冒険者は婚約しました
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「いったい何でこんなことになったんですか……?」
フロンティアは困惑の中にいた。
端的に言うとダンジョンボスは問題なかった。
呆気ないほどに魔物を倒すとその奥にぽかりとあいた空間に見たこともないようなほどの金貨や宝石がうずたかく詰まっていた。中には武器やアクセサリーもあったが、それらはまずギルドで鑑定に出し遺品でないかどうかを見てもらわないといけないらしい。届け出がなされていたら遺族に返すのがギルドでのルールだ。
どうやら最近このダンジョンに入ったものがいなかったのか、装飾済みのアクセサリーより宝石の原石であろう者のほうが圧倒的に多くその種類も多岐にわたっていて目がチカチカした。
とりあえずその場で分けられるものを五人で山分けしてスクロールで早々に街に帰ると、連れ去られるようにしてギルドの医務室に運ばれた。
ギルドには常駐の医者が必ずいて、いつどんな冒険者が戻ってきても対処できる仕組みになっている。
もちろん医者に診てもらうのは予定通りだったから問題ない。の、だが。
医務室に入るや否や容体は、傷は残るのかなどまくしたてる男たちが騒ぐものだから医者は呆れて彼らを部屋から放り出した。
出かけるときのこともあったので、騒ぎを聞きつけたフロンティアの叔父でもあるギルドマスターが廊下に追い出された四人をつかまえてギルドマスターの部屋で事情を聴いたらしい。
その間フロンティアは医者の診断をもらい、ケガは内側も含めて治っている事、しかし傷跡は残ることと、疲労がだいぶ溜まっているのでしばらく医務室で休んでから帰宅することを言いつけられ備え付けのベッドに寝かされた。
次に起きた時はすっかり日が暮れていて、だいぶ寝ていたんだということを悟った。寝ぼけた目を右手でこすったとき、その手に違和感を覚えて凝視する。
いったい誰の仕業なのか、なぜそこにつけられているのかもわからないが、その存在は確かにそこにあった。
「指輪がなんで……?」
右手の薬指、連なるように4つはめられている。一つは赤銅色で細いながらも一枚の羽根が輪になっているもの、小さな青い石が付いた首輪のような形の桃金色もの、小さな花の細工がある白金のもの、尻尾が絡むような形の黒鉄色のもの。
細身ながらもしっかりとされた細工はそれだけで物の良さがわかる。4つもつけられているのにけして互いを邪魔にすることなく納まっている。
「あや、起きたね。」
遠くで振り返っているのは先ほど診断をくれた医者だ。
「すいません、随分寝てしまって。」
「構わないよ。幸いほかに利用者もいなかったし。だいぶ顔色も良くなったね!大丈夫そうならギルマスが呼んでるけど、どうする?」
人のよさそうな笑顔で言われると、フロンティアは頷き、お礼を述べて医務室を後にした。指定されたギルドマスターの部屋をノックすると返事があり、樫の木の扉を押して中に入る。
「ああ。ティアよかった。体調は大丈夫かい?」
穏やかな叔父の表情に安堵しつつも、フロンティアは室内の空気に戸惑う。
応接用に置かれたロ―テーブルから零れ落ちるほどの金貨と宝石が山と積まれている。フロンティアの記憶に間違いがなければ先ほど山分けしたはずの『戦果』がそこにあった。
「ご心配おかけしました。私は大丈夫です。」
その言葉に叔父よりも、その向かいに陣取る四人のほうが安どの表情を浮かべ、フロンティアの右手に視線を向けると蕩ける様な瞳で恍惚の表情を隠すことなく向けてくる。
初めて向けられる表情に居心地が悪くなったフロンティアは視線から逃げるように叔父に疑問を問う。
「それより、この状況は一体。」
「ああ。それについてティアに話があるんだ。」
「はい。」
促されてギルドマスターの横に腰かける。相変わらずの表所を正面から受けて思わず視線を彷徨わせた。
「あの、攻略の戦果確認ですか?それなら私の分も出しますが。」
「ああ、そうじゃないよ。ティアの分はもうティアのものだからその必要はない。これはそうではなくてね……。」
どうも叔父は歯切れが悪い。疑問が解けぬフロンティアに向かい側から声がかけられる。
「これはね、僕たちが妖精に求婚するための証としてここに出したんだ。」
「妖精に求婚?ギルドに妖精がいるんですか?」
穏やかに紡がれる言葉だが引っかかるワードにフロンティアは首をかしげる。
「森の妖精と呼ばれているんだけどティアは知らない?」
「え?ん~人が噂してるのは聞いたことありますが会ったことは無い・・・と思う。」
それはもちろんフロンティアの通称だ。しかし、これまで人とかかわりを持たなかった彼女にとってそれが自分を指す異名とはわかっていないし、これまで周囲がそういって自分に送られる視線には気づいていたが、ずっと、自分の向こう側か後ろの人波にその要請が見えている人がいるのだろう。ぐらいにしか思っていなかった。
そんなフロンティアの様子を見て男たちは優しい顔を向けている。
「森の妖精と冒険者が呼び、ギルドマスターの隠し財宝とも揶揄される存在。それがフロンティア・エレメント、君のことだよ。」
「え?な、なんで私が・・・。でも妖精に求婚って……。」
状況に思考がついていかない。
「そうだよ。私たち四人はティアが番なんだ。幸い獣人の四人だからね。争うのは良くないと判断したんだよ。」
人族の女は獣人だけであれば5人までの夫を迎えられる。それは獣人と人族で決められた盟約でありの掟だ。
「だから揃ってティアの両親変わりであり保護者にあたるギルドマスターに婚約の申し入れをした。ここに出しているのは結納金だ。」
「ゆ、結納金!?」
自分には縁遠いとおもっていた言葉にフロンティアは狼狽する。その様子を微笑ましいと言わんばかりに見つめるのは保護者とされたギルドマスターである。
「四人に婚約申し込みをされたから受けたよ。」
「え!?」
一般的に結婚の相手は父親が決める。父親のいないフロンティアは叔父であるギルドマスターが決めるのが道理だと彼女は理解していたし、叔母からもこのままだと狼族のなかから5人決められてしまうかもしれない。とも聞いていたのでそうなるだろうと思っていた。なのにこの展開は想像の範囲外であった。
「私も番を得た身だからね。彼らの気持ちもわかるし。何より私の可愛い姪であるティアが彼らを人見知りしていなかった。このまま一族の顔も知らない誰かをあてがわれるよりよっぽどティアが幸せになれると思ったんだよ。」
「叔父さん……。」
「だからそこにその証があるだろ?」
苦笑を隠すことなくギルドマスターはフロンティアの手元を顎でしゃくる。
「え、この指輪……?」
「ああ。ティアが休んでる間に婚約を受け入れたら四人とも飛び出してね。戻るなりそれらをティアにつけたんだよ。まったく気が早いよね。私としてはティアが起きて事情を話してからって言ったんだが、他にも番だと言い出すやつが出てきたら困るからって騒ぐものだからとめる間もなくてね。」
あまりの告白に言葉を失う。
「まぁ、その先は君たちの問題だからね。ひとまず今日のところは彼らに送ってもらって帰るといい。その後のことはまた5人で話し合うといいよ。……くれぐれも節度を持ってくれ。」
最後は男たちに向けられた言葉だ。話は以上と言わんばかりに部屋から出されてしまった。
そして状況は冒頭へと遡る。
晴れて初めてのダンジョン攻略から無事帰宅したフロンティアは四人の婚約者を持つこととなったのであった。
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