いなく断言するような言葉を素直に嬉しく感じて声の主を見つめる。


 「ありがとうクロウ。期待に応えられてればいいんだけど。」


 「寧ろ手ぶらで訪れてしまって反って申し訳ありません。」


 「ああ、本来なら手土産の一つでも持ってくるべきだろうに気が利かなくて済まない。」


 「突然呼んだのは私だもの。トマもヴァイスも気にしないで。」


 短い会話と共に四人を中へと促すと好きに座ってほしいと告げ、フロンティアはそれぞれに飲み物を尋ねグラスに注ぐと、自分は果実水を手に空いている席へと座る。


 「うわぁ!おいしそうですね。」


 「すごい!僕の故郷の料理まである!」


 「これは壮観だな。」


 「あの、獣人の人たちは量が大事だって教えてもらったから、もしかしたら足りないかもしれないけど。」


 「教えてもらった?誰に?」


 「あ、知り合いの食堂の女将さん。そちらの旦那さんも獣人さんで、私ひとりじゃよくわからなかったからアドバイスもらったの。」


 (旦那さんも?もって言った……。)


 (もってことは自分の旦那は獣人だという意識はしてくれていると。)


 フロンティアの言葉に反応した男たちの頬は緩みっぱなしだ。しかし、この会をどう説明するか考えていなかった本人はどうやったら伝わるか必死に考えを巡らせていた。自然としゃべり方もたどたどしくなるわけだが、それがかえって男たちの庇護欲をそそっていることに気づく余裕などない。


 「あの、この前の冒険、みんなが付き合ってくれたから初めてだったけどすごく楽しくて、何かお礼をしたいなって思ったの。それに、両親が冒険者だったときはパーティのメンバーと打ち上げの飲み会をしたものだって聞いていたから、みんなを招待したかったんだけど、突然すぎて迷惑だったかな……。あ、でもみんなが近くにいるのは知っていたから来てくれるんじゃないかって浅い考えをしてしまったというか。」


 紡がれる最後の言葉に一瞬男たちの動きは止まり微笑みを張り付けたままだらだらと汗が滲む。


 「あの、ティア?私たちが近くにいるといつから気づいてたのですか?」


 「え?あぁ、帰ってきた次の日にこのあたりに住んでいる妖精があなたの番が寝ずの番で見守ってるわよって教えてくれたから。」


 どうしてあの時の妖精は笑っていたのかしら。などとティアは首を捻る。その様子からして彼らの行動を攻めるわけではないのだと男たちは胸をなでおろす。


 (付きまとい犯罪者と思われなくてよかった。)

 

 などと恐怖していたことをフロンティアは気づく由もない。


 「だから、その・・・・・・みんなありがとう。」


 耳まで赤く染めてはにかむ少女の姿に男たちは悶絶するものの、その様子はおくびにも出さずあくまでもスマートにグラスを掲げる。


 「こちらこそ思い出深い冒険になりました。ありがとうございます。」


 「僕はティアに出会えたこと自体にありがとうだよ。」


 「そうきたか、じゃぁ、俺はティアが生まれてくれたことにありがとうだな。」


 「どこの保護者だ。ティア、わざわざ用意するのは大変だったろう?階に招待してくれたことに感謝する。」


 「うん。ありがとう。」


 掲げたグラスを一層高くし一気に煽る。ぷはぁっと誰かが息をつき自然と互いに笑みがこぼれた。


 「さぁ、好きなの食べて!」


 「僕これ~。」


 「俺はこっちをもらおうかな。」


 好き好きに食べ始めていつの間にか会話が弾む。まるでダンジョンに潜ったあの日のように。


 楽しい時間はあっという間に過ぎて、というよりもおいしい食事はあっという間に胃袋に消えた。多少の驚きを感じつつもフロンティアは食後のお茶を用意してそれぞれにカップを手渡す。


 そのカップは上流階級が使用するようなソーサーと対になったものではなく持ちやすく程よい大きさのカップでそれぞれ手に持っているものは色もバラバラだったが、男たちはすぐにそのカップの意味に気づいた。


 「ティア、これ!」


 「名前が入ってる?」


 「もしかしてカップの色は髪の色で文字は瞳の色?」


 「わざわざ用意したのか……?」


 驚きの眼差しで見つめられて恥ずかしいやら、カップに気づいてもらえたことに嬉しいやらでどう返事をしていいかわからずうなづく。


 でもそれでは真意は伝わらないかもしれないと慌てて言葉を紡ぐ。


 「えっと、婚約で持参金をもらったらその返礼に一割は相手に何かプレゼントを用意するものだっていうのが人族にあって、普通は懐中時計とか身に着けるものを贈るんだけど、獣人だとどうするのがいいのかわからなくて……。」


 それでマグカップ?とそれぞれがそれを見つめる。


 「婚約したからにはいつかはここに来てもらうことも増えるだろうからそれぞれの専用カップを置いていたほうがいいと思って。」


 その言葉に再び動きが止まる。番の家に専用のものを置くということは獣人の彼らにとって「好きに出入りしていい」という無言の証明である。その言葉に天井を見上げたりカップの中身を飲み干したり口を手で覆ったりと様々に感じ入っているがなおもフロンティアはそれどころではない。


 「それに、い、いずれは結婚することになると思うんだけど。人族だと持参金をもらった側の家を婚家にして住むことが多くて、私もこの家は思い出深いから離れたくないなって思って。」


 もじもじと床を見つめていたフロンティアは意を決して四人を見つめる。


 「ついてきてもらえる?」


 言うが早いか思い思いに部屋の中にいた四人の間を縫って階段の前で足を止めて振り向く。


 「二階?」


 「上に何かるのか?」


 「えっと、見てもらうのが一番だと思う。」


 そう長くもない階段を上がりきって右側に曲がり左側の部屋を開く。観賞植物の緑に覆われ天井からはハンモックが下げられている壁は無垢の木がしようされ森のようなイメージだ。その部屋のカーテンは茶色で新緑の糸で羽の刺繍が裾にされている。


 「ここはトマの部屋。」


 見上げながらそう告げると、トマホークは驚きながら歩を進める。ハンモックがあるということは間違いなく鳥族向けの部屋だろう。少なくとも人族のフロンティアには向かないと感じ、自分好みの内装に言葉を失ってぐるりと見渡す。


 「私の…部屋?」


 「な、どういうこと?」


 名を呼ばれなかった三人に見つめられて、フロンティアはすぐに踵を返し隣に移動する。


 「それからこっちがテディの部屋。」


 言葉と同時に戸を開くと、床磨かれた白い石材が使われている。窓には厚手の白いカーテンに小花の模様が刺繍されており、その窓辺にはマットレスが敷いてある。指名されたテディが中に入ると先ほどのトマホークの部屋よりひんやりと感じた。備え付けられたマットレスは何とも言えない弾力で北の出身であるテディにはひんやりして気持ちがいい。


 北出身の獣人に好評で最近開発されたスライムのジェリーを利用したマットレスだと店主に紹介された逸品だ。どうやらテディも気に入ったらしく座り込んで触ってみたり撫でて感触を確かめている。


 「向かい側のこっちはヴァイスの部屋。」


 開かれた部屋は真っ黒だ。毛足の長い柔らかな絨毯もカーテンも壁紙も。しかしそれを暗く感じさせないのは品よくそのどれにも銀色で模様が入っているからだろう。特にカーテンの刺繍は裾を猫が歩いているような模様になっている。途中で座ったり寝転んだりと目を楽しませる。壁には木材で幅広のキャットウォークが巡らされており、角には休むために大きなクッションが置かれている。


 「俺が暗いところが好きって知ってたの?」


 ヴァイスの言葉にフロンティアは言葉もなく微笑んだ。


 「それからこっちがクロウの部屋。」


 「ここはフロンティアの部屋だったんじゃ。」


 「あ、ごめんね。私の部屋の後で。でも中はちゃんとしたから。」


 そういって開かれた扉のなかは柔らかな木材の床に淡い水色を基調とした部屋で真っ青のカーテンが海のようだった。それをまとめるのはベルトのような素材でその窓辺にクロウが両手を広げたくらいの大きさのクッションが置かれていた。


 すべての部屋を見ていたクロウはフロンティアを振り向くとその距離を詰める。


 「カーテンはそれぞれ婚約指輪と同じ模様だと思ったが間違いないか?」


 「うん。そうだよ。」


 「それって、つまり。」


 「あ、あのね。みんなの種族の基準を目指したつもりなんだけど足りない者とか好みじゃなないものがあったら教えて。必要なものは少しずつ用意するし、気に入らなければ取り換えるから。」


 慌てて言うフロンティアにそういうことじゃなく、と言いかけたクロウをかき消すようにトマホークが部屋から出てきて彼女の両手を握った。


 「気に入らないなんてとんでもないです!こんなに嬉しいことはないですから。」


 「ティア、意味わかってるのか?」


 静かにクロウに問われてフロンティアは自分の顔面にすべての熱が集まる感覚に泣きだしそうになるのをこらえながら頷いて、動悸をおさえるようにゆっくりとしゃべる。


 「相談したら、獣人は住処を用意して番に見てもらって合格かどうかを判断してもらうって、相手が気に入るほど番としての価値が高いってきいて……。」


 少女の泣きそうな声に男たちはいつの間にか集まりじっと耳を澄ませた。一言一句逃さないというように。


 「その、これで私の気持ちは伝わったかな?みんなが用意してくれた持参金には足りないと思うけど……。」


 じっと男たちを見つめて消え入るような声でつぶやく。


 「合格もらえるかな……?」


 恐る恐る見上げればそれぞれ延ばされた手に押しつぶされそうになる。結果としてフロンティアを中心に抱きしめあうという奇妙な状況に陥っているがそれどころではない。


 「合格も何も先に求婚したのはこちらですよ?」


 「思ってもいない最高の住処に息が止まりそうだ。」


 「ティア大好き!僕のお嫁さんになって!」


 「ティア、幼いあの日からずっと好きだ。」




 それから一年の婚約期間を経て結婚した五人は10人の子宝に恵まれ、家族が増えると同時に四人の夫たちが家の周辺を買い取り新たな家を建て、街で有名な妖精屋敷と呼ばれるのはまた、別のお話。




ご覧いただきありがとうございます。


ひとまずこれにて二章完結です。


明日?からは第三章突入です。

これからも頑張りますのでよろしくお願いいたします。

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