冒険者の一日
お越しいただきありがとうございます。
昨日更新できなかったので今日多めに出せたらいいなぁと思いつつ。
楽しんでいただければ幸いです
幸いなことにこの季節は雨が少ない。それをいいことに男たちは他人様のの屋根の上に寝袋路を広げていた。
「もう一週間だっけ?」
誰に問うでもなくつぶやかれた言葉にクロウはうなずく。
「まさか一週間もこもりっきりになるとは思わなかった。しかも精力的に家の中を片付け始めている。俺の記憶が間違っていなければ今いくつかの部屋の中は空っぽだと推測される。」
「空っぽ?そりゃぁ、一人で生活していれば部屋数自体はそんなに必要ないだろうが……。」
むしろ一人暮らしには広すぎる家である。
「それが、昨日はご自身のベッドカバーやリネン、カーテンなども洗濯して外したままのようです。クローゼットから衣服も全て出していたようです。裏からも確認しましたが二階の東側の部屋はすべてカーテンが外してあり、部屋の中は空っぽです。」
「は?」
「今の勢いのままでいくと今日は二階の西側だろうか?」
「あまり、想像はしたくないですが、まるで空き家にでもしそうな勢いじゃないですか。」
トマホークの言葉に顔面蒼白の男たちが互いを見つめあう。
「空き家ってまさか手放してどこかに行く気なのか?!」
「まさか旅にでるのか?!まて、それに関して誰も何も聞いていないのか。」
「聞くも何も婚約騒動以来敷地から一歩も出ていないのにどうやって聞くんだよ。」
ささやく声で交わされる言葉は焦りの色が混ざっている。
「あ、でてきた。」
「今日は随分大きい洗濯物のようですね。」
「あれもシーツの類じゃないか?大きいが。」
「そういえば人間の夫婦は広いベッドで一緒に寝るっていうよな。」
「ということはあれはご両親が使っていたものってことでしょうか?」
「そういうことになるな。」
「なんとも複雑そうな表情ですね。これではただの片づけか身辺整理なのか把握できませんね。」
てきぱきと洗濯をすませたフロンティアは狭い庭いっぱいに洗濯物を干すと部屋の中に入っていく。洗濯物がたなびいて一階の様子は窓からも見えない。時折二階に上り部屋を行き来しているのはちらちらと見える。
もうすぐ昼に差し掛かろうというころ、フロンティアは鞄を斜めにかけて表に出てきた。
「出かけるのか?洗濯物を干しているから今日は帰ってくると思うが……。」
「もうすぐ昼だから何か食べに行くとか?」
「昨日も一昨日も昼ごはん食べていませんでしたよ?」
「は?」
「人族は獣人より食が細いですが、まさか食べずに済むとは思えませんし。」
「一昨日は夕食も食べずにソファで寝ていたようだし。」
クロウいわく、フロンティアにとって食はあまり重要ではないようだ。一人きりで何かに夢中になっていると平気で食事を抜く。単純に忘れてしまって、お腹が空いたと自覚することには次の食事の時間が近いのでまとめてとってしまえ。となるか、一人分となるとそんなにこだわったものを食べようという気にならず片手間で食べれるものになってしまうのだが、三食しっかりがっつり食べる獣人にとっては一食抜くことすら信じられない行為なのだ。
「二食も抜いて大丈夫なのか?!倒れたりしないのか!?」
「俺に聞かれても……。」
男たちの会話など聞こえることもなく、フロンティアは歩き出す。それを追うように男たちは足音を忍ばせ気配を消す。
「まずは腹ごしらえをしなきゃ。」
久しぶりに街に出たフロンティアの心は弾んでいた。ここ数日家の中を片付けていた。もしかしたら余計なことかも。とか、一人だけ浮足立った行動なのでは。と思うと気恥しいような思いもあったが、婚約をしたのなら先のことを具体的に考えていかねばならないと思った。
家を離れたくないと我を通すのならばせめて彼らのことを考えて部屋を用意するべきではないかと思ってはいるのだが何をどうしていいのかわからない。
とりあえず昼も近いのでどこかで食べようと思い、久々にお気に入りの食堂を目指す。人間の女将さんと彼女の伴侶である二人の獣人がやっている食堂でほかの店と違って人族専用だとか獣人専用という区切りがなく女一人で出かけるのは憚られるなどの人間の常識に縛られない自由な空間がフロンティアは好きなのだ。おまけに獣人の子供も出入りするので癒される。
「こんにちわ。」
中に入ると顔なじみとなった店主に声をかける。すると陽気な返事と共にカウンター席に通される。カウンターからは厨房の様子がよく見えて、親なしのフロンティアはここからその手元を見ることで料理というものを覚えたのだ。
「あら、ティアちゃん久しぶりじゃないか。って、その指!いつの間に婚約したんだい!?」
目ざといおかみさんに見つかった指輪にからいた笑いを浮かべると、後ろから肩を叩かれる。
「しかもよく見たらその指輪4本じゃないか。」
楽し気にかけられた声の主はホール担当をしている女将の伴侶だ。振り向いて彼を見上げると何かもの言いたげなかおなので獣人と婚約したという結果だけを伝えた。
「ああ、俺たちの妖精もとうとう結婚するのかぁ~。」
カウンターの中から言ってきたのは料理担当でやっぱり女将さんの旦那である獣人だ。思わぬ言葉に出された水を吹き出すところだったが辛うじてこらえた。
「よ、妖精って何言ってるんですか。」
「なにってこの街の妖精っていったらティアちゃんのことだって誰でも知ってる常識じゃないか。」
そんな常識ティアは知らない。というかそんなこっぱずかしい呼ばれ方はやめてほしい。
「こりゃぁ、しばらく街の男は使い物にならんな。」
「何でそうなるんですか……。」
「なんでってそりゃぁ、見てみろよ。」
促されて背後を振り向けば突然席を立ちあがる男の獣人がいた。何事かと思えばその獣人はテーブルに銅貨を叩きつけ、反対の手は拳を握りなぜか目に涙している。
「お、おれは信じないっ!妖精はずっとおれたちのようせいなんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫びと共に走り去ってしまった。唖然として見渡せば天井を見上げて何やらつぶやいているものや、俯いて微動だにしない者、連れ合いと肩を組んでなにやら慰めあっているものもいる。
異様な空気だ。
「なんてザマなんだろうねぇ、まったく情けない。あんたたち、私たちの妖精が婚約しようといなくなるわけじゃないんだ。これからもしっかり見守ってやんな。人生の先輩として助けてやれることも出てくるだろうよ!」
男前な女将の言葉に男たちはうなずきあう。するとどこからか「今日は祝いだ!エールをくれ!」とか「そうだ飲んでないとやってられん!祝いだ!飲むぞ!」と次々酒の注文が飛んだ。
一方でフロンティアの事情を知る女将さんは自分のことのように喜んでくれた。
「守ってくれる人がいるってのは心強いもんさ。ティアちゃんも一安心だね。」
とカウンター越しに撫でてくれた。
「何か困っているは無いかい?これでも獣人との結婚の先輩だからね。種族が違うってことは自分と習慣の違いに悩むもんさ。ま、同じ種族でもあるけどさ。何かあれば相談しとくれよ。」
人のいい女将さんの笑顔にフロンティアはふと、思い至って声を上げる。
「あ、じゃぁ、一つだけ聞いてもいいですか?」
食堂に入ってすでに二時間はたっている。食の細いフロンティアが延々と食べているとは思えないが、それにしても長い。
「少し前に男が飛びだしていったが何かあったんだろうか。」
「まさか誰かにからまれたり。」
「獣人の多い店のようだが、求婚とかないよな?」
次々出る不安を口にして男たちは焦る一方だ。
「あ、でてきた!」
「なんだか入る前より楽しそうだな。」
「表情が晴れやかだ。」
先ほどまで余裕もなく慌てふためいていた男たちが遠目に楽しそうな番の様子を見るだけで蕩ける様な瞳を浮かべている。
予定より長くなったランチタイムを取り戻すようにフロンティアは急ぎ足で道を歩く。向かった先は日用品を中心も扱う雑貨屋だった。獣人から人間のものまで取り扱っているその店はすっきりとした外観で流行り物や女性向けではなくシンプルな万人向けの店である。
「いらっしゃい。」
初めて入る店にワクワクしながら見渡すと表同様に店内はすっきりとしていて店の中心には一組のテーブルと椅子が置いてある。白を基調としたそれは薔薇モチーフの堀細工が入った見事なものだ。
「素敵な椅子。」
思わず見とれていると店主と思われる女性がそばにやってくる。
「お褒めいただきありがとうございます。人気の品なんですよ。見た目よりもお値段も手ごろですし。本日はどのようなお品をお探しで?」
人好きのする印象の店主は先ほどの女将さんと同じ雰囲気があるのにとてもシャープな印象だ。
「あの、食堂の女将さんの紹介で参りました。えっと、獣人用の寝具と生活用品をいくつかほしいのですが、その、ご覧の通り私は人間なので勝手がわからなくて。」
「あら、ダリアの…。彼女とは幼馴染なんです。あの子の紹介となればうんと勉強させてもらいますね。失礼ですがご結婚の家具選びとお見受けしましたが。」
「えと、まぁ、そんなところです。」
「まぁまぁ、それはおめでとうございます!今新生活フェアと題して家具がお得なのですよ。それに獣人の男は家具をプレゼントされると何かご喜ぶので若いお嬢様方もよくおひとりでいらっしゃるのですよ。旦那様はどちらの種族でしょうか?種族によって好む寝具にも違いがありますの。」
そういわれてフロンティアは少し恥ずかしいと思ったが、ここはプロに任せるべきだと思い素直に話をした。
将来の伴侶が四種族であること、今現在家に人間のベッドが三つサイズのバラバラなものがあること、いっそのこと家の修繕もかねて部屋の中を壁紙から一新してしまおうと思っていること。これらの話を聞いて店主はいくつかのカタログを持ち出してくれた。
「基本的に獣人は体が丈夫ですし、寝るときは獣姿で寝ることの方が多いので人間のように大きなベッドは必要としません。例えば鳥族ですとこちらのハンモック型が好まれます。」
そういって広げられたページにフロンティアは釘付けになった。濃茶色のハンモックに緑の植物が絡まったもので、部屋のイメージをわかりやすく伝えるために多めの観葉植物が配されていて天井からも植木鉢がいくつもぶら下げられている。
「素敵なお部屋ですね。」
「鳥族は緑を好みますのでこういった作りが喜ばれるんです。天井から下げるタイプの植物やハンモックにからめてある植物は空気中の水分のみで普段の水やりは必要ないもので管理もしやすく、季節になると薄紫の花をつけるのでここ一年でとても人気なんです。軽いので天井にも負担をかけませんの。それからこちらはイヌ科獣人が好むクッションタイプで昔は藁を細かくしたものを使っておりましたが、細かくて軽いビーズタイプのものが近年好まれております……。」
ありがたいことに店主はカタログと並行して丁寧に説明してくれるので初心者のフロンティアでもすごくわかりやすかったし、それぞれのことを思い出してこっちよりもこっちのほうが好みかもしれないなどページをめくるのも楽しかった。
それぞれの部屋だけでなく、獣人の使う石鹸などは人族のものとはケアの目的が違うからと色々進めてもらった。結果浴室も手を加える必要があるとなった。段取りのいいことにそれぞれに必要な職人は店の方で紹介できるということで、どんな内容にするかというのも店から伝えるので特に職人との連絡は必要ないのだと教えてくれた。自分で何かしなくて済むのは人見知りのフロンティアにとってとてもありがたかった。
三日後には職人が家に来るということで、何か変更があれば使いを出します。と話をして買い物は終わった。楽しい時間はあっという間で外の陽はすっかり傾いている。
部屋の内装ができたらまた来ようと心に決めて、食堂の女将に感謝を思いつつ帰路につく。途中のパン屋でサンドウィッチを買うと「結婚祝いだ」と半額にしてくれた。なぜそんなことを知っているのかと疑問に思ったが、世の中知らないほうがいいこともあると自分を納得させて家路を急いだ。
「雑貨屋にいる時間がやたらと長かったけど一体何を買ったんだ?」
「店から出るときにやたら大きな包みを抱えていましたね。」
「俺はフロンティアがきちんと今日は食事してることに安心した。」
「確かに彼女に何かあると思うだけで生きた心地がしませんからね。」
番の帰宅を見送って男たちは好き勝手な感想をのたまい、もはや規定ポジションとなりつつある屋根の上でそれぞれ思いもいの食事を食べ始めるのであった。
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