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八 剣術大会

 今回参加者は十五人。見事にウィズ以外男の子ばっかり。

生徒数は百人以上は居るので少ない方なのか、そう思っていたのだがウィズによると、ほとんどの生徒が魔法の方を選択するので、これでも平年並だと言う。


 赤いレンガ造りの建物に入ると先程ちらほらだった観客席は、人で殺到しており、訓練所というより、もはやここは闘技場と言っても過言ではなかった。

生徒に人気がない剣術大会も客には大人気のようだ。


「魔法大会は魔法を披露するだけだからな。実際に戦う剣術大会の方が盛り上がるのさ」


 確かにウィズの言うように観客席では既に興奮冷めやらぬといった感じに、騒がしく応援する者、怒号を上げる者、様々だ。

随分と血の気の多い人がいっぱいいるのだな。


 そして、闘技場の真ん中には既に第一試合の二人の少年が立っている。

開会式みたいなものは無く、お祭り色は薄い。

魔法とは違って将来冒険者からスカウトされたり、騎士団に入る際、好成績だと有利なんだと。

俺は遠目ながらも頭上の年齢を確認すると、十四歳と十二歳。

この勝者がウィズとの二回戦の相手になる。

俺とウィズは観客席のすぐ下のレンガの壁に寄り添い見学していた。


 審判を務める二十代の男性、恐らく先生だと思うが真ん中で睨み合う生徒の近くに行き木剣をそれぞれに渡す。

平等性や不正をさせないように使い慣れた自分の木剣ではなく、学校側が用意したものを使うみたいだ。

これはウィズにとってもは不利にしか働かない。

背丈は低い分、剣のリーチで補えないし、重すぎれば非力なウィズは振り回される。


 心配そうに見つめる俺を一瞥したウィズは、大丈夫だと言わんばかりに一文字に閉じた口角を上げ笑みを浮かべる。

そうだな、ここまで来て俺は何を心配しているのだ、改めて再び闘技場の二人の方に視線を変えた。


 第一試合は、如何にも年相応といった感じの腕前で十四歳の少年が勝つ。

勝った彼が十四歳の平均的な強さなら、ウィズの方が強いと確信した。


 第二試合は、ウィズの出番だ。いつも使い慣れている木剣を壁に立て掛け素手で真ん中へと向かい俺も後をついていく。

ウィズにライトの訓練などを見ないと約束した代わりの俺の提案。

それは試合中、側につくこと。

初めは嫌な顔をしたウィズだが、俺が頑として譲らず渋々提案を飲んでくれた。


 ウィズの最初の相手は一つ歳上。

木剣を渡され構える相手をじっと見る。

ウィズに比べると隙も多いし握りも甘い。

「はじめ!」の合図で無防備に突っ込んでくる辺り、考えて動いている気がしない。


 案の定、大きく振りかぶりウィズの頭上へ木剣を振り下ろす。

と同時にウィズも動く。

大きく前に踏み込んだ右足。その爪先は内側へと向いている。残った左足を右足に引き付けるとウィズの姿は振り下ろされた木剣の場所にはいない。

「消えた!」対戦相手の少年が驚くその左側にいたウィズは既に木剣を振りかぶっていた。

その動きは、練習通り。ウィズは躊躇うことなく握りの甘い相手の手に向かって振り下ろした。


「そこまで!」


 相手は手の甲を押さえ膝をついていた。地面には思わず落とした相手の木剣が。

観客席から歓声が上がる。果たしてこの中にウィズの動きの意味が分かった人はどれくらいいるだろうか。

俺は、一礼して去っていくウィズの背中が誇らしく見えた。


 壁際まで戻ったウィズは外へ出ようと指で合図する。

ウィズと外に出ると何処かに向かおうとするので、試合を見ないのかと呼び止める。


「次のボクの番まで時間あるし、ファンが出店楽しみにしてそうだから見て回ろうと思ったのだけど、止めとくか?」

「行く!」


 即答した俺は、ウィズを取り残して出店の並ぶ校庭へと向かう。


「ファン、迷子になるぞ!」


 そう叫ぶとウィズも急ぎ俺の後を追うのだった。





 出店には食べ物屋が多く、甘ったるい匂いや香ばしい香りが漂う。食べ物を食べることの出来ない俺だが匂いは感じ取れる。

この姿になってからと言うものの空腹を感じることはなかったが、この匂いの群れは食欲を注ぐ。


 雑踏をかき分けて俺に追い付いたウィズも一緒に出店を眺めていくが、買う気配は無さそうだ。

まだ大会中でもあるし、本番はこれからだ。控えているのだろう。


 食べ物の他には、くじ引きや魔力で棒状の筒の先にあるコルクを飛ばして当てる的当てなど遊びもある。

これくらいならとウィズに勧めるが、「ボクはそんなに子供じゃない!」と怒られた。

確かに遊んでいるのは、外から来た小さな子供や付き添いの大人くらいだ。


 一通り見て回ると、時間は次のウィズの試合まで五分を切っていた。

慌てて闘技場へと戻る俺とウィズだったが、途中ウィズの足が止まる。


「遅れるぞ、ウィズ!」

「あ、ああ。今行く」


 再び走り出したウィズに何があったのか尋ねると、両親らしき人を見かけたらしい。

他の生徒の親御さん方も来るのだからウィズの親御さんが来てもおかしくないだろうと言ったのだが、ウィズは「それはない、気のせいだ」と一蹴する。


 一体ウィズと両親の間に何があったのだろう、そればっかり頭に浮かび不覚にも俺はウィズの二回戦をよく見ていなかった。

ウィズは今回も無傷で勝ち、相手が手を押さえて痛みに耐えている様子から一回戦と同じ勝ち方だったみたいだ。


「ったく、ちゃんと見といてくれよな」


 闘技場の壁にもたれかけたウィズに怒られる。俺は一言「すまない」と謝り許してもらえた。


 次の試合はグレイスの試合だ。しっかり見極めなければと見ていたが、予想通りで特筆するところはない。

体格を活かした力押し。体裁きも甘く速度も速くはない。ウィズの実力をもってすれば大したことはない。


 この次の次の試合がライトなのだが、今回も見ないのかと思っていたのだが、ウィズは出ていこうとしない。

なんだ、このまま見ていくのかと、俺もウィズの隣を動かなかった。


「…………」


 俺に目があれば丸くなっていただろう。それほどライトの実力は驚愕の一言。

試合は一瞬だったが、相手の上段から振り下ろしてきた木剣を完全に見切り自分の鼻先を通すと、そのまま自分の木剣で相手の空振った木剣を叩き落とした。


 完全な“後の先”


 俺がウィズに教えた足裁きも、その“後の先”を取るためのものだがライトは見切りでそれを成し遂げる。

しかも、あれだけの見切りが出来るなら、相手が振りかぶった瞬間に合わせて相手の頭上へ叩き込めたはず。

つまり、ライトは手を抜いたのだ。


「やっぱり、強いか?」


 ウィズは伏せ目がちのまま聞いてくる。

俺は頷くしかなかった。


 正直ウィズとは桁が二つは違う。今のウィズでは勝ち目が見えない。

あれだけの実力を持ちながら去年は準優勝って、この学校は化け物でも育てるのが趣味なのだろうか。


 去年の優勝者はどうやってライトに勝ったのか尋ねる。もしかしたらここに活路があるかもしれないと。

しかし、ウィズの答えは意外なものだった。


「ライト、去年は決勝を棄権してる。相手が女の子だったからね」


 紳士だな、ライト。ウィズが女の子だと言えば棄権するだろうかと、考えたが当の本人が反対するだろう。

何よりライトが強いと俺が頷いた瞬間、無意識なのだろうがウィズは嬉しそうな顔をしていたのだ。


「ライトにウィズの全力をぶつけてやれ!」


 俺にはこう言うしかなかったが、「そのつもりだ」と大きく頷いたウィズの顔は、やはり嬉しそうだった。


 ライトと対戦するには、まずはグレイスだ。ウィズとグレイスの名前が大きく呼ばれるとウィズと、反対側の壁際にいたグレイスがニヤニヤと笑いながら中央へと向かう。


「棄権するなら、今の内だぜ」


 グレイスが見下しながらウィズに忠告するのだが、当の本人は無視して柔軟で体をほぐしていた。


「チッ!」


 グレイスは舌打ちするとウィズから少し距離を取る。そして、審判からお互いに木剣が渡された。

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